万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

#4130 竹の葉にあられ降るなりさらさらに独りは寝ぬべき心地こそせね

令和6年1月27日(土) 【旧 一二月一七日 仏滅】・大寒 水沢腹堅(さわみずこおりつめる)

手枕の夢にふりこむ霰かな
  ~二葉亭四迷(1864-1909)

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Photo:霰が降った時の瓦 ~photoAC(あみん30さん)

 二葉亭四迷の本名は長谷川辰之助。国語の授業では言文一致体の小説『浮雲』を世に出したことを習いましたが、読んでないのでペンネームが「くたばって仕舞《しめ》え」から来ているということだけが頭に残っております。さて、俳句にある霰《あられ》の話。霰には雪霰と氷霰に分けられ、天気予報では雪霰は「雪」氷霰は「雨」と予報されるそうです。ただし観測された場合は単なる「霰」。ちょっとややこしいですね。短歌や俳句でもよく取り上げられますが、木々の葉に降り注ぐ音が詠まれることが多いようです。

竹の葉にあられ降るなりさらさらに独りは寝ぬべき心地こそせね
  ~和泉式部(978?-?)『和泉式部続集』

竹の葉に霰が降り、さらさらと音が聞こえて一人では寝る気にはなれません。

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#3770 萌野ゆきむらさき野ゆく行人に霰ふるなりきさらぎの春

令和5年2月1日(水) 【旧 一月十一日 大安】・大寒・鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)

萌野ゆきむらさき野ゆく行人《かうじん》に霰ふるなりきさらぎの春
  ~与謝野晶子(1878-1942)『舞姫』

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 今日から二月。報道では「十年に一度」と言われる寒気が続いているので、「きさらぎの春」と言ってもピンとこないかもしれません。今日は少し寒さが和らぎそうですが、暦の上で最も寒い日は二十四節気でいうところの「大寒」ではなく「立春」です。仮に暦上の気温を折れ線グラフにすると「立春」を起点にして気温が上がっていくというわけですから、その日が寒さの底と言うことですね。春の気配にふれることができるまで、あと少し待ちましょうか。

湯上りに髪解き放ち如月の春の気配に身をゆだねたり
  ~松田和生 「第43回全日本短歌大会(令和4年)」 優良賞

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#3040 萌野ゆきむらさき野ゆく行人に ・・・他一首

令和3年2月1日(月) 【旧 十二月二十日 先勝】・大寒・鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)

萌野ゆきむらさき野ゆく行人に霰ふるなりきさらぎの春
  ~与謝野晶子 『舞姫』

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 月末、お月さまが新月に向かって籠もっていく「つきごもり」から「つごもり(晦)」となり、明けるとこれから月が立ってゆく「つきたち」が転じて「ついたち(朔)」になったといいます。新しい年に変わってから今日で早一ヶ月がすぎました。さて心配なのは東京オリンピック。やるかやらぬか、いや、出来るか出来ぬか何やら非公式情報ばかりが独り歩きしているようですが、決断しなければならない時は刻々と迫っています。

悲しみて二月の海に來て見れば浪うち際を犬の歩ける
  ~萩原朔太郎 『短歌』

 詩人、萩原朔太郎(1886-1942)の「朔」の字も、彼が(11月の)一日生まれであることから名付けられたそうです。

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#2469 あめつちはいちにんのため季を繋め ・・・他一首

令和元年7月11日(木) 【旧 六月九日 友引】小暑・温風至(あつかぜいたる)

あめつちはいちにんのため季《とき》を繋《と》めくろき扇に撒かれし雲母
  ~須永朝彦 『定本須永朝彦歌集』

 須永朝彦《すながあさひこ》さんは昭和21年栃木県生まれの歌人で小説家。黒い扇の上に撒かれた雲母《きらら》は、季節外れの霰か雹がアスファルトの道路を叩きつけるように降ってきたというような情景の比喩でしょうか。

