万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

山口

#4907 君がため惜しからざりし命さへながくもがなと思ひけるかな

令和8年5月14日(木) 【旧 3月28日 赤口】 立夏・蚯蚓出

君がため惜しからざりし命さへながくもがなと思ひけるかな
  ~藤原義孝(954-974)『後拾遺和歌集』 巻12-0669 恋歌二

あなたのためなら惜しくはないこの命でしたが、逢瀬を遂げた今となってはもっと長く生きていたいと思うようになりました。

 「小倉百人一首」の50番にも採られている名歌です。この世に二度と現れないであろうと言われた美男であった右少将藤原義孝は21歳の若さで亡くなっています。その死因は疱瘡(天然痘)でした。

260514_いとけなき腕に種痘の華四つ
Photo:ジェンナーの天然痘予防接種 (Gaston Melingue画

 今日5月14日は「種痘記念日」です。1796年のこの日イギリスの外科医エドワード・ジェンナーが種痘の接種に成功しました。地球上から天然痘が根絶されたのは1980年のこと。日本では1792(寛政4)年に最初の種痘成功の記録がありますが、種痘苗が手に入らず、本格的に普及するのは1850(嘉永2)年でした。その後種痘の実施は世界中に広まり、先進国の中には20世紀中盤に根絶した国が現れ、日本においても1955年に根絶されています。種痘の接種はその後も続けられましたが1976(昭和51)年に廃止。今年はそれから50年目にあたります。

いとけなき腕《かいな》に種痘の華四つ
  ~福田蓼汀(1905-1988)

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#4970 日のかげは青海原を照らしつゝ光る孔雀の尾の道の沖

令和8年5月7日(木) 【旧 3月21日 大安】 立夏・蛙始鳴

日のかげは青海原を照らしつゝ光る孔雀の尾の道の沖
  ~十返舎一九(1765-1831)

陽光が青海原を照らして、まるで孔雀の尾が開いたようにきらきらと輝く尾道の沖だよ。

 ゴールデンウィークは昨日で終わりました。私は観光地が込み合う前にと、先月27日から少し早めに出かけたのが広島県の尾道でした。尾道に来たのは約40年ぶり。仕事の関係で度々出張していたものの、当時を懐かしいと思ったのは商店街の尾道ラーメンだけ。名所旧跡を訪ねるのは今回が初めてでした。

260507_日のかげは青海原を照らしつゝ
Photo:千光寺公園からの眺望(2026年4月28日)

 尾道といえばやはり千光寺ですね。ロープウェイで登る山頂から瀬戸内海を眺める絶景はつとに有名です。千光寺公園の「文学のこみち」には多くの文学者や俳人などの歌碑や句碑がありました。江戸時代の戯作者十返舎一九は東海道だけではなく山陽道も旅していたのを知って驚き。そして尾道を舞台にした林芙美子の自伝小説『放浪記』の文学碑もありました。

海が見えた。海が見える。
五年ぶりに見る尾道の海はなつかしい、
汽車が尾道の海へさしかかると、
煤けた小さい町の屋根が提火のように、
拡がって来る。
赤い千光寺の塔が見える。
山は爽やかな若葉だ、緑色の海向こうに
ドックの赤い船が、帆柱を空に突きさしている。
私は涙があふれていた。

  ~林芙美子(1903-1951)『放浪記』より

260507_光る孔雀の尾の道の沖
Photo:「文学のこみち」に点在する文学碑(2026年4月28日)

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#4920 三毛猫が春の小道を横切って僕のデジャヴに加担している

