smile2その夜、聡史は変な夢を見た。スコート姿の
有賀幸恵が、男たちにコートから担ぎ出され、
ブッシュに連れ込まれてスコートを剥ぎ取られる夢。
その幸恵から「オフ会をやるんだけど」と声がかかった―― 

 短編集・マリアたちへ   第15話 
ボディショット〈5〉

 R18  ※この作品は純文学作品ですが、性的表現を含みます。18歳未満の方は、ご退出ください。
 ここまでのあらすじ  40歳でテニススクールに通い始めた海野聡史。同じクラスに、ライジングショットを得意とする有賀幸恵がいた。ラリー練習でそのショットをボディに受けた聡史は、その球筋にホレ、コーチから「くねくね打法」とからかわれるフォームに魅了された。その有賀幸恵には、夫がいた。それを教えてくれたのは、幸恵夫婦と学生時代からのテニス仲間だという早川亮だった。翌週、ラリー練習で幸恵とペア組んだ聡史は、豪球サーブの持ち主、17歳のショーちゃんペアと対戦した。見事なフォーメーション・プレーで相手ペアを下すと、幸恵が握手を求めてきた。しかし、次の早川ペアとの対戦では、聡史は痛恨の2連続Wフォールト。「ドンマイ!」と声をかける幸恵の顔が、少し怒っているように見えた――
※この話は連載第5回目です。第1回目から読みたい方は、⇒こちらから、
  前回分から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。



 「海野さ~ん、海野さ~ん」
 風に乗って、名前を呼ぶ声が聞こえた。
 山間に開けた、猫の額ほどの盆地。そこを整地してアンツーカーを敷き詰め、ブッシュの中に一面だけのテニス・コートが作られている。声は、そのコートのほうから聞こえてきた。
 声に、聞き覚えがあった。
 「海野さ~ん、お願~い、助けてェ~!」

 間違いない。有賀幸恵の声だ!
 聡史は、斜面の上に作られたクラブ・ハウス兼ホテルに戻ろうと、石段の道を上っているところだった。声に振り返ると、elleseのウエアを着た有賀幸恵が、4、5人の男たちに体を担がれて、コートからブッシュのほうへ連れ去られようとしているところだった。
 何とか逃れようと、幸恵は足をバタバタとさせ、手で男たちの体を押しのけようとするが、男たちはその両手・両足をもぎ取るようにしてコートの脇のブッシュの中へ入っていく。もがく幸恵のスコートは、スカート部分がめくれ上がり、ショーツがむき出しになっている。
 「オーイ、止めろ! 止めるんだぁ――ッ!」
 聡史はありったけの声で叫んだが、いくら声を振り絞っても、その声は男たちのところまで届かない。
 やがて男たちの姿は、ブッシュの中に消えた。
 男たちの胸の高さほどまで雑草が生い茂ったブッシュ。2人の男の胸から上だけが、見えていた。残りの男たちの姿も、幸恵の姿も、雑草の中に埋もれて見えない。
 しかし、そこで何が行われているのかだけは、想像できた。
 雑草の陰から、白い、ふわりとしたものが放り上げられ、それは背の高い雑草の茎に引っかかって、風にそよいだ。
 あれは……幸恵のポロシャツだ。
 ややあって、また白い飛翔物。まるで、くさむらから飛び立つ白鳩のように放り上げられたのは、幸恵のスコートだった。
 そして、ブラジャーが、ソックスが、最後には、パンツが……次々に空中に放り上げられては、雑草の茎に絡まった。
 「止めて――ッ!」
 ブッシュの中から、幸恵の叫び声が上がった。
 それを見下ろして、ニヤニヤと笑っている男2人。
 「止めろ――ッ!」
 叫びながら懸命に足を動かすのだが、聡史の足は一向に前に進んでいかない。
 見下ろしている男のひとりが、聡史の顔を見てニヤリとほくそ笑み、それから「おいで、おいで」と手招きした。 あの顔は、あの男は、確か……。

       クローバー

 目が覚めると、汗をびっしょりかいていた。
 下着の中で、ペニスがいきり立っていた。
 怒りを鎮めようと、聡史はそっと、そこに手を添えた。
 男たちに組み伏せられ、ポロシャツを脱がされ、スコートを剥ぎ取られる幸恵の姿が、想像上の網膜に浮かび上がる。
 聡史はゆっくり、手を動かした。

