万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

滋賀

#4985 金鱗の魚ひるがへる水の闇われやみがたき愛の火はなつ

令和8年5月22日(金) 【旧 4月6日 先負】 小満・蚕起食桑

金鱗の魚ひるがへる水の闇われやみがたき愛の火はなつ
  ~塚本邦雄(1920-2005)『されど遊星』

 「金鱗《きんりん》の魚」とは、恐らくは庭園の池を及ぶ錦鯉のことでしょう。薄暗い池の底に広がる暗闇と、生命のきらめきを思わせるような錦鯉の作る波とのコントラストには、はっとするような既視感を覚えます。結句に「愛の火」とあるので、鯉と恋をかけているのかもしれません。

260522_金鱗の魚ひるがへる水の闇
Photo:綾 Koi FARM

 さて今日は「国際生物多様性の日」という国連の定めた国際デーです。生物の多様性が失われつつあること、また、それに纏わる諸問題に対する人々の認知を広めるために制定されました。近年の研究では2100年までに1.4℃-5.8℃の上昇が見込まれており、このことが生態分布の変化、種の絶滅率の上昇、生殖の周期の変化、植物の成長期間の長さの変化など様々な形で、生物に影響を与えることが予想されています。国連ではこの日、森林破壊解消のために植樹を呼びかけて、各国では一斉に機を植える「グリーンウェイブ」と呼ばれる植樹イベントが行われます。

苗木植う山を昔に返すべく
  ~いのうえかつこ(1943-)

260522_われやみがたき愛の火はなつ
Photo:日本自然保護協会

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#4980 革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ

令和8年5月17日(日) 【旧 4月1日 仏滅】 立夏・竹笋生

革命歌作詞家に凭《よ》りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ
  ~塚本邦雄 『水葬物語』

 塚本邦雄の代表作の一つとして10年ほど前の記事にも取り上げたことがあります。今日はこの歌の解釈については触れませんが、これを読むと必ず連想してしまう作曲家がいます。フランスの作曲家エリック・サティ(1866-1925)です。

260517_冬薔薇の襞に沈めりサティの楽
Photo:Erik Satie

 エリック・サティがフランス第二帝政時代のオンフルールで生を受けたのは1866年5月17日。今から160年前の今日でした。早くから音楽に親しみましたが、パリ音楽院では教授から才能がないと言われ中退。彼の曲を聴くと、この時代の伝統的な音楽界ではありえないことではなさそうです。後に名を成しますが与えられた異名は「音楽界の異端児」「音楽界の変わり者」。たとえば、『官僚的なソナチネ』『犬のためのぶよぶよとした前奏曲』『胎児の干物』『裸の子供たち』のように、作品の題名を並べただけでも彼の変人ぶりがわかります。しかしフランス印象派を代表するクロード・ドビュッシーやモーリス・ラヴェルに大きな影響を与えた人物でした。

冬薔薇の襞に沈めりサティの楽

  ~岡田貞峰 「馬酔木」


Youtube:Erik Satie: Gymnopédie No.1(Khatia Buniatishvili)

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#4960 不法駐車のロメオに爪を立ててゐる婦人警官のあはれ快感

令和8年4月27日(月) 【旧 3月11日 先勝】 穀雨・霜止出苗

不法駐車のロメオに爪を立ててゐる婦人警官のあはれ快感
  ~塚本邦雄(1920-2005)『魔王』

 婦人警官が警視庁で初めて採用されたのは今から80年前の今日、1946年4月27日。戦前の日本では女性の警察官任官が禁止されていました。当時の日本社会の風潮として他の職業についてもその傾向がありましたが、とりわけ軍人と警官は女にはできないという強い差別意識があったようです。

260427_駅前のしろいひかりはパトカーを
Photo:千葉県警の女性白バイ隊員 ~BikeBros

 「婦人警官」という言葉自体にも男性警察官の補助的役割というニュアンスが残されているのではないかと、男女雇用機会均等法が定められた2000年からは正式名称を「女性警察官」とし、更に今では特に性別を呼称しない「警察官」とだけ呼ぶようにしているそうです。現在の福井県警には増田幹子本部長、千葉県警には青山彩子本部長と、いずれも県警本部のトップに女性が就任しています。世のオジサンたち、交通違反切符を切られた時に相手が女性警官だと思ってナメた口をきくと痛い目に遭いますからご注意を。

駅前のしろいひかりはパトカーを降りた婦警の階級章に
  ~式守操(1964-)

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#4880 毒入りのコーラを都市の夜に置きしそのしなやかな指を思えり

令和8年2月13日(金) 【旧 12月26日 先勝】 立春・黄鶯睍睆
毒入りのコーラを都市の夜に置きしそのしなやかな指を思えり
  ~谷岡亜紀(1959-)『臨界』

 これは1984(昭和59)年に世間を騒がせた「グリコ・森永事件」に着想を得た歌。若い人はご存知ないかもしれませんが、私の世代では「3億円事件」とともに鮮明な記憶に残った迷宮入り事件です。事件は江崎グリコの社長の誘拐と身代金の要求に始まりました。社長は無事救出されましたが、その後グリコ・森永の菓子に青酸カリを仕込み「どくいりきけん」と書いた紙を貼って両社を脅迫。さらにターゲットは丸大食品・ハウス食品・不二家・駿河屋などにも及んでいます。

260213_ほととぎす迷宮の扉の開けつぱなし
Photo:現金受け渡しの家庭で2度目撃された「キツネ目の男」

 一連の犯行は1985年2月13日にマスコミへの挑戦状と毒入り菓子のバラマキを最後に犯人からの一方的な終息宣言で終わりました。そしてその15年後にあたる2000年2月13日に公訴時効が成立。この間述べ130万人の捜査員が関わったものの未解決のまま迷宮の扉は閉ざされてしまったのです。監視カメラが街中に設置された現在であれば成立しえない事件です。ただ、この犯人も世間を騒がせただけで何の利益も得ていないのが何よりの救いでしょうか。

ほととぎす迷宮の扉の開けつぱなし
  ~塚本邦雄(1920-2005)

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#4824 志賀の浦や遠ざかり行く浪間より凍りて出づる有明の月

令和7年12月20日(土) 【旧 11月1日 大安】 大雪・鱖魚群(さけのうおむらがる)

志賀の浦や遠ざかり行く浪間より凍りて出づる有明の月
  ~藤原家隆(1158-1237)『新古今和歌集』 巻6-0639 冬歌

琵琶湖の水が凍り、遠ざかる波の向こうから凍えるように出ている有明の月よ。

 いかにも寒そうな琵琶湖の光景です。水面が岸辺から凍ってゆくために寄せる波もだんだん遠ざかっていく。その向こうからに出る有明の月までも凍っているように見えるというのです。

251220_新月を確と見てゐる心の目
Photo:新月 ~photoAC(hhondaさん)

 今日は陰暦の11月1日。したがって新月なのでそんな寒そうな月さえも見えません。月齢は0.1。朔《さく》とも言い、陰暦ではこの日を月の始めとしています。朔はそのまま「ついたち」とも訓みますが、逆に「1日」と書いて「ついたち」と訓むほうがおかしいと思いませんか。「ついたち」は「月立ち」が転じたものなので、現在の太陰太陽暦での1日は必ずしも「月立ち」ではないのです。

新月を確と見てゐる心の目
  ~稲畑廣太郎(1957-)

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