万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

滋賀

#4505 あふさかの関をや春もこえつらむ音羽の山のけさはかすめる

令和7年2月3日(月) 【旧 1月6日 赤口】 立春・東風解凍(はるかぜこおりをとく)

あふさかの関をや春もこえつらむ音羽の山のけさはかすめる
  ~橘俊綱(1028-1094)『後拾遺和歌集』 巻1-0004 春歌上

逢坂の関を春は越えてやってきたようだ。音羽の山にも今朝は春霞がかかっている。

 昨日の節分をもって季節は一区切り。明けて今日は「立春」。二十四節気も一廻りして振り出しに戻りました。「立春」は別名「正月節」とも呼ばれ、『暦便覧』には「春の気立つを以って也」と記されています。暦の上ではこの日から「立夏」の前日までが春です。ただし、南岸低気圧の発生は立春から後に多くなり、寒さや荒れた天気が続くので安心はできません。記録的な大雪災害もここからあとに発生する例が多いので要注意です。もちろん梅がほころび始めるなど明るい春の兆しが見え始めるのもこの時季です。

250203_あふさかの関をや春もこえつらむ
Photo:春霞(早春の琵琶湖) ~新治の風景ギャラリー

 橘俊綱は機内との境である逢坂の関を越えて春がやってきたと言っていますが、長く奈良に住んでいた俳人の右城暮石《うしろぼせき》(出身は高知県)は和歌山県の空と海から春が来たと詠んでいます。

和歌山県天から海から春来るよ
  ~右城暮石(1899-1995)『上下』

Youtube:メンデルスゾーン「春の歌」(無言歌集 第5巻-6)


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#4474 夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ

令和7年1月3日(金) 【旧 一二月四日 先負】 冬至・「雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)」

夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
  ~清少納言 『後拾遺和歌集』 巻16-0939 雑歌二

夜が更けている間に鶏の鳴き声を真似て、朝が来たと騙して帰ろうとしても、(函谷関ならいざしらず)逢坂の関であれば決して通ることを許さないでしょう。

 小倉百人一首にも採られたこの歌ですが、清少納言がこれを贈った相手は能書家で「三蹟」の一人として有名な權大納言藤原行成でした。『枕草子』によると、行成が清少納言の局で夜通しの長話をしている途中、翌日が物忌の日なので夜が明ける前に帰らねばと言い出して急に帰ってしまった事を皮肉って詠んだ歌だとされています。

250103_逢坂はひと越えやすき関なれば
Photo:同じ日に死んだ藤原行成(渡辺大知)と道長(柄本佑)~2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』

 昨年の大河ドラマ『光る君へ』では渡辺大知さんが演じていた藤原行成。最終回では亡くなったシーンも描かれていました。この人が残念だったのは藤原道長と同じ日に薨去したこと。日にちは万寿4年12月4日とありますが、西暦にすると1028年の今日1月3日でした。道長が寅ノ刻(午前4時頃)に亡くなり、宮中が大騒ぎだったため、前年から患っていた行成が亥ノ刻(午前10時頃)に自邸で息を引き取った時には気に留める人もなかったと言われています。さて、冒頭の清少納言の歌に対して、行成もこんな返歌を贈っています。

逢坂はひと越えやすき関なれば鶏鳴かぬにもあけてまつとか
  ~権大納言行成 『枕草子』第131段

(函谷関と違って)逢坂は人が越えやすい関だから鶏が鳴かなくたって開けて待っているそうだよ。

 清少納言は、これはひどい言い草だと思って人には見せませんでした。これではまるで自分がいつでも男を待っている尻軽女みたいだと思ったのです。しかし行成の筆跡の見事さについてはこの段できっちり触れています。

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#4455 年暮れて我が世ふけゆく風のおとに心のうちのすさまじきかな

