京都秘封探訪

「秘封倶楽部」を中心とした、東方Project関連の覚え書き。

博麗神社例大祭15(2018/05/06)

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 2018年5月6日の日曜日。この日は毎年恒例となる博麗神社例大祭が東京で行われたので参加して参りました。

 今回で実に第十五回目となる博麗神社例大祭。言うまでもなく日本最大の東方Projectオンリー即売会でして、かつてのように5000スペースを数え上げる程の規模は今ではありませんが、それでも今回の3282スペースという数字は、他の東方オンリーを大きく突き放すものであることに間違いはありません。

 会場となるのはもちろん東京ビッグサイト。今回は東1~3ホールと、5~6ホール。4ホールについては、別団体の主催する艦これオンリー「砲雷撃戦よーい」で使用される形となりました。ここ何回かの例大祭の日は、こういった運用がなされることが多いですね。

 ホールの内訳としては、2・5・6ホールが即売会スペース。1ホールが痛車展示や各種企画のエリア。3ホールがコスプレエリアとなりました。

 さて。今回の博麗神社例大祭なのですが、サークル京都秘封探訪もスペースを頂く運びとなりました。実は2014年の頭にサークルを立ち上げて以来、例大祭にサークル参加するのは初となります。
 
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 ゴールデンウィークも終わりに近づく5月5日の土曜日。今回は夜行バスでイベント当日に東京入り。イベント修了後は新幹線で京都に戻るという慌しい行程でございました。本当ならば東京で一泊でもして、例大祭の前日か翌日に東京観光と洒落こみたい所でしたが、なかなかそういう訳にはいかず……でした。

 22時30分に京都駅を出発。東京駅へは明朝6時30分頃の到着と、およそ8時間の旅路でございました。今回の夜行バス、京都では快適だったのですが道中がとても冷え込んで、バスの中は非常に寒かったですね……。最近の高速バスは、夏場は冷房が効きすぎて寒い。冬場は暖房が効きすぎて暑い。そして春は空調をほとんど効かせておらず、どちらかと言えば寒いという感じでございます。

 東京駅へ到着後は、長い長い距離を歩いて(軽く500m程……)京葉線乗り場へ。「軽度のコスプレ」で夢の国へと向かう方々と共に千葉方面へ。そして新木場駅でりんかい線に乗り換えて、国際展示場駅下車でございます。

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 午前7時半頃。東京ビッグサイトへ到着でございます。ここに来るのは冬コミ以来、五ヶ月ぶりとなりますね。

 この日、ビッグサイトでは東館における例大祭と艦これオンリーだけではなく。西館方面ではゲームマーケットというアナログゲーム(電源を使わないゲーム)のイベントが行われていたそうで、逆三角形下にはかなりの待機列が形成されておりました。

 そして博麗神社例大祭のサークル入場は午前8時からということで、軽く腹ごしらえをした後、ビッグサイトへ入場。西館方面から東西連絡橋を渡り東館方面へ。自身のサークルスペースが割り当てられている東5ホールへと向かいます。

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 今回、京都秘封探訪が割り当てられたのは「せ-32a」でございました。スペースに着くと、既に大量チラシ類が置かれております。即売会の設営は、まずはこれらを片づける所からスタートです。

 チラシ類を片づけて、椅子を降ろしてテーブルに布を敷き、ポップ類を並べて。8時半から宅配搬入の荷物の引き取りが可能となったので、搬入物の仕分け場から自分の段ボールを探し出してスペースまで運んで。本の状態や冊数をチェックして、机の上に頒布物を並べて……そしてようやく設営終わりでございます。

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 京都秘封探訪、今回の頒布物は小説「蓬莱の物語」。これは昨年の9月18日に京都で行われた第七回 科学世紀のカフェテラスでの新刊になります。昨年の京都秘封で頒布するにあたり、いつもより多めに刷っておいた所、いくばくかの残部が出たので、例大祭で再頒布することに決めた次第です。

 さらに今回はもう一冊、頒布物がありまして。昨年の京都秘封にてお隣り同士であったサークル「夜啓隊」の紛失王子さんの著書「Ⅰ」でございます。この度はご縁あって、当サークルにて委託頒布という形を取ることとなりました。


