万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

宮崎

#4448 遠い時間の十二月八日には触れずけふ十二月八日のひぐれ

令和6年12月8日(日) 【旧 一一月八日 赤口】 大雪・「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」

遠い時間の十二月八日には触れずけふ十二月八日のひぐれ
  ~志垣澄幸(1934-)『山河 志垣澄幸歌集』

 歌人志垣澄幸氏は昭和9年台北市生まれ。敗戦後、母の故郷である宮崎に戻り教職につきます。作歌を始めると斎藤史に師事しました。

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Photo:NHKアーカイブス

 そんな志垣氏にとっての「12月8日」はもちろんのこと昭和16年12月8日。日本中がラジオから聞こえる真珠湾攻撃「大成功」のニュースと軍艦マーチで沸き立ったぬか喜びの日でした。日本中が、と書きましたが、この戦争を始めたことに疑問や不安を抱いた知識人はおそらく少なくはなかったでしょう。しかしこの日以降、反戦論はすべて封じ込められ、逆に4年後に敗戦を迎えるとかつて威勢の良かった交戦論者が口をつぐみ、ラジオや新聞も臆面もない掌返しを行います。戦争は権力者に簡単に操られる「世論」というものの脆さを端的に教えてくれます。

釈迦が悟りひらきしも十二月八日なれどこの日忘れえぬ時代を生きて
  ~同 『青の世紀 歌集』

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#4360 いしたたきちさきめうとの頬を寄せて啼くよ浅瀬の白石のうへに

令和6年9月12日(木) 【旧 八月一〇日 大安】白露・鶺鴒鳴(せきれいなく)

いしたたきちさきめうとの頬を寄せて啼くよ浅瀬の白石のうへに
  ~若山牧水 (1885-1928)『砂丘』

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Photo:ハクセキレイ ~tenki.jp

 今日は二十四節気「白露」の次候、七十二候の第44候「鶺鴒鳴(せきれいなく)」。「石叩き」とは鶺鴒のこと。水辺の石を叩きつけるように尾を振るところからそう呼ばれます。ただし鶺鴒の種類は多く、セグロセキレイやハクセキレイなど多くは留鳥なので一年中見ることがでますが、「稲負鳥《いなほせどり》」とも言われるように俳句では秋の季語となっています。他にも「恋数え鳥」「恋知り鳥」などと呼ばれるのは『日本書紀』の記述によるもの。イザナギ、イザナミの尊が子どもの作り方がわからずにいたところ、鶺鴒が飛んできて長い尾を激しく上下に振って交尾を始めてそれを教えたといいます。

せきれいのかぞへて飛ぶや石の上
  ~内田沾山(?-1758) 『たつのうら』

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#4356 ただひとつ風にうかびてわが庭に秋の蜻蛉のながれ来にけり

令和6年9月8日(日) 【旧 八月六日 先勝】白露・草露白(くさのつゆしろし)

ただひとつ風にうかびてわが庭に秋の蜻蛉のながれ来にけり
  ~若山牧水(1885-1928)

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Photo:オオシオカラトンボ、オス ~photoAC(Fusan_Photoさん)

 なるほど「風に浮かび」という表現はこの時期に見かけるトンボにはぴったりですね。二対の大きな翅は他の昆虫のように体に添わせてたたむことはできませんが、この翅を上手に使って空中で静止、いわゆるホバリングができるのです。優雅な飛行からは想像しにくいのですが、カマキリなどと同じく肉食性なので蝿や蚊、蝶や蛾、蜂など他の昆虫を捕食するためにホバリングで狙いを定めて襲いかかるのかもしれません。空中で交尾しているところを見たことがありますけど。器用なものです。

蜻蛉二つ漂へる空の晴れてゆく
  ~種田山頭火(1882-1940)

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#4354 雲さればもののかげなくうす赤き夕日の山に秋風ぞ吹く

令和6年9月6日(金) 【旧 八月四日 大安】処暑・禾乃登(こくものすなわちみのる)

雲さればもののかげなくうす赤き夕日の山に秋風ぞ吹く
  ~若山牧水(1885-1928)『別離』

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Photo:筋雲の空 ~photoAC(takapeさん)

 夏から秋に季節が移るのを肌で感じるのは風。そして眼に映る雲の姿からも秋を感じることができます。台風一過、夏の積乱雲はそろそろ姿を消してうろこ雲が見られるかなと期待しましたが、今週もまだ夏の雲が残っています。刷毛で掃いたようなすじ雲(巻雲)は空気が澄んだ晴天の日に見られるのですが、うろこ雲(巻積雲)やひつじ雲(高積雲)は低気圧や秋雨前線が近づくと見られるそうです。昔の人はそんな知識も豊富だったのでしょうが、現代人ならば数時間後のお天気はアプリを見ればすぐに分かるから知らなくて当たり前かもしれません。

ちぎれては追ひてゆくなり秋の雲
  ~清崎敏郎(1922-1999)

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#4259 歯を痛み泣けば背負いてわが母は峡の小川に魚を釣りにき

令和6年6月4日(火) 【旧 四月二八日 先勝】・小満 麦秋至(むぎのときいたる)

歯を痛み泣けば背負いてわが母は峡《かひ》の小川に魚を釣りにき
  ~若山牧水(1885-1928)

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Photo:若山牧水生家 ~宮崎県郷土先覚者(名所・旧跡マップ)

 6月4日は「虫歯予防デー」。これも語呂合わせの記念日です。それに合わせて6月10日までの一週間を「歯と口の健康週間」とされています。牧水も子どもの頃には虫歯に悩まされていたようです。お母さんは歯の痛みを紛らわせるためにか、牧水の好きな小川に連れて行って機嫌をとっていたのでしょう。ちなみに牧水の本名は繁ですが、母の名の「牧《まき》」とこの小川の「水」にちなんで号を「牧水」としています。最近は歯の矯正をされている若い人を見かけますが、これには幼児期に指吸いがきついと歯列に影響が出るという原因もあるそうです。さて牧水のお母様も晩年はやはり歯が抜けてしまっていたようです。歯の健康には生まれてから死ぬまで気をつけないといけませんね。

われを恨みののしりはてに噤《つぐ》みたる母のくちもとに一つの歯もなき
  ~同

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