rhidetoのblog

数学に現れる定義,定理,証明を理解するために,これまでいろいろと考えてきたことを主に書いていこうと思います。「数学を絵で理解しよう」

2013年04月

例15. 開集合と閉集合

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

$X = \mathbb{R}$ での普通の位相での開集合全体 $\mathcal{O}$ は,次をみたしています。
(1) $X ,\emptyset \in \mathcal{O}$,
(2) $O_1, O_2 \in \mathcal{O}$ ならば,$O_1 \cap O_2 \in \mathcal{O}$,
(3) $I$ が集合で,各 $i \in I$ に対して $O_i \in \mathcal{O}$ ならば, $\bigcup_{i \in I} O_i \in \mathcal{O}$.

(補足と注意:$\mathbb{R}$ での普通の位相で,$\mathbb{R}$ の部分集合 $O$ が開集合というのは,有限開区間の和集合の形に書ける集合のことです[ただし,無限の和集合も許します。また,0個の和集合を $\emptyset$ と考えます]。したがって,この定義では,1点からなる集合は,開集合にはなりません。ただし,以下に説明する一般の位相では,1点からなる集合が開集合となることはありえます。)
有限開区間というのは, $(a, b)$, ($a, b \in \mathbb{R}$) の形の開区間のことです。$a, b$ のところに $\infty$ や $-\infty$ を代入したものは有限開区間とはよびません。

練習問題 0. 上の $X = \mathbb{R}$ での開集合の定義にもとづいて,上の性質 (1), (2), (3) を証明してください。

注意. 共通部分の方は次をみたしていません:
$I$ が集合で,各 $i \in I$ に対して $O_i \in \mathcal{O}$ ならば, $\bigcap_{i \in I} O_i \in \mathcal{O}$.
例えば,$I = \mathbb{N}$ として,各 $i \in \mathbb{N}$ に対して $O_i$ を開区間 $O_i:= (-\frac{1}{i}, \frac{1}{i})$ とすると,各 $I = \mathbb{N}$ に対して $O_i \in \mathcal{O}$ ですが,
$\displaystyle\bigcap_{i \in I} O_i  = \{0\} \not\in \mathcal{O}$
となります。

練習問題 1. $\bigcap_{i \in I} O_i  = \{0\}$ を示してください。

そこでこれを一般化して, $X$ を任意の集合としたとき,上の (1), (2), (3) の性質をみたす $X$ の部分集合系 $\mathcal{O}$ を $X$ の開集合系とよび,組 $(X, \mathcal{O})$ を位相空間というわけです。 また,$\mathcal{O}$ の元となっている部分集合を $X$ の開集合とよびます。位相空間の公理としては上の3つしか仮定しません。

この開集合系 $\mathcal{O}$ をもとにして,閉集合,点の近傍,内点,内部,触点,閉包,あるいは位相空間の間の写像の連続性など,位相に関するすべてのものが定義されます。その順序は,
開集合 $\to$ 閉集合,
開集合 $\to$ 点の近傍 $\to$ 内点 $\to$ 内部 $\longrightarrow$ 開集合,
     点の近傍 $\to$ 触点 $\to$ 閉包 $\longrightarrow$ 閉集合.
このように,もう一度,開集合と閉集合にもどってきますが,この部分を今回は解説します。
位相空間の絵を描いておきます。まず,位相空間 $X$ のなかの開集合 $O \in \mathcal{O}$ は,点線で囲んだ丸で表します。縁がないという意味で。どの部分を見ているかをはっきりさせるため斜線で塗りつぶしました:
開集合
次に,位相空間の中にはこの開集合がたくさん詰まっていますので,それを次のようにイメージします:
位相空間
描ききれませんがこんな感じで捉えています。ただし,開集合の公理をみたしているものとして。