 準備や挨拶周りに追われつつ、あっという間に10時30分。無事に第十五回博麗神社例大祭が開場となりました。例大祭は初サークル参加だったのですが、多くの即売会がそうであるように、やはり開場直後は壁周辺が混雑していたようです。そこから10分から20分ぐらい経過してから、島中にも本格的に人が流入する……といった流れでした。音楽島の方だと、たぶんまた時間の流れは違ったのでしょうけれど……

 京都秘封探訪が配置されていたのは秘封倶楽部の漫画島の中でして、お向かいが蓬莱人形の島という、「蓬莱の物語」の立ち位置的にもとても美味しい場所でございました。本格的に人が込み出す前に、何箇所か買い物に行ってきたのですが、配置のおかげでとても買い物は捗りましてございます(笑)

 やがて一人、また一人と「蓬莱の物語」を手に取って下さる方も現れて、順調に小説の在庫は捌けていきました。中にはTwitterで普段からお世話になっている方も少なくなく、また小学生ぐらいの方いれば中高年の方もいらっしゃり。前作の感想まで述べて下さる方もいらっしゃいました。

 何にせよ。今回の「蓬莱の物語」は試読版をアップロードしてあるとは言え、表紙は普通の写真ですし。ぱっと見で内容など分かるわけのない外観にも関わらず、1000円を出して買って頂けるというのは……本当にありがたい限りでございます。

 そしておよそ一時間の後、遂に「蓬莱の物語」は完売となりました! 

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 昨年の京都秘封の際、最後に余ってしまった時は「読みを間違えたかな……」とも思ったのですが、こうして京都と東京の両方で頒布して、結果的には完売できたことを考えれば、ちょうど良かったのかなとも思います。

 ただ、完売後も大勢の方がいらっしゃり。再販や委託についての質問を数多く頂戴することになりました。今の所はでございますが、再販の予定はありませんし、委託についても考えてはいないというのが実情です。

 特に今回の「蓬莱の物語」はページ数が312ページと比較的多目になっている為、印刷代が高くついているので増刷はかなり辛いのですよね……。さらにカバーについても、PP加工などはしていないのですが、それだとどうしてもキズや汚れが目立ってしまうので。委託をするにしてもカバーの装丁をやり直さなければなりません。すると委託頒布した場合の価格は……最低でも2000円から……ということになってしまいますね……

 ただ。つい先日、東方Projectの二次創作作品を電子書籍で頒布できる場を、東方が公式で設置する……という話もありましたし。電子書籍という形でなら、再販のハードルは比較的低いかなとは思います。もちろん、個人的には紙の本が好きではあるのですけれどね……

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 それはそうと。朝の設営準備前に配布されていたチラシの中にはこのようなものもありまして。そう、2018年11月11日に開催される第八回「科学世紀のカフェテラス」「求代目の紅茶会」のチラシでございます。確か初めてこちらが登場したのは今年の4月1日に開催された東方名華祭でございます。

 もちろん今年も、京都秘封探訪も参加予定でございますので、その折にもどうぞよろしくお願い申し上げます。


 博麗神社例大祭は15時30分までなのですが、諸事情もあって京都秘封探訪は13時半頃には店じまいをして、14時には撤収させて頂きました。皆様、今年も例大祭、お疲れ様でした!

 この先に同人誌即売会への参加予定については……一般参加では六月の「古明地こんぷれっくす」や七月の「鈴奈幻想絵巻」などがございますが。サークル参加という形態では11月の「科学世紀のカフェテラス」になりますでしょうか。その先については全く不明となっております。

 そして例大祭については。2019年は東京での開催ではなく、静岡県のツインメッセで開催されることが決まっているそうです。2020年の東京五輪も近づいて参りまして、例大祭だけでなく各同人誌即売会が一体どうなってゆくのか……想像がつかないというのが正直な所です。ビッグサイトでの東方オンリーも、次に参加できるのはいつのことになるのでしょうか……?


 またいつの日か、聖地にて――!

