万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

岩手

#4518 のがれ得ぬ雪崩なりしやふたたびの忌の夜にひびく木枯のこゑ

令和7年2月16日(日) 【旧 1月19日 先勝】 立春・魚上氷(うおこおりをいずる)

のがれ得ぬ雪崩なりしやふたたびの忌の夜にひびく木枯のこゑ
  ~大西民子(1924-1994)「歌集現代」1969年11月号

 2月に入って日本列島を襲った強烈な寒波も先週から少しづつ緩んできました。太平洋側の平地でも珍しく雪が降りましたが、雪に慣れた日本海側や山沿いの積雪は交通機関や日常生活にも影響を及ぼしました。気温が戻ってくると、もうお天気が崩れても空から降るのは雪ではなく雨。このために積もった雪が溶け始めると山間部の雪崩事故が多発する、そんなことにも注意が必要な時期です。でも当たり前のように思っているけど、「なだれ」をなぜ「雪崩」と書くのでしょうか。

250216_のがれ得ぬ雪崩なりしやふたたびの
Photo:2017年3月、8人の犠牲者を出した那須スキー場の雪崩事故 ~リスク対策.com

 元々、日本語には「傾《なだ》るる」という言葉がありました。これには「傾く」「滑り落ちる」という意味があります。江戸時代初期に編まれたイエズス会の『日葡辞書』にはポルトガル語で「流れ落ちる」という意味が記され、「蝋ガ傾ルル」という例文も併記されています。一方、中国語には「雪崩(xuěbēng yībān)」という本来の雪崩をさす言葉があり、この漢字に日本語の「なだるる」の訓みを当てるようになったそうです。

異国語に身を売るときの雪崩音
  ~櫂未知子(1960-)『貴族』

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#4512 スノー・ドロップの花のみ土に暮れ残り死にたる人はいづこを歩む

令和7年2月10日(月) 【旧 1月13日 先勝】 立春・黄鶯睍睆(うぐいすなく)

スノー・ドロップの花のみ土に暮れ残り死にたる人はいづこを歩む
  ~大西民子(1924-1994)『花溢れゐき』

250210_スノー・ドロップの花のみ土に暮れ残り
Photo:スノードロップ ~PREMIER GARDEN

 スノードロップはヒガンバナ科ガランサス属の球根植物。冬の終わりにこれからやってくる春を告げるように花を咲かせます。学名のガランサス(Galanthus)はギリシャ語で「ミルクの花」。英語の Snowdrop は16世紀から17世紀にかけて人気のあった涙滴型の真珠のイヤリングであるドイツのSchneetropfen(Snow-drop)に由来するそうです。和名は待雪草《まつゆきそう》。エデンを追われたイブを慰めるため、天使が地上に舞い降り、降っていた雪をこの花に変えて慰めたというキリスト教の逸話から「希望」「慰め」という花言葉が生まれました。

春の雪ふる草のいよいよしづか
  ~種田山頭火(1882-1940)

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#4498 日章旗立ちつづきたる町ゆけば みな隣人の家のごと見ゆ

令和7年1月27日(月) 【旧 一二月二八日 先負】 大寒・水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

日章旗立ちつづきたる町ゆけば みな隣人の家のごと見ゆ
  ~窪田空穂(1877-1967)『卓状の灯』

 『卓状の灯』は1955年9月に上梓された歌集です。その中でこの歌は「年のはじめに」と題されていました。戦後約10年たった日章旗に対する窪田空穂の感慨であり、戦中や戦後間もない時期に詠まれた歌を収録した『茜雲』や『冬木原』では日章旗は学徒兵や知人の出征などを想起させるものだったようです。今日、1月27日は「国旗制定記念日」。明治3年1月27日(旧暦)に商船規則(太政官布告第57号)が定められ、日本の国旗としての日章旗のデザインが決まったことにちなみます。ちなみに江戸時代に用いられた日の丸は官用船すなわち公儀の船の証として、幕府以外の船との識別の為に使用されていました。

250127_日章旗立ちつづきたる町ゆけば
Photo:青空と日本国旗 ~photoAC(Mark_Punkさん)

Z旗にあらず日の丸冬うらら
  ~山口青邨(1892-1988)

 ところで「外国国章損壊罪」をご存知ですか。外国の国旗その他の国章を損壊・除去・汚損する犯罪であり、法定刑は2年以下の懲役または20万円以下の罰金となる(刑法92条1項)というものですが、外国政府の請求が提起要件になっている親告罪なので滅多に適用される事はありません。とはいえ、自国の国旗に対する侮辱行為に対して刑罰の規定がないのはアンバランスの様に思えます。どこの国にせよ国旗を踏みつけたり燃やしたりする映像を見るのはあまり愉快なことでではありません。

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#4411 石蕗の葉の光れる夜の道狭めあやしみ合ひてすれ違ひたる

令和6年11月1日(金) 【旧 一〇月一日 仏滅】霜降・霎時施(こさめときどきふる)

石蕗《つは》の葉の光れる夜の道狭めあやしみ合ひてすれ違ひたる
  ~大西民子(1924-1994)

241101_石蕗の葉の光れる夜の道狭め
Photo:石蕗《つわぶき》~HAGI(萩市観光協会公式サイト)

 菊花の常緑多年草ツワブキの黄色い花があちこちで見られるようになりました。花の黄色もこの季節にはよく目立ちますが、濡れたような艶のある葉も特徴的で見ればすぐにわかります。もともと「つわぶき」という名も艶葉蕗《つやはぶき》から転じたもので、食用、あるいは薬草としても知られています。また、島根県の津和野の地名も「ツワブキが生える野」が由来になっているとか。11月になると季節はいよいよ初冬。「石蕗《つは》の花」は初冬の季語とされています。

花石蕗に十一月の始りぬ
  ~高木晴子(1915-2000)『句集晴居』

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#4378 午前二時荷台にのって堂々と新幹線が通り過ぎてく

令和6年10月1日(火) 【旧 八月二九日 赤口】秋分・蟄虫坯戸(むしかくれてとをふさぐ

午前二時荷台にのって堂々と新幹線が通り過ぎてく
  ~福山詩織(川内南中学3年)「2021年度若山牧水青春短歌大賞」優秀賞

 福山詩織さんは当時鹿児島県の中学生でしたからこれは新幹線の車両が大型トレーラーに載せられて薩摩川内駅の留置線に運ばれていくのを見たのでしょう。ちなみに九州新幹線が開通したのは2004年でした。現在、「新幹線」と呼ばれるのは東海道・山陽・東北・上越の5線に加え、山形・秋田のミニ新幹線、それに北陸(長野駅以南及び金沢駅以西)・東北(盛岡駅以北)・九州・西九州の整備新幹線があります。「新幹線」という名称が最初に使われたのは大正時代だそうで、当時は「新しい幹線交通」を意味するものだったとか。

241001_ででむしや新幹線はみちのくへ
Photo:初代0系こだま号(東海道新幹線)

 ともあれ、今日は現在の新幹線の始まりの日。1964年10月1日、東京オリンピックを目前にして新大阪-東京間が開業して60年目に当たります。当時は時速210kmで「夢の超特急」と呼ばれていましたが現在の最高速度は東北新幹線の時速320km。今は幹線ごとにいろんな車両が走っています。車両名でいえば東北の「はやぶさ」から西九州の「つばめ」まで実に20以上のネーミングがありますが、やっぱり「こだま」が一番いい響きです。私感ですけど。

ででむしや新幹線はみちのくへ
  ~山口青邨(1892-1988)

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