万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

長野

#4525 朝もやの晴れ上がりゆく湖にヒマラヤの峰姿耀ふ

令和7年2月23日(日) 【旧 1月26日 友引】 雨水・霞始靆(かすみはじめてただよう)

朝もやの晴れ上がりゆく湖にヒマラヤの峰姿耀ふ
  ~徳仁皇太子殿下(平成2年当時)

 今上天皇陛下65歳のお誕生日です。この御製は昭和62(1987)年3月にネパール・ブータン・インドを親善訪問された時のもので、ヒマラヤの峰を臨む湖畔での印象を詠まれています。昭和天皇の病状悪化と崩御によりこの歌が披露されたのは平成2(1990)年の「昭和天皇を偲ぶ歌会」でした。

250223_朝もやの晴れ上がりゆく湖に
Photo:ヒマラヤ山脈 ~ゆり先生の化石研究室

 さて今日は七十二候の第5候「霞始靆(かすみはじめてただよう)」。二十四節気「雨水」の次候に当たります。この御製に「朝もや」とありますが、霧と靄《もや》、そして霞《かすみ》は少し違うようです。どれも遠くが見えにくい状態をさしますが、原因が空気中の水蒸気に限定すると霧と靄は同じ現象で、水平視程1km未満を霧、1km以上を靄と呼び分けています。霞《かすみ》はそれに加えて、黄砂や花粉、噴煙が原因の場合にも使える言葉なので気象用語には採用されていません。一方、俳句では霞は春、霧は秋の季語とされていますが靄は単独では季語にはならないので要注意です。

行方もつ鳥は過ぎゆく冬の靄
  ~林翔(1914-2009)『和紙』

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#4498 日章旗立ちつづきたる町ゆけば みな隣人の家のごと見ゆ

令和7年1月27日(月) 【旧 一二月二八日 先負】 大寒・水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

日章旗立ちつづきたる町ゆけば みな隣人の家のごと見ゆ
  ~窪田空穂(1877-1967)『卓状の灯』

 『卓状の灯』は1955年9月に上梓された歌集です。その中でこの歌は「年のはじめに」と題されていました。戦後約10年たった日章旗に対する窪田空穂の感慨であり、戦中や戦後間もない時期に詠まれた歌を収録した『茜雲』や『冬木原』では日章旗は学徒兵や知人の出征などを想起させるものだったようです。今日、1月27日は「国旗制定記念日」。明治3年1月27日(旧暦)に商船規則(太政官布告第57号)が定められ、日本の国旗としての日章旗のデザインが決まったことにちなみます。ちなみに江戸時代に用いられた日の丸は官用船すなわち公儀の船の証として、幕府以外の船との識別の為に使用されていました。

250127_日章旗立ちつづきたる町ゆけば
Photo:青空と日本国旗 ~photoAC(Mark_Punkさん)

Z旗にあらず日の丸冬うらら
  ~山口青邨(1892-1988)

 ところで「外国国章損壊罪」をご存知ですか。外国の国旗その他の国章を損壊・除去・汚損する犯罪であり、法定刑は2年以下の懲役または20万円以下の罰金となる(刑法92条1項)というものですが、外国政府の請求が提起要件になっている親告罪なので滅多に適用される事はありません。とはいえ、自国の国旗に対する侮辱行為に対して刑罰の規定がないのはアンバランスの様に思えます。どこの国にせよ国旗を踏みつけたり燃やしたりする映像を見るのはあまり愉快なことでではありません。

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#4496 冬空の澄み極まりし青きより現はれいでて雪の散り来る

令和7年1月25日(土) 【旧 一二月二六日 先勝】 大寒・水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

冬空の澄み極まりし青きより現はれいでて雪の散り来る
  ~窪田空穂(1877-1967)『泉のほとり』

250125_冬空の澄み極まりし青きより
Photo:水沢腹堅(さわみずこおりつめる)~七十二候だより

 今日から1月29日までの5日間は七十二候の第71候「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」。二十四節気「大寒」の次候にあたります。寒さも極まって沢の水も凍りついてしまう頃。ちなみに「沢」とは地が低くて浅く水がたまり、草が茂っている所。特に、山間の広く浅い谷を指します。窪田空穂の生家があった長野県東筑摩郡和田村(現・松本市和田)にはそんな場所が多かったのでしょうね。

吹く風のふきのつのりに天つ空いよいよ澄みて遥かなるかな
  ~同

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#4462 眼の前に咲く花の名はうつぼ草やうやく覚え心やすらぐ

令和6年12月22日(日) 【旧 一一月二二日 友引勝】 冬至・「乃東生(なつかれくさしょうず)」

眼の前に咲く花の名はうつぼ草やうやく覚え心やすらぐ
  ~来島靖生(1931-2022)

241222_眼の前に咲く花の名はうつぼ草
Photo:ウツボグサ ~海田の四季

 二十四節気「冬至」の初候5日間(12月21日~25日)は七十二候の第64候「乃東生(なつかれくさしょうず)」。冬至は「あの世に一番近い日」と考えられていました。生命の源ともいえる太陽の力が弱まり、人間の魂も一時的に仮死するとされたのです。そんな冬至の頃に芽を出す珍しい植物が「乃東《なつかれくさ》」。枯れた時の形が矢を入れる筒「靭《うつぼ》」に似ているために「うつぼ草」とも呼ばれています。乃東は夏枯草《かこそう》のことで、夏至の頃に花が黒色化して枯れたように見えますが、冬至の頃になると新しい命を芽吹かせてくれます。夏枯草は冬至で沈んだ人々の心に希望を与えてくれる存在だったのかもしれません。

うつぼ草豊かに八ケ岳の雲霽《は》らす
  ~雨宮抱星(1928-2018)

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#4337 枝はなれ地のものとなるくれなゐに染み極まりて照れる楓葉

令和6年11月27日(水) 【旧 一〇月二七日 赤口】 小雪・「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」

枝はなれ地のものとなるくれなゐに染み極まりて照れる楓葉
  ~窪田空穂(1877-1967)『老槻の下』

241127_枝はなれ地のものとなるくれなゐに
Photo:枯れ葉が舞う風景 ~photoAC(BLUEAMBERさん)

 今日は二十四節気「小雪」の次候、七十二候の第59候「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」。「朔風」とは北風のこと。日本海は冷たいというイメージがありますが、大陸から渡ってくる風に比べるとまだ温かいので、風は水蒸気を補給して雪雲を作ります。しかし雪雲は列島の山間部を超えられず日本海側で雪を降らせ、水分の抜けた「からっ風」だけが太平洋側に超えてゆきます。山を下る下降気流、いわゆる颪《おろし》なので思わぬ強風になり、木の葉を払うどころか根こそぎ木を倒したり、屋根瓦や看板を飛ばしてしまうこともあるので要注意です。

今落ちし枯葉や水にそり返り
  ~星野立子(1903-1984)

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