万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

英訳

#4439 だんだんに無感覚となる報道はウクライナからガザに移れど

令和6年11月29日(金) 【旧 一〇月二九日 友引】 小雪・「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」

だんだんに無感覚となる報道はウクライナからガザに移れど
  ~渡英子 『短歌』 2024年2月号

 1977年12月の国連決議において、今日11月29日を「パレスチナ人民連帯国際デー」が定められました。これは1948年11月29日に当時のパレスチナ問題を解決するためにイギリスの委任統治を終わらせ、アラブ人とユダヤ人の国家を創出し、エルサレムを特別な都市とする案の実施を勧告する国連決議が採択された事によるもの。ただしこの案はユダヤ人には大枠で受け入れられたもののアラブ諸国とパレスチナのアラブ人指導者たちには受け入れられないまま今日に至っています。

241129_だんだんに無感覚となる報道は
Photo:子どもを抱いて歩く少女(パレスチナ自治区ガザ地区)~AFP/Getty Images

 昨年の10月にイスラエルとガザの武力衝突が激化してから既に1年以上が経過しています。先日、米国の提案でイスラエルとレバノンを拠点にするシーア派組織ヒズボラとの停戦が合意されましたが、ウクライナ情勢とともに決定的な解決には至っていません。

 以下はパレスチナの俳人リタ・オデさん(イスラエル北部のナザレ出身)が詠んだ俳句です。

Gaza's child -
looking for her doll
among the ruins

(人形を探す瓦礫の子の哀し)
  ~リタ・オデ

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#4290 大寺院沈没する船裁判所なみいる岩に赤鬼もをおり

令和6年7月4日(木) 【旧 五月二九日 先負】・夏至 半夏生(はんげしょうず)

大寺院沈没する船裁判所なみいる岩に赤鬼もをおり
  ~大岡信(1931-2017)『アメリカ草枕』

240704_大寺院沈没する船裁判所
Photo:ラシュモア山の岩壁に放られた人の大統領(サウスダコタ州)~カラパイア

 詩人で評論家でもある大岡信《おおおかまこと》が1978年にアメリカを旅行した時に詠んだ一首。アリゾナからユタ州へ大自然の中を移動中の3日間で87首の短歌をメモしたそうです。今日7月4日はアメリカ合衆国の独立記念日。1776年に独立宣言が採択されてから今日で248年になります。良きにつけ悪しきにつけ、この国が民主主義国家の牙城であることは変わりません。しかし次の大統領に、不倫相手への口止め料を隠すために業務記録を改ざんした罪で有罪になった78歳のドナルド・トランプと、足元もおぼつかず度々誤った発言をする81歳のジョー・バイデンのどちらかを選ばなければならない米国民を気の毒に思ってしまいます。他に人がいないのかと、他人事ではなく思ってしまう今日このごろです。

あさましやいかなるゆゑのむくいにてかかることしも有る世なるらん
  ~西行(1118-1190)『山家集』 巻下 1231

How deplorable,
By what retribution does such a thing occur
in the whole country?


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#4196 日暮るればさそひしものを赤沼の真菰がくれのひとり寝ぞ憂き

令和6年4月2日(火) 【旧 二月二四日 先勝】・春分 雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)

日暮るればさそひしものを赤沼の真菰《まこも》がくれのひとり寝ぞ憂き
  ~小泉八雲(1850-1904)『怪談』

Even though at twilight I called him to me! Oh, the bitter misery of sleeping alone, hidden in the tall rushes of Akanuma!

