万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

【歳月・懐古】

#4471 隔てゆく世々の面影かきくらし雪とふりぬる年の暮れかな

令和6年12月31日(火) 【旧 一二月一日 赤口】 冬至・「雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)」

年の暮によみ侍りける
隔てゆく世々の面影かきくらし雪とふりぬる年の暮れかな
  ~藤原俊成女『新古今和歌集』 巻6-0693 冬歌

年を隔てて、過ぎていった年々の思い出が降る雪とともに古びてゆく、そんな年の暮れでありますよ。

241231_隔てゆく世々の面影かきくらし
Photo:京都東山の雪景色 ~京都の雪景色案内

 大晦日の今日は七十二候の第66候「雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)」。積もった雪の下で、秋に蒔かれた麦がひっそりと芽を出す頃。二十四節気「冬至」の末候にあたります。我が家はこれという不幸もなく無事に一年を過ごすことができましたが、例年のごとく国内では不幸な災害や事件があり、海外では政情不安や戦乱が絶えませんでした。俊成女《しゅんぜいのむすめ》が歌にしたように、そんな毎年の出来事もどんどん古い記憶として塗り替えられてしまいます。明るく輝かしい色に変わっていくことを願いたいところですね。

オリオンへ向く大年の滑走路
  ~奧坂まや(1950-)

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4470 新しき年の光にむかふかなしはすの月のあり明の空

令和6年12月30日(月) 【旧 一一月三〇日 仏滅】 冬至・「麋角解(さわしかのつのおつる)」

新しき年の光にむかふかなしはすの月のあり明の空
  ~三条西実隆(1455-1537)『雪玉集』

241230_三十日月なし千年の杉を抱あらし
Photo:三十日月《みそかづき》(月齢28.39)~天体写真ギャラリー

 今日12月30日はたまたま太陰暦においても11月の30日。新月を前にした晦日の月は出ているかどうかわからないほど真っ暗な状態です。ちなみに今夜の月齢は28.9。そして「有明の月」とは夜が明けてもまだ沈みきっていない月のこと。室町時代後期の内大臣三条西実隆の歌はそんな有るか無きかの三十日月《みそかづき》を見て、これから新しい年に向かって少しずつ世情が明るくなっていくことの予兆であると見ているようです。2024年は能登の地震に始まり、世界の情勢も混迷したまま暮れていきます。新しい年がきっと明るい兆しに満ちているように祈らずにはいられません。

三十日月なし千年《ちとせ》の杉を抱《だく》あらし
  ~松尾芭蕉(1644-1694)『野ざらし紀行』

 芭蕉が伊勢神宮外宮の大杉の威容を見て詠んだ句です。

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4463 戦なき世を歩みきて思ひ出づかの難き日を生きし人々

令和6年12月23日(月) 【旧 一一月二三日 先負】 冬至・「乃東生(なつかれくさしょうず)」

戦なき世を歩みきて思ひ出づかの難き日を生きし人々
  ~上皇明仁(平成の天皇陛下)


 第125代天皇であり、現在の上皇陛下でいらっしゃる明仁さま、91歳のお誕生日です。御在位中であれば今日は祝日でありました。冒頭に掲げたのは平成17年の歌会始の儀で披講された御製です。この年のお題は「歩み」。1989年に昭和天皇の崩御に伴い践祚された55歳の時から31年間在位されましたが、ご高齢を理由に一世一元の制が定められてから、初めて譲位という手続きによりお務めを終えられました。また魚類学者としても知られており、この分野でも多くの論文を執筆されておられます。上皇后美智子さまも今年10月に90歳を迎えられました。お二人のご健康とさらなる御長寿をお祈り申し上げます。

風通ふあしたの小径歩みゆく癒えざるも君清しくまして
  ~上皇后美智子(平成の皇后陛下)

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4456 くれてゆく年の道さへみゆるかとおもふてばかりにてる月夜かな

令和6年12月16日(月) 【旧 一一月一六日 友引】 大雪・「鮭魚群(さけのうおむらがる)」

くれてゆく年の道さへみゆるかとおもふてばかりにてる月夜かな
  ~樋口一葉(1872-1896)

 今夜、お天気が良ければ今年最後の満月が見られる日。空気が済んでいれば月齢14.9のほぼまんまるのお月さまが昇ってくれるはずです。

241216_月光に死にゆく鮭の背びれ見つ
Photo:尻別川の鮭の遡上 ~羊蹄山とニセコ アンビシャス

 一方、七十二候では第63候「鮭魚群(さけのうおむらがる)」。二十四節気「大雪」の末候にあたります。鮭は産卵のために群れをなして生まれた川に帰ってきます。激流を上るために海の栄養をたっぷりと補給しているので、熊やオオワシ、それに人間にとっては絶好の獲物になります。それを無事くぐり抜けて産卵を終えると脂がぬけて白っぽくなりここで一生を終えます。その死骸は狐や鳥、昆虫の餌になるという無駄のない食物連鎖が行われているとか。

月光に死にゆく鮭の背びれ見つ
  ~竹内弘子 『あを』

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4448 遠い時間の十二月八日には触れずけふ十二月八日のひぐれ

令和6年12月8日(日) 【旧 一一月八日 赤口】 大雪・「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」

遠い時間の十二月八日には触れずけふ十二月八日のひぐれ
  ~志垣澄幸(1934-)『山河 志垣澄幸歌集』

 歌人志垣澄幸氏は昭和9年台北市生まれ。敗戦後、母の故郷である宮崎に戻り教職につきます。作歌を始めると斎藤史に師事しました。

241208_遠い時間の十二月八日には触れずけ
Photo:NHKアーカイブス

 そんな志垣氏にとっての「12月8日」はもちろんのこと昭和16年12月8日。日本中がラジオから聞こえる真珠湾攻撃「大成功」のニュースと軍艦マーチで沸き立ったぬか喜びの日でした。日本中が、と書きましたが、この戦争を始めたことに疑問や不安を抱いた知識人はおそらく少なくはなかったでしょう。しかしこの日以降、反戦論はすべて封じ込められ、逆に4年後に敗戦を迎えるとかつて威勢の良かった交戦論者が口をつぐみ、ラジオや新聞も臆面もない掌返しを行います。戦争は権力者に簡単に操られる「世論」というものの脆さを端的に教えてくれます。

釈迦が悟りひらきしも十二月八日なれどこの日忘れえぬ時代を生きて
  ~同 『青の世紀 歌集』

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑
記事検索
🎼 I love music ♪

読んでくれたひと(感謝)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

過去記事すべて見られます▼
📖私の著書です
【電子書籍・紙書籍】


  • ライブドアブログ