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「リズと青い鳥」、所感と感想

※このテキストには現在上映中の映画「リズと青い鳥」のネタバレが含まれています。

 

 2018421日(土)より、京都アニメーション製作の映画「リズと青い鳥」が全国で公開されることとなりました。この映画は宝島社より刊行されている小説「響け!ユーフォニアム」シリーズが原作となる作品です。

 「響け!ユーフォニアム」は、京都府宇治市にある北宇治高等学校という架空の学校の吹奏楽部を題材とした小説であり。これまでにも宇治市に本社を置く京都アニメーションによって第一期、第二期に分けてテレビアニメ化がなされ。そしてテレビシリーズを再編した劇場版ふたつも製作されました。

 アニメ第一期では、北宇治高校に入学した新一年生である黄前久美子(ユーフォニアム担当)や高坂麗奈(トランペット担当)らを中心に、北宇治高校吹奏楽部が全国吹奏楽コンクールへの出場を目指して、京都府大会に臨む姿が描かれました。

 アニメ第二期では、同じく一年生である久美子と麗奈を中心に置いたままで、二年生や三年生たちの複雑な人間模様や苦悩や葛藤を交えつつ、京都府大会を突破した北宇治高校吹奏楽部が関西大会、そして全国大会に挑んでゆく……という内容となりました。

 そして今回の「リズと青い鳥」はアニメ第二期のさらにその後を描く物語となっており。「リズと青い鳥」では、第二期でも様々なエピソードの語られた鎧塚みぞれ(よろいづかみぞれ・オーボエ担当)、そして傘木希美(かさきのぞみ・フルート担当)の二人が中心人物となり、二人の「友人関係」が一貫した主題となっています。

 今回は「リズと青い鳥」を観て、気になったこと、違和感を覚えたことなどをまとめてみたいと思います。

 

 

~リズと青い鳥、あらすじ~

 

 先の全国大会で惜しくも銅賞に留まった北宇治高校吹奏楽部。北宇治高校吹奏楽部は「全国大会金賞」の目標を掲げ、練習に励む日々を送っていた。

 今回、北宇治が自由曲として選んだのは「リズと青い鳥」。これは少女"リズ"と、リズと共に生きる"青い鳥"の愛と友情、そして出逢いと別れの童話を題材とした楽曲であり。その見せ場となるのは、リズと青い鳥の別離を描く第三楽章。オーボエのソロとフルートのソロの掛け合いであった。

 オーボエのソロを担当するのは三年生となった鎧塚みぞれ。フルートのソロの担当は同じく三年の傘木希美。内気な少女"みぞれ"と、陽気な少女"希美"。中学の吹奏楽部時代からの友人同士であるふたりは、みぞれはリズに、希美は青い鳥に自身の姿を重ね合う。

 中学時代、一人ぼっちであったみぞれは、偶然自分に声を掛けてくれた希美に誘われるがままに吹奏楽部に身を置くことになった。それ以降、みぞれにとって希美はみぞれの唯一の友人であり、そして全てであり。「希美の決めたことが自分の決めたこと」と述べる程の存在となっていた。孤独な自分に希望を与えてくれて、そして手を引いてくれた希美はみぞれにとってまさに青い鳥そのものに他ならなかった。

 ……童話において、リズは青い鳥との間に深い愛と篤い友情を育みながらも、大空へ羽ばたける可能性を持つ青い鳥を自身の元に閉じ込めてしまうことを自分で許すことができず。青い鳥と別れる決意をし、青い鳥を鳥篭から解き放つ。そして、その二人の互いへの問いかけと別離を描く旋律こそが、みぞれのオーボエと希美のフルートであった。

 オーボエのエース、フルートのエースと形容される程の高い演奏技術を持つふたり。だが、ふたりのソロはどこか噛み合わない。周囲の者たちもみぞれに「相性が悪いのではないか」「自身を抑えた窮屈そうな演奏をしている」と心配の声を掛ける。

 何故か。みぞれと希美にはすれ違いの過去があった。ふたりが高校の一年の時、ある日突然、希美は吹奏楽部を去った。だが、みぞれは友人だと思っていたはずの希美から何も聞かされていなかった。その後、二年生になって希美は再び吹奏楽部に復帰するも、みぞれは常に「いつか希美はまた自分の元から去ってしまうのではないか」と恐れ続けていた。

 新一年生に慕われ、賑やかな日々を送る希美。希美以外の者とは距離を取り続けるみぞれ。迫る卒業の時、決まらない互いの進路。ふたりの距離が少しずつ変わり始める。

 「自分にはリズの気持ちは分からない。自分ならば青い鳥を閉じ込めてしまう」。告解し、苦悩するみぞれ。全ては希美を想うがゆえ。希美との離別を恐れるがゆえであった。

 「リズと青い鳥の別れ。お互いの音を聴くことが何より大事である」「オーボエはリズを、フルートは青い鳥を表していると言われている」「オーボエはフルートに語りかけ、フルートはオーボエに応えねばならない」。……やがてみぞれは答えを得る。自分はリズにばかり自らを重ねていた。だが、青い鳥の心はどうだったのか。そして臨んだ合奏練習。儚く悲しく、切なく愛おしく、そしてあまりに豊かな感情を見事に奏で上げるみぞれ。そのオーボエの音色は吹奏楽部員たちを戦慄させ、感嘆させ、驚愕させる。それはかの希美をも落涙させるほどであった。