日暮れには誘い合って共寝をしたのに、赤沼の真菰に隠れてひとりで寝るのはつらいのです。

240402_日暮るればさそひしものを赤沼の
Photo:小泉八雲旧居 ~ナオコガイドのアイルランド日記

 小泉八雲が本名のラフカディオ・ハーンの名で『怪談(kwaidan)』をアメリカで発表したのがちょうど120年前の今日、1904年4月2日のこと。この歌はその中の「おしどり」という一話にありました。村充《そんじょう》という猟師が赤沼でつがいの鴛鴦《おしどり》を見つけ、放った矢は雄の鴛鴦を射殺します。その夜のこと、村充の夢枕に若い女が立ち、泣きながらこの歌を詠んで消えていったというお話。『古今著聞集』巻20の説話に基づいた怪談です。八雲はこれを刊行してから半年後、狭心症で亡くなっています。享年54歳。

怪談に女まじりて春の宵
  ~正岡子規(1867-1902)

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#4021 透き通る 会場揮はす歌声よ 楽器に負けじ重なり響く

令和5年10月10日(火) 【旧 八月二六日 先負】・寒露・鴻雁来(こうがんきたる)

透き通る
会場揮《ふる》はす歌声よ
楽器に負けじ重なり響く
  ~五十嵐靖之

 五十嵐靖之氏は理学博士・北海道大学名誉教授。現在は北海道大学の次世代物質生命科学研究センターの客員教授をされています。写真と短歌が趣味とのことで氏のブログには美しい写真とともに英訳を添えた短歌が掲載されています。 

231010_透き通る会場揮はす歌声よ.jpg
 ちなみに、この短歌の英訳は次の通り。

A transparent and clear voice
Shaking the wall of the theater
Not killed by musical instruments but
Piles up onto them and resonates them

 この短歌は2018年の10月、学会で訪れたモンブランで苫米地英一氏が指揮するヴェルディの歌劇「リゴレット」を観賞されたときのもの。海外を拠点として活躍されている演奏家はたくさんいらっしゃいますが、苫米地英一氏もその一人。日本人として初めてヴェルディ生誕の地ブッセート歌劇場でヴェルディのオペラ「アイーダ」指揮し、その後もイタリアで「リゴレット」や「ラ・ボエーム」「道化師」「ナブッコ」「愛の妙薬」などの指揮をされてきました。今日10月10日はそのジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)の生誕210年目に当たります。

Youtube:オペラ『リゴレット』より「女心の唄」(ルチアーノ・パヴァロッティ)


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#2976 沫雪のほどろほどろに降り敷けば ・・・

令和2年11月29日(日) 【旧 十月十五日 赤口】・小雪・朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)

A poem by Otomo Tabito, Commander of the Dazaifu, as he watched the snow falling on a winter day and remembered the capital
As the light snow
continues to pour,
streak by streak,
my thoughts turn
to the capital at Nara.
  ~リービ英雄著 "Man'yo Luster” より

201128_沫雪のほどろほどろに降り敷けば.jpg
Photo:太宰府天満宮(福岡県太宰府市)

 こちらが原文です。

太宰帥《だざいのそち》大伴卿《おほとものまへつきみ》の冬の日に雪を見て京《みやこ》を憶《おも》へる歌一首
沫雪《あわゆき》のほどろほどろに降り敷けば平城《なら》の京《みやこ》し思ほゆるかも
  ~大伴旅人 『万葉集』 巻8-1639

沫雪がまだらに降りつづくと、平城の京が思われることよ。

 口語訳は中西進先生の本を引用。この歌のキモは「ほどろほどろに」だと思いますが、英訳では筋とか縞、あるいは条斑という意味の「streak」を使っています。今日はこれを翻訳された小説家で日本文学者、リービ英雄 (Ian Hideo Levy 1950-) 氏の70歳のお誕生日です。カリフォルニア生まれのアメリカ人で "Hideo" も本名ですが父親の友人であった日本人の名にちなんで付けられたもので、彼自身に日本人の血が入っているわけではありません。『万葉集』は中西進先生に学び、その英訳本で82年に全米図書賞を受賞。小説家としては日本語での創作を行い、数々の文学賞を得ておられます。現在は法政大学教授。

201128_Ian Hideo Levy.jpg
Photo:リービ英雄氏

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