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 今年、九州北部から近畿にかけての梅雨入りは観測史上最も遅い6月26日でした。一方、去年を振り返えると関東甲信地方における梅雨明けが6月29日と、これまた観測史上最も早い記録となりました。6月に梅雨が明けるというのは沖縄奄美地方以外では今までなかったのです。異常気象といえば今から404年前の今日、1615年7月9日(慶長20年6月1日)に江戸で雪が降ったという記録が残っています。大阪夏の陣で豊臣家が滅んで約ひと月後の出来事でした。「春の雪」という俳句の季語はありますが、さすがに「夏の雪」は歳時記にもありませんね。要するに地球温暖化は確かに大切な問題ではありますが、そうでなくてもお天気は昔から人智の及ばない気まぐれなことをしでかしてくれていたのですね。こちらは鳴神(雷)に身分違いの恋心を喩えた万葉歌です。

天雲に近く光りて鳴る神の見れば畏《かしこ》し見ねば悲しも
  ~作者未詳 『万葉集』 巻7-1369 譬喩歌

天雲に近々と光って轟く雷鳴のように見れば畏れ多いし、見なければ悲しいものです。

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#2111 ぬれぬれも なほ狩りゆかむ はし鷹の ・・・他一首と俳句

【旧 六月六日 大安】小暑・鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)

鷹一つ見つけてうれし伊良湖岬  ~松尾芭蕉

 二十四節気「小暑」の末候は七十二候の第33候「鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)」。5月から6月ごろに孵化した鷹の雛が飛び方を学習する時季という意味。そして鷹狩用に仕込むために獲物の獲り方を覚えさせる時季でもあります。平安中期の歌人、藤原長能《ながよし》と源道済《みちなり》はいずれも中古三十六歌仙に挙げられたすぐれた歌人です。この二人が鷹狩を詠んだ歌を四条大納言藤原公任《きんとう》の元に持ってきました。いずれも自分の歌が優っていると言い張って譲らないので、漢詩、和歌、管弦に並びなき当代一流の文化人に裁定してもらおうというのです。その二首がこちら。

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鷹狩をよめる
あられふる 交野の御野の 狩ころも 
ぬれぬ宿かす 人しなければ
  ~藤原長能 『詞花和歌集』 巻4-0152 冬歌

霰が降る交野《かたの》の御領地で 狩する人の狩衣は濡れてしまった
濡れぬように雨宿りをさせてくれる人がいなかったので

 交野は現在の大阪府交野市あたり。皇室の御領で、古来狩猟地として名高い地です。この歌にはたくさんの技巧が凝らされています。「御野」は箕と、「狩ころも」は借り衣との掛詞になっています。そして「ぬれぬ」は「狩衣ぬれぬ」で狩衣が濡れたという完了の助動詞と、「ぬれぬ宿」という打ち消しの助動詞の両使いがなされているのです。それに対して、源道済が詠んだのは・・・

雪中鷹狩の心をよめる
ぬれぬれも なほ狩りゆかむ はし鷹の 
うは毛の雪を うち払ひつつ
  ~源道済 『金葉和歌集』 巻4-0281 冬歌

濡れに濡れてもなお狩りを続けてゆこう 箸鷹の
表毛《うわげ》の雪を払ってやりながら

 箸鷹はワシタカ科の鳥類で狩猟に使われる小型の鷹のこと。こちらは長能の歌のような技巧は一切使っていません。さて、大納言公任はふたりの歌を何度も口ずさんで考えた後に「本当に優劣を申して立腹されないか」と念を押した上で判定を下します。まず長能の技巧を褒めた上で、この歌の情景は奇妙であると指摘しました。鷹狩は雨が降ったくらいで中止することなどない。その上、雨ではなく霰であれば狩衣を通すほど濡れ通ることもなく、したがって雨宿りなど不要であろう。一方の道済の歌は鷹狩本来の姿、風情が感じられて品格も優雅で趣があると褒めたといいます。実際この歌はその後も鷹狩を題とする代表作として王朝人に愛誦された一首となりました。

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