乃木坂、10カ月ぶりの客入れライブになったアンダーライブ2020、日本武道館3日目の公演。
一言で言うと、戦闘力が強い。2月のバスラでかなりん(中田)のライブ番長ぶりに一目ぼれしたのも納得だ。彼女もアンダラの経験豊富でしたからね。

この3日にわたる公演は、なんと3日間とも過去のアンダーほぼ全曲を披露するという構成だった。日によって曲順は変えるが、開演からぶっ続けでアンダー曲をパフォーマンスし、終盤にようやくMCを挟んで新曲とアンコールに行く、というなかなかチャレンジジングなセトリだ。

座長(センター)は初めての阪口珠美(珠ちゃん)。大きい瞳と小顔がアイドルの鑑のような子で、ダンスにも定評がありショースターとしての素質は十分。センターに回る曲も多かったが、合間のアオリやMCは先輩がやることが多かった。
その、要所要所で進行にまわった先輩、樋口日奈(ひなちま)がとても華やか。もともと正統派美人で健康的な色気を放っていたが、夏に髪をバッサリショートにしたのが大正解、センターや前列で放たれる美しさたるや。

その他もやはりアンダラの経験豊富なメンバーが控え、クオリティを上げる。ダンスにたけた和田まあや・渡辺みり愛・山﨑伶奈、表現力と気迫がみなぎる北野日奈子や伊藤純奈、選抜常連組の陰に隠れていた美貌を解き放った寺田蘭世に佐藤楓など。
アンダー全曲披露といっても初期の曲などはメンバーが相当入れ代わっているので当然立ち位置はオリジナルになるが、ある程度は経験・スキル重視で決めたように見えた。前列に居ることが多いのがひなちま・みり愛ちゃん・まあや・日奈子・蘭世など。葉月や理々杏の元気印もアクセントだし、麗乃ちゃんもスタイルよくて可愛いのだが、1・2期の先輩の前ではもうひと踏ん張り欲しい。

コールができない代わりに客席に置かれていたのはスティックバルーンが2本。これで応援してねとのことなのだが…音がうるさい(笑)。珠ちゃんと葉月の影ナレで一斉に鳴らされた時これじゃ音聞こえんぞと思ったが、本番中はサイリウムやタオル持つ人も多かったのでそんなに使う客はいなかったのでよかった(皆うるさいと思ったのか?)。
あと、曲によってはスクリーンに音ゲーみたいな譜面を映してクラップやバルーンで叩くのを煽っていた。まあしかし総じてスティックバルーンは、金もかかってるだろうけどあんまメリットは感じない。現場でエールを送りたければクラップで十分だろう。

全体の総括はこの辺にして、駆け足で感想をば。

バスラ以来10カ月ぶりのOvertureが流れ、3日目は「アンダー」で開演、座長の珠ちゃんと日奈子がまずダブルセンターとして登場、2人1組になって計14人がステージに登場(百合百合しい…)。1曲目は納得の選曲。「三角の空き地」はPVの華麗なドレスとダンスが素晴らしいのだが、この武道館では衣装もPVと同じではなかったのは残念。
そして序盤から終盤までライブを通して思ったのが、音響面で低音が強調されており始終グルーヴィーなクラブ感も個人的に感じた。CD等の音源とイメージの違った曲もかなりある。

エレクトロな「ここにいる理由」はClarisやTrysailにもありそうなA-POP風味だ。珠ちゃんと麗乃ちゃんでダブルセンターで、次の「滑走路」はBPMが上がってよりグルーヴィーなポップスに。そしてここまでのクールな空気は「自惚れビーチ」でパッと明るくなる。センターは絢音ちゃんなのだが、普段地味そうな(失礼)彼女がライブになると結構弾けるし、地声とライブでの声のギャップも可愛い。絢音ちゃんを先頭に、肩組んでサザエさんのエンディング上体になったりするとこの幸福感よ。

