万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

#5032 眼はあげて吾が附く道のけどほさよ白南風の空をひとつ飛ぶ蝶

令和8年7月8日(水) 【旧 5月24日 仏滅】 小暑・温風至

眼はあげて吾が附く道のけどほさよ白南風《しらはえ》の空をひとつ飛ぶ蝶
  ~北原白秋(1885-1942)『白南風』

 二十四節気「小暑」の初候5日間(7月7日-11日)は七十二候の第31候「温風至(あつかぜいたる)。温かい風が吹いてくる頃と説明されていますが、温かいというよりは湿気を含んだ不快な空気と言えそうです。

260708_白南風の夕波高うなりにけり
Photo:サライ

 梅雨が明けるのも「小暑」に入ったこの頃で、梅雨入りの頃の風を黒南風《くろはえ》というのに対し、梅雨が明けてから盛夏にかけて吹く明るく晴れ渡った南東の季節風は白南風《しらはえ》と呼ばれます。一昨日まで鬱陶しい雨が続いていましたが、昨日から暦通りの夏空、そして気温も真夏日に一転しています。老体にとってはこの季節変化についていくのも大変です。

白南風の夕波高うなりにけり
  ~芥川龍之介(1892-1927)

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#5027 ひと夏を見飽くまで咲く風蝶草西風立てばそよぎやすしも

令和8年7月3日(金) 【旧 5月19日 大安】 夏至・半夏生

ひと夏を見飽くまで咲く風蝶草西風立てばそよぎやすしも
  ~森山晴美(1934-)『わが毒』

260703_ひと夏を見飽くまで咲く風蝶草
Photo:西洋風蝶草《セイヨウフウチョウソウ》~海田の四季

 双子葉植物の一種にフウチョウソウ科があり、主に世界の熱帯・亜熱帯に分布しています。日本の詩歌に詠まれるフウチョウソウは主に明治のはじめに渡来した熱帯アメリカ産のセイヨウフウチョウソウ。別名クレオメとも呼ばれる草本です。蝶に似た美しい花を咲かせるため観賞用に栽培され、今では逸出帰化して空き地や河川敷などで野生化しています。6月から咲き始め、見頃は7月から9月頃まで。

風蝶草夕日の雲を翅に置き
  ~後藤比奈夫(1917-2020)

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#4983 ジーンズの裾に運ばれついてきたあの日の砂を床に落として

令和8年5月20日(水) 【旧 4月4日 先勝】 立夏・竹笋生

ジーンズの裾に運ばれついてきたあの日の砂を床に落として
  ~竹内亮(1973-)『タルト・タタンと炭酸水』

 リーヴァイ・ストラウス(1829-1902)とジェイコブ・デイヴィス(1831-1908)がリベットでポケットを補強したズボンの特許を取得したのが1873年の今日5月20日のこと。これがいわゆるジーンズの発祥とされています。

260520_あの日の砂を床に落として
Photo:「PAT.MAY1873」の刻印があるLevi's 501のリベット ~Dig-it

 私も仕事をやめるとスーツはもとより、ぱりっと前に折り目のあるパンツを履く機会はめっきり減りました。今では日常の外出はほとんどチノパンかジーパン。冠婚葬祭や特別にドレスコードがない限り、コンサートでもパーティーでもジーパンとスニーカーがほとんどです。ただしダメージジーンズは似合いません。俳人の櫂未知子さんがこんな俳句を詠まれています。櫂さんもあまりダメージはお好きではないようです。

ジーンズの立派な穴へ青嵐
  ~櫂未知子(1960-)『蒙古斑』

260520_ジーンズの裾に運ばれついてきた
Photo:Levi's 201(こちらもヴィンテージ)~Dig-it

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#4972 花言葉が「あなたを許す」らしいので全ネモフィラを根絶やしにする

令和8年5月9日(土) 【旧 3月23日 先勝】 立夏・蛙始鳴

風戦ぐ地にネモフィラの青き空
  ~根本創造主  「宇宙始原の根本創造主のスピリチュアル体験日記」

 ネモフィラはムラサキ科ネモフィラ属に分類される植物の総称で、原生地は北アメリカ西部。中でも特に「瑠璃唐草《ルリカラクサ》」という種類が私たちがネモフィラと呼ぶブルーの花。アメリカのカリフォルニア、オレゴン州からメキシコにかけて、西部劇の舞台にもなるような牧草地や草原。森の木陰に自生しています。

260509_ネモフィラの瑠璃極めたる天と地に
Photo:国営ひたち海浜公園のネモフィラ

 名前の語源は「ネモス(小さな森)」と「フィレオ(愛する)」というギリシャ語に由来するとか。雑草にも負けないくらいの繁殖力があることから「どこでも成功」という花ことばがあるほどの生命力です。他に「あなたを許す」という花言葉もあるので、彼女に謝罪しなければならない緊急事態になった時にはネモフィラの花束を。効果があるかどうかはあなた次第ですが。

花言葉が「あなたを許す」らしいので全ネモフィラを根絶やしにする
  ~伊倉りつ X(ツイッター)

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#4969 草枕旅に物思ひ我が聞けば夕かたまけて鳴くかはづかも

令和8年5月6日(水) 【旧 3月20日 仏滅】 立夏・蛙始鳴

草枕旅に物思ひ我が聞けば夕かたまけて鳴くかはづかも
  ~作者未詳 『万葉集』 巻10-2163 雑歌

旅にあって物思いに耽っている夕方、蛙の鳴く声が聞こえてきたよ。

 二十四節気「立夏」の初候6日間(5月5日-10日)は七十二候の第19候「蛙始鳴(かわずはじめてなく)。オタマジャクシから成長した蛙が鳴き始める頃。子どもの頃、近くの淀川にザリガニやタニシを採りに行けばいつも聞こえた蛙の声ですが、今は田園が広がる郊外に出かけた時にしかその声を耳にする機会がありません。萩原朔太郎が従兄の萩原栄次に捧げた詩集「月に吠える」の中に「蛙よ」という一節がありました。

260506_草枕旅に物思ひ我が聞けば
Photo:Oggi.jp

蛙よ、
靑いすすきやよしの生えてる中で、
蛙は白くふくらんでゐるやうだ、
雨のいつぱいにふる夕景に、
ぎよ、ぎよ、ぎよ、ぎよ、と鳴く蛙。

まつくらの地面をたたきつける、
今夜は雨や風のはげしい晩だ、
つめたい草の葉つぱの上でも、
ほつと息をすひこむ蛙、
ぎよ、ぎよ、ぎよ、ぎよ、と鳴く蛙。

蛙よ、
わたしの心はお前から遠くはなれて居ない、
わたしは手に燈灯《あかり》をもつて、
くらい庭の面を眺めて居た、
雨にしほるる草木の葉を、つかれた心もちで眺めて居た。

  ~萩原朔太郎(1886-1942) 『月に吠える』より「蛙よ」

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