万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

随筆

#3535 声はせで身をのみこがす蛍こそ……他随筆

令和4年6月11日(土) 【旧 五月一三日 大安】・芒種・腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)

声はせで身をのみこがす蛍こそ言ふよりまさる思いなるらめ
  ~蛍兵部卿宮『源氏物語』第25帖

鳴く声もなくただ我が身を焦がす蛍こそ、言葉を口にする人より深い思いを持っているものです。

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 暦の上では今日が「入梅」。そして七十二候では第26候、「腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)」で、二十四節気「芒種」の次候にあたります。暑さに蒸れて腐った草の下で、サナギから孵化した蛍が夕闇に光を発し始めるという、そんな季節です。冒頭の和歌を詠んだ兵部卿宮は『源氏物語』中の架空の人物ですから、もちろんこの歌の本当の作者は紫式部。この帖に登場することから「蛍兵部卿宮」と呼ばれます。作者、紫式部のライバル?の清少納言は和歌を詠んではいませんが、『枕草子』の中で蛍を愛でています。春は「あけぼの」に続いて「夏は夜」です。

夏は夜。月のころはさらなり。
やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる。
また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。
雨など降るもをかし。
  ~清少納言 『枕草子』

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#3352 凍星のひとつを食べてねむるべし……他一首

令和3年12月10日(金) 【旧 十一月七日 大安】・大雪・閉寒成冬(そらさむくふゆとなる)

凍星《いてほし》のひとつを食べてねむるべし死者よりほかに見張る者なし
  ~前登志夫(1926-2008) 『樹下集』

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Photo:牡牛座

 晴れた冬の夜空に星々のきらめきを見ると一層寒さが身にしみてきます。七夕の星空とは違う宇宙の景色です。とは言っても都会ではそんな星空を見ることはほとんどできません。愛車を駆って、いろんな地方に旅行する楽しみのひとつはそんな澄み切った夜空を眺めることです。そういえば私の車も星のマークが入っていました。清少納言も 『枕草子』 の中に書いてる、牡牛座の一点にあるあの星です。

「星はすばる 彦星 夕づつ よばひ星 すこしをかし」

 なんてね。夜這いはしませんが、スバルと呼ばれるプレアデス星団は今がはっきり見える季節。「六連星《むつらぼし》」とも言われ、晴れていれば肉眼でも確認できますが、5つや7つに見えることもあります。

六連星輝く夜よ旅人のトランクあければ不思議な街あり
  ~栗木京子(1954-) 『けむり水晶』

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#3109 むかし見し妹が垣根は荒れにけり・・・他一首

令和3年4月11日(日) 【旧 二月三十日 先勝】・清明・鴻雁北(こうがんかえる)

むかし見し妹が垣根は荒れにけり茅花《つばな》まじりの菫のみして
  ~藤原公実 『堀河百首』春歌

昔いた彼女の家の垣根はすっかり荒れてしまっていた。茅萱にまじってすみれが咲いているだけだ。

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Photo:ツボスミレ(北海道そのへんの花 HPより)

 藤原公実は平安中期の歌人ですが、後年、この歌がつとに有名になったのは鎌倉末期、吉田兼好の『徒然草』に引用されたということもあるようです。桜は風に散ってしまっても、一旦心に咲いた花は散らない故に、哀しさや寂しさはいつまでも残ってしまうもの。『徒然草』 第二十六段の原文です。

 風も吹きあへずうつろふ人の心の花に、馴れにし年月を思へば、あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、我が世の外にな
りゆくならひこそ、亡き人の別れよりもまさりてかなしきものなれ。
 されば、白き糸の染まんことを悲しび、路のちまたの分れんことを嘆く人もありけんかし。堀川院の百首の歌の中に、
  昔見し妹が垣根は荒れにけり茅花まじりの菫のみして
 さびしきけしき、さる事侍りけん。

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#2805 音もせで思ひにもゆる蛍こそ ・・・他随筆

令和2年6月11日(木) 【旧 閏四月二十日 大安】芒種・腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)

音もせで思ひにもゆる蛍こそ鳴く虫よりもあはれなりけれ
  ~源重之 『後拾遺和歌集』 巻3-0216 夏歌

音もたてず忍ぶ恋に燃える蛍こそ、騷がしく鳴く虫よりも心にしみるものだ。

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 二十四節気「芒種」の次候は「腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)」。七十二候の第26候にあたり、今年は6月10日から15日までの6日間です。 梅雨に入って一層蒸し暑くなりました。  腐った草が蛍になるとは思えませんが、なんとなくそんな空気感が伝わります。枕草子の冒頭、春はあけぼの、云々に続いて、夏は何かといえば夜なんですね。秋は夕暮れ、冬はつとめて、雪の・・・とそれぞれの季節の嫌なところではなく、良いところを「をかし」とか「あはれ」と表現しています。暑ければ暑いなりに、雨ならば雨の日なりに、それぞれの季節を楽しむ余裕を持ちたいですね。

夏は夜。月のころはさらなり。
やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる。
また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。
雨など降るもをかし。
  ~清少納言 『枕草子』 より

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#2709 今ぞしる雲の林の星はらや ・・・他一首

令和2年3月7日(土) 【旧 二月十三日 友引】啓蟄・蟹虫啓戸(すごもりむしとをひらく)

そういえばもう長いこと空(青いやつです)色の空を見ていない
  ~ももも 「物語のために」 「阪大短歌」5号 2016年

 句点、句読点などのある短歌は珍しくありませんが、(青いやつです)はユニークでしかもこの歌の中で非常によく効いています。
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Photo:NHK News web (2020/3/2)より

 新型コロナウイルスの感染防止のために世界中の経済活動も大混乱に陥っています。特に発生源となった中国湖北省の武漢では工場の操業もすべて停止して、大気汚染物質の濃度が大幅に低下したとか。少なくとも今年はPM2.5による健康被害はかなり軽減しそうです。神様はこれを見せつけるために人類にこんな試練を与えたのか、なんて思ってしまいます。

星はすばる。彦星。夕づつ。よばひ星、すこしをかし。尾だになからましかば、まいて。
  ~清少納言 『枕草子』 239段(角川本)
 
 すばるはプレヤデス星団。彦星はアルタイル。夕づつは金星。よばひ星は流星。流れ星は不吉の前兆とされていたので尾はいらないという清少納言。彼女の生きた時代にはこれらの星はすべて肉眼で、今よりはずっとはっきりと見えたことでしょう。お金(経済)と自然環境。やっぱりどちらも生きるために必要だけど、そのバランスを保てなくなると今回のような神の鉄槌が下るのかもしれません。

今ぞしる雲の林の星はらや空にみだるゝほたるなりけり
  ~源経信 『夫木和歌抄』 巻8-3248 夏歌二

今こそ気がついた。雲の林の中に輝く星の群れは空に乱れ飛ぶ蛍のなのだと。

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