 合奏後、みぞれは希美に想いの全てをぶつけ、抱き締める。それは希美にすらも自身のことをほとんど語らなかったみぞれが、初めて誰かに自身の気持ちを――愛を、はっきりと自身の言葉で伝えた瞬間であった。そしてまた希美も、不器用ながらも自身の本音をみぞれに吐露するのだった。

 それぞれの道を歩み始めるみぞれと希美。進む先は異なっても――ふたりは笑顔だった。

 

~みぞれと希美。ふたりは友人なのか~

 

 みぞれにとって希美はかけがえのない唯一無二の友人。それは「希美だけが、自分の全てである」との言葉からもよく分かります。ただ、それは同性愛とまでは行かないにしても、かなり重篤で危険にも思える『依存』であり、あまりに一方的にみぞれが希美という存在に寄り掛かっている……ようにも見て取れますし、実際アニメーションでの演出を見る限りでは、そうとしか解することができません。事実、みぞれは希美以外の人間とは積極的に関わろうとはしませんし、遊びの誘いなども断り続けていました。他にも、日曜日の登校時、みぞれは正門の前でずっと希美がやって来るのを待ち続けていたりもしました。また、アニメ第二期においてみぞれと希美のエピソードが語られた時は、みぞれにとって希美はトラウマのような存在にまでなっていました。

 一方で、希美にとってみぞれはどうなのか。「友人」であることに間違いはないのでしょう。だが、それはどの程度の「友人」であるのでしょうか。少なくとも希美の中のみぞれは、みぞれの中の希美のような「依存に近しい対象」ではありません。みぞれとは正反対の社交的な希美にとって、みぞれは「あくまでも、大勢いる仲の良い友人の一人」に過ぎないのではないでしょうか。

 アニメ二期では高校一年生時、希美が不真面目な態度の二年生たちと対立して吹奏楽部を去って行きましたが、それについて希美からみぞれに直接間接の相談や報告は一切なく。みぞれは後になってから希美が部活を辞めたことを周囲から聞かされています。

 ……ふたりは本当に対等な友人同士であるのでしょうか。「リズと青い鳥」のPVでは「ふたりは中学からの親友」と語られていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。

 リズと青い鳥のラスト附近にて、みぞれは希美を抱き締めて「希美の全てが好き」と告白しますが、希美にとってそれは……あまりに重過ぎる「愛」であり。同性愛ではないとしても、多大な戸惑いを覚えることだったのではないでしょうか。

 みぞれと希美の中学では「ハグ」が流行っていたそうです。それは互いをハグしながら、互いの好きな所を一つ一つ述べてゆくというものだったそうです。

 同じ中学出身の後輩たちがハグをしているのを見て、希美はみぞれに「ハグしようか」と持ちかけて両腕を広げます。ですが、みぞれが希美に手を伸ばしかけた瞬間、希美はそれを辞めてしまいます。また、後日、希美の気持ちを確かめたいみぞれの方から希美が「ハグして」と持ちかけられた時、希美は「また今度ね」と、みぞれを置いて去って行きます。

 ……みぞれの愛が重いと感じて距離を取ろうとしていたのか。それとも何となく気恥ずかしくて希美が逃げてしまったのか。その距離感、その間合い、その空気感。非常に興味深い演出でございます。

 

~みぞれの依存、そして成長~

 

 みぞれは、希美以外の者とは距離を取り続ける日々を送っていました。お祭りに誘われても「希美が行くなら自分も行く」。大学についても「希美が行く大学に自分も行く」と、何においても希美に追従する形でした。

 ですが、みぞれにも自身を慕ってくれる後輩ができて、ほんの少しずつではありますが他者との関わりを見せるようになります。後輩の女の子にリードの作り方を教えて上げたり、作って上げたりもしていました。

