rhidetoのblog

数学に現れる定義,定理,証明を理解するために,これまでいろいろと考えてきたことを主に書いていこうと思います。「数学を絵で理解しよう」

2013年03月

例 12. 分裂する短完全列 (2/2)[version 2013-04-05]

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。
今回の話は,(例7, 例8, 例9, 例10,) 例11の続きです。
(もっと読みやすくするために,例11を2つに分けました。)

 ここでは,短完全列が分裂するための必要十分条件を $g$ に関する条件,および $f$ に関する条件で与えます。その定理を証明するために次の補題を準備しておきます。これは,切断,引き戻しと直和因子との関係も与えます。

補題. $R$-加群の間の準同型 $g \colon Y \to Z$ と $g' \colon Z \to Y$ が $gg'= \mathrm{id}_Z$ をみたすならば,
$Y = \mathrm{Ker}\, g \oplus \mathrm{Im}\, g'$
となる。

証明. まず,$Y = \mathrm{Ker}\, g + \mathrm{Im}\, g'$ から示します。
(左辺 $\supseteq$ 右辺) は明らかなので,(左辺 $\subseteq$ 右辺) を示せばいいわけです。
そこで, $y \in Y$ とします。すると,
$gg'g(y) = g(y)$ より, $g(y - g'g(y)) = 0$
g'g
したがって,
$y = (y - g'g(y)) + g'(g(y)) \in \mathrm{Ker}\, g + \mathrm{Im}\, g'$.
 次に,$\mathrm{Ker}\, g \cap \mathrm{Im}\, g' = 0$ を示します。
やはり, (左辺 $\supseteq$ 右辺) は明らかなので, (左辺 $\subseteq$ 右辺) を示せばいいわけです。
$y \in \mathrm{Ker}\, g \cap \mathrm{Im}\, g'$ とすると,ある $z \in Z$ で, $y = g'(z)$ と書けていて,
$0 = g(y) = gg'(z) = z$. $\therefore$ $y = 0$.
したがって, $\mathrm{Ker}\, g \cap \mathrm{Im}\, g' = 0$.  □

補題の内容を,絵で描いておきます:
pf-split2

系 1. $R$-加群の間の準同型 $f \colon X \to Y$ と準同型 $g \colon Y \to Z$ に対して次が成り立つ。
(1) $f$ が切断である $\iff$ $f$ は単準同型であり,$\mathrm{Im}\, f$ は $Y$ の直和因子である。
(2) $g$ が引き戻しである $\iff$ $g$ は全準同型であり,$\mathrm{Ker}\, g$ が $Y$ の直和因子である。

証明. (1) ($\Rightarrow$) は,上の補題からしたがいます。
  • ($\Leftarrow$). $f$ が単準同型であり,$X_1:= \mathrm{Im}\, f$ が $Y$ の直和因子であるとします
  • すると,$Y = X_1 \oplus X_2$ となる,$Y$ の部分加群 $X_2$ が存在します。
  • 準同型  $\sigma_1 \colon X_1 \to X_1 \oplus X_2$, $\pi_1 \colon X_1 \oplus X_2 \to X_1$ を上と同様に定義します。
  • $f_1 \colon X \to X_1$ を $f$ からその終域を $X_1$ に制限したものとして定義します。
  • すると,$f$ が単射なので $f_1$ は同型になり, $f = \sigma_1 f_1$ と書けます。
  • そこで,
$f':= f_1^{-1} \pi_1 \colon Y \to X$
ととります。
  • すると,
$f'f = (f_1^{-1} \pi_1)(\sigma_1 f_1) = f_1^{-1}f_1 = \mathrm{id}_X$