令和6年12月15日(日) 【旧 一一月一五日 先勝】 大雪・「熊蟄穴(くまあなにこもる)」

年暮れて我が世ふけゆく風のおとに心のうちのすさまじきかな
  ~紫式部 『玉葉和歌集』 巻6-1036 冬歌

年が暮れて、私もまた年を取るのだと思いつつ、夜更けの風の音を聞いていると、心の中のなんと荒んでいることでしょうか。

241215_年暮れて我が世ふけゆく風のおとに
Photo:2024年 NHK大河ドラマ『光る君へ』より 

 NHK大河ドラマ『光る君へ』が今日最終回を迎えます。平安時代中期を舞台にして、視聴率は大丈夫かという声もありましたが、NHKは視聴率を気にしすぎてはいけません。内容は近頃の大河の中では秀逸の出来だったと思います。合戦らしきシーンは最終盤の「刀伊の入寇」だけでしたがアクションがなくても脚本次第で十分面白くできるものです。というのも戦国時代などは既に描かれすぎているし、誰が死ぬか生きるかはみんな知っています。で、なんとか違う角度からという奇をてらった脚本を書こうとして「直虎」「麒麟」「家康」みたいにつまらなくなるのです。次回の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』もあまり描かれない太平の江戸時代を生きた蔦屋重三郎が主人公なので、逆にいいドラマが期待できそうです。

きぬぎぬは瀬田の長橋長びきて四つのたもとぞはなれかねける
  ~蔦唐丸《つたのからまる》

後朝の別れは瀬田の長橋のように長引いて、四つの袂が離れられないのだよ。

 「蔦唐丸」は蔦屋重三郎の狂歌名。「瀬田の長橋」は琵琶湖にかかる瀬田の唐橋。「四つの袂」は二人の袂を合わせて四つという意味と時刻の四つ時(午後10時頃)をかけています。

241215_きぬぎぬは瀬田の長橋長びきて
Photo:2025年NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』から

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#4415 冬の日のやうやくたけて光るころゼラニュームなど四季咲き親し

令和6年11月6日(水) 【旧 一〇月六日 先負】霜降・楓蔦黄(もみじつたきばむ)

若狭くらやみ返り血の天竺葵
  ~塚本邦雄(1920-2005)『句句凛凛』

241106_若狭くらやみ返り血の天竺葵
Photo:真っ赤なゼラニウム ~photoAC(cheetahさん)

 寺山修司・岡井隆とともに「前衛短歌の三雄」の一人とされている塚本邦雄も俳句を詠んでいました。「句句凛凛」は句集ではなく俳句に関する書籍で、この句が収められているのは「葉月(8月)」の章。天竺葵とはゼラニウムの和名で、その匂いが戦前経験したイペリットという毒ガスに似ていたと記されています。イペリットなるものは存じませんが、確かに真紅のゼラニウムを鮮血にたとえるのには違和感がありません。また、ゼラニウムは夏の季語ではありますが開花期は非常に長く3月から12月上旬くらいとされており、うまく育てれば年中花を楽しめる植物です。

冬の日のやうやくたけて光るころゼラニュームなど四季咲き親し
  ~佐藤佐太郎(1909-1987)『黄月』

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#4404 なにがなんでも悪とう論理に組みし得ず文殊円屋根を雲の影はしる

令和6年10月26日(土) 【旧 九月二四日 友引】霜降・霜始降(しもはじめてふる)

なにがなんでも悪とう論理に組みし得ず文殊円屋根を雲の影はしる
  ~永田和宏(1947-)『荒神』

 「文殊」は福井県敦賀市にある高速増殖炉。一般の商用原子力発電所とは違い、文部科学省が所管する研究用のナトリウム冷却高速炉原子炉です。1991年に試運転が開始されましたが、1995年にナトリウム漏洩事故による火災が発生し、それを一時隠蔽したことにより大きな批判を浴びました。冒頭の短歌はそんな世相の中で詠まれた歌です。

241026_原発の排水口で釣りしこと
Photo:高速増殖炉 もんじゅ(福井県敦賀市)~日本原子力研究開発機構(JAEA)

 さて今日は「原子力の日」。1956年10月26日に国際原子力機関(IAEA)に加盟したことと1963年10月26日に茨城県東海村で日本初の原子力発電が行われたことに由来します。先ごろ「日本原水爆被害者団体協議会」がノーベル平和賞を受賞しましたが、核兵器と原子力発電はその目的が大きく違うにも関わらず、やはり被爆国日本では原子力に対する忌避感を持つ人が多いのもやむを得ないことかもしれません。いまや原発の有無はほとんど争点になっていませんが、衆院選は明日。投票には必ず行きましょうね。

原発の排水口で釣りしこと妻には言はず形よき鱸《すずき》
  ~上田善朗『三方五湖』

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