万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

兵庫

#4524 猫の耳を引っぱりてみて にゃと啼けば びっくりして喜ぶ子供の顔かな

令和7年2月22日(土) 【旧 1月25日 先勝】 雨水・土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)

猫の耳を引っぱりてみて
にゃと啼けば
びっくりして喜ぶ子供の顔かな

  ~石川啄木(1886-1912)『悲しき玩具』

 米語で猫の鳴き声は "mewミュー" 英国では "meowミャオウ」、日本では「にゃー」。今日2月22日は「猫の日」ですが、これは222を「ニャンニャンニャン」と読んだところからだそうです。昨年の大河ドラマ『光る君へ』で上東門院彰子が猫を抱いているシーンがあったので、猫の登場する和歌を探してみましたが見当たりませんでした。

250222_捨て猫の瞳の底に銀の砂
Photo:日本猫の小鞠を抱く上東門院彰子(見上愛) ~2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』より

 どうやら、猫が文献上に初めて現れたのは宇多天皇の『寛平御記』という日記の中で、889年2月6日の記事に、「唐土から光孝天皇に贈られた猫が数日後に自分にくだされた云々・・・」とあるのがそれです。しかし「先帝から賜られたものだから大切にしているまでだ」とわざわざ記しているところをみると宇多天皇は特に猫が好きというわけではなかったようです。猫を飼うのは本当に愛し続けられる人だけにしましょうね。

捨て猫の瞳の底に銀の砂 四月の雨はふいに降りやむ
  ~山崎郁子(1963-)『麒麟の休日』

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#4491 大寒の夜さり凍みたる土間の瓶今朝汲む酒に薄氷うかぶ

令和7年1月20日(月) 【旧 一二月二一日 友引】 大寒・款冬華(ふきのはなさく)

大寒の夜さり凍みたる土間の瓶今朝汲む酒に薄氷うかぶ
  ~中村憲吉(1889-1934)『しがらみ』

 今日は二十四節気24番目の「大寒」。「冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也」と暦便覧に記されている通り、寒さが最も厳しくなる頃です。ところで、日本酒のアルコール度数は15℃くらいなので家庭用の冷凍庫であれば十分凍るようです。アルコール度数がこれより高ければ凍りにくく、低ければ凍りやすくなります。ウォッカなんて絶対凍らないのでしょうね。でも、憲吉の汲んだ日本酒ならば外気温次第では薄く氷が張ることもありえそうです。

250120_大寒の夜さり凍みたる土間の瓶
Photo:Yamarii

 しかし、天気予報では今日の大阪の最低気温は7℃、最高14℃。とてもそんな寒さにはならないようです。こんな俳句がありました。

春寒は大寒よりも情強し
  ~相生垣瓜人(1898-1985)『負暄』

 主季語は大寒ではなく「春寒」。大寒は寒いだろうという覚悟をしていたのだがそれほどでもなかったが、春になったはずなのに急に寒くなるとこちらのほうが体に応える。不意打ちの寒さのほうが身に応えるということのようです。

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#4482 カレル橋似顔絵売りし老画家の息白くして客を待ちをり

令和7年1月11日(土) 【旧 一二月一二日 大安】 小寒・水泉動(しみずあたたかをふくむ)

カレル橋似顔絵売りし老画家の息白くして客を待ちをり
  ~林龍三(2025年1月3日)

250103(124024)_カレル橋とモルダウ(ヴルダヴァ)川
Photo:カレル橋名物の似顔絵描き

 昨年生誕200年を迎えたべドルジヒ・スメタナの連作交響詩『我が祖国』の2曲目を日本では「モルダウ」と呼んでいますが、これはドイツ語の名称。チェコではこの川をヴルタヴァ川と呼んでいます。恒例となっている「プラハの春音楽祭」ではオープニング曲として必ず演奏されています。私が今年最初に訪れたプラハ王宮と旧市街をつなぐカレル橋はかつての東欧と西欧を結ぶ唯一のルートだったとか。欄干に並ぶバロック様式の彫刻群と対岸のプラハ旧市街の町並み、そしてこの川の滔々した流れを見ていると日本人があまり意識することのない「祖国」という言葉の重みを感じます。

モルダウの川幅広げ春の水
  ~稲畑廣太郎(1957-)

250103(124418)_カレル橋とモルダウ(ヴルダヴァ)川
Photo:カレル橋とモルダウ川

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#4469 みほとけ の ひかり すがしき むね の へ に かげ つぶら なる たま の みすまる

令和6年12月29日(日) 【旧 一一月二九日 先負】 冬至・「麋角解(さわしかのつのおつる)」

みほとけ の ひかり すがしき むね の へ に かげ つぶら なる たま の みすまる
(御仏の光すがしき胸の辺に影つぶらなる珠のみすまる)
  ~會津八一(1881-1956)『山光集』西の京

 會津八一が薬師寺東院堂の聖観世音菩薩像を拝して詠んだ歌。「みすまる」の「み」は接頭語の「御」。「すまる」は集まって一つになること。珠で作った首飾りや腕輪などの輝きを描写しています。

241229_御身拭といふこと知りぬ朝茜
Photo:薬師寺の「お身拭い」行事。写真は金堂の薬師三尊像 ~なら旅ネット

 今日、12月29日は薬師寺の恒例行事である「お身拭い」の日。薬師寺金堂の薬師三尊像、大講堂の弥勒三尊像、そして東院堂の聖観世音菩薩像の御体を順に浄布で拭い清めて新しい年を迎える準備が行われます。

御身拭といふこと知りぬ朝茜
  ~柴田白葉女(1906-1984)『月の笛』

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#4454 われもまた吉良の齢を過ぎたれば浅野の青き未熟を悪めり

令和6年12月14日(土) 【旧 一一月一四日 赤口】 大雪・「熊蟄穴(くまあなにこもる)」

松に月義士討入の日なりけり
  ~安住敦(1907-1988)

 元禄15年12月14日(1703年1月31日)は赤穂浪士が本所吉良邸に討ち入った日。したがってこの俳句では「討ち入りの日」が冬の季語になります。もう一つ、この俳句はどうでしょう。 

吉良贔屓曲げず臆せず義士祭
  ~高橋榛城

241214_われもまた吉良の齢を過ぎたれば
Photo:赤穂の義士祭(2022年12月14日)~神戸新聞NEXT

 赤穂浪士の地元兵庫県赤穂市では毎年この日に「義士祭」が行われます。これも当然冬の季語かと思いきや、意外や意外春の季語なのです。東京の泉岳寺の義士祭は12月13日~15日と4月1日~7日の2度行われることに由来するそうで、赤穂でも今年から4月の義士祭が復活しています。どちらもあるなら冬で良さそうなものですが、どうも季語の立て方にはわかりにくい点が残ります。他に「討入忌」などの冬の季語もあるので、「義士祭」だけは要注意ですね。ところで、日本中寄ってたかってパワハラ、おねだりストーリーを捏造されたうえに雪の庭に引きずれ出されて殺された吉良爺さんと、見事に疑惑を晴らした兵庫県の齋藤知事の違いは、「かわら版」と「SNS」の違いにあったのでしょうかね。

われもまた吉良の齢を過ぎたれば浅野の青き未熟を悪《にく》めり
  ~林龍三(1952-)『塔』 2018年6月号

 ※吉良上野介義央(1641-1703)は63歳で亡くなっています。

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