 また、劇中後半でも希美から「プールに行こう」と誘われた際には「他の人も連れて行っていい?」と自分から切り出して、希美を驚かせます。

 希美の存在に依存しっぱなしだったみぞれ。吹奏楽部内でも、希美が他の部員たちと仲良く過ごすのを目の当たりにし、みぞれは孤独や寂寥を感じているような演出が何度もなされています。ですがその中でみぞれは、少しずつではありますが希美への依存から脱却し、成長してゆきます。これが「リズと青い鳥」の大きな見所の一つだと個人的には感じています。

 

~第三楽章の合奏。希美の涙の理由とは~

 

 何度合奏しても上手くゆかない第三楽章、みぞれのオーボエと希美のフルートの掛け合い。それは吹奏楽部員たちはもちろん、それを見守る大人たちもが頭を悩ませていたことでした。

 リズと青い鳥、自分と希美。それらの苦悩と葛藤の末に光を見出したみぞれは、ある日の練習において顧問の滝に「第三楽章を合奏させて欲しい」と、皆の前で自ら手を挙げて頼み込みます。

 そこでみぞれが魅せた全力のオーボエは、その場にいる者全てを感動の渦に巻き込みます。中には泣き出してしまう部員もいる程でした。

 中でも、みぞれのオーボエとの掛け合いを務めたフルートの希美などは合奏中に涙を落とし、震える指と唇を必死で奮い立たせてフルートを吹く程でした。そして、なぜ希美は泣いたのでしょうか。

 みぞれのオーボエと希美のフルートの掛け合い、語り合い。互いの音を聴いて、互いに応え合うその旋律。それに心を打たれて他の部員たちは感銘を受けたのは間違いないでしょう。そして正直に言えば、自分はあのシーンにおいて、希美もまた同様の理由で泣いてしまった。あるいはみぞれのオーボエを通じて伝わってきたみぞれの心と想いと愛を"聴いて"涙を零したのだと思いました。

 ……ですが、合奏後。希美の口から語られたのは「みぞれは圧倒的な技術を持ちながらも、いつも実力をセーブして、自分(希美)のレベルに合わせて演奏してくれていた」ということでした。

 「リズと青い鳥」のPVにおいて「誰しも感じたことがある羨望と絶望」というナレーションが登場します。……希美は吹奏楽部のあり方を巡って先輩たちと対立するほど向上心の強い熱心な吹奏楽部員でした。そんな希美が、いつも自分が手を引いていたつもりのみぞれが、自分などは敵わない程の圧倒的な演奏技術を有していたことを知ってしまい、そしてそれを抑圧していたのは希美自身の存在であったことに気がついてしまいます。希美のみぞれに対する羨望、そして絶望。パンフレットのインタビュー記事によると「才能への嫉妬」でもあったと言います。それらは希美に、音楽大学への進学を諦めさせる一因ともなったようです。

 実はこの嫉妬。合奏以前よりその兆候を見せていたようです。映画中盤、みぞれが女性講師の新山に声を掛けられて「興味はある?」と音楽大学のパンフレットを渡されました。そのパンフレットを見た希美は「音大受けるの? 私、ここの大学受けようかな」と呟き、みぞれも「じゃあ私も……!」と述べました。

 みぞれにとってそれは「希美と同じ大学へ行ける(つまりずっと一緒にいられる)」という嬉しい出来事だったのですが、希美にとってそれは違ったようです。以前より希美はみぞれの才能に嫉妬していた部分があり「先生から音大を薦められたのはみぞれだけであり、自分は声を掛けられなかった。なら、自分も音大へ行けばみぞれに並び立てるのではないか」との考えが「音大を受けようかな」と言わしめたようです。

 ……このシーン。みぞれの嬉しそうな声と表情とは裏腹に、希美の顔には深い陰が落ちており、その表情を読み取ることはできません。この時、希美がどんな表情であったのか……。羨みか、妬みか、悔しさか――。少なくとも、「友人のみぞれと一緒の大学へ行こう!」という前向きな気持ちではなかったようです。

 

~最後のハグと違和感~

 

 第三楽章の合奏後、みぞれの周囲には賞賛の人だかりが形成されました。それはまるで、普段の希美がそうであるかのようでした。一方、希美は一人でひっそりと音楽室から姿を消してしまいます。

 希美を追いかけるみぞれ。みぞれは希美から「みぞれはいつも実力をセーブして、自分(希美)のレベルに合わせて演奏してくれていた」「先生から音大を薦められたのはみぞれだけであり、自分は声を掛けられなかった」といった本音の吐露を聞かされることになります。希美はみぞれの演奏に打ちのめされ、絶望していました。