自惚れビーチから「生まれたままで」「別れ際もっと好きになる」「嫉妬の権利」と、典型的な秋元系のナンバーが続く。それぞれセンターはれなち・麗乃ちゃん・純奈。純奈の貫禄と情念のこもったダンスがいいね。
ここまでは赤い衣装で、白の正統派フリフリドレスの珠ちゃんが後方から出てくる。それを赤い衣装の「嫉妬の権利」メンバーが囲んで、「初恋の人を今でも」のオリエンタルなイントロが始まる。お姉さんたちに囲まれる珠ちゃんという光景がやばい可愛い。「嫉妬の権利」組がハケていき、代わって白衣装のメンバーだけになって歌われる正統派アイドルソングである。エモエモだ。同じくエモ系のバラード「誰よりそばにいたい」でセンターに回ったひなちまもこの白衣装が実に似合う。原曲に比べるとキーボードがより耳に響く武道館。
「~Do my best~じゃ意味はない」のセンターはでんちゃん!この曲、Bメロ~サビの転調がキャッチーで圧が強いのだ。でんちゃんはDo my best以外でも常に優雅なダンスを見せてくれる実力派。彼女に限ったことではないが、選抜といっても下手に歌番組で後列に埋もれるより、こうやってライブでその雄姿を見せてくれる方がいいのかも。続く「ブランコ」も坂道系R&Bとでも言うべき高揚感を醸し出すナンバー。
んで、次のイントロで「他の星から」か?と一瞬思ったら「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」。確かにイントロ似ている。センターのまあやは、例えば珠ちゃんのようにキレがあるというより無理してる感がなくさらりとナチュラルにやってのけるタイプのダンサーである。で、「自由の彼方」もやはりダンサブルな曲なので、ついついダンサー陣に目がいくね。
「涙がまだ悲しみだった頃」のセンターは最近大人びて綺麗になってきた葉月でした。アンダー曲屈指のエモさとエレガントなメロディが好きだ。あやティー(吉田)がカメラを持って現れた「扇風機」でそろそろ中盤だろうか。圧の強い曲が多かったセトリだが、彼女のほんわかした雰囲気が癒しをもたらす。「風船は生きている」といえばみり愛ちゃんだし、間奏の統制取れたダンス、これも去年のバスラのBD映像で見て生で見たいと思ったパフォーマンスである。

最高だったのが次の「その女」で、センター蘭世のラテン的な美しさがマッチするのは言うまでもなく、ベージュ(金に近い)と赤をあしらった衣装が曲の扇情的なムードをさらに引き立てる。そして間奏で全員が輪になり、腕を中心に伸ばして手と指による優雅なダンスを真上のカメラから見せてくれる(フィンガータットというそうだ)。赤金2色の手袋をはめた手で魅せた、息ぴったりのフィンガータットは上から見ると万華鏡のようで、目まぐるしく変わる色彩美には見とれるしかなかった。

「新しい世界」もギターが聴き手を掻き立てる。ここでもセンターはオリメンの絢音ちゃん、彼女はこう、「世界観が深い」人なので、こういう訴えかけるようなナンバーがぴったし。蘭世のその女、絢音ちゃんの新しい世界と的確にアテガキされたナンバーたちである。一転「君は僕と会わない方がよかったのかな」「君が扇いでくれた」とミディアムな2曲になる。それぞれセンターは日奈子・みり愛で、ここらへんずっと2期生が流石の大活躍。これをずっと見てきたファンならそりゃ推したくなるだろうし、前後の期に比べて不満も出るのがわからなくもない。

そして衣装を替えて現れたひなちまをセンターに「My rule」へ。1人だけ違う衣装のひなちまの凛とした美が曲を引き立てる。My ruleは去年の7thバスラのブレザー風の衣装も格好よかったし、この日のノースリーブでパンツスタイルもクールに決まっているし、みり愛ちゃん・蘭世・れなちと戦闘力の強いメンバー揃いだ。そしてひなちまに見とれてれなちの優雅なダンス(乃木中の内輪ウケものまね大賞でネタにされた「バード山崎」)をちゃんと見れなかった...

この後も「日常」「不等号」とラストスパートに向けてボルテージを上げていく曲が続く。日常はアンダラのアンセムにしてセンター日奈子の気迫と照明、舞台前方からの蒸気の演出もクライマックスにふさわしい。日奈子はじめ1人1人の動きも見ていたいし、ステージ全体の光とダンスが織りなす迫力あるシーンも眺めたい。秋元系列だから握手会とゴリ押しだけのグループだと侮ったら損しますよ。
歌詞もメロディも昭和の歌謡曲じみた不等号だが、ライブでの見どころはCメロのキレキレのダンスである。最前のまあやの表情芸が出す哀愁がいいね。

