万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

【伝承・物語】

#4575 母そして姉失いし少年の「傷心」疼く森を歩けば

令和7年4月14日(月) 【旧 3月17日 先勝】 清明・「鴻雁北(こうがんかえる)」

母そして姉失いし少年の「傷心」疼く森を歩けば
  ~西岡徳江(1951-2018)『私の短歌とアメリカ通信』

 少年の名はエイブラハム・リンカーン。西岡徳江さんは合衆国在住の歌人で、インディアナ州にある「少年期リンカーン国立記念公園」を訪れた時に詠まれた歌の中の一首です。

250414_リンカーンの筏漕ぐ音聞こえくる
Photo:エイブラハム・リンカーン(1809-1865)~リンカーン記念堂(ワシントンD.C.)

 リンカーンが9歳の時に母を、17歳の時に姉を亡くしたのがインディアナ州のこの土地でした。後にアメリカ合衆国第16代大統領として奴隷解放を成し遂げましたが、南北戦争に勝利した「ゲティスバーグの演説」の後、ワシントンD.C.のフォード劇場で銃撃され、その翌日1865年の4月15日に息を引き取りました。今日はそれから160年目。今やアメリカ合衆国の大統領は世界に最も影響力のある人物となりました。その高潔さに於いてこの人が史上最も偉大な大統領であるとされていますが、果たしてその後の大統領はどうでしょうか。もちろん現在の大統領も。

リンカーンの筏漕ぐ音聞こえくるオハイオ川の土手に上がれば
  ~同

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#4566 さくら咲くその花影の水に研ぐ夢やはらかし朝の斧は

令和7年4月5日(土) 【旧 3月8日 仏滅】 清明・「玄鳥至(つばめきたる)」

さくら咲くその花影の水に研ぐ夢やはらかし朝《あした》の斧は
  ~前登志夫(1926-2008)『霊異記』

 桜が咲いている樹の下で研いでいるのは包丁ではなく斧。やがて研ぎ上がった斧でその桜を伐り倒すのだろうかという、なにか悪い夢を見ているような不穏な短歌です。

250405_さくら咲くその花影の水に研ぐ

Photo:前登志夫

 前登志夫は大正15年の元旦、奈良県吉野郡で誕生。戦争のため1945年に同志社大学を中退し、その後フランスやドイツの詩に感銘を受けて詩作を始めます。一方で柳田國男や折口信夫の民俗学にも傾倒するのですが、それがこの短歌にも影響しているのでしょうか。詩作から短歌に転じたのは1951年。同郷の歌人前川佐美雄に師事し、短歌結社「山繭の会」を結成しています。故郷吉野を愛し続けた歌人前登志夫は2008(平成20)年4月5日82歳で逝去。今日は17年目の命日です。

かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり
  ~前登志夫『子午線の繭』

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#4559 パンセパンセパン屋のパンセ にんげんはアンパンをかじる葦である

令和7年3月29日(土) 【旧 3月1日 先負】 春分・「桜始開(さくらはじめてひらく)」

パンセパンセパン屋のパンセ にんげんはアンパンをかじる葦である
  ~杉崎恒夫(1919-1984)『パン屋のパンセ』

 「パンセ」は「思考」「思想」の意。フランスの哲学者ブレーズ・パスカル(1623-1662)が書籍の出版のために書き留めたメモを彼の死後に遺族が編集・出版した遺著の名。

250329_アンパンマンのあんはつぶあん
Photo:やなせたかし(2010年)~朝日新聞

 NHK連続テレビ小説『おむすび』は昨日が最終回。3月31日月曜日からは今田美桜が主演する『あんぱん』が始まります。主人公は『それいけ!アンパンマン』の作者やなせたかしの奥様。またその次に予定されている『ばけばけ』も小泉八雲の奥様。他にも『ゲゲゲの女房』や『まんぷく』に見られるように、「成し遂げた男」を支えた内助の功を描いた作品には良作が多いような気がします。前作はオリジナル脚本だそうですが、やはり実在の人物がいるほうがしっかりとした芯があっていいのかもしれません。飽きずに最後まで見られるドラマになるかどうかは脚本次第ということがよくわかりました。

見えるもの見えないものも見てほしい アンパンマンのあんはつぶあん
  ~後藤克博『光は瞳をさがして』

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#4533 春なれば梅に桜をこきまぜて流すみなせの河のかぞする

令和7年3月3日(月) 【旧 2月4日 大安】 雨水・草木萌動(そうもくめばえいずる)

春なれば梅に桜をこきまぜて流すみなせの河のかぞする
  ~紀貫之(872-945)「三月三日紀師匠曲水宴和歌」

春なので梅に桜を混ぜ合わせて流す水瀬の川の香がするよ。

250303_春なれば梅に桜をこきまぜて
Photo:鈴木其一「曲水宴図屛風」左隻(サンリツ服部美術館所蔵)

 3月3日は「上巳《じょうし》」。一般に桃の節句と言われ、雛人形を飾って女の子の成長を祈る行事とされていますがこれは日本だけ。本来の上巳は中国三国時代の魏から発祥したもので、この日には曲水《ごくすい》の宴が行われていました。中国のテレビドラマ『三国志』で、魏の曹操がこの宴を開いているシーンがあったのを覚えています。人工の流水に盃を浮かべ、自分の前に流れてくれば即興で漢詩を詠むというお遊びですが、日本の平安時代には漢詩ではなく和歌を詠むというスタイルで行われていたようです。

250303_水底のかげもうかべるかがり火の
Photo:鈴木其一「曲水宴図屛風」右隻(サンリツ服部美術館所蔵)

 冒頭の和歌は延喜2(902)年、もしくは延喜3年の3月3日の夜に紀貫之邸で開かれた曲水の宴で詠まれた和歌です。この宴に出席したのは主人の紀貫之のほか、凡河内躬恒、藤原伊衡《これひら》、紀友則、藤原興風、大江千里、坂上是則、壬生忠岑の8人。百人一首歌人がずらりと名を連ねて、(全盛期の)紅白歌合戦のような豪華な顔ぶれですね。

水底のかげもうかべるかがり火のあまたにみゆる春のよひ哉
  ~凡河内躬恒(859?-925)「同」

水底の光も浮き出てくるように篝火がたくさん見える春の宵であるよ。

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#4532 お水送り近づきたれば若狭路の雪の晴れ間の光明るき

令和7年3月2日(日) 【旧 2月3日 仏滅】 雨水・草木萌動(そうもくめばえいずる)

お水送り近づきたれば若狭路の雪の晴れ間の光明るき
  ~内田あき子 耕養庵蒼島短歌(平成18年 冬季一席)

250302_若狭井に流れゆく水早春の
Photo:僧侶によって遠敷川に注がれる香水 ~中日新聞

 春を呼ぶと言われる奈良東大寺二月堂で行われる3月12日の「お水取り」。正確には修二会《しゅにえ》と呼ばれる法会の中の一行事です。これは二月堂前の若狭井という井戸から「お香水」を組み上げる行事です。この「香水」は若狭国から10日かけて地下を通って若狭井へ届くという伝説があり、これに由来して10日前の今日、福井県小浜市の若狭神宮寺では若狭井へ水を送るという「お水送り」の神事が行われます。若狭ではお水取りより早く「お水送り」が終わると春が来ると言われています。

雪汁か若狭の水のつめたさよ
  ~玄梅『類題集』

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