万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

佐賀

#4156 高天原も卑弥呼の国もありつらむ取り巻く山のいづこも青き

令和6年2月22日(木) 【旧 一月一三日 先勝】・雨水 土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)

高天原も卑弥呼の国もありつらむ取り巻く山のいづこも青き
  ~大西民子(1924-1994)『歌集 風の曼陀羅』

 佐賀県の吉野ケ里遺跡が発見されたのは今から35年前の1989(平成元)年2月22日。弥生時代後期の、国内では最大規模の環濠集落の発見であり、また、現在も所在がわからない「邪馬台国」の有力な候補地の登場でした。

240222_高天原も卑弥呼の国もありつらむ
Photo:吉野ヶ里遺跡(佐賀県神埼郡吉野ヶ里町)~Carstay

 この九州説に対して邪馬台国のもう一つの有力地は畿内説。ただし畿内説といっても奈良県桜井市の纒向遺跡だけではなく琵琶湖畔や大阪府など複数の説があり、真相は闇の中。その候補地の一つに奈良県大和郡山市北西部の矢田地区という学説もあります。ここでは町おこしの一環として1982年から毎年女王卑弥呼を選出するキャンペーンを行っています。大和郡山市出身の俳人、茨木和生氏がこんな句を詠まれています。昨年、第41回の女王様もべっぴんさんでございました。

ミス卑弥呼準ミス卑弥呼桜咲く
  ~茨木和生(1939-)『茨木和生句集』 

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#3877 それぞれの命に生きて鈴蘭は花の命を薫らせにけり

令和5年5月19日(金) 【旧 三月三〇日 友引】・立夏・竹笋生(たけのこしょうず)

それぞれの命に生きて鈴蘭は花の命を薫らせにけり
  ~碇登志雄(1908-1994)『姫由里』

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Photo:Weathernews

 鈴蘭は春に芽を出し、4月から6月頃にかけて花が咲きます。花屋さんで売られている鈴蘭の多くはヨーロッパ原産のドイツスズランです。一方強い香りがする日本在来種が自生しているのは本州中部より北。特に北海道を代表する花の一つとなっています。ドイツスズランは花と葉が同じくらいの高さにあるのに対して、ニホンスズランは花が葉の下に隠れるように咲くという違いがあります。鈴蘭の別称でもある「君影草」、あるいは「谷間の姫百合」というのはニホンスズランを呼ぶのにふさわしいような気がします。ただし有毒植物なので他の薬草と間違って摂取しないようにご注意を。

鈴蘭に憩ふをとめ等の肩見ゆる
  ~水原秋櫻子(1892-1981)『古鏡』

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#3545 夏至の日はうすく曇りて連山を……他一首

令和4年6月21日(火) 【旧 五月二三日 先負】・夏至・乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至の日はうすく曇りて連山をつつめる雲のゆれのぼりゆく
  ~津田治子(1912-1963)

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Photo:白山山頂から穂高連峰(左)と乗鞍岳(右)~かおりと山のあなたの空とおく

 今日は二十四節気の第10、「夏至」。昼間の時間が一年を通じて最も長くなる日。『暦便覧』には「陽熱至極しまた、日の長きのいたりなるを以てなり」と記されています。ちなみに大阪の今日の日の出は4時45分、日の入は19時14分。昼間が14時間29分、夜が9時間31分となります。期間としての「夏至」は次の「小暑」の前日までの半月間。その初候5日間は七十二候の第28候「乃東枯(なつかれくさかるる)」。夏枯草(ナツカレグサ、あるいはカコソウ)とも書き、一般には靫草《ウツボグサ》と呼ばれる植物です。5月から8月にかけて花茎の先端に青紫の小さな花をたくさん咲かせるのですが、その後花穂が枯れたような褐色に変わります。

なつかしき春の形見かうつぼ草夏の花かや紫にして
  ~与謝野晶子(1878-1942)『夢之華』

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#3418 春されば吾家の里の川門には……他俳句

令和4年2月14日(月) 【旧 一月十四日 友引】・立春・魚上氷(うおこおりをいずる)

氷魚網に両手絡まる末路かな
  ~塚本邦雄(1920-2005) 『甘露』

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Photo:ヒウオの釜揚丼 ~まんぷくびより

 今日は二十四節気「立春」の末候、「魚上氷(うおこおりをいずる)」。塚本邦雄は滋賀県神崎川の出身。従ってこの俳句にある氷魚《ひお》は琵琶湖の冬の風物詩である氷魚《ひうお》を指しています。鮎は回遊魚なのでプランクトンなどが豊富な河口近くの海に出て産卵・孵化し、春になるとふるさとの川を遡上し始めます。鮎の旬は産卵を控えて成長した夏頃。しかし琵琶湖の鮎は違います。琵琶湖という大きな湖があるため海に下らず留まっています。そのため、古くからこの時期には稚魚の漁がされてきました。獲れたヒウオは養殖用や河川への放流用として生きたまま全国に出荷されます。今日はチョコレートよりヒウオの釜揚丼をいただきたい。

春されば吾家《わぎへ》の里の川門《かはと》には鮎子さ走る君待ちがてに
  ~作者未詳 『万葉集』巻5-0859 雑歌

春になると私の里の川の渡しには鮎の子が跳ね回ります。貴方を待ちかねているかのように。

 こちらは大伴旅人が記した「松浦河に遊ぶ」という一連の歌群の中で、地元の娘が詠んだという一首。松浦河とは現在の佐賀県唐津市東部を流れる玉島川のこと。ここでも元気な鮎の子が遡上を初めているようです。

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#2975 この花の一枝のうちに百種の ・・・続く返歌

令和2年11月28日(土) 【旧 十月十四日 大安】・小雪・朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)

この花の一枝《ひとよ》のうちに百種《ももくさ》の言《こと》そ隠《こも》れるおほろかにすな
  ~藤原広嗣  『万葉集』  巻8-1456 相聞歌

この花の一枝の中には数えきれないくらいの言葉がこもっているからおろそかに思ってはいけないよ。

 この和歌は藤原広嗣が桜のひと枝とともに女性に贈った求愛の歌です。贈られた相手の女性からの返歌も収録されています。

この花の一枝のうちは百種の言持ちかねて折らえけらずや
  ~娘子  『万葉集』  巻8-1457 相聞歌

この花の一枝の中にある、貴男のたくさんの言葉の重さに耐えかねて、枝が折れてしまったのではありませんか。

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Photo:広嗣の怨霊を慰める鏡神社の二ノ宮(佐賀県唐津市)

 こんな優雅な相聞歌を交わしていた奈良時代の貴族、藤原広嗣が非業の死を遂げたのは今から1280年前の今日、西暦740年11月28日(天平12年11月1日)のことでした。広嗣の父は藤原四兄弟の三男宇合。それまで権力を牛耳っていた四兄弟が相次いで病死すると、反藤原勢力により広嗣は大宰少弐に左遷されました。その後政敵であった吉備真備や玄昉を追放すべきという上奏文を朝廷に送ったことにより、彼らを支援していた橘諸兄はこれを不穏の動きとみて聖武天皇から広嗣召喚の詔勅を出すように願います。しかし広嗣は詔勅に従わず大宰府や九州の隼人を招集して挙兵したのでした。いわゆる「藤原広嗣の乱」の勃発です。結果は前述の通り大野東人の率いる朝廷軍に鎮圧され、捕らえられて肥前松浦郡にて処刑されました。優雅に見える古代貴族の政争は今と違って命がけなんですね。

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