定義. $X = (X, \mathcal{O})$ を位相空間とする。
(a) $S \subseteq X$ のとき, $S$ が $X$ の閉集合 $:\iff$ $S^c \in \mathcal{O}$. ここで,$S^c$ は,$S$ の $X$ での補集合 $S^c := X \setminus S$ を表す。
(b) $x \in X, U \subseteq X$ のとき, $U$ が $x$ の近傍 $:\iff$ $x \in O \subseteq U$ となる $O \in \mathcal{O}$ がある。開集合であるような近傍を開近傍とよぶ。(これは $x$ を含む開集合に他ならない。)
(c) $x \in X, S \subseteq X$ のとき, $x$ が $S$ の内点 $:\iff$ $U \subseteq S$ となる $x$ の近傍 $U$ が存在する ($\iff$ $x \in O \subseteq S$ となる $O \in \mathcal{O}$ が存在する)。
(d) $S \subseteq X$ のとき, $S$ の内点の全体を $S$ の内部あるいは開核とよび,$S^\circ$ で表す。
(e) $x \in X, S \subseteq X$ のとき, $x$ が $S$ の触点 $:\iff$ $x$ の任意の近傍 $U$ に対して,$U \cap S \ne \emptyset$ ($\iff$  $x$ の任意の開近傍 $U$ に対して,$U \cap S \ne \emptyset$)。
(f) $S \subseteq X$ のとき, $S$ の触点の全体を $S$ の閉包とよび,$\overline{S}$ で表す。

練習問題 2. 上の (b), (c), (e) の括弧内を証明してください。

以上の概念を絵で表しておきます。
ます,閉集合というのは,その補集合が開集合ということです。
閉集合定義
次に近傍:
近傍
$U$ が開集合で $x \in U$ なら$O$ として $U$ がとれます。(練習問題2(b)のヒント)
$x$ が $S$ の内点というのは:
内点
となることです。この $U$ としては開近傍にしてよいので,
内点-開近傍
となることです。つまり,別の見方をすれば,$S$ は $x$ の近傍ということです。
ここで,$x$ が $S$ の内点であれば,$x \in S$ となることに注意しておいてください。つまり,
$S^\circ \subseteq S$.
最後に $x$ が $S$ の触点というのは,開近傍の方で描くと,
触点
ということです。ここで任意記号になっていることに注意してください。 $x \in S$ ならば,どんな $x$ の近傍 $U$ をとってきても, $U \cap S \ni x$ なのでつねに $U \cap S \ne \emptyset$. ですから $S$ の元 $x$ は $S$ の触点になります。つまり,
 $S \subseteq \overline{S}$.

ついでに,$x$ が $S$ の触点でないということを絵で表しておきます:
触点でない
これを見ればわかると思いますが,$x$ が $S$ の触点でないということは,$x$ が $S^c$ の内点ということと同じことです。したがって,$(\overline{S})^c = (S^c)^\circ$. ここで両辺の補集合をとると,次が成り立ちます。
$(*) \quad  \overline{S} = ((S^c)^\circ)^c$.


ここで,予告していた命題を述べます。

命題. $X = (X, \mathcal{O})$ を位相空間とし, $S \subseteq X$ とする。
(1) $S$ が開集合(つまり $S \in \mathcal{O}$) $\iff$ $S = S^\circ$.
(2) $S$ が閉集合 $\iff$ $\overline{S} = S$.

証明.
(1) ($\implies$). $S$ を開集合とします。このとき,$S \subseteq S^\circ$を示せばよいわけです。
そこで,$x \in S$ とします。すると, $x \in S \subseteq S$ (まん中の $S$ は開集合)ですから,$x$ は $S$ の内点になります。したがって, $S \subseteq S^\circ$.
($\impliedby$). $S = S^\circ$ とします。このとき $S$ が開集合であることを示せばよいわけです。各 $x \in S$ に対して,$x \in S = S^\circ$ より,$x$ のある開近傍 $U_x$ がとれて,$U_x \subseteq S$ となります。
すると,
$S = \displaystyle\bigcup_{x \in S} U_x$
で,右辺は開集合の公理(3)より,開集合になります。
(2) ($\implies$). $S$ を閉集合とします。このとき,$\overline{S} \subseteq S$を示せばよいわけです。
そこで,$x \in \overline{S}$ とします。ここでもしも $x \not\in S$ とすると, $x \in S^c$ より, $S^c$ は $x$ の開近傍になります。すると $x$ は $S$ の触点だったので, $S^c \cap S \ne \emptyset$ という矛盾が出ます。したがって $x \in S$. 以上より $\overline{S} \subseteq S$.
($\impliedby$). $\overline{S} = S$ とします。このとき $S^c$ が開集合であることを示せばよいわけです。各 $x \in S^c$ に対して, $x \not\in S = \overline{S}$ ですから, $x$ は $S$ の触点ではありません。つまり, $x$ のある開近傍 $U_x$ がとれて, $U_x \cap S = \emptyset$ となります。したがって, $U_x \subseteq S^c$. このことから,
$S^c = \displaystyle\bigcup_{x \in S^c} U_x$
で,右辺は開集合の公理(3)より,開集合になります。  □