となって, $f$ が切断となることがわかります。
以上の証明を動画で表しておきます:
pf-mov

(2)  ($\Rightarrow$) は,やはり上の補題からしたがいます。
  • ($\Leftarrow$). $g$ は全準同型であり,$X_1:= \mathrm{Ker}\, g$ が $Y$ の直和因子であるとします。
  • すると,この仮定から, $X_1 \oplus X_2 = Y$ となる $Y$ の部分加群 $X_2$ が存在します。
  • ここで, $h:=g|_{X_2} \colon X_2 \to Z$ とおきます。
  • すると,この $h$ は同型になっています。実際, $h(X_2) = g(X_2) = g(X_1+X_2) = Z$ より$h$ は全射であり, $\mathrm{Ker}\, h = \mathrm{Ker}\, g \cap X_2 = 0$ より $h$ は単射です。
  • このとき,さらに $h\pi_2 = g$ となっています。実際,任意の $y \in Y$ に対して, $y=x_1 +x_2$ ($x_1 \in X_1, x_2 \in X_2$) と表しておくと, $g(y) = g(x_1) + g(x_2) = 0 + h(x_2) = h\pi_2(y)$.
  • そこで,
 $g':= \sigma_2 h^{-1} \colon Z \to Y$
ととります。
  • すると,
$gg'=(h\pi_2)(\sigma_2 h^{-1}) = hh^{-1} = \mathrm{id}_Z$

となって $g$ が引き戻しであることがわかります。  □

練習問題 1. 上の(2) の証明の動画を描いてみてください(思い描くだけでも結構です)。

 次の定理は,短完全列が分裂するための必要十分条件を与えます。

定理. $R$-加群の準同型からなる短完全列

$0 \to  X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$    ($*$)

について,次は同値である:
(1) ($*$) は分裂する。
(2) $g$ は引き戻しである。
(3) $f$ は切断である。

証明. (1) $\Rightarrow$ (2), (3). ($*$) が分裂すると仮定します。このとき,同型 $h_1, h, h_2$ が存在して図式 (#) が可換となっています。そこで,次の図式を考えます。
dfn-split-ex-double
このとき,$g':= h^{-1}\sigma_2 h_2 \colon Z \to Y$ をとると,
$gg' = (h_2^{-1}\pi_2 h)(h^{-1}\sigma_2 h_2)=h_2^{-1}\pi_2\sigma_2h_2 = \mathrm{id}_Z$.
つまり (2) が成り立ちます。
また,$f':= h_1^{-1}\pi_1 h \colon Y \to X$ をとると,
$f'f = (h_1^{-1}\pi_1 h)(h^{-1}\sigma_1h_1) = h_1^{-1}\pi_1 \sigma_1h_1= \mathrm{id}_X$.
つまり (3) が成り立ちます。
(2) $\Rightarrow$ (1).$g$ が引き戻しであると仮定します。すると,$g' \colon Z \to Y$ がとれて, $gg'= \mathrm{id}_Z$ となっています。このとき,補題より
$Y = \mathrm{Ker}\, g \oplus \mathrm{Im}\, g' \tag{a}$.
すると,$\mathrm{Im}\, f = \mathrm{Ker}\, g$ に注意すると,次の可換図式が得られます ($X_1:= \mathrm{Ker}\, g, X_2:= \mathrm{Im}\, g'$)。

pf-split

ここで,縦に $f$ と書いたのは,$f$ と同じ移し方で,終域を $\mathrm{Im}\, f = \mathrm{Ker}\, g$ に制限した同型(系1(1)の証明で定義した同型 $f_1$ と同じ)で,縦に $g'$ と書いたのは,$g'$ と同じ移し方で,終域を $\mathrm{Im}\, g'$ に制限した同型です。($y \in Y$ に対して,$y = (y - g'g(y)) + g'(g(y))$ より, $\pi_2(y) = g'g(y)$ に注意。これより右の四角が可換。) これで,($*$) が分裂することが示されました。
(3) $\Rightarrow$ (1). $f$ が切断であると仮定します。すると, $f' \colon Y \to X$ がとれて, $f'f= \mathrm{id}_X$ となっています。補題より,
$Y = \mathrm{Im}\, f \oplus \mathrm{Ker}\, f' $
このとき,次の可換図式を考えます。

pf-split4

ただし, $f_1$ は系1(1)の証明で定義した同型で,$h$ は系1(2)の証明で定義した同型。( $\mathrm{Im}\, f = \mathrm{Ker}\, g$ に注意。ここでは,  $X_2 = \mathrm{Ker}\, f'$ ととれています。)これで,($*$) が分裂することが示されました。  □

系1(1) と定理より次が得られます。

系 2. ベクトル空間の間の線形写像からなる短完全列は,つねに分裂している。

練習問題 2. 上の系2を証明してください。



例11. 分裂する短完全列 (1/2)

