万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

静岡

#4175 あはゆきは二月堂にも降りをらむ足踏みしつつ退りゆく春

令和6年3月12日(火) 【旧 二月三日 仏滅】・啓蟄 桃始笑(ももはじめてさく)

あはゆきは二月堂にも降りをらむ足踏みしつつ退《すさ》りゆく春
  ~鈴木禮子『雁の書』

240312_あはゆきは二月堂にも降りをらむ
Photo:雪舞の二月堂(東大寺)~GANREF

 春を呼ぶという東大寺二月堂の「修二会《しゅにえ》」の正式名は十一面悔過法《じゅういちめんけかほう》。二月堂の本尊である十一面観世音菩薩は開帳されることのない絶対秘仏となってます。修二会は「天下泰平」「五穀豊穣」「万民快楽《ばんみんけらく》」などを願って祈りを捧げ、人々に代わって懺悔の行を勤めるもので、752(天平勝宝4)年から始まり、今年で1273回目となります。コロナ禍では一般の人の拝観は制限されましたが、主要な行事は滞りなく行われました。太平洋戦争の最中も含めて一度としてこの行事が絶えることがなかったというのは驚くべき歴史と言わざるを得ません。

水取のけふを知らねばただ寒し
  ~百合山羽公(1904-1991)『樂土』

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#4140 「福寿草まだ出ませんね」「そうですね事情は特に聞いてませんが」

令和6年2月6日(火) 【旧 一二月二七日 友引】・立春 東風解凍(はるかぜこおりをとく)

「福寿草まだ出ませんね」「そうですね事情は特に聞いてませんが」
  ~大下一真(1948-)『漆桶』

240206_「福寿草まだ出ませんね」「そうですね
Photo:雪の中の福寿草 ~GANREF(H.KIMURA流離写人)

 キンポウゲ科の多年草、フクジュソウの別名は「元日草」、あるいは「朔日草」。旧暦の元日頃に咲くことからそう呼ばれてきました。誠にめでたい名前を冠していますがこの花はアドニンという強力な毒性を持っています。強心作用や利尿作用があることから薬にもなるそうですが、出たばかりの芽をフキノトウと間違えたり、ヨモギの葉と間違えたりして誤食すると嘔吐や呼吸困難、あるいは心臓麻痺を発症して死に至る場合もあるとか。人間だって見目麗しい人がお腹の中まで清らかとは限りませんから、美しい花は眺めるだけにしておくが吉かも。

何もかもめでたけれども福壽草
  ~正岡子規(1867-1902)

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#4127 白雪のところもわかず降りしけば巌にも咲く花とこそ見れ

令和6年1月24日(水) 【旧 一二月一四日 先勝】・大寒 欵冬華(ふきのはなさく)

地の果てに海その果てに冬青空
  ~高橋悦男(1934-)

 俳人高橋悦男氏は元アメリカ文学者、早稲田大学名誉教授。

240124_地の果てに海その果てに冬青空
Photo:プユニ岬(北海道斜里郡)の流氷と冬空 ~知床第一ホテル

 さすがに今週は「大寒」らしい厳しい寒さになりそうです。「立春」の前はこんなものかもしれませんが、北海道や日本海側の各地は大荒れ、太平洋側も雪に見舞われそうです。逆にお天気がよく、抜けるような青空の広がった朝なのに、新聞を取りに外に出ると驚くほどの寒さに震えることもあります。放射冷却という現象なのでしょうね。先週は少し雨の日が続いていましたが、意外に雨の日のほうが暖かかったのだと今更気付きました。冬の寒さは「立春」を過ぎてもまだまだ続きそうです。くれぐれもお体を大切に。

白雪のところもわかず降りしけば巌《いはほ》にも咲く花とこそ見れ
  ~紀秋岑 『古今和歌集』 巻6-0324 冬歌

白雪が場所を選ばず降りしけば巌からも花が咲いているように見える。

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#4118 一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております

令和6年1月15日(月) 【旧 一二月五日 仏滅】・小寒 水泉動(しみずあたたかをふくむ)

一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております
  ~山崎方代(1914-1985)『こおろぎ』

240115_本当の恋してみんか南天の
Photo:ナンテン ~Green Snap

 ナンテンは中国が原産のメギ科ナンテン属の常緑低木です。日本には江戸時代に庭木として伝わりました。花は5月から6月くらいに咲くので夏の季語になっていますが、ナンテンの赤い実が目に使われている雪ウサギは冬の風物詩の一つです。この赤い実は乾燥させて咳止めの薬にも使われるそうです。冒頭の山崎方代《やまざきほうだい》の短歌はナンテンを詠んだ歌としては余りにも有名で、私も大好きな歌の一つ。この歌を本歌取りした大下一真《おおしたいっしん》氏の歌を見つけたのでご紹介しておきます。

本当の恋してみんか南天の実がおいおいと色づきそめて
  ~大下一真(1948-)『漆桶』

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#4109 竹おほき山べの村の冬しづみ雪降らなくに寒に入りけり

令和6年1月6日(土) 【旧 一一月二五日 大安】・小寒 芹乃栄(せりすなわちさかう)

竹おほき山べの村の冬しづみ雪降らなくに寒に入りけり
  ~斎藤茂吉(1882-1953)『赤光』

240106_竹おほき山べの村の冬しづみ
Photo:斎藤茂吉の生家(山形県上山市)~じゃらん

 今日は二十四節気の23番目の『小寒』。『暦便覧』では「冬至より一陽起こる故に陰気に逆らふ故、益々冷える也」と書かれています。この15日間と次の『大寒』の15日間を合わせて「寒中」と言い、暦の上では冬の寒さが最も厳しくなる時期です。「寒の入り」とはその最初の日、すなわち今日のこと。斎藤茂吉の故郷は山形県ですが、この短歌が故郷で詠まれたのだとしたら、この時は今年以上の暖冬だったのでしょうね。逆に「寒の入り」早々、既に「大寒」並みの厳しい寒さになった年にはこんな俳句が詠まれています。

小寒にして大寒とけぢめなし
  ~百合山羽公(1904-1991)

「寒中」が過ぎてしまえばいよいよ「立春」。季節の巡りのなんと早いことでしょうか。

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