万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

【惜別・悲別】

#4362 瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ

令和6年9月14日(土) 【旧 八月一二日 先勝】白露・鶺鴒鳴(せきれいなく)

瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
   ~崇徳院 『詞花和歌集』 巻7-0229 恋歌上

川の瀬が岩にぶつかった滝川の水が一度別れてしまっても、まためぐり逢ってひとつになるのだと思うよ。

240914_夢の世になれこし契りくちずして
Photo:怨霊と化した崇徳院 ~歌川芳艶『椿説弓張月』(部分)

 小倉百人一首の77番歌としても採られている恋の歌です。私が初めてこの歌を知ったのは桂枝雀の落語『崇徳院』でした。落語ではひと目惚れした男女が、この歌の通り再びめぐり逢って夫婦になるという目出度いお話ですが、当の崇徳上皇は保元の乱の首謀者として讃岐に流され、憤怒のうちに崩御しています。命が絶えるまで爪や髪を伸ばし続けて夜叉のような姿になり、崩御後は棺から血が溢れてきたと言われます。怨霊となった崇徳上皇は都に数々の凶事をもたらし、平安初期の早良親王、中期の菅原道真を凌ぐ日本史上最大の祟り神と言われるようになりました。崇徳院の崩御は1164年9月14日(長寛2年8月26日)今から860年前の今日の出来事です。亡くなる前に歌友藤原俊成を思って詠んだ歌がありました。

夢の世になれこし契りくちずしてさめむ朝あしたにあふこともがな
  ~同 『玉葉和歌集』 -巻2368)

夢のようなこの世で友となった縁が朽ちることないように、夢から覚めて成仏する朝に、再びあなたに逢いたいものだ。

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#4267 北へゆく雁のつばさにことづてよ雲のうはがきかき絶えずして

令和6年6月12日(水) 【旧 五月七日 大安】・芒種 腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)

北へゆく雁のつばさにことづてよ雲のうはがきかき絶えずして
  ~紫式部 『新古今和歌集』 巻9-0859 離別歌

北へ帰る雁の翼に言付けて、遠い南の国からも私に便りを下さいよ。書き絶やすことなく。

 紫式部が、父為時が国司として赴任した越前国に同行した時、時を同じくして筑紫に赴く友人との別れを惜しんで詠んだ歌です。ちょうど今放送中の大河ドラマ『光る君へ』ではこの時の越前での様子が描かれていますね。

240612_北へゆく雁のつばさにことづてよ
Photo:越前守藤原為時が紫式部とともに過ごした越前国府跡の発掘調査 ~福井新聞

 今日、6月12日は「日記の日」。『アンネの日記』が書き始められた最初の日付が1942年6月12日であったことにちなみます。日本では平安時代に日記文学が花開きました。『光る君へ』の登場人物に限っても、紫式部の『紫式部日記』や藤原実資の『小右記』、それに藤原道綱の母が残した『蜻蛉日記』などがよく知られています。これに限らずあらゆる時代に残された個人の日記が文学史上のみならず、歴史を紐解く重要な資料になっています。

歎きつつひとり寝《ぬ》る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る
  ~藤原道綱母『蜻蛉日記』

嘆きながら、ひとりで寝る夜が、明けるまでの時間がどれほど長いかおわかりでしょうか? あなたにはわかりますまい。

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#4236 我が母の袖もち撫でて我が故《から》に泣きし心を忘らえぬかも

令和6年5月12日(日) 【旧 四月五日 友引】・立夏 蚯蚓出(みみずいずる)

我が母の袖もち撫でて我が故《から》に泣きし心を忘らえぬかも
  ~物部乎刀良《もののべのおとら》 『万葉集』 巻20-4356

私の母が袖で撫でながら私のために泣いてくれた。その思いを忘れることができないよ。

240512_我が母の袖もち撫でて我が故に
Photo:看護師の戴帽式 ~tenki.jp

 防人として旅立つ息子を見送る時の母の涙を詠んだ万葉歌。我が子に対する母の愛は格別ですね。今日は「母の日」。そして、クリミア戦争で活躍したフローレンス・ナイチンゲール(1820-1910)の誕生日にちなんだ「国際看護師の日」でもあります。2001年までは「国際看護婦の日」とされていました。名称は看護婦から看護師にかわったものの、現在でも女性の方が大多数を占める職業です。いろんな事情があるのでしょうが、やはり人間の生老病死に関わる女性の思いやりの深さは男性にはとても叶わないのかもしれません。

看護婦の胸の広野に母が立つ
  ~渡邊白泉 (1913-1969)

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#4204 欧州に別れを告げしビッグベン テムズの岸に夕影は落つ

令和6年4月10日(水) 【旧 三月二日 仏滅】・清明 鴻雁北(こうがんかえる)

欧州に別れを告げしビッグベン テムズの岸に夕影は落つ
  ~林龍三 『塔』2016年10月号(改)

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Photo:テムズ河畔にそびえるビッグベン ~NEWT

 1858年4月10日、ロンドンにあるイギリス国会議事堂の時計塔に重さ13.5トンの大時鐘が完成しました。工事設計者はベンジャミン・ホール卿。ベンジャミンの愛称からこの大時計はビッグベンと名付けられ、今もロンドンの名所の一つとなっています。冒頭の歌は2020年にイギリスが国民投票によって欧州連合(EU)を離脱したときに詠んだ歌を一部手直ししました。元の歌もこのブログに掲げたこともありますが実はこれ、寺山修司のこの歌からのインスピレーションでした。本歌取りというには少し離れすぎていますが。

売りにゆく柱時計がふいに鳴る横抱きにして枯野ゆくとき
  ~寺山修司(1935-1983)『田園に死す』

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#4069 見送れど君振り向かずからからと枯葉舞い散るあと追ふごとく

令和5年11月27日(月) 【旧 一〇月一五日 赤口】・小雪 朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)

見送れど君振り向かずからからと枯葉舞い散るあと追ふごとく
  ~林龍三(1952-)『塔』2015年10月号

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Photo:木枯らし ~GANREF(KAWAさん)

 今日は七十二候の第59候「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」。冷たい北風が強く吹き木の葉を吹き飛ばす頃。二十四節気「小雪」の次候に当たります。実際に昨日・一昨日は年の瀬のような寒さの週末でした。「朔《さく》」の字は陰暦で月の始めを指す「朔日《ついたち》」にも使われています。元々新月を意味し、十二支に当てはめると最初の子に当たることから方角の北の意味にも使われます。したがって「朔風」は北風のこと。昼間は少し寒さが和らぎそうですが、寒暖差が激しい日が続きそうです。

風つよき夜々の柏の枯葉かな
  ~根岸善雄(1939-2022)

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