以上の証明を絵を描きながら追ってみてください。

以上では,(1) と (2) を別々に示しましたが,実は, (1) から (2) は次のようにして示されます:
$S$ が閉集合 $\iff$ $S^c$ が開集合 $\overset{(1)}{\iff}$ $(S^c)^\circ = S^c$ $\iff$ $((S^c)^\circ)^c = S$ $\iff$ $\overline{S} = S$.

例14. (コ)ホモロジー(加)群

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。
今回の話は,例7, 例8, 例9, 例10, 例13の続きです。もちろん例11, 例12とも関係します。

例10では,まず環 $R$ と$R$-加群と加群の間の準同型について注意したあと,
(まだ慣れていない場合,環 $R$ を体あるいは $\mathbb{Z}$ として,$R$-加群といえば,それぞれベクトル空間あるいはアーベル群と思い, $R$-加群の間の準同型といえば,それぞれベクトル空間の間の線形写像あるいはアーベル群の間の準同型と思って読んでください。)
加群と準同型からなる,完全列の定義を導入し,それを絵に描きました。

 次に,複体のホモロジー加群(余複体のコホモロジー加群)について話そうと思います。これを考える動機を述べるために,前回の例13では,圏と関手について説明しておきました。

完全列の半分の条件.

前回の復習で,もう一度完全列を考えます。$R$-加群とその間の準同型の列

$X_1 \xrightarrow{f_1} X_2 \xrightarrow{f_2} \cdots \xrightarrow{f_{n-1}} X_n$

($n \ge 3$) が完全であるとは,すべての $i=1, 2, \ldots, n-1$ に対して,

$\mathrm{Im}\, f_i = \mathrm{Ker}\, f_{i+1}$

が成り立つことでした。この条件は2つに分けることができます。

$\mathrm{Im}\, f_i \subseteq \mathrm{Ker}\, f_{i+1} \tag{a}$
$\mathrm{Im}\, f_i \supseteq \mathrm{Ker}\, f_{i+1} \tag{b}$

これらのうち (a) は,次と同値でした:

$f_{i+1} f_{i} = 0$

ここで,上で考えた $\mathbb{Z}$-関手 $F:= \mathrm{Hom}_R(X, ?)$ を上の列に作用させると,圏 $\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ における列

$F(X_1) \xrightarrow{F(f_1)} F(X_2) \xrightarrow{F(f_2)} \cdots \xrightarrow{F(f_{n-1})} F(X_n)$

が得られ, $F$ が合成の保存性と和の保存性をもっていることから

$F(f_{i+1})F(f_{i}) = 0$

が得られたのでした。これより,

$\mathrm{Im}\, F(f_i) \subseteq \mathrm{Ker}\, F(f_{i+1})$

が成り立ちます。(しかしこの逆は成り立つとは限りません。そのような例も,前回与えておきました。)
 このように完全列の性質のうちの半分は,$\mathbb{Z}$-関手で保たれるものです。この性質をもつ列を複体とよびます。上では有限の準同型からなる列しか考えていませんでしたが,複体を考えるときは(左右に)無限の列を考えます。

定義 1. $R$-加群とその間の準同型からなる列 $X_{\centerdot}$
 $\cdots\xrightarrow{d_{i+2}} X_{i+1} \xrightarrow{d_{i+1}} X_{i} \xrightarrow{d_{i}} \cdots X_2 \xrightarrow{d_2} X_1 \xrightarrow{d_1} \cdots$
は,どの $i \in \mathbb{Z}$ に対しても $d_i d_{i+1} = 0$ をみたすとき,複体とよばれる。

$B_i:= B_i(X_{\centerdot}):= \mathrm{Im}\, d_{i+1}$, $Z_i:=Z_i(X_{\centerdot}):=\mathrm{Ker}\, d_i$ とおきます。 $B_i$ の元を $X_{\centerdot}$ の $i$ 次境界輪体 (boundary),$B_i$ を $X_{\centerdot}$ の $i$ 次境界輪体加群,$Z_i$ の元を $X_{\centerdot}$ の $i$ 次輪体 (cycle) ,$Z_i$ を $X_{\centerdot}$ の $i$ 次輪体加群 とよびます。条件 $d_i d_{i+1} = 0$ は,
$B_i \subseteq Z_i$
と同値です。
上のように,添字を下に付けるときは,番号を左から右へ小さくしていく習慣があります。番号を左から右へ大きくしていくときは,添字を上に付けることになっています:

定義 1'. $R$-加群とその間の準同型からなる列 $X^{\centerdot}$
 $\cdots \xrightarrow{d^0} X^1 \xrightarrow{d^1} X^2 \xrightarrow{d^2} \cdots X^{i-1} \xrightarrow{d^{i-1}} X^{i} \xrightarrow{d^{i}} \cdots$
は,どの $i \in \mathbb{Z}$ に対しても $d^{i} d^{i-1} = 0$ をみたすとき,余複体とよばれる。

$B^i:=B^i(X^{\centerdot}):= \mathrm{Im}\, d^{i-1}$, $Z^i:=Z^i(X^{\centerdot}):=\mathrm{Ker}\, d^i$ とおきます。$B^i$ の元を $X^{\centerdot}$ の $i$ 次余境界輪体 (coboundary),$B^i$ を $X^{\centerdot}$ の $i$ 次余境界輪体加群,$Z^i$ の元を $X^{\centerdot}$ の $i$ 次余輪体 (cocycle) ,$Z^i$ を $X^{\centerdot}$ の $i$ 次余輪体加群 とよびます。条件 $d^{i} d^{i-1} = 0$ は,
$B^i \subseteq Z^i$
と同値です。

複体を絵で描いておきます。まず,ベクトル空間の場合。
complex-vctsp
次に一般の場合
complex

上の説明から次は明らかでしょう。

命題. $\mathbb{Z}$-関手は複体を複体に移す。

定義 2. $X_{\centerdot}$ を複体とし, $i \in \mathbb{Z}$ とする。 $H_i(X_{\centerdot}):= Z_i/B_i$ を $X_{\centerdot}$ の $i$ 次ホモロジー加群とよぶ。

定義 2'.  $X^{\centerdot}$ を余複体とし, $i \in \mathbb{Z}$ とする。 $H_i(X^{\centerdot}):= Z^i/B^i$ を $X^{\centerdot}$ の $i$ 次コホモロジー加群とよぶ。

大まかにいうと,(余)複体の(コ)ホモロジー加群というのは,その(余)複体がどれぐらい完全列であることから離れているかを測るものです。(コ)ホモロジー加群がすべての次数で0であることが,列として完全列であるということです。完全列であるような複体を
非輪状
(acyclic) 複体といいます。

ホモロジー加群の絵を描いておきます。まずベクトル空間の場合。
homology-vctsp
次に一般の場合,
homology

例13. 圏と関手

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。
今回の話は,例7, 例8, 例9, 例10の続きです。もちろん例11, 例12とも関係します。

例10では,まず環 $R$ と$R$-加群と加群の間の準同型について注意したあと,
(まだ慣れていない場合,環 $R$ を体あるいは $\mathbb{Z}$ として,$R$-加群といえば,それぞれベクトル空間あるいはアーベル群と思い, $R$-加群の間の準同型といえば,それぞれベクトル空間の間の線形写像あるいはアーベル群の間の準同型と思って読んでください。)
加群と準同型からなる,完全列の定義を導入し,それを絵に描きました。

 次に,複体のホモロジー群(余複体のコホモロジー群)について話そうと思いますが。これを考える動機を述べるために,先に圏と関手について説明しておきます。いずれ必要になりますので。

圏.

まず$R$-加群とその間の準同型の全体からなる"世界" $\mathrm{Mod}\, R$ を考えます。いまこれを大きな有向グラフとみなします。つまり,1つ1つの$R$-加群 $X$ をグラフの点と思い,準同型 $f \colon X \to Y$ を点 $X$ から点 $Y$ への $f$ という名前をもつ矢として思い描きます。この巨大なグラフは,単なる有向グラフではなく,さらに少なくとも次の2つのものが定義されています(これらに着目します)。

(恒等矢) 各点 $X$ に恒等矢 $\mathrm{id}_X \colon X \to X$ が1つずつ定義されている。
(合成) 2つの