万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

福島

#4420 二十年反原発の歌詠み続け擁護論の人らと共に避難す

令和6年11月10日(日) 【旧 一〇月一〇日 先勝】立冬・山茶始開(つばきはじめてひらく)
二十年反原発の歌詠み続け擁護論の人らと共に避難す
  ~佐藤祐禎(1929-2013)『再び還らず』

 歌人の佐藤祐禎《さとうゆうてい》さんの故郷は福島県浜通りの大熊町。あの原発事故で避難生活を余儀なくされました。そんな共同生活では思想信条の違いは関係なく、互いに協力しながら生きていかねばなりません。これで思い出したのは「呉越同舟」の故事でした。
241110_永田町呉越同舟狸狩り
Photo:大統領候補トランプ氏とハリス氏の討論会(2024/09/10)~ロイター
 NHK大河ドラマ『光る君へ』の第30回(8月4日放送)の中で、紫式部の父為時(岸谷五朗)が道長の長男頼通(大野遥斗)に『孫子』の講義をしているシーンがありました。

為時:「敢えて問う、兵は率然の如くならしむべきか、と」
 そう言って続きを促すと、頼通は暗唱した言葉を続けます。
頼通:「曰く、べきなり。夫れ呉人と越人とは相憎むも、その舟を同じくして渡り、風に遇うに当りて、その相救うこと、左右の手の如し」
為時:「お見事でございます」
 と為時が頼通の学才を褒めたところに道長がやってくる、という場面です。

 この教材がまさに『孫子』の九地篇「呉越同舟」のくだりでした。「呉越同舟」の意味は「たとえ敵同士でも同じ災難に遭えば互いに協力したり助け合ったりすること」。日本の衆議院選や米国の大統領選の結果を見ていると勝敗の決着はついたものの、両派の分断がますます激しくなってくるような不安が残ります。

永田町呉越同舟狸狩り
  ~bungaraya(Sencle
241110_二十年反原発の歌詠み続け
Photo:鳥越・小池・高市・福島各氏の滅多にない組み合わせ:Xで見つけた画像です。みんな若かったね。

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#4373 秋分のおはぎを食へば悲しかりけりわが仏なべて満洲の土

令和6年9月25日(水) 【旧 八月二三日 赤口】秋分・雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)

秋分のおはぎを食へば悲しかりけりわが仏なべて満洲の土
  ~山本友一(1910-2004)

240925_秋分のおはぎを食へば悲しかりけり
Photo:おはぎ ~cake.jp

 今日は秋の「彼岸の明け」。もう、皆さんはご存知でしょうけど、お萩と牡丹餅《ぼたもち》は同じお菓子。春彼岸に食べるのは牡丹餅、秋彼岸にはお萩とよぶのはそれぞれの季節に咲く花になぞらえただけのお話。今年もおはぎだけはちゃっかりいただきましたけれど、お彼岸のお墓参りはパスしてしまいました。一応お盆にお墓参りをしてきましたので両親には許してもらうことにいたします。春のお彼岸は必ず参ります。もちろん牡丹餅もお供えいたします。

生者には大きなおはぎ秋彼岸
  ~平賀節代『たんぽぽ』

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#4031 ガザ遠く照らしにゆかん満月に大きく裂けてゆく柘榴あり

令和5年10月20日(金) 【旧 九月六日 友引】・寒露・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

「フクシマの桃をあなたは食べますか」問いしひとを憎まねど忘れず
  ~齋藤芳生(1977-)『花の渦』

 齋藤芳生氏は福島県出身の歌人。2019年に発表された第3歌集『花の渦』にこんな歌がありましたが、2023年になった今でも同じようなことを口にする「日本人」がいるのは悲しいことです。一方、齋藤氏は2010年に日本語教師として3年間中東に滞在されていました。その経験から詠まれたのが次の短歌です。

硝煙のにおうことなき長雨に火を噴くように柘榴花咲く
  ~同

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Photo:ガザ地区ハーン・ユニス(2023年10月10日) ~Yahooニュース

