万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

#4785 花終えし秋明菊の払われて庭ひろびろと日暮れより雨

令和7年11月11日(火) 【旧 9月22日 赤口】 立冬・山茶始開(つばきはじめてひらく)

花終えし秋明菊の払われて庭ひろびろと日暮れより雨
  ~大下一真(1948-)『漆桶』

251111_白咲けり赤は消えしか貴船菊
Photo:善法寺の秋明菊 ~とっておきの京都プロジェクト

 名前に「菊」とありますがシュウメイギクはキンポウゲ科の多年草で、菊ではなくアネモネの仲間なのです。欧米では Japanese anemone と呼ばれ、日本風の庭園には欠かせない植物となっています。ただし原産地は中国のようで、かなり古い時代に日本に入ってきた帰化植物とのこと。貝原益軒は『大和本草』の中で「秋牡丹」という名で紹介しています。他にも呼称が多く、貴船神社の周辺にたくさん自生していたことから「貴船菊」と呼ばれ得ることも多いようです。開花期は秋9月から11月。秋の始まりを知らせる花の一つで、そろそろ花の季節も見納めですね。

白咲けり赤は消えしか貴船菊
  ~右城暮石(1899-1995)『散歩圏』

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#4784 三基あるエレベーターがばかだからみんなして迎えに来てしまう

令和7年11月10日(月) 【旧 9月21日 大安】 立冬・山茶始開(つばきはじめてひらく)

三基あるエレベーターがばかだからみんなして迎えに来てしまう
  ~山階基 『風にあたる』

 あるあるの光景ですね。せっかく3基もあるのに、3基とも同じ階にあって同じ方向に動いてる。機械にチームワークを求めてはだめかと思うのですが、超最新のコントロールシステムだとこれを解決しているとか。

251110_秋晴れて凌雲閣の人小さし
Photo:東京百景(浅草凌雲閣)~ToMuCo

 そんなエレベーターの歴史を紐解けば、日本で初めて電動式のエレベーターが登場したのは今から135年前、1890(明治23)年11月10日のことでした。場所は東京の浅草。地上12階建ての高層ビル「凌雲閣」の落成とともに披露されました。今日はこれに由来して「エレベーターの日」とされています。当時は「浅草十二階」とも呼ばれ、大阪の通天閣、神戸の神戸タワーとともに「日本三大望楼」と称されたそうですが、1923(大正12)年の関東大震災で8階部分から折れるように崩壊し、以後再建されることはありませんでした。

秋晴れて凌雲閣の人小さし
  ~正岡子規(1867-1902)

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#4779 神無月伊藤哈爾濱に狙撃さるこの電報の聞きのよろしき

令和7年11月5日(水) 【旧 9月16日 赤口】 霜降・楓蔦黄(もみじつだきばむ)

神無月伊藤哈爾濱《ハルピン》に狙撃さるこの電報の聞きのよろしき
  ~与謝野鉄幹(1873-1935)『相聞《あいきこへ》』

 伊藤博文がハルピンの駅頭で韓国人過激派活動家安重根《アン・ジュングン》に暗殺されたのは明治42年10月26日のこと。この凶報は電報によって瞬く間に日本に伝わりました。「聞きのよろしき」とあるのはこれを聞いて喜んでいるわけではなく鉄幹は政治家としてまことに見事な最期であると考えたかったようです。

251105_神無月伊藤哈爾濱に狙撃さる
Photo:電報配達 ~文化遺産オンライン

 ということで今日11月5日は「電報の日」。電報を申込む電話番号115によるものですが、最近は「電報」という通信手段を使うことなどほとんどなくなりました。文字による通信としてはファクシミリ、電子メール、さらにはLINEなどのメッセンジャーアプリに進化し、今では結婚式や葬儀の際にしか電報に接することはありません。しかしそんなものがなかった明治時代の文人たちが俳句をそのまま電文にしてやり取りしていました。さて次の電文は誰に送られたものかわかりますか。

センセイノネコガシ二タルヨサムカナ
  ~松根東洋城(1878-1964)

 これは明治41年、夏目漱石に送られた弔慰電文です。松根東洋城は漱石の門下生でした。もちろん『吾輩は猫である』で有名な名前のない猫の死を悼んだもの。もう一人、正岡子規の門下生であった高浜虚子からの電報もありました。

ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ
  ~高浜虚子(1874-1959)

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#4778 そこにのみ明るさのこる如くにて浜菊咲けり夕暮れし園

令和7年11月4日(火) 【旧 9月15日 大安】 霜降・楓蔦黄(もみじつだきばむ)

集ふとはたのし鴎も浜菊も
  ~岡本眸(1928-2018)

251104_集ふとはたのし鴎も浜菊も
Photo:ハマギク(茨城県) ~HiroKen花さんぽ

 キク科の多年草ハマギクの花期は9月から11月頃。原産地は日本で学名も "Nipponanthemum nipponicum"とされています。この俳句でもわかるように、関東以北の太平洋岸に群生しており、海辺の強風にも負けない硬い枝と肉厚の葉が特徴です。耐寒性も良。白い花が特徴でマーガレットを和風にアレンジしたような趣きがあります。花言葉は「単純な美」「逆境に立ち向かう」「友愛」。まさに日本の花ですね。

そこにのみ明るさのこる如くにて浜菊咲けり夕暮れし園
  ~上皇后美智子(1934-)『ゆふすげ』

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#4776 秋風の日に異に吹けば水茎の岡の木の葉も色づきにけり

令和7年11月2日(日) 【旧 9月13日 先負】 霜降・楓蔦黄(もみじつだきばむ)

黄葉す古木の一樹一樹かな
  ~右城暮石(1899-1995)

251102_黄葉す古木の一樹一樹かな
Photo:カツラの黄葉 ~山形市野草園

 七十二候の第54候は「楓蔦黄(もみじつだきばむ)」。二十四節気「霜降」の末候にあたります。木々が本当に色づいてくると季節はもう晩秋。代表的なイロハモミジが色づき始めるのは最低気温が8℃以下になることが必要で、5℃以下になると紅葉は一気に進むとされています。もちろん地域や個体差があるし、日照や昼夜の気温差により一概には言えませんが、これが散り始めるとあっという間に過ぎてゆく秋の名残の風景だと思うのは日本人共通の美意識と季節感ですね。

秋風の日に異《け》に吹けば水茎の岡の木の葉も色づきにけり
  ~作者未詳 『万葉集』 巻10-2193 雑歌

秋風が日増しに強く吹くようになってきてみずみずしい茎の生える岡の木々も色づいてきた。

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