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。
今回の話は,例7, 例8, 例9, 例10の続きです。

例10では,まず環 $R$ と$R$-加群と加群の間の準同型について注意したあと,
(まだ慣れていない場合,環 $R$ を体あるいは $\mathbb{Z}$ として,$R$-加群といえば,それぞれベクトル空間あるいはアーベル群と思い, $R$-加群の間の準同型といえば,それぞれベクトル空間の間の線形写像あるいはアーベル群の間の準同型と思って読んでください。)
加群と準同型からなる,完全列の定義を導入し,それを絵に描きました。

前回は,例10の補足として,次のことを説明しました:
1. どんな全準同型(全射となっているような準同型)からも,どんな単準同型(単射となっているような準同型)からも短完全列が標準的に作られること。
2. どんな短完全列もそれらと"同型"になっていること。

今回は,$R$-加群の直和分解 $M = X_1 \oplus X_2$ から標準的に短完全列が得られることを説明します。まず,の直和の復習から始めます (例8参照)。

定義. $M$ を$R$-加群とし, $X_1, X_2$ をその部分加群とする。
(1) $M = X_1 + X_2$ (つまり, $M = \{x_1 + x_2 \mid x_1 \in X_1, x_2 \in X_2\}$) かつ
(2) $0 = X_1 \cap X_2$ (ただし, $0:= \{ 0\}$ と略記。)
が成り立つとき, $M$ は $X_1$ と $X_2$ との直和であるといい, $M = X_1 \oplus X_2$ で表す。
このとき,$X_1$ および $X_2$ を $M$ の直和因子とよぶ。

注意. (1) より,どの $x \in M$ も, $x = x_1 + x_2$ ($x_1 \in X_1, x_2 \in X_2$) と表されていますが,この表し方は一意的です。つまり,他に $x = x'_1 + x'_2$ ($x'_1 \in X_1, x'_2 \in X_2$) と表されたとすると,必ず $x_1=x'_1, x_2=x'_2$ となります。
なぜなら,
$x_1 + x_2 = x'_1 + x'_2$
より
$x_1 - x'_1 =x'_2 - x_2$
この左辺は $X_1$ に,右辺は $X_2$ に入っていますから,両辺ともに $X_1 \cap X_2 = 0$ に入っています。
つまり
$x_1 - x'_1 = 0 = x'_2 - x_2$
これより
$x_1 = x'_1, x_2 = x'_2$.
(別の言い方:例8で示した事実を用いて,$(x_1 - x'_1) + (x_2 - x'_2) = 0$ から $x_1- x'_1 =0, x_2-x'_2=0$ が導かれます。)

上の注意から,写像 $\pi_1 \colon M \to X_1$, $\pi_2 \colon M \to X_2$ が次で定義できます:
$x \in M$ に対して $x = x_1+ x_2$ ($x_1 \in X_1, x_1 \in X_2$) のとき,
$\pi_1(x):= x_1$,  $\pi_2(x):= x_2$.
これらは,明らかに全射です。実際,どんな $x_1 \in X_1$ に対しても,$x_1 \in X$ をとれば, $\pi_1(x_1) = x_1$ですから。$\pi_2$ の方も同様です。

練習問題. 上で定義された $\pi_1, \pi_2$ が$R$-加群の準同型であることを確かめてください。つまり,次の2つの式が成り立つことを確かめてください:
$\pi_1(x + x') = \pi_1(x) + \pi_2(x')$ ($x, x' \in M$)
$\pi_1(rx) = r\pi_1(x)$   ($r \in R, x \in M$)
($\pi_2$ についても同様。)

命題.  $M$ を$R$-加群とし, $X_1, X_2$ をその部分加群とする。 $M = X_1 \oplus X_2$ であれば,次の短完全列が得られる:
$0 \to X_1 \xrightarrow{\sigma_1} M \xrightarrow{\pi_2} X_2  \to 0$
$0 \to X_2 \xrightarrow{\sigma_2} M \xrightarrow{\pi_1} X_1  \to 0$
ただし,$\sigma_1, \sigma_2$ は包含写像である。

証明. 上の列について:
$\mathrm{Ker}\, \pi_2 =\{x \in M \mid x = x_1 + x_2, \exists x_1 \in X_1, x_2= 0\} = X_1$ に注意して,前回の命題1(2)を適用すればよい。残りも同様。