 中東に一時の平和があった時の歌です。しかし今月7日、武装組織ハマスがイスラエルに対し一般人を殺戮・拉致する残忍なテロ攻撃を行いました。中東の歴史は単純ではありません。歴史と領土の問題は深く掘り下げるときりがないうえに、現状の実効支配もいつからどのようなきっかけで続いているかということも関係して、第三者が善悪を判定することは不可能でしょう。しかし双方が正義を主張しながらもイスラエルとの和平を模索する中東の国々は少しづつ増えてきたのです。そんな中、今回のようなテロ行為に対しては一切の正当性は認められません。

パレスティーン、と少年答えその眼伏せたり葡萄のように濡れいき
  ~同

 さらに武装組織ハマスは病院や学校に拠点を置いて民間人を盾にするなどの卑劣な戦法をとっています。18日にはガザの病院で大規模な爆発があり、数百人が死亡しました。当初はイスラエルによる空爆と報道されましたが、衛星映像から空爆ではないことが明らかになっています。パレスチナ武装組織によるロケット弾発射失敗による誘爆説もあって、今のところは真相は不明。長引きそうなこの戦闘の中、「パレスティーン」と答えた少年は無事でいるしょうか。10年も前のことであれば、もう青年となり、ひょっとしたら戦場で銃をとっているのかもしれません。

ガザ遠く照らしにゆかん満月に大きく裂けてゆく柘榴あり
  ~同

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#3538 白河の清きに魚も棲みかねて……他一首

令和4年6月14日(火) 【旧 五月一六日 友引】・芒種・腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)

白河の清きに魚も棲みかねてもとの濁りの田沼恋しき
  ~江戸落首

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Photo:絹本着色松平定信像 鎮国守国神社蔵(三重県桑名市)

 日本史の授業で習った江戸時代の三大改革の一つ、「寛政の改革」を行った老中、松平定信(白河藩主)が没したのが1829年の今日6月14日(文政12年5月13日)。71歳とは、この時代では長寿と言えるでしょうが、寛政の改革自体はたった6年で幕を閉じています。腐敗政治と言われた田沼意次の時代は生活も豊かで文化も花開いた自由な時代でしたが、万事清廉潔白で生活の隅々まで倹約を強いて奢侈を戒める政治が長続きするはずもありません。意外なことですが、盛んに取り締まっていた卑俗な文芸が大好きだったようで、老中退任後は浮世絵を収集したり、自分でも黄表紙風の戯作を書いたりするなど、公私矛盾した性格を持っていたようです。

人とはぬ草の庵の夜の雨にとはずがたりの虫のねぞする
  ~松平定信(1759-1829)『三草集』

人が訪うこともない草の庵の夜の雨。何も問わないのに虫たちが語りかけるように鳴いている。

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#3443 降りしきる雪のむこうに浮かびくる……他二首

令和4年3月11日(金) 【旧 二月九日 仏滅】・啓蟄・桃始笑(ももはじめてさく)

降りしきる雪のむこうに浮かびくる三・一一あの日も雪なり
  ~伊良部喜代子(宮城)『現代万葉集』 2021年版

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Photo:津波で変形してしまった「龍の松」(気仙沼市淡路)~Relux Journal

 だんだん遠くなりつつある「東日本大震災」から今年は11年目。そうか、あの日は雪が降っていたのかと今更思い返します。同じ歌集にこんな短歌もありました。

千年に三度目となる大津波故郷を引き十年過ぎぬ
  ~伊藤正幸(福島)『現代万葉集』 2021年版

 「天災は忘れた頃にやってくる」という諺がありますが、忘れなくても天災は繰り返されます。しかし忘れていなければ備えておくことはできそうです。忘れないためにもう一首、思わずはっとするような短歌を。

死に顔を「気持ち悪い」と思ったよごめんじいちゃんひどい孫だね
  ~畠山海香(気仙沼高校)

 これにはこんな「詞書《ことばがき》」が記されていました。

祖父は家の蔵の中で津波に呑まれ、
遺体は流されずに済んだのだが、
なかなか火葬できなかった。
寒い時期だったのであまり腐らなかったが、
火葬の直前に顏を見て、
悲しくなるよりも気持ち悪いと感じてしまい、
祖父に申し訳ないと思った。

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