 そんな希美にみぞれはハグを再び求めます。そしてみぞれは希美がハグしてくれるのを待つことなく、自ら希美を抱き締めると、矢継ぎ早に希美の好きな所を次々に述べていきます。希美の容姿、希美の中身……希美の全てが、みぞれにとって好きな所でした。

 全身全霊。文字通り体当たりでのみぞれの告白。それに対する希美の答えは

 

「みぞれのオーボエが好き」

 

 と答えたのみ。希美からのハグも、軽くみぞれの腰周りに手を添える程度のものでした。

 ……このセリフについて、個人的には違和感を覚える箇所でした。みぞれの告白に対して希美の返答は、あまりにも……簡素で簡潔で、同時に的外れで場違いなものにも聴こえてしまったのです。

「かけがえのない友人で、自分の全てである希美」

「あくまでも大勢の友人の一人であり、嫉妬と羨望の対象であるみぞれ」

 これまで積み重ねられてきた二人の友人関係の演出を鑑みた所、希美の返事はあまりにも薄っぺらく軽いものとしても解釈できてしまうのです。まるで重過ぎるみぞれの愛を、巧みに逸らし、誤魔化しているようにも聴こえてしまうのです。

 もちろん本質的な部分を端的に顕したセリフであると解釈することもできます。

 ……この「みぞれのオーボエが好き」のセリフについてはパンフレットのインタビューでも取り上げられているのですが、当然と言えば当然ですが明確な解答は記されていません。

 

・どれだけみぞれが言葉を重ねても、それは希美が望んだ『正解』ではなかったのではないか。

・みぞれ自身も、希美に何と言って欲しかったのかは分かっていなかったのではないか。

・これからみぞれは、希美に何と言って欲しかったのか、少しずつ分かってゆくのではないか。

 

 ……と言ったことのみが述べられています。ただ、山田尚子監督によると「『みぞれのオーボエが好き』と言う言葉を述べるのは希美とって相当勇気が要ることだった」とのことでした。

 「みぞれのオーボエが好き」。これはおそらく、あの場面においては正解となる言葉ではなかったのだと思います。ただ、それがみぞれと希美の距離感と関係性を表す象徴的なセリフとなっており、ふたりの未来と将来を思わせる重要にして重大な名セリフであったとも思います。

 もっと通り一遍等な間違いのないセリフを希美に喋らせることも出来たかと思います……が。ありきたりな愛の言葉よりも、きっとこの「違和感のあるセリフ」でなければ「リズと青い鳥」はここまで印象に残る作品にはなっていなかったと思います。

 

~結局、ハッピーエンドだったのか~

 

 後日。みぞれと希美は図書室で出会い、それぞれ別の本を借りて行きます。みぞれが借りたのは「リズと青い鳥」の文庫本。希美が借りたのはセンター試験の問題集でした。そして向かった先は別の場所。みぞれは音楽室へ向かいオーボエを取り出し、希美は図書室の片隅で問題集に取り組みます。これは、みぞれが音楽大学への進学を決意する一方、希美は音大を諦めて普通の大学への進学を決めた……ということの暗喩でしょう。つまりふたりは別々の道を歩むことを決めたということです。

 ……結局、この物語はハッピーエンドだったのでしょうか。

 童話「リズと青い鳥」について、みぞれは悲しい物語であり、自身にとっては耐え難い結末だと感じ取っていたようです。希美もまた、悲しい物語であり「ハッピーエンドの方がいいよね」と述べていました。

 希美は「リズと青い鳥が別れたとしても、また時々会いに来ればいいのに」と、あっけらかんとしていた部分もありましたし、みぞれと別々の大学に行くことになったとしても、取り立てて気にはしていないのかもしれません。

 一方でみぞれはどうでしょうか。みぞれにとって希美とは、当初は「離ればなれになるなんてとてもでは無いが耐えられない」程に重要な友人であり、対象でありました。ですが、みぞれは物語を通じて確実に、そして着実に成長を見せており。希美への依存から脱却していっています。みぞれは今度こそ自分の意思で音楽大学を目指すことを選び、自分の足で立って歩くことを決めたのかもしれません。

 もちろん、観ている側としてはふたりが同じ大学に通い、末永く仲良く連れ添ってゆくことがハッピーエンド……なのですが。何だか煮え切らない、割り切れない、わだかまりの残るエンドになってしまいました。とは言え、得てして青春ってそういうものですけどね……だから切なく、悲しく、尊く感じられてしまうもので。