上の第1列を絵に描くと,
direct-sum-seq
この図がもっともわかりやすいと思います。いつもの直和の絵で描くと,
split-ex-zu2
両方の完全列を合わせて描くと,
split-ex-zu-double
ここで,次の式が成り立っていることに注意してください:
$\pi_i \sigma_i = \mathrm{id}_{X_i}$  $(i=1,2)$,
$ \pi_i \sigma_j = 0$ $(i \ne j)$,
$\sigma_1\pi_1 + \sigma_2 \pi_2 = \mathrm{id}_M$.
(実は,これらの式が,直和を特徴付けます。)

 短完全列は,直和から得られる,この完全列に同型なとき,分裂するといいます (中間項の $M$ が $X_1$ と $X_2$ に"分裂"しています)。正確にいうと,

定義. $R$-加群の準同型からなる短完全列
$0 \to  X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$

は,ある$R$-加群 $M$ の直和分解 $M = X_1 \oplus X_2$ と,同型 $h_1, h, h_2$ をとって,次の図式 (#) を可換にできるとき,分裂する (split) という ($\sigma_1, \pi_2$ は上で定義したとおりとする)。
dfn-split-ex

 次に,短完全列が分裂するための必要十分条件を $g$ に関する条件,および $f$ に関する条件で与えます。そのために,次の用語を導入します。

定義. (1) $R$-加群の準同型 $g \colon Y \to Z$ は, $gg' = \mathrm{id}_Z$ となるような $g' \colon Z \to Y$ が存在するとき,引き戻し (retraction) (あるいは分裂する全準同型) とよばれる。
(注意: $gg' = \mathrm{id}_Z$ が全射なので, $g$ は全射になる。)
(2) $R$-加群の準同型 $f \colon X \to Y$ は, $f'f = \mathrm{id}_X$ となるような $f' \colon Y \to X$ が存在するとき,切断 (section) (あるいは分裂する単準同型) とよばれる。
(注意: $f'f = \mathrm{id}_X$ が単射なので, $f$ は単射になる。)

 (1) の絵を描いておきます。 $g$ は"真下に落とす"写像とします。 $g'$ は下から上の $Y$ に"切り込んでいく"写像 (切断) です。下から上に切り込んで,真下に"引き戻す"と元の位置に戻ります (合成が恒等写像) 。
sec-retr
例. $\pi_2\colon X_1 \oplus X_2 \to X_2$ は,引き戻しです。
 ($\because$ $\pi_2 \sigma_2 = \mathrm{id}_{X_2}$ )
また,$\sigma_1\colon X_1 \to X_1 \oplus X_2$ は,切断です。
($\because$ $\pi_1 \sigma_1 = \mathrm{id}_{X_1}$ )
つまり,典型的な分裂する短完全列では,右の準同型は引き戻しで,左の準同型は切断になっています。

(このあと,次の例12に続きます。)

例10への追加 (短完全列の構成).

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。
今回の話は,例7, 例8, 例9の続き例10への追加です。

例10では,まず環 $R$ と$R$-加群と加群の間の準同型について注意したあと,
(まだ慣れていない場合,環 $R$ を体あるいは $\mathbb{Z}$ として,$R$-加群といえば,それぞれベクトル空間あるいはアーベル群と思い, $R$-加群の間の準同型といえば,それぞれベクトル空間の間の線形写像あるいはアーベル群の間の準同型と思って読んでください。)
加群と準同型からなる,完全列の定義を導入し,それを絵に描きました。

補足として,次のことを説明します:
1. どんな全準同型(全射となっているような準同型)からも,どんな単準同型(単射となっているような準同型)からも短完全列が標準的に作られること。
2. どんな短完全列もそれらと"同型"になっていること。

命題 1.
(1)
$f \colon X \to Y$ を$R$-加群の間の単準同型とする。このとき, $Z:= \mathrm{Coker}\, f = Y/(\mathrm{Im}\, f)$ とおき, $g \colon Y \to Z$ を標準全準同型 $g(y):= y + \mathrm{Im}\, f $  ($y \in Y$) とおくことによって,短完全列

