万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

#4889 内ふかく春の潮を含みたる大はまぐりを一口に食ふ

令和8年2月22日(日) 【旧 1月6日 赤口】 雨水・土脉潤起

内ふかく春の潮を含みたる大はまぐりを一口に食ふ
  ~内藤明(1954-)

 特にひな祭りに食べると良縁を招くとされ、お吸い物にもよく用いられる蛤《ハマグリ》。わざわざ「大はまぐり」と言いたくなるほどに、シジミやアサリと比べても大きくてしっかりと食べごたえがあります。

260222_内ふかく春の潮を含みたる
Photo:焼きはまぐり ~海食堂 九十九里倉庫

 生物学的には「ハマグリ」と言っても色々な種類があるそうですが、私たちが一般に食用にしている二枚貝のハマグリの旬は2月から4月頃まで。4月からは産卵期に入るのでその直前は身も大きく膨らんで最も美味しくなるのです。ただ、近年店頭で見かけるハマグリの多くは中国や韓国からの輸入物だとか。日本では千葉の九十九里浜や茨城の鹿島灘、三重の桑名、熊本の有明海が有名です。

蛤のうす目をあけてをりにけり
  ~京極杞陽(1908-1981)

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#4858 たつぷりと牡蠣の旨味をふふみたる土鍋の底の葱をたのしむ

令和8年1月22日(木) 【旧 12月4日 先負】 大寒・款冬華

牡蠣鍋の葱の切つ先そろひけり
  ~水原秋桜子(1892-1981)

260122_たつぷりと牡蠣の旨味をふふみたる
Photo:牡蠣の土手鍋 ~ひろしまリード

 別に冬にしか採れないわけではないのでしょうが、牡蠣は冬の季語とされています。寒い冬に牡蠣鍋は一段と身体を温めてくれます。日本では広島県のカキが有名ですが、これは潮通しの良い海域に設置した筏に吊るす方法です。古代ローマで干潟の泥砂に稚貝を蒔いて育てる方法を用いていたそうで、そんな昔から食用にされていたようです。実は子供の頃はあの食感が気持ち悪くて嫌いでしたけど、カキフライを始めて食べて牡蠣の美味しさを知った次第。牡蠣でなくてもいいけど、今夜も鍋料理で温まりたい気分です。

たつぷりと牡蠣の旨味をふふみたる土鍋の底の葱をたのしむ
  ~内藤明(1954-)『斧と勾玉』

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#4369 伊勢の海の白水郎の島津が鰒玉とりての後もか恋の繁けむ

令和6年9月21日(土) 【旧 八月一九日 友引】白露・玄鳥去(つばめさる)

伊勢に来たからは薄暑の伊勢うどん
  ~飯島晴子(1921-2000)

 秋の正倉院展と年末の伊勢参りはここ10年以上にわたって私の恒例行事になっています。神宮では外宮近くの伊勢うどんを食べること。これもお参りのルーティーンになりました。

240921_白珠は人に知らへず知らずともよし
Photo:伊勢うどん(かいだ製麺所)と真珠(大蔵屋

 世界で初めて真珠の養殖を成功させた御木本幸吉が生まれたのは1858(安政5)年)。実家はうどん屋だったとか。長男でしたが1杯8厘のうどんに見切りをつけて、海産物商に転身したことがきっかけで天然真珠が高値で取引されることを知ったようです。その後地元の産業振興に尽力するかたわら、実験を重ねて35歳の夏に半円真珠の養殖に成功しています。その御木本幸吉が亡くなったのは今からちょうど70年前、1954(昭和29)年9月11日。96年の生涯でした。『万葉集』から伊勢の真珠を恋人にたとえて詠んだ歌です。

伊勢の海の白水郎《あま》の島津が鰒玉《あはびだま》とりての後もか恋の繁けむ
  ~作者未詳 『万葉集』 巻7-1322 譬喩歌

伊勢の海人がとる志摩の津の真珠よ、手に入れたその後も 恋しさは激しくなるよ。

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#4352 妹がため貝を拾ふと茅渟の海に濡れにし袖は干せど乾かず

令和6年9月4日(水) 【旧 八月二日 先負】処暑・禾乃登(こくものすなわちみのる)

妹がため貝を拾《ひり》ふと茅渟《ちぬ》の海に濡れにし袖は干せど乾かず
  ~作者未詳 『万葉集』 巻7-1145 雑歌

妻のために貝を拾おうと茅渟の海岸で濡らした袖は、いくら干しても 乾かないよ。

240904_妹がため貝を拾ふと茅渟の海に
Photo:関西国際空港 ~泉佐野市HP

 「茅渟の海」とは現在の大阪湾の古称。もう少し範囲を狭めていうと、大阪府堺市から南、泉大津市・岸和田市・泉佐野市・泉南市の沖合で、古くから多くの魚介類が穫れる好漁場でした。特に冬場によく釣れるからか、今でもクロダイのことを「チヌ」と呼んでいます。万葉歌にあるように、昔は美しい貝が拾えるような海岸が続く風光明媚な場所だったようです。1994年9月4日、この海の沖に世界で初めての完全人口島からなる海上空港、関西国際空港(KIX)が開港しました。今日は開港30周年に当たります。今年は利用客がコロナ禍前の数字を上回るまでに回復したというニュースがあって喜ばしい限りですが、日本人より海外の利用客のほうが伸びているのはやはり円安のせいでしょうか。

異国語もまじる空港秋暑し
  ~後藤軒太郎(1919-2008)

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#3898 妹がため我玉拾ふ沖辺なる玉寄せ持ち来沖つ白波

令和5年6月9日(金) 【旧 四月二一日 赤口】・芒種・蟷螂生(かまきりしょうず)

妹がため我玉拾ふ沖辺なる玉寄せ持ち来沖つ白波
  ~作者未詳 『万葉集』 巻9-1665 雑歌

妻のために玉(真珠)を採ろう。沖辺の玉を岸に寄せてくれないか沖の白波よ。

230609_妹がため我玉拾ふ沖辺なる.jpg
 金婚式や銀婚式はよく知られていますが、結婚30周年を祝う真珠婚式はあまり知られていません。その由来は存じませんが、アコヤ貝の中に異物が入ると貝は自分の身が傷つかないように長い時間をかけて自分の成分で優しく包み込んでいく。夫婦だって元は赤の他人だから異物?と言っては失礼ですが、時間をかけて一体になってきたのが30年目ということかなと勝手に思っています。今日は天皇陛下のご成婚30年目。翌年、平成6年の歌会始の儀で詠まれた御新婚一年目のお二人の御歌です。

我妻と旅の宿より眺むればさざなみはたつ近江の湖に
  ~徳仁皇太子殿下(当時)

君と見る波しづかなる琵琶の湖さやけき月は水面《みのも》おし照る
  ~雅子皇太子妃殿下(当時)

230609_我妻と旅の宿より眺むれば.jpg
Photo:皇太子徳仁親王と小和田雅子さん(当時)の結婚の儀(1993年6月9日)~Wikipedia

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