不等号で高まった後、「狼に口笛を」「左胸の勇気」「シークレットグラフィティ―」「春のメロディー」「13日の金曜日」と、ポップで軽快なナンバーでラストスパート! なんだが、こちらのテンションも上がっているため本能的に振りコピしたくなってしまう。
左胸の勇気もシクグレもちょっとレトロでキュートだし、13日の金曜日でメンバーがピョンピョン跳ねてるのは真似するなという方が無理だ(笑)。

ここまで計28曲を踊り切り、そして26thのアンダー曲「口ほどにもないキス」は表題曲の「僕は君を好きになる」にも似た軽快なナンバー、アンダー曲も初期は左胸の勇気とか、初恋の人を今でもだったのが、Do my bestやその女やMy ruleになるんだから、トレンドも変わってきている。可愛いだけ・握手会だけのアイドルでは全くない。

3日目のアンコールは「裸足でSummer」「命は美しい」とグループの代表曲2曲で。しかし裸足でSummer、ここまで普通に見ていた客までかなりの数が一斉に(頭の上まで!)推しタオルを掲げる!マジか!まあ長年の習慣だそうだけど、振りもアイドルらしくキャピキャピで真似しやすいのに振りコピというカルチャーが本当に無いんだな乃木坂。終盤でも体力衰えずピョンピョン跳ねる葉月も癒しだ。

ここで1人1人が挨拶していく。ライブ大好きなみり愛ちゃんが泣いてしまったり(2期生ライブ中止になっちゃったしね)、そのみり愛ちゃんをよしよしする同期達。尊いです。
さらに珠ちゃんがいいことを言ってくれた。「卒業される先輩が増えてきて…私たちは先輩方がつくったものを受け継いでいかないといけないのですが、できているでしょうか?(客席に問う)」こんな感じ。

彼女たちがしきりに気にする「先輩達が築いたものを継承できているか」、ここにアンダラがメンバーとファン双方にとって大切な場である理由が凝縮されているのではないだろうか。
すでに卒業メンバーが増え、リリース当時のメンバーはほとんどいない曲も多い。それを現役の後輩が受け継ぐことで、曲を継承していく。それだけならモーニング娘。やアンジュルムだって一緒じゃないかと思ってしまうが、選抜システムが重みをもたらす。
人数が多く暗黙のうちにポジションをめぐって競争がある乃木坂では、アンダーとはいえ「貰った/勝ち取った曲」としてメンバーにもファンにも楽曲への思い入れが強く、そういう曲も私達が歴史を紡いでいきたい。それがアンダラを通じて受け継がれているのでは――と考える。
また、アンダー曲にもシナリオを凝らしたMVがあったりで1曲1曲に確かに「物語」がある。自分のような新参は知らなくとも古参オタ、ましてメンバーなら当然それらの物語を意識して背負っているだろう。
「続いていくSTORY」はアンダラの前週に同じ武道館で行われたJuice=Juice宮本佳林ちゃんさんの卒業コンサートのタイトルだが、乃木坂の彼女たちもこうやってSTORYを続けていくのだと実感した。

アンコール3曲目はおなじみ「乃木坂の詩」で、これで全公演終了…ではなくアフター配信でのトークという実質ダブルアンコールがまだ残っていた。千秋楽は袴に着替えて、書き初めを持ち寄ってトークである。しかし皆なかなかに芸術的…な作品の中、でんちゃんとれなちは流石の達筆。で、それぞれが書き初めの由来を話していくのだが...すねた蘭世(書初めは確か「はじめて」)が話すのやめようとしたとこでまあやが蘭世に催眠術をかけようとし、ついでに客席にも(催眠術かかったらまだライブですよとかそんな感じ)で催眠術ネタを披露。「そろそろ十文字先生に怒られる!」なんてボケつつも、咄嗟に催眠術を思いついて武道館5000人を笑わせるまあやの機転、やっぱすごいわ。

ラストのラストは「そんなバカな…」「ハウス!」で、(いい意味で)頭空っぽにして楽しめる2曲で終えられた。アンダー曲ノンストップはよく言えば全力かつシンプル、悪く言えば無難な構成で、例えば「三角の空き地」なんかももっとスペクタキュラーな演出で見たかったとこではあるが、こういう情勢ゆえ練習時間なども思うように取れなかったのだろう。過去には4期生も参加しているしユニット曲なども披露しているので、そのあたりは次に期待だ。