万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

福井

#4873 ジャンプ台を幾度飛び降り傷つきし猪谷六合雄かも我は尊ぶ

令和8年2月6日(金) 【旧 12月19日 赤口】 立春・東風解凍

ジャンプ台を幾度飛び降り傷つきし猪谷六合雄《いがやくにお》かも我は尊ぶ
  ~猪谷千春(1931-)

 今日から22日までイタリアのミラノとコルティナ・ダンペッツォにおいて第25回オリンピック冬季大会が開催されます。この地での冬季五輪は2度目です。1956年の第7回コルチナ・ダンペッツォ大会のアルペンでは圧倒的な強さで3冠に輝いたオーストリアのトニー・ザイラーがいました。そんな中、日本代表の猪谷千春はアルペン男子回転でザイラーに4秒遅れたものの銀メダルを獲得。冬のオリンピック史上初めて表彰台に日の丸が上がった記念すべき大会だったのです。

260206_ジャンプ台を幾度飛び降り傷つきし
Photo:猪谷千春と父・六合雄(1950年8月) ~Wikipedia

 千春氏が尊敬してやまない父・猪谷六合雄(1890-1986)は日本のスキー指導者であり、現在の明仁上皇陛下の皇太子時代から皇室のスキー指導をされていました。千春氏は今年95歳。まだまだご健勝で、想い出深い今回のミラノ・コルティナオリンピックも現地で観戦される予定です。ちなみに同じ北海道出身で歌手の松山千春は出生当時の猪谷千春の活躍にあやかって「千春」と名付けられたそうです。

人生も大回転のスキーヤー
  ~高橋将夫(1945-)

260206_猪谷六合雄《いがやくにお》かも我は尊ぶ
Photo:読売新聞 編集委員室

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#4707 空間を確かに占めて皿の上に大き冬瓜しずまりかえる

令和7年8月25日(月) 【旧 7月3日 先負】 処暑・綿柎開(わたのはなしべひらく)

空間を確かに占めて皿の上に大き冬瓜しずまりかえる
  ~竹中皆二

250825_空間を確かに占めて皿の上に
Photo:冬瓜 ~WA TO BI

 冬瓜《とうがん》は他の瓜と同じく夏に収穫される夏野菜です。なんでわざわざ「冬」の文字が入るのかというと、完熟後に皮が固くなるため、そのまま保存すれば冬まで日持ちするから。そこが他の瓜とは違うところでしょうか。英語でも "Winter melon" と呼ばれるそうです。原産はインドや東南アジアですが日本にも古代から渡来していて、平安時代の『本草和名』に「かもうり」という名で記載されており、現在でも「カモウリ」の別名で呼ばれることもあります。俳句では秋の季語として扱われています。

透けるともなく冬瓜の煮上がりし
  ~高田正子(1959-)『玩具』

250825_透けるともなく冬瓜の煮上がりし
Photo:冷やし冬瓜包み ~WA TO BI

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#4679 わぎもこが汗にそぼつる寝たわ髪夏のひるまはうとしとやおもふ

令和7年7月28日(月) 【旧 閏6月4日 先負】 大暑・土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)

わぎもこが汗にそぼつる寝たわ髪夏のひるまはうとしとやおもふ
  ~曾禰好忠《そねのよしただ》(平安中期)『好忠集』
   
妻の汗でびっしょり濡れた寝乱れ髪よ、夏の昼間は疎ましく思うだろうか、いやそんなことはない。

250728_わぎもこが汗にそぼつる寝たわ髪
Photo:no+e

 暑い日が続いています。今日は七十二候35番目の「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)」。二十四節気「大暑」の次候です。土が湿って蒸暑くなるという意味ですが、「溽暑」は音読みすると「じょくしょ」。「炎暑」がギラギラと太陽が照りつけるような暑さを指すのに対して、「溽暑」は湿度の高いジメジメした暑さを指します。熱中症は気温もさることながら、湿度の影響が大きいそうです。今年も残念ながら既に全国で沢山の人、特に高齢の方が亡くなっています。(人から見れば?)やはり高齢の私も気をつけなければ。

思考力雲散霧消溽暑かな
  ~大橋敦子(1924-2014)

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#4565 すくすくと生ひ立つ麦に腹すりて燕飛びくる春の山畑

令和7年4月4日(金) 【旧 3月7日 先負】 清明・「玄鳥至(つばめきたる)」

 今日は二十四節気の第5、「清明」。『暦便覧』には「万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれるなり」と記されています。清明については中国唐代の詩人杜牧《とぼく》が詠んだこんな詩があります。

250404_牧童遥指杏花村
Photo:『清明』 杜牧

清明
清明時節雨紛紛 清明の時節雨紛々
路上行人欲断魂 路上の行人魂を断たんと欲す
借問酒家何處在 借問す酒家は何れの処にか在る
牧童遥指杏花村 牧童遥かに指さす杏花の村

大意
清明の季節なのに、あいにく雨がしとしとと降り続く。
道行く旅人の私も愁いに沈み、魂も消え入りそうだ。
酒でも飲める家はどのあたりに在るのだろうかと聞けば
牛飼の少年は、遥かに遠い杏の咲く村を指さすのだ。


 というわけで、あいにく「清明」らしいお天気ではなかったことを杜牧は恨んでいるようです。その「清明」の初候は七十二候の第13候「玄鳥至(つばめきたる)」。暖かくなった季節を知って夏鳥の燕が海を渡ってやってくる季節でもあります。

すくすくと生ひ立つ麦に腹すりて燕飛びくる春の山畑
  ~橘曙覧(1812-1868)

すくすくと伸びている麦の穂に、お腹を擦らすように掠めて燕が飛んでくる春の山一面の麦畑だよ。

250404_燕飛びくる春の山畑
Photo:ツバメの飛翔 ~photoAC(723mgrさん)

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#4532 お水送り近づきたれば若狭路の雪の晴れ間の光明るき

令和7年3月2日(日) 【旧 2月3日 仏滅】 雨水・草木萌動(そうもくめばえいずる)

お水送り近づきたれば若狭路の雪の晴れ間の光明るき
  ~内田あき子 耕養庵蒼島短歌(平成18年 冬季一席)

250302_若狭井に流れゆく水早春の
Photo:僧侶によって遠敷川に注がれる香水 ~中日新聞

 春を呼ぶと言われる奈良東大寺二月堂で行われる3月12日の「お水取り」。正確には修二会《しゅにえ》と呼ばれる法会の中の一行事です。これは二月堂前の若狭井という井戸から「お香水」を組み上げる行事です。この「香水」は若狭国から10日かけて地下を通って若狭井へ届くという伝説があり、これに由来して10日前の今日、福井県小浜市の若狭神宮寺では若狭井へ水を送るという「お水送り」の神事が行われます。若狭ではお水取りより早く「お水送り」が終わると春が来ると言われています。

雪汁か若狭の水のつめたさよ
  ~玄梅『類題集』

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