令和8年3月25日(水) 【旧 2月7日 友引】 春分・雀始巣

三毛猫が春の小道を横切って僕のデジャヴに加担している
  ~木下龍也(1988-)『きみを嫌いな奴はクズだよ』山口

 誰が言ったか存じませんが、3月25日は「三毛猫の日」。おそらくは数字の語呂合わせなのだろうと思いつつ一応調べてみましたがやはりそのとおり、でも色々と面白い事がわかりました。一口に三毛猫と言っても種類があって、白・茶・黒の3色で短毛の日本猫の他、白・茶・こげ茶のものを「キジ三毛」、縞模様(トラネコ)との混合のものを「縞三毛(しまみけ)」と呼ぶそうです。でも、これは特定の品種ではなく遺伝種の変異でたまたま生まれたもので、染色体の理由によって殆どはメス。一説にオスが生まれる可能性は3万分のlだとか。生まれてもオスには生殖能力がありません。

260325_三毛猫が春の小道を横切って
Photo:もふねこ

 総じて三毛猫の性格はおっとりしていて環境に順応しやすいために飼い猫には極めて適しています。英語では"Calico(キャリコ)"。日本由来で短い尻尾が丸まったジャパニーズ・ボブテイルについては特に"Mike"と呼ばれて珍重されているようです。猫などの小動物を愛した物理学者で俳人の有馬朗人氏も生前三毛猫を飼っておられました。

もう既に子猫が申す好き嫌ひ
  ~有馬朗人(1930-2020)

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#4856 父母と今朝もたばしる白玉の霰のさやぎ見るが幽けさ

令和8年1月20日(火) 【旧 12月2日 先勝】 大寒・款冬華

闇の中今日大寒とだれか言う
  ~宇多喜代子(1935-)『象』

 今日はこの句のとおり、ほぼ新月の闇の中で二十四節気の24番目「大寒」を迎えました。

260120_闇の中今日大寒とだれか言う
Photo:AllAbout 暮らし

 昨日の大阪は予想外に3月並みの陽気でしたが、今日は一転して真冬の寒さに戻りそうです。そもそも「大寒」は一年を通して最も寒さが厳しくなる時季。『暦便覧』に「冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也」とあるように、ここが寒さの底ということで、この半月が終わると二十四節気も振り出しに戻って「立春」になります。あとしばらくは寒さに耐えて身体をこわさないようにしなければと思う今日このごろです。

父母と今朝もたばしる白玉の霰のさやぎ見るが幽けさ
  ~北原白秋(1885-1942)『雀の卵』

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#4747 国よりは党を重んじ党よりも身を重んずる人の群れ哉

令和7年10月4日(土) 【旧 8月13日 友引】 秋分・水始涸(みずはじめてかる)

戊申紀元節
憲政施行二十年
此間更見國光宣
死餘老骨傾杯酒
恩賜館中會衆賢

  ~伊藤博文(1841-1909)

【訓読】
憲政施行二十年
此の間更に見る、国光の宣《のた》ぶるを
死余の老骨、杯酒を傾け、
恩賜館中、衆賢に会す。

【通釈】
立憲政治が行われて二十年、
この間、わが国の威光が広まるのを目てきた。
今日のめでたい日、死を待つばかりの老骨も杯を傾けて酒を飲み、
ここ恩賜館に集まってくれた賢人たちに会って楽しもう。

 詩題の「戊辰紀元節」は明治41(1908)年に行われた紀元節(2月11日)の集い。時の総理大臣は第12代西園寺公望でした。初代首相はもちろん伊藤博文ですが、伊藤はその後も第5代、第7代、第10代と併せて4度にわたって総理に任じられています。この漢詩には憲政以後、我こそが我が国の隆盛を実現してきたのだという自負が垣間見えています。

251004_国よりは党を重んじ党よりも
Photo:NHKニュース(2025年9月21日)より

 それから117年。今日は自由民主党の総裁選の投開票が予定されています。少数与党に落ちぶれたとはいえ、今日選ばれる自民党総裁が、おそらくはそのまま第104代内閣総理大臣になるのでしょう。街頭インタビューで「誰がなってもいっしょでしょ」と答える無関心な人もいるようですが、それは大違い。党員は「改革」を言うだけの人と実行できる気概のある人をちゃんと見極めて一票を投じてほしいものです。

国よりは党を重んじ党よりも身を重んずる人の群れ哉
  ~尾崎行雄(1858-1954)

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