$0 \to X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z  \to 0$

が得られる。
(2) $g \colon Y \to Z$ を$R$-加群の間の全準同型とする。このとき,$X:= \mathrm{Ker}\, g$ とおき, $f \colon \mathrm{Ker}\, g \to Y$ を包含写像とおくことによって,短完全列

$0 \to  X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$

が得られる。
このことは,前回描いた,部分加群束の図
short-exact
からすぐにわかると思います。青色の部分が与えられたら,$\mathrm{Coker}\, f$ をとることで赤い部分が補われ,逆に,赤い部分が与えられたら,$\mathrm{Ker} \, g$ をとることで青い部分が補われます。

命題 2. $R$-加群の準同型からなる任意の短完全列

$0 \to  X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$

は,短完全列

$0 \to  \mathrm{Ker} \, g  \xrightarrow{\sigma} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$

と同型である。ただし,$Ker \, g  \xrightarrow{\sigma} Y$ は包含写像とする。

ここで,2つの列が同型であることについて定義を復習しておきます。

定義. $R$-加群の準同型からなる2つの列

$X_1 \xrightarrow{f_1} X_2 \cdots \xrightarrow{f_{n-1}} X_n$,
$Y_1 \xrightarrow{g_1} X_2 \cdots \xrightarrow{g_{n-1}} Y_n$

$(n \ge 2)$ が同型であるとは,$R$-加群の同型 $h_i \colon X_i \to Y_i$ ($i = 1, 2, \ldots, n$) がとれて, $h_{i+1} f_i = g_i h_i$ ($i = 1, 2, \ldots, n-1$) が成り立つこと,すなわち,次の図式が可換になることである:
iso-sequences

このことをわかりやすくするために,$n = 3$ の場合について絵を描いてみます。
iso-seq-zu
青い矢印で $f_1, f_2$ の移し方を,赤い矢印で $g_1, g_2$ の移し方を,緑の矢印で $h_1, h_2, h_3, h_4$ の移し方を示しています。$h_1, h_2$ が単なる同型ではなく,$f_1$ の移し方を表す青い矢印を $g_1$ の移し方を表す赤い矢印に移しているところが見えるでしょうか。
この部分が例えば次のようになっていると,$h_1, h_2$ は同型であっても,図式が可換にならず,$f_1$ の矢印を $g_1$ の矢印に移さなくなります。
noniso-seq-zu
$X_1$ 元 $a$ は,右回りでは $b$ を通って $c$ に移りますが,左回りでは $d$ を通って $e$ に移り, $c$ に一致しません。

命題 2 の証明.
証明の計画
● 次の図式 ($*$)
iso-sh-ex-seq

が可換になるように同型 $h_1, h_2, \ldots, h_5$ を決めればよいわけです。
● $0$ からの準同型は $0$ しかありませんから,$h_1, h_5$ は $0$ とするしかありません。
● 右から2番目の四角を可換にする簡単な方法は, $h_3 = \mathrm{id}_Y$, $h_4 = \mathrm{id}_Z$ と恒等写像にとることです。
● 全体の様子を,加群を線で表す方法で描いてみます。
pf-sh-ex

● この絵を見ながら考えます。図式 ($*$) の上側の列が完全列なので,$\mathrm{Im}\, f = \mathrm{Ker}\, g$ となっています。そこで準同型,$h_2 \colon X \to \mathrm{Ker}\, g$ を

$h_2(x):= f(x)$ ($x \in X$)

で定めます。そうすれば, $f$ が単射であったことから,$h_2$ は全単射,つまり同型になり,可換性の条件もみたします。

完成した証明.
$h_1= 0, h_5 = 0$,  $h_3 = \mathrm{id}_Y$, $h_4 = \mathrm{id}_Z$ と定めて,$h_2 \colon X \to \mathrm{Ker}\, g$ を

$h_2(x):= f(x)$ ($x \in X$)

で定める。すると,これらは同型であり,図式 ($*$)が可換となる。  □

最後に練習問題を出しておきます。

練習問題. 次の命題を証明してください。

命題 2'. $R$-加群の準同型からなる任意の短完全列

$0 \to  X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$

は,短完全列

$0 \to  X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{\pi} \mathrm{Coker}\, f \to 0$

