万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

島根

#4477 奥利根の雪解の水の肌をさすこの冷さに生ひし田の芹

令和7年1月6日(月) 【旧 一二月七日 赤口】 小寒・「芹乃栄(せりすなわちさかう)」

奥利根の雪解の水の肌をさすこの冷さに生ひし田の芹
  ~馬場あき子(1928-)

250106_芹つんで暮れて戻りし子供哉
Photo:芹《セリ》 ~植木図鑑 植木ペディア

 二十四節気「小寒」の初日を「寒の入り」と呼び、そこから次の「大寒」の終わりまでの約一ヶ月を合わせて「寒中」と呼びます。「小寒」の初候5日間(1月5日-9日)は七十二候の第67候「芹乃栄(せりすなわちさかう)。若葉の成長が競り合うように背丈を伸ばし群生して見えることから「競り」と名付けられたとか。芹はアジアだけではなく北半球一帯とオーストラリアに広く分布しており、中国では少なくとも2000年前にはすでに食用にされていたことがわかっています。なぜか西洋ではこれを食べる習慣はないようです。まあ、特においしい植物ではないですけどね。

芹つんで暮れて戻りし子供哉
  ~原石鼎(1886-1951)

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#4385 モンブランひかりの中に並み立ちてわづかにちがふ栗のかたちは

令和6年10月7日(月) 【旧 九月五日 先勝】秋分・水始涸(みずはじめてかるる)

モンブランひかりの中に並み立ちてわづかにちがふ栗のかたちは
  ~門脇篤史(1986-)『自傾』

 ことスイーツに関しては栗は秋の味覚の代表といってもいいかもしれません。モンブランはもちろん、栗まんじゅうや栗を挟んだどら焼きもまた美味。今では皮を剥いた甘栗も売られています。少し前までそんな親切な甘栗は売っていませんでした。逆に栗拾いから始めるのも一興です。栗の木から栗の実をたたき落とすと、まず足で踏み潰して毬を剥がすことから始めなければいけません。でもこれが結構楽しい作業なので、今でも栗拾い体験ができる農場が全国にあります。こんな短歌がありました。

谿《たに》の村にひびきて栗をおとす聲《こゑ》子どもの聲の満つ心地すれ
  ~島木赤彦(1876-1926)

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Photo:丹波栗 ~Pretty Online


 『万葉集』にも「三栗《みつぐり》の」という枕詞が登場します。謎掛けのような枕詞で、実際の栗を詠んだものではありません。これは毬栗を剥けば中には栗の実が必ず三つ入っていることから「なか」という言葉ににかかる枕詞になっています。

三栗《みつぐり》の那賀に向へる曝井《さらしゐ》の絶えず通はむそこに妻もが
  ~作者未詳 『万葉集』(高橋虫麻呂歌集) 巻9-1745 雑歌

那賀に向って流れる泉のように絶えることなく通うよ。そこに愛しい妻がいてくれればよいのだが。

 「那賀」は地名ですが「曝井《さらしゐ》」は衣を晒すのに使った泉のことで地名ではありません。衣を晒している女性たちの中に想う娘がいたのでしょうね。

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#4374 蟾蜍幽霊のごと啼けるあり人よほのかに歩みかへさめ

令和6年9月26日(木) 【旧 八月二四日 先勝】秋分・雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)

蟾蜍《ひきがへる》幽霊のごと啼けるあり人よほのかに歩みかへさめ
  ~北原白秋(1885-1942)『桐の花』

 2025年後期のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)はラフカディオ・ハーンの妻小泉セツを主人公のモデルにした『ばけばけ』に決まりました。今日9月26日は『怪談』を世界に紹介したギリシャ人、ラフカディオ・ハーン(1850-1904)が亡くなってちょうど120年目に当たります。1890(明治23)年にアメリカの出版社の通信員として初めて来日しましたが、そもそも日本に惹かれてやってきた動機の一つは『古事記』を読んで興味を持ったことがあるそうです。

240926_怪談の橋は露けし八雲の忌
Photo:小泉八雲とセツ ~武将ジャパン

 来日後、ハーンは出版社との契約を破棄し、英語教師として日本で教鞭を執るようになりました。翌年には出雲松江藩士の娘、小泉セツと結婚し三男一女を設けています。日本国籍を取得して名乗った「八雲」は出雲の枕詞である「八雲立つ」にちなんだもの。欧米に日本文化を紹介する多くの著作を残しましたが狭心症により東京の自宅にて死去、54歳の生涯でした。朝ドラのキャスティングはまだ発表されていませんがそれもまた楽しみですね。

怪談の橋は露けし八雲の忌
  ~浜田徳子

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#4316 いちじゆくの實を二つばかりもぎ来り明治の代のごとく食みたり

令和6年7月30日(火) 【旧 六月二五日 赤口】・大暑 「土潤溽暑」(つちうるおうてむしあつし)

いちじゆくの實を二つばかりもぎ来り明治の代のごとく食みたり
  ~斎藤茂吉(1882-1953)

240730_いちじゆくの實を二つばかりもぎ来り
Photo::イチジクの実 ~Domani

 「無花果《イチジク》」も昨日の百日紅と同じく庭に植えてはいけないという言い伝えがあるようです。でもこれもまた根拠のない俗説です。西アジア(アラビア南部)が原産で、江戸時代に日本に伝来した当初は「唐柿《からがき》」とか「蓬莱柿」とか呼ばれていました。この植物が変わっているのは花は実の中に隠れて咲く為に花がないのに実が成るように見えるところから「無花果」の漢字が当てられました。難読漢字の植物のひとつですね。無花果を割ると白いプチプチとした部分がありますが、あれが花なんだとか。夏に食べるイメージですが、無花果は秋の季語です。

無花果の裂けていよいよ天気かな
  ~原石鼎(1886-1951)

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#4215 ヒマラヤに足跡を追い迫るとき未知の雪男よどこまでも逃げよ

令和6年4月21日(日) 【旧 三月一三日 先負】・穀雨 葭始生(あしはじめてしょうず)

ネッシーに逢へる期待や霧に立ち
  ~泉田秋硯《いずみたしゅうけん》(1926-2014)

240421_ネッシーに逢へる期待や霧に立ち
Photo:Wikipedia

 1934年4月21日、英国で最も古いタブロイド紙『デイリー・メール』にこの写真が掲載され、「ネス湖の怪獣」として20世紀最大の話題になりました。今からちょうど90年前のことです。ネッシーについての最古の記録は西暦565年からあるにはあったのですが、この写真が掲載された前後から多くの目撃情報が寄せられ始めたのです。しかしこの写真の撮影者であるロンドンの外科医クリスチャン・スパーリングは死の間際に、おもちゃの潜水艦にそれらしき首を付けて撮影したトリックであると告白しています。世間を騒がすのを楽しみにしている人はいつの時代もなくならないし、嘘っぽいことほど拡散されやすいので気をつけないといけませんね。

ヒマラヤに足跡を追い迫るとき未知の雪男よどこまでも逃げよ
  ~中城ふみ子(1922-1954)

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