 

 個人的に「リズと青い鳥」を総括すると、これはふたりの友人の物語ではなく。みぞれがほぼ一方的な依存、片思いに身心を病ませていたのが、やがて自分の足で立って歩けるようになっていく……という「みぞれの成長物語」だったのではないかと思っています。

 本来は「ふたりの友情物語」がテーマだったのでしょうけれど、ここまで散々観てきたように、希美にとってみぞれは「あくまで大勢の友達のひとり」であるとしか考えていない。そういう風に見えてしまうのですよね……

 ですので「ふたりの物語」「ふたりは親友」と言われても、かなりの違和感を覚えてしまうと申しますか……うん。

 

 いずれにしても「リズと青い鳥」。本当に良かったです。音楽、映像、演出、間合い、呼吸、拍子。どれを取っても素晴らしいの一言でした。映画を観て泣いたのは初めてでしたね……

 

 また近い内に劇場に足を運んで。もう一度、物語と向き合い「ふたりの物語」について精査してみたいと思います。

博麗神社例大祭15 頒布情報 「蓬莱の物語」

 4月に入り、京都の桜もすっかり葉桜となってしまいました。

 初夏のような気候に見舞われたと思えば、急激な冷え込みを見せる寒の戻りとなってみたり。なかなか気温も気候も安定しない今日この頃です。

 そしてまもなく東京にて、毎年恒例となる「博麗神社例大祭」が開催される時期となって参りました。今回は京都秘封探訪もサークルとして参加致します。

 今回は、その告知でございます。
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小説「蓬莱の物語」

【STORY】


 紅燃ゆる晩秋の京都。年に一度の学園祭に沸く酉京都大学にて、蓮子とメリーは一つの舞台を観劇することになった。

 「Dolls in Pseudo Paradise」。それは八人の正直者たちの物語。まがい物の楽園で繰り広げられる、狂気と狂乱の御伽噺だった。

 啓かれる境界、曝かれる秘譚。蒼眼のアンティークドール。骨董商の青年。紅白の巫女。そして東の山のサナトリウム……

 夢は現に、現は夢に。嘘は真に、真は嘘に。そして幻想は真実へと変わる。

 蓮子とメリー。ふたりは忘れ去られた夢を見る。そう、異なる世界に生きる多くの妖怪たちと、少しの人間たちの営みを。秘められ封ぜられた幻想の物語を。

 蓬莱の物語を――

【試読版ダウンロード】

→小説「蓬莱の物語」(試読版)のダウンロードはこちら←

※オンラインストレージ「firestorage」 からpdf形式でダウンロードされます。
 スマートフォンからのダウンロードや閲覧も可能です。

【概要】

サークル:京都秘封探訪
文:慧

文庫判312ページ
頒布予定価格:1000円

頒布場所:第十五回 博麗神社例大祭 「せ-32a 京都秘封探訪」のスペースにて

※同人ショップへの委託は行いません。

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 試読版は冒頭87ページ分となっております。よろしければどうぞ読んでみてやって頂ければと思います。

 今回の小説は、2017年9月18日に行われた「第六回 科学世紀のカフェテラス」での新刊となります。京都において多目に刷っておいたのが、まだ残っているので、そちらを持って参ります。

 今回の小説はタイトルからも分かると思いますが、「蓬莱人形」がテーマとなっています。もちろん、いわゆる「初版 蓬莱人形」でございます。秘封倶楽部がお好きな方はもちろんですが、蓬莱人形に興味のおありの方も、どうぞお手にとってみて頂ければと存じます。

告知情報テンプレート 2018例大祭s


 また、この「蓬莱の物語」以外にも。他のサークルさんの小説本を一冊、委託という形で弊スペースへ置くことになるかもしれません。もしよろしければ、そちらもチェックして頂ければと思います。

 その他、新たな告知事項などがございましたらTwitterあるいはこちらのブログの方で告知させて頂きます。

 例大祭まで残すところ、あとわずか。どうぞ皆様、お身体にお気をつけて京都までお越し下さい。
 
 では、東京にて!
Twitter
同人サークル:京都秘封探訪です。秘封倶楽部を中心とした東方Projectのあれこれを書き綴っています。8/13のC90夏コミ2日目「l-04a(エル-04a)」にて秘封倶楽部の小説「開闢の物語」を再々販。新刊「月と星から考察する秘封倶楽部の年代」を頒布予定でございます。