 その夢は、ラリー戦でのダブル・フォールトの報いに違いない――と、聡史は思った。
 肝心の場面でダブル・フォールトを犯して、有賀幸恵をコートから下ろしてしまった。聡史の脳は、その過ちを、レイプされる彼女を救えなかった過ちへと書き換えて、上演して見せたのだ。
 大した脚色だぜ――と感心する一方で、そんな想像の世界で「有賀幸恵」を使ってしまったことに、聡史は、少しうしろめたさを感じた。
 テニス・スクールで顔を合わせるたびに、そのうしろめたさが顔をのぞかせ、幸恵に対する聡史の態度は、ちょっとぎこちなくなった。
 そんな聡史に、声をかけてきたのは、幸恵のほうだった。
 「海野さんって、お酒とか飲むほうですか?」
 「ええ。強くはないですけど、そこそこは……」
 「あのね、今度、オフ会やるんですよ。小山コーチが、大学卒業するんで、そのお祝いを兼ねて、みんなで飲み会やろうかって話になってるんですけど……」
 「エッ!? 小山コーチ、まだ卒業してなかったんですか?」
 「そうなんですよォ。もう、3年も留年してたんだけど、やっと卒業するんですって。それでね、私と、あと、児玉さんでしょ、早川さんでしょ、それに、大沢さん。あと、2,3人、声かけようと思ってるんですけど、もしよかったら」
 「じゃ、枯れ木も山のにぎわいってことで……」
 「何言ってるんですか? 全然、枯れてなんかないじゃないですか。てことは、参加にしといていいですか?」
 「ハイ。お願いします」
 聡史が頭を下げると、幸恵は、横にいる児玉慶子の腕を肘でちょん……と突いた。
 慶子が、その腕を「もォ―ッ」というふうに押し返した。

       クローバー

 会場に指定されたのは、「ASKテニス・スクール」からほど遠くない駅前の雑居ビルにある居酒屋だった。全国にチェーン展開している居酒屋で、ふだんならけっして足を踏み入れない種類の店だ。
 幹事を務めている有賀幸恵の名前を出すと、「あ、こちらへどうぞ」と、奥の座敷席に案内された。案内された座敷には、すでに、有賀幸恵と児玉慶子、早川亮、それに大沢健一が座を締めて、ジョッキに継がれた銘々の酒を口にしていた。
 店は、すべての席が個室風に造られている。注文も、卓上に置かれた端末からというシステムになっていた。
 「海野さん、こういうお店、あんまり入ったことないでしょう?」
 幸恵は、勝手がわからずキョロキョロしている聡史に気を遣った。
 「ヘーッ、各テーブルに注文用の端末が置いてあるんですね。なんか、おじさんには、珍しいものばかりですよ」
 「ナニ、言ってるんですか。ボクらと大して変わらないじゃないすか」
 早川亮に「まぁ、まぁ、どうぞ」と勧められて、席に座ると、幸恵が「あの……」と声をかけてきた。
 「もう、勝手に焼酎をボトルで取っちゃったんですけど、焼酎でよかったですか?」
 「あ、もちろんです」
 「飲み方は、どうします? えっとね……お湯で割るか、水で割るか、ロックにするか、あと、ウーロン茶でも割れるんだけど……」
 「なんか、有賀さん、お店の人みたいですね」
 「そうでしょう?」と、横から大沢健一が口を出した。
 「いいよなぁ、こういう人のダンナ。毎晩、こうやって、晩酌の相手、してもらえるんですよ。お酒作ってくれる姿も色っぽいしね。ダンナ、たまんないだろうなぁ」
 大沢の下品な口調に、幸恵は少しツンとした顔をして、それから聡史のために焼酎のウーロン割りを作ってくれた。
 ジョッキの底についた水滴を拭き取って、「ハイ、どうぞ」と差し出してくれる姿が、確かに色っぽくはある。
 そのとき、聡史は思い出した。
 夢の中で、辱められる幸恵をニヤニヤしながら見下ろしていた男の顔。あれは、確かに、この男だった――。
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