万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

#4491 大寒の夜さり凍みたる土間の瓶今朝汲む酒に薄氷うかぶ

令和7年1月20日(月) 【旧 一二月二一日 友引】 大寒・款冬華(ふきのはなさく)

大寒の夜さり凍みたる土間の瓶今朝汲む酒に薄氷うかぶ
  ~中村憲吉(1889-1934)『しがらみ』

 今日は二十四節気24番目の「大寒」。「冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也」と暦便覧に記されている通り、寒さが最も厳しくなる頃です。ところで、日本酒のアルコール度数は15℃くらいなので家庭用の冷凍庫であれば十分凍るようです。アルコール度数がこれより高ければ凍りにくく、低ければ凍りやすくなります。ウォッカなんて絶対凍らないのでしょうね。でも、憲吉の汲んだ日本酒ならば外気温次第では薄く氷が張ることもありえそうです。

250120_大寒の夜さり凍みたる土間の瓶
Photo:Yamarii

 しかし、天気予報では今日の大阪の最低気温は7℃、最高14℃。とてもそんな寒さにはならないようです。こんな俳句がありました。

春寒は大寒よりも情強し
  ~相生垣瓜人(1898-1985)『負暄』

 主季語は大寒ではなく「春寒」。大寒は寒いだろうという覚悟をしていたのだがそれほどでもなかったが、春になったはずなのに急に寒くなるとこちらのほうが体に応える。不意打ちの寒さのほうが身に応えるということのようです。

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#4390 酒のめば水遁火遁忍術をなすといひしがついにせぬなり

令和6年10月12日(土) 【旧 九月一〇日 赤口】寒露・鴻雁来(こうがんきたる)

旅に病んで夢は枯野をかけ廻る
  ~松尾芭蕉(1644-1694)辞世

 俳聖松尾芭蕉が亡くなったのは元禄7年10月12日。今日は330年目の「芭蕉忌」です。桃青忌・時雨忌・翁忌などと呼ばれることもあります。終焉の地は大阪御堂筋の花屋仁左衛門の屋敷(大阪市中央区久太郎町)でした。生まれは伊賀国(三重県伊賀市)であり、かの『奥の細道』の旅程450里(1768km)を踏破したという脚力から、この人は東北諸藩の動向を探る幕府隠密であるという説もありました。そういえばこんな句もありましたね。

秋深き隣は何をする人ぞ
  ~同

 なるほど、どこに忍び込んだのかと思わぬこともない。けれど、これは病床の芭蕉が亡くなる2週間前に詠んだ句でした。

241012_旅に病んで夢は枯野をかけ廻る
Photo:松尾芭蕉 ~琵琶湖大津歴史百科より

 10月12日といえば、ちょうど100年前の今日、アナトール・フランス(1844-1924)というフランスの詩人で小説家が亡くなっています。彼は批評家でもあり彼の残した数々の名言が言いえて妙の名作ばかり。その中の一つにこんな言葉がありました。

「嘘のない歴史書ほど退屈なものはない」

 確かに謎と嘘(勝手な推測?)がまったくない歴史書はおもしろくない。芭蕉忍者説も証拠がないから全否定というのもつまらないですね。

酒のめば水遁火遁忍術をなすといひしがついにせぬなり
  ~小熊秀雄(1901-1940)『小熊秀雄全集』

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#4144 紹興酒乗せたる円卓まわされて旅の途中に春節祝う

令和6年2月10日(土) 【旧 一月一日 先勝】・立春 黄鶯睍睆(うぐいすなく)

人垣に春節の龍起ち上がる
  ~小路紫峡《しょうじしきょう》(1926-2016)

240210_紹興酒乗せたる円卓まわされて
Photo:PNGTREE

 今日は旧暦の一月一日、春節です。日本では新暦(グレゴリオ暦)の正月を祝日としていますが、中国や韓国、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、モンゴルなどアジアの多くの国では旧正月を国の休日としています。中国では今日から2月17日までの8連休だそうで、この前後40日間で累計90億人が国内外を移動するとか(ほんまか?)。累計とはいえ、日本の総人口の75倍。凄まじいパワーを持ったお国ですね。今年は円安の影響もあって日本にもたくさん来られるようです。お買い物や観光地の景色だけではなく、小さな国、日本の文化やお国柄も理解していただける機会になれば結構なことです。

紹興酒乗せたる円卓まわされて旅の途中に春節祝う
  ~西本照代『勾玉』

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#3997 花ながす昔を汲みて山水の一葉をさそふ秋の涼しさ

令和5年9月16日(土) 【旧 八月二日 先負】・白露・鶺鴒鳴く(せきれいなく)

早涼至
花ながす昔を汲みて山水の一葉をさそふ秋の涼しさ
  ~朝倉義景(1533-1573)『戦国時代和歌集』

桜の花びらを水に浮かべた昔の貴族の雅を汲み取るように、今は山水を流れる一葉が秋の涼しさを誘っている。

 1562(永禄5)年の秋、一族を集めて一乗谷で曲水の宴を催した時に詠まれた歌。「山水の一葉」とは庭園に作られた流水に浮かべた盃を喩えた言葉です。

230916_花ながす昔を汲みて山水の.jpg
Photo:朝倉義景像

 越前の戦国大名朝倉義景が16歳の時に家督を継いだ時の名は延景でした。後に室町幕府第13代将軍足利義輝から義の字を与えられて義景と改名しています。義景は上杉、武田、延暦寺などと結んで信長包囲網を画策しましたが、1570(元亀1)年に浅井長政とともに織田徳川連合軍と戦った姉川の戦いで敗退。以後は家臣の寝返りもあり、消極的な行動が続き、ついには一乗谷城の戦いで柴田勝家の軍に攻められて自刃に至ります。ここでも決定打となったのは家臣の裏切りでした。1573年9月16日(天正元年8月20日)、450年前の今日の出来事です。

辞世
かねて身のかかるべしとも思はずば今の命の惜しくもあるらむ
  ~同

以前から我が身はかくあるべしと思ってきたのであるから、今命が尽きても惜しくはない。

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#3990 官にも許し給へり今夜のみ飲まむ酒かも散りこすなゆめ

令和5年9月9日(土) 【旧 七月二五日 先勝】・白露・草露白(くさのつゆしろし)

官《つかさ》にも許し給へり今夜《こよひ》のみ飲まむ酒かも散りこすなゆめ
  ~作者未詳 『万葉集』 巻8-1657 相聞歌

お上からもお許しがあるのですよ。今夜だけ飲む酒であろうから、梅の花よ散らないでおくれ、きっと。

230909_官にも許し給へり今夜のみ.jpg
 「橘奈良麻呂の変」を事前に鎮圧した教訓から758(天平宝字2)年、朝廷は酒席が謀反や謀議の場となることを怖れて禁酒令を制定しました。ただし「官にも許し給へり」と言っているように、附則として「親しい者同士なら一人二人で飲む酒は構わぬ」という特則があったことをこの歌が示しています。この前年に定められた「養老律令」の時代ですが、その原点となったのは701年9月9日(大宝元年8月3日)、文武天皇の時代に刑部親王や藤原不比等の手によって律令国家の基本法典として完成された「大宝律令」でした。国家の基本法も数十年経つとやはり社会の変化に応じて変更・修正していかねばならないというのは昔も今も変わらないはずですよね。

世は進み憲法だけが足踏みし
  ~星新(大阪府)第8回「憲法改正川柳コンクール」入選作

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