万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

石川

#4492 さきがけて地を割りそめし蕗の薹あさ黃みどりのひとつを摘みぬ

令和7年1月21日(火) 【旧 一二月二二日 先負】 大寒・款冬華(ふきのはなさく)

さきがけて地を割りそめし蕗の薹あさ黃みどりのひとつを摘みぬ
  ~長沢美津(195-2005)

250121_さきがけて地を割りそめし蕗の薹
Photo:蕗の薹 ~AWAKANスタッフブログ

 二十四節気「大寒」の初候5日間(1月20日-24日)は七十二候の第70候「款冬華(ふきのはなさく)」。厳しい寒さの中、雪の中に埋もれていても黄色い蕾をそっと出すフキノトウ。春の兆しを伝える植物の中でも一番最初に姿を表します。冬に黄色い花を咲かせるところから、「冬黃」からフキとなったと考えられています。「款冬」はフキのことで、フキノトウはその花茎のことを指します。

持ち上げし土をまだ出ず蕗の薹
  ~稲畑汀子(1931-2022)

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#4387 まつ人にあらぬものから初雁のけさなくこゑのめづらしきかな

令和6年10月9日(水) 【旧 九月七日 先負】寒露・鴻雁来(こうがんきたる)

まつ人にあらぬものから初雁のけさなくこゑのめづらしきかな
  ~在原元方 『古今和歌集』 巻4-0206 秋歌上

私が待っている人ではなかったが、今朝鳴いた初雁の声は、まことに心惹かれるものだ。

 在原元方は業平の孫ですが生没年は不明。「古今和歌集」などの勅撰集に計31首もの歌が採られており、中古三十六歌仙の一人に名を連ねています。

241009_まつ人にあらぬ物からはつかりの
Photo:雁日没の秋 ~PublicDomainPictures.net

 さて、昨日は二十四節気の「寒露」でしたが、期間としての「寒露」は次の「霜降」の前日までの半月間です。その初候5日間は七十二候の第49候「鴻雁来(こうがんきたる)」。ちょうど半年前、「清明」の次候に「鴻雁北(こうがんかえる)」があり、暖かくなって越冬のためシベリアやカムチャッカ渡っていった雁が、日本が寒くなるとまた帰ってくる。そんな季節になりました。古歌で秋の到来を感じさせる声というと虫の声、鹿の鳴き声、そして雁の声ですね。

初雁や通り過して聲ばかり
  ~加賀千代女(1703-1775)『千代尼句集』

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#4314 火の息を鎮めて膝をわずか曲げ神事のごとしフリースローは

令和6年7月28日(日) 【旧 六月二三日 仏滅】・大暑 「土潤溽暑」(つちうるおうてむしあつし)

 パリオリンピックが始まりました。開会式は途中からはあいにくの雨でしたね。オリンピックが「平和の祭典」であることを噛み締めながら、こんな俳句を見つけました。

名月やボール懐かし露営かな
  ~池上虎太郎 『軍隊とスポーツの近代』(高嶋航著)より

 日中戦争に応召された池上虎太郎は慶大籠球部出身。戦地でも満月をゴールに見立てて走り出すほどの「バスケットの虫」だったそうです。陸軍は野球やテニス、サッカー、卓球の用具を支給することがあったそうですが、「体操教範」でバスケットボールを採用していたにもかかわらす、バスケットボールが与えられることはなかったそうです。

240728_名月やボール懐かし露営かな
Photo:ドイツ相手に豪快なブロックをする日本代表・八村塁 (AP

 ということで、昨夜は男子バスケットボールの予選がありました。48年ぶりに五輪出場が決まった日本はBグループの初戦でドイツと対戦しましたが、残念ながら惜敗。ちなみにFIBAランキングでW杯王者のドイツは3位、日本は26位で、19日にベルリンで行われた強化試合でも完敗しているから、ちょっと舐めてかかってくればそこに隙が生まれるかなと思いましたが、そんなに甘くはありませんでした。でもまだ1試合ですからこれからに期待しましょう。次は31日、地元フランス戦です。
 
火の息を鎮めて膝をわずか曲げ神事のごとしフリースローは
  ~三井修(1948-)『アステカの王』

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#4312 枳と茨刈り除け倉建てむ屎遠くまれ櫛造る刀自

令和6年7月26日(金) 【旧 六月二一日 友引】・大暑 「桐始結花」(きりはじめてはなをむすぶ)

枳《からたち》と茨《うまら》刈り除け倉建てむ屎《くそ》遠くまれ櫛造る刀自《とじ》
  ~忌部首《いむべのおびと》 『万葉集』 巻16-3832 雑歌

カラタチとイバラの原を刈り除いて倉を建てるから、屎は遠くでしてくれ、櫛を造るおかみさん方よ。

240726_枳と茨刈り除け倉建てむ
Photo:ナニワイバラ ~photoAC(さんぽの道すがらさん)

 後の勅撰和歌集にはありえない、こんなにお上品な和歌があるのは『万葉集』ならではですね。オバサン方は野糞をしていらっしゃったのでしょうか。トゲでお尻を刺さないように用を足してくださいね。ということで、茨《うまら》はイバラの古い読み方ですが、一般的にはトゲのある木の総称として使われることもあります。冬の季語に「枯茨」というのがありますが「茨の花」は夏の季語、「茨の実」は晩秋の季語です。初夏に白く香りのいい花をたくさんつけたあとに実を結びます。

花に針心知りたき茨かな
  ~加賀千代女(1703-1775)

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#4221 運命の鉄の鎖につながれて打ちのめされて立つ術もなし

令和6年4月27日(土) 【旧 三月一九日 先負】・穀雨 霜止出苗(しもやんでなえいずる)

運命の鉄の鎖につながれて打ちのめされて立つ術もなし
  ~西田幾多郎(1870-1945)

240427_運命の鉄の鎖につながれて
Photo:ソクラテスの死(ルイ・ダヴィッド作)ニューヨーク メトロポリタン美術館蔵

 紀元前399年4月27日、西洋哲学の基礎を築いたと言われるソクラテスが毒杯をあおって刑死したことに由来して、今日は「哲学の日」とされています。無知を指摘された権力者たちに裁判にかけられたのですが、助かるすべはあったのに、どちらかと云うと自ら死を選んだような人。正直言ってあまりお友達になりたくないタイプの偉人です。哲学者というとどうしてもそんなイメージになってしまうのは私のちゃらんぽらんな性格ゆえでしょうか。ソクラテスの代わりに今日は日本の哲学者を代表して『善の研究』を著した西田幾多郎博士の短歌を掲げました。

わが心深き底あり喜も憂の波もとどかじと思う
  ~同

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