と同型である。ただし, $\pi \colon Y \to \mathrm{Coker}\, f$ は,標準全準同型とする。


例10. 完全列

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。
今回の話は,例7, 例8, 例9の続きです。

環.
以下,$R$ を環とします。例えば,整数全体 $\mathbb{Z}$, 有理数全体 $\mathbb{Q}$, 実数全体 $\mathbb{R}$, 複素数全体 $\mathbb{C}$ は普通の加法と乗法のもとで環になっています。また,実数を係数とする1変数多項式の全体 $\mathbb{R}[x]$ も多項式の普通の加法と乗法の元で環になっています。以上はすべて乗法が交換法則をみたしますので,可換環とよばれます。可換環でない環もたくさんあります。例えば,実数を成分とする, 2次正方行列の全体 $M_2(\mathbb{R})$ は,普通の行列の加法と乗法のもとで環になっています。あなたがまだ環に慣れていないなら,環といえばこれらのどれかと思ってください。特に,可換環 $\mathbb{Q}$, $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$ では,0 以外の元がすべて乗法に関する逆元をもっていますが,そのような可換環をとよびます。

加群.
実数体 $\mathbb{R}$ 上のベクトル空間を線形代数で習ったと思いますが,この $\mathbb{R}$ のところを一般の体 $K$ に取り替えたものを $K$ 上のベクトル空間とよびます。この体 $K$ をさらに,一般の環 $R$ に取り替えたものを $R$ 上の左加群とよびます。これを単に $R$-加群とよぶことにします。
ですから,$R$ が体のときは, $R$-加群はベクトル空間とよばれます。また,演算を加法の記号で書かれたアーベル群は自動的に $\mathbb{Z}$加群になります。あなたがまだ加群に慣れていないなら,$R$ を体あるいは $\mathbb{Z}$ と思って,$R$-加群といえば,それぞれベクトル空間あるいはアーベル群と思ってください。また, $R$-加群の間の準同型といえば,それぞれベクトル空間の間の線形写像あるいはアーベル群の間の準同型と思ってください。

完全列.
定義. $R$-加群の間の準同型からなる列

$X_1 \xrightarrow{f_1} X_2 \xrightarrow{f_2}\cdots \xrightarrow{f_{n-1}} X_n$

($n \ge 3$) が完全であるとは,

$\mathrm{Im}\, f_{i-1} = \mathrm{Ker}\, f_{i}$ $(i = 2, 3, \ldots, n-1)$

が成り立っていることである。

$R$ が体のとき,つまりベクトル空間の間の線形写像のとき基底を線で表して図を描きます。まず, $\mathrm{Im}\, f_{i-1}$ と $\mathrm{Ker}\, f_{i}$ は:
Im-Ker

これらが一致していると,
exact-at-i
このようにすべての $2 \le i \le n-1$ で $\mathrm{Im}\, f_{i-1}$ と $\mathrm{Ker}\, f_{i}$ がぴったり一致している(exact) ,というのが定義の条件です。英語では exact sequence といいます。
$R$ が体とは限らない一般の場合は,部分加群束の図を用いて次のように表せます。まず, $\mathrm{Im}\, f_{i-1}$ と $\mathrm{Ker}\, f_{i}$ は:
Im-Ker-gen
これらが一致していると,
exact-at-i-gen

短完全列.
特に $n=5$, $X_1=0$, $X_5=0$ のとき,

$0 \to X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$

の形になりますが,この形の完全列を短完全列といいます。$ 0 \colon 0 \to X$ の像は $0 (=\{0\})$ で $0 \colon X \to 0$ の核は,$\{x \in X \mid 0(x) = 0\} = X$ に注意します。図で表すと,
with-zero
ですから,短完全列は次の図で表すことができます。
short-exact
$\mathrm{Ker}\, f = 0$ から $f$ は単準同型。このことから,上の青い部分は同型になります。また, $\mathrm{g} = Z$ から $g$ は全準同型。ですから準同型定理より,上の赤い部分は同型になります。この図はちょうど剰余群の部分群で描いた図と同じです。

短完全列の合成.
2つの短完全列
$0 \to X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \to 0$
$0 \to X' \xrightarrow{f'} Y' \xrightarrow{g'} Z' \to 0$
において,$Z = X'$ であるとき,これらを合成して,次のようなより長い完全列を作ることができます。
$0 \to X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{f'g} Y' \xrightarrow{g'} Z' \to 0$

sh-exの合成
絵で表すと,
6-term-ex
練習問題 1.  上にあげた列
$0 \to X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{f'g} Y' \xrightarrow{g'} Z' \to 0$
が完全列になっていることを確かめてください。

これにさらに短完全列を合成していって長い完全列を作ることができます。
 逆に,両端が 0 となっているような (つまり $X_1 = X_n = 0$ となっているような) 完全列は,短完全列の合成として表すことができます。例えば $n = 6$ のとき,
sh-exへの分解
完全列は,任意の加群をわかりやすい加群(射影加群や入射加群)で表したり,いろいろな加群の間の関係を簡潔に表すのに使われます。非常に便利な道具です。最後にもう1つ, 簡単に確かめられる練習問題を出しておきます。

練習問題 2. $R$-加群とその間の準同型に関する次の命題を証明してください。
(1) $0 \to X \xrightarrow{f} Y$ が完全 $\iff$ $f$ は単準同型。
(2) $X \xrightarrow{f} Y \to 0$ が完全 $\iff$ $f$ は全準同型。
(3) $0 \to X \xrightarrow{f} Y \to 0$ が完全 $\iff$ $f$ は同型。
(4) $0 \to X \to 0$ が完全 $\iff$ $X = 0$。
(5) $X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g} Z \xrightarrow{h} W$ が完全であるとき,
$f$ が全準同型 $\iff$ $g=0$ $\iff$ $h$ が単準同型。

例 9. 一般の場合の余核の図

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。
今回の話では,例7例8の両方の知識を使いますので,まずそちらを読んでください。

● 例8で見たように,ベクトル空間では基底がとれるので,線形写像 $f \colon L \to M$ の $\mathrm{Ker}\, f$, $\mathrm{Im}\, f$,  $\mathrm{Coim}\, f$, $\mathrm{Coker}\, f$ は線の図で表すことができました。
基底による図2
● しかし一般の環 $R$ の上の(左)加群では基底がとれるとは限りませんので,この図を正当化することは困難です。
(あなたがまだ加群に慣れていないなら,$R$ が整数全体のなす環 $\mathbb{Z}$ である場合を考えて,加群というのは,演算を加法の記号で書かれたアーベル群と思ってください。)
● 例7で群 $G$ とその正規部分群 $N$ について,$N$, $G$, $G/N$ の部分群束(部分群全体のなす半順序集合)を絵で表しておきました。
束の分解
● 一般の環 $R$ の上の加群については,この図を用いることができます。
● 演算を加法の記号で書きますので,単位元は 0 で表します。そのため,上の図の $1$ と書いたところは 0 に替えます。
● そうしたあと,上の図の青色で表した,同型な2つの部分を同一視し,赤色で表した,同型な2つの部分を同一視します。
● すると,$N$ や $G/N$ は $G$ の図の一部分として次のように表せます。
factorの図

注意. 群 $G$ の部分群束 $\mathcal{L}(G)$ は $G$ 自身を表しているわけではありません。
● 例えば,群 $G$ と $G'$ の部分群束が同型 ($\mathcal{L}(G) \cong \mathcal{L}(G')$) であっても,$G$ と $G'$ が同型であるとは限りません。
● そのような例をあげておきます。 $p, q$ を相異なる素数とすると,

$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \not\cong \mathbb{Z}/q\mathbb{Z}$
(元の個数が異なる) ですが,
$\mathcal{L}(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}) \cong \mathcal{L}(\mathbb{Z}/q\mathbb{Z})$
となります。どちらも単純加群なので次の形をしているからです:
simple-module

上の描き方を用いると,準同型 $f \colon L \to M$ の $\mathrm{Ker}\, f$, $\mathrm{Im}\, f$,  $\mathrm{Coim}\, f$, $\mathrm{Coker}\, f$ は次のように表せます。
一般の余核の図

次回の予定:
線の図や上の図を用いて,ホモロジー群(コホモロジー群)の絵を描きます。応用として,完全列の絵を描きます。(先に完全列の絵を描きました。)
また,近いうちに理解の成長の例として,テンソルとHomの随伴,米田の補題について書くつもりです。ご期待ください。

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