万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

岐阜

#4724 いくさ無き世をよろこびし我なるにツインタワーより吾子は還らず

令和7年9月11日(木) 【旧 7月20日 友引】 白露・草露白(くさのつゆしろし)

骨一つ負ひて名残の花見かな
  ~住山一貞(1937-)

 住山一貞氏は、2001年当時富士銀行に勤務され「9.11WTC同時多発テロ」の犠牲となった杉山(住山)陽一氏のお父様。バッテリー・パークでの一周年追悼式に参加されたときに詠まれた一句です。2003年には三省堂書店から歌集『グラウンド・ゼロの歌』を上梓され、2004年にはアメリカ合衆国に対するテロリスト攻撃に関する国家委員会がまとめた詳細な報告書を独力で翻訳されています。また事件から20年後の2021年9月には『9/11 レポート 2001年米国同時多発テロ調査委員会報告書』として刊行されました。

いくさ無き世をよろこびし我なるにツインタワーより吾子は還らず
  ~住山一貞『グラウンド・ゼロの歌』

250911_ツインタワーより吾子は還らず
Photo:グラウンドゼロと青いバラ ~photoAC(FrauMさん)

 考えれば、あの事件は21世紀の始まりを象徴するような邪悪な出来事だったようです。あれから後、世界は何かが良い方向に変わったでしょうか。確かに科学技術など人類の理系脳の進化には凄まじいものがあります。しかし依然として力(暴力・武力)が地球を支配する構図は変わらぬどころか却って強固になっているように思えます。平和と共存、心の安らぎに寄与する文系脳はほとんど進化していないこの世界を生きる、子や孫たちの未来を憂えざるを得ません。

やはらかくナショナリズムをやり過ごす窓から雲は見上げられたり
  ~澤村斉美(1979-)『夏鴉』

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#4707 空間を確かに占めて皿の上に大き冬瓜しずまりかえる

令和7年8月25日(月) 【旧 7月3日 先負】 処暑・綿柎開(わたのはなしべひらく)

空間を確かに占めて皿の上に大き冬瓜しずまりかえる
  ~竹中皆二

250825_空間を確かに占めて皿の上に
Photo:冬瓜 ~WA TO BI

 冬瓜《とうがん》は他の瓜と同じく夏に収穫される夏野菜です。なんでわざわざ「冬」の文字が入るのかというと、完熟後に皮が固くなるため、そのまま保存すれば冬まで日持ちするから。そこが他の瓜とは違うところでしょうか。英語でも "Winter melon" と呼ばれるそうです。原産はインドや東南アジアですが日本にも古代から渡来していて、平安時代の『本草和名』に「かもうり」という名で記載されており、現在でも「カモウリ」の別名で呼ばれることもあります。俳句では秋の季語として扱われています。

透けるともなく冬瓜の煮上がりし
  ~高田正子(1959-)『玩具』

250825_透けるともなく冬瓜の煮上がりし
Photo:冷やし冬瓜包み ~WA TO BI

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#4648 真実を伝えたくないこころ見ゆ傾くニュースと猫のあくびと

令和7年6月27日(金) 【旧 6月3日 友引】 夏至・「菖蒲華(あやめはなさく)」

真実を伝えたくないこころ見ゆ傾くニュースと猫のあくびと
  ~林龍三(1952-)

 1994年のこの日に発生した松本サリン事件で、無実の男性がマスコミによって犯人扱いされる報道被害がありました。これを受けてテレビ信州がこの日をメディア・リテラシーについての理解を深める「メディア・リテラシーの日」を制定しています。最近では兵庫県知事の「パワハラ疑惑」に端を発したSNSによる嘘の拡散と誹謗中傷の弊害が指摘されましたが、その一方で大手マスコミによる一連の「偏向報道」に対しての反省はあまりにも軽く見られているような気がしてなりません。

250627_嘘多き世に唐辛子赤きかな
Photo:松本サリン事件で河野義行さんの犯人説を印象付ける新聞紙面 ~中日新聞Web

 リテラシー(literacy)とは「読み書きの能力」のこと。マスコミには正確な取材に基づく隠し事のない記事を書く能力が求められますが、それより大切なのは受け止める私達のほうが真実を読み取り、嘘を見ぬく力。溺れてしまいそうな情報の海にはAIに作らせた画像入りの嘘まで存在します。複数の情報を見比べて判断しなければ自分も偏った人間に仲間入りしてしまいそうです。

嘘多き世に唐辛子赤きかな
  ~成瀬櫻桃子(1925-2004)『風色』

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#4585 みかくれてすだくかはづの声ながらまかせてけりな小田の苗代

令和7年4月25日(金) 【旧 3月28日 赤口】 穀雨・「霜止出苗(しもやんでなえいずる)」

みかくれてすだくかはづの声ながらまかせてけりな小田の苗代
  ~殷富門院大輔 『風雅和歌集』巻3-0269 春歌下

見え隠れして群れている蛙たちの鳴き声もいっしょに小田の苗代に水を引いてしまいましたよ。

 殷富門院大輔《いんぷもんいんのたいふ》は藤原北家三条右大臣定方の末裔で後白河天皇の第一皇女、亮子内親王(のちの殷富門院)に仕えた女性。

250425_みかくれてすだくかはづの声ながら
Photo:七十二候だより

 今日は七十二候の第17候「霜止出苗(しもやんでなえいずる)」。すっかり春らしい暖かさになって、もう霜が降りることがなくなって種籾が芽吹き、苗が健やかに育つ頃。二十四節気「穀雨」の次候にあたります。近年は霜が無くなるどころか、既に気温は夏日となる25℃を越える日が続くことも多くなりました。やっと終息した花粉症のあとは熱中症注意の季節ですね。

水澄みて籾の芽青し苗代田
  ~各務支考(1665-1731)『笈日記』

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#4560 花誘ふ春雷深夜の吾が腹の底に響きて天に納まる

令和7年3月30日(日) 【旧 3月2日 仏滅】 春分・「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」

花誘ふ春雷深夜の吾が腹の底に響きて天に納まる
  ~村瀬廣(1891-?) 『麗』

250330_花誘ふ春雷深夜の吾が腹の
Photo:桜と雷|多摩川河川敷 ~flickr

 今日は、七十二候の第12候「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」。二十四節気「春分」の末候にあたります。いわゆる「春雷《しゅんらい》」というのはこの時期、すなわち春分以降に発生する雷。一方3月上旬、啓蟄の頃に落ちる雷は「虫出しの雷」と呼ぶのだそうです。冬眠していた虫達に電気ショックで起床を促すのでしょうか。俳句ではどちらも春の季語ですが、単に雷とか遠雷、軽雷とすると夏の季語、稲妻なら秋、寒雷なら冬の季語になります。

春の雷轟く世相かなしめば
  ~山口青邨(1892-1988)

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