万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

御製

#5008 菖蒲葺く萱が軒端に風過ぎてしどろに落つる村雨の露

令和8年6月14日(日) 【旧 4月29日 友引】 芒種・螳螂生

菖蒲葺く萱が軒端に風過ぎてしどろに落つる村雨の露
  ~後鳥羽院『玉葉和歌集』0345

菖蒲《あやめ》の葉を飾っている萱葺きの軒端に風が吹き過ぎて、乱れて落ちる、一しきり降った雨の露よ。

260614_菖蒲葺く萱が軒端に風過ぎて
Photo:明治神宮御苑の菖蒲の散策路 ~家庭画報.com

 6月も半ばになりましたが、陰暦でいうと今日はまだ四月。明日からようやく五月に入るところです。五月雨の季節はアヤメ科のアヤメ、カキツバタ、イチハツ、ハナショウブなどが水辺を彩ってくれる季節でもあります。清少納言も「五月ついたち」の段で五月の節句を飾る風物詩としてこの花を愛でています。

節は、五月にしく月はなし。菖蒲、蓬などのかをりあひたる、いみじうをかし。九重の内をはじめて言ひ知らぬ民のすみかまで、いかでわがもとにしげく葺かんと葺きわたしたる、猶ほいとめづらし。
  ~清少納言(966?-1025?)『枕草子』36段

季節は、五月に勝る月はない。菖蒲や蓬などの香りが混じり合っているのが、ひじょうに趣深い。九重の奥(宮中)から、言葉もろくに知らない民の住まいまで、いかにして我が家にたくさん葺こうかと、一面に葺きわたした様子は、心惹かれるほどに美しい。

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4971 きし近く烏城そびえて旭川ながれゆたかに春たけむとす

令和8年5月8日(金) 【旧 3月22日 赤口】 立夏・蛙始鳴

きし近く烏城そびえて旭川ながれゆたかに春たけむとす
  ~昭和天皇(1901-1989) 昭和43年「歌会始の儀」

 「烏城《うじょう》」は岡山城の別称。昭和天皇が昭和42年4月、植樹祭に行幸の折、岡山後楽園に立ち寄られ、外苑を散策された時の旭川の印象を、翌年新春歌会始めの御題「川」によせてこの歌を詠まれた歌です。私が岡山後楽園を訪れた「昭和の日」にちなんで昭和天皇の御製を選びました。

260508_きし近く烏城そびえて旭川
Photo:岡山後楽園(2026年4月29日)

 尾道の翌日(4月29日)は因島の村上水軍城を訪れた後岡山へ。倉敷で一泊の後、日本三名園の一つ岡山後楽園を訪れました。昨日の記事でも書きましたが、山陽・山陰・四国地方は現役で仕事をしていた時には私の管轄テリトリーだったため、それこそ何度も出張する機会があったものの、有名な観光地をゆっくり見学することはありませんでした。もちろん後楽園も初めてです。雪の兼六園、花の偕楽園に対し、月の後楽園と呼ばれていますが訪れたのは昼間。恐らくこの日の夜は十三夜の月が綺麗に見えたであろうと想像しながら帰途につきました。

春曉の園丁鶴を放ちけり
  ~辻濛雨《つじもうう》(1884-1976)

 ※「園丁《えんてい》」とは庭師、造園師のこと。

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4961 時しあれは人の国なるけたものもけふ九重にみるがうれしさ

令和8年4月28日(火) 【旧 3月12日 友引】 穀雨・霜止出苗

時しあれは人の国なるけたものもけふ九重にみるがうれしさ
  ~中御門天皇(1702-1737)

時節も良いので、他所の国の獣を今日九重(宮中)で見ることができるとは嬉しいことである。

 今日は「象の日」。この歌は享保14(1729)年4月28日、中御門天皇が本物のアジアゾウを見て詠まれたものです。この象は徳川吉宗が清の商人に注文したもので、交趾国(現在のベトナム)からの献上品として中御門天皇と霊元上皇の御前で披露されました。面白いことに御所に入るためには「従四位広南白象」という官位を与える必要があったとか。

260428_古りし絵に象の哭きをる青あらし
Photo:歌川芳春『The Great Elephant from a Foreign Land(異国渡大象図)』1863年

 そもそも「象」という漢字はゾウの姿をかたどった古代中国の象形文字です。普賢菩薩像は白象に乗っている姿が定番であり、象牙は『日本書紀』に「象牙《きさのき》」という記述があって昔から装飾材料としてもよく用いられていました。しかしながら生きた象を見た人は殆どいませんでした。天皇はもちろん、道中で見物した庶民もさぞかし驚いたことでしょう。その後、享保15年にこの象は浜御殿(浜離宮)でしばらく飼われ、更に中野村の源助という男に下げ渡されて見世物になったそうです。

古りし絵に象の哭きをる青あらし
  ~上村占魚(1920-1996)

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4928 朝夕に花待つころは思ひ寝の夢のうちにぞ咲きはじめける

令和8年3月26日(木) 【旧 2月8日 先負】 春分・桜始開

青空にひと枝咲きぬ初ざくら
  ~日野草城(1901-1956)

 二十四節気「春分」の次候5日間は七十二候の第11候「桜始開(さくらはじめてひらく)」。 桜の花が咲き始める頃です。

260326_青空にひと枝咲きぬ初ざくら
Photo:nippon.com

 昨日はあいにくの雨になりましたが、実際に今週は各地で次々に開花が発表されています。ただし桜の開花情報は決められた標本木の花が5~6輪咲いたことが確認できた日が基準なので、8割以上が開く「満開」は1週間から10日後、さらにそれから散り始めるまでは約一週間。したがって都合2週間程度は咲いていると思われますが、これはたくさんの花が入れ替わり咲いたり散ったりしている期間のことで、一輪ごとの花の命はもっと短いのです。

朝夕に花待つころは思ひ寝の夢のうちにぞ咲きはじめける
  ~崇徳院(1119-1164)『千載和歌集』 巻1-0041 春歌上

朝夕をおかず桜の開花を待っていたら、まず夢の中で咲き始めたではないか。

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4906 津波来し時の岸辺は如何なりしと見下ろす海は青く静まる

令和8年3月11日(水) 【旧 1月23日 大安】 啓蟄・桃始笑

津波来し時の岸辺は如何なりしと見下ろす海は青く静まる
   ~太上天皇明仁(1933-)平成24年 宮中歌会始

 東日本大震災が起こったちょうど15年前は平成23年。したがって冒頭の歌は太上天皇ではなく今上天皇陛下であった時の御製です。

260311_津波来し時の岸辺は如何なりしと
Photo:2011年4月 ~朝日新聞社

 陛下は平成7年の阪神・淡路大震災の時と同様、皇后陛下を伴って被災者の方々に寄り添うように、被災地と避難所を慰問されています。当時の様子は多くの報道で知られていますが、避難所に佇む人の前で膝を折り、一人ひとりの体調を尋ねながらお話を丁寧に聞かれていました。また被災地の惨状を前にして、お二人で祈るように深々と黙礼されている様子も思い出されます。「昭和」が戦争と復興の時代であるとすれば、「平成」は災害と復興の時代だったとも言えるかもしれません。

生きよとて故郷の山芽吹きけり
  ~斎藤陽子(大船渡市)「十年目の今、東日本大震災句集 私の一句」(2021年)

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑
記事検索
🎼 I love music ♪

読んでくれたひと(感謝)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

過去記事すべて見られます▼
📖【飛鳥・藤原京の物語】


  • ライブドアブログ