June 28, 2008

建築形式を違反する乾久美子

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阿部仁史アトリエにて隔月で行われている恒例のハウスレクチャ、6月の講師を務められたのは建築家の乾久美子氏でした。乾氏といえば、表参道のディオールや各地に展開するルイ・ヴィトン店舗デザインに見られるような、現象的な場をつくりだす、その繊細さに特徴があります。
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 実際、乾氏は、「建築の水準は床・壁・天井だけではない」ということを、もともと所属していた青木淳氏のもとで学んだという。それが、自身が担当者だったわけではないプロジェクト、ルイ・ヴィトン名古屋の店舗デザインであった。そういう乾氏は、おもしろい言葉使いをする。例えば、「敷地を好きになる。」とか、「柱がいて、梁がいて、構造がいる。」というように。意図的かどうかはわからないが、主語の変換が行われている。「ある」は「動きを意識しないものの存在に用い、動きを意識しての「いる」と使い分ける」(『広辞苑』)意味がある。だとすると、乾氏のように自らの言葉使いで「いる」を用いることと、氏の建築にみられる現象が立ち現れるような建築は、一致している。このような、ものごとを変換する志向は、青木淳の建築に見られる「形式のズレ」とも共鳴する。具体的にいうと、天井に貼られたチンチラ素材(潟博物館)、平滑にしごかれたタタキ(青森県立美術館)などにみられる「違反」である。
 その「違反」を乾氏は、「ギャグマンガは何かを違反する」として、建築とマンガの重ね合わせを行う。氏の容貌を裏切るかのように、ギャグマンガが登場し、その頂点に君臨するとして紹介されたのが漫画家の「おおひなたごう」の作品。ハウスレクチャ史上初ではないかと思われるが、漫画本をスキャンした画像が次々と映し出される光景は、一見すると建築のレクチャーとは思えない。そのギャグマンガ、乾事務所では通常よりも広いというトイレのスペースを利用した本棚が定位置とのことで、所員はトイレに入るたびに元気になって戻ってくるという。さらには、プロジェクトの打ち合わせである部位についてデザインの形式を語るときに、ギャグマンガのあのシーンのような、といった共通言語が所員との間に成立するというのだから、特異な事務所ではある。
 その乾氏は、プロジェクトの説明にあたって、当たり前すぎるほどのスタディの結果を示す。二次元上のダイヤグラムやリアルに表現された模型写真などで、決してCGはあらわれない。光によってつくられる現象的建築を、それがつくられる前に現前させるためには、模型に実際の光を差し込ませてみることで、初めて体感できるということだろうか。実際、植栽や家具までリアルにつくられた模型写真は、もちろんそれがフェイクではあっても、CGにはない光りの持つ深みが表現されている。
 その乾氏が、「信じられる身体性は持っていない」と告白するのは意外だった。積み上げてきたキャリアを見れば、芸大を出て、イエール大に学び、青木事務所を卒業したというのだから、既に確立された建築感を持っているものとばかり思っていた。しかし、だからこそ、プロジェクトごとに取り組む姿勢が刷新されていくのだろうか。

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実際、乾氏は、「建築の水準は床・壁・天井だけではない」ということを、もともと所属していた青木淳氏のもとで学んだという。それが、自身が担当者だったわけではないプロジェクト、ルイ・ヴィトン名古屋の店舗デザインであった。そういう乾氏は、おもしろい言葉使いをする。例えば、「
Posted by ルイヴィトンコピー at March 18, 2013 13:53