万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

茨城

#4380 秋雨の庭は淋しも樫の実も落ちて泡だつそのにはたづみ

令和6年10月2日(水) 【旧 八月三〇日 先勝】秋分・蟄虫坯戸(むしかくれてとをふさぐ)

秋雨の庭は淋しも樫の実も落ちて泡だつそのにはたづみ
  ~長塚節(1879-1915)

241002_秋雨の庭は淋しも樫の実も
Photo:シラカシのドングリ ~庭木図鑑 植木ペディア

 「樫《カシ》」はブナ科の常緑高木の総称なので、地方によって指す樹木の種類が違うのをご存知ですか。私も存じませんでしたが、関東地方ではシラカシを指し、東海地方ではウラジロガシ、南紀や四国ではウバメガシ、山陽地方ではアラカシ、四国や九州ではアカガシやイチイガシなどを樫の木と呼んでいるそうです。他にブナ科といえばブナの木がそうですし、椎や栗の木もそうです。栗の木の実は「栗」と呼ばれますが、それ以外はみんな「どんぐり」と呼ばれます。

十月や鶏頭の雨椎の風
  ~岸田稚魚(1918-1988)『負け犬』

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#4247 卯の花の咲くとはなしにある人に恋ひやわたらむ片思にして

令和6年5月23日(木) 【旧 四月一六日 先勝】・小満 蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

卯の花の咲くとはなしにある人に恋ひやわたらむ片思《かたもひ》にして
  ~作者未詳 『万葉集』 巻10-1989 相聞歌

卯の花のように花の咲かせてくれない人に、恋し続けるの? 片思いのままで。

240523_眠ければ眠る卯の花月夜かな
Photo:卯の花月夜

 『万葉集』から卯の花の季節(夏)の相聞歌です。ウノハナはアジサイ科ウツギ属の落葉低木で、茎が中空であることから「ウツギ(空木)」とも呼ばれます。旧暦四月の別名「卯月」は「卯の花月」からという説が有力です。新暦では5月から6月の、ちょうど今頃が花の季節ですね。そう言えば今日は旧暦の4月16日。月齢15.0の完璧な満月になるはず。雨はなさそうですが、今夜の雲の様子はいかがでしょうか。

眠ければ眠る卯の花月夜かな
  ~高野素十(1893-1976)

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#4186 天気図の等圧線を見てゐしが不意にわが持つ渦とかさなる

令和6年3月23日(土) 【旧 二月一四日 先負】・春分 雀始巣(すずめはじめてすくう)

木の芽雨天気予報の通りに降る
  ~加倉井秋を(1909-1988)『胡桃』

 「木の芽雨」は木の芽の成長を助ける雨のことで春の季語になります。

240323_天気図の等圧線を見てゐしが
Photo:World Meteorological Day 2024 ~世界気象機関

 気象衛星が一般化してから天気予報の精度は飛躍的に上がってきました。1950年3月23日に世界気象機関(WMO)が発足したことから、今日3月23日は「世界気象デー」と定められています。WMO発足当初の天気予報はあまり当てにならないと言われていましたが、台風の予測があるだけでも大いに助かっていたものです。今はスマホでほぼ正確な予報が手に入りますが、これも国際連合の機関の一つである世界気象機関が気象事業の国際的な標準化や各加盟国や地域同士の気象情報・資料の効率的な交換の奨励を行ってきた成果の一つなのです。今年の「世界気象デー」のテーマは「気候変動対策の最前線で」とされています。

天気図の等圧線を見てゐしが不意にわが持つ渦とかさなる
  ~大西民子(1924-1994)『印度の果実』

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#4074 橘の下吹く風のかぐはしき筑波の山を恋ひずあらめかも

令和5年12月2日(土) 【旧 一〇月二〇日 大安】・小雪 橘始黄(たちばなはじめてきばむ)

橘の下吹く風のかぐはしき筑波の山を恋ひずあらめかも
  ~占部廣方 『万葉集』 巻20-4371

橘の木の下を吹く風が香しい筑波の山を懐かしく思わずにいられようか。

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Photo:橘の実 ~tenki.jp

 占部廣方《うらべのひろかた》は常陸国の防人を引率する役目を負った役人。遠く九州に向かう旅の途上、橘の香りに出会ってふるさと筑波山を思い出したのでしょう。今日は七十二候の第60候「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」二十四節気「小雪」の末候にあたります。サラリーマン時代の若い頃、似合いもしないのに柑橘系のオーデコロンに凝っていた時期が私にもありました。今なら加齢臭をごまかすために使ってみるのもいいかもしれません。「花橘」は夏の季語ですが「橘」だけの場合は実を指すので晩秋の季語に分類されています。

橘は黄を深めつつ天の鈴
  ~長谷川秋子(1926-1973)

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#4033 いささかは肌はひゆとも単衣きて秋海棠はみるべかるらし

令和5年10月22日(日) 【旧 九月八日 仏滅】・寒露・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

いささかは肌はひゆとも単衣きて秋海棠はみるべかるらし
  ~長塚節(1879-1915)

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Photo:秋海棠の花と長塚節

 中国で海棠に似た花を咲かせるところから名付けられたという秋海棠《しゅうかいどう》。江戸時代、寛永年間に中国から長崎に持ち込まれたことが貝原益軒の『大和本草』に記載があります。8月頃から咲き始め10月頃に花の季節が終わるこの花を長塚節はこよなく愛していたようです。茨城中学校(現水戸第一高校)に主席で入学したものの脳神経衰弱を発症して退学、郷里で療養中に文学に傾倒した長塚は正岡子規の後継者との評価を得るほどの才能を発揮しましたが喉頭結核を患い35歳の若さで亡くなりました。

露ほろほろ秋海棠のゆれにけり
  ~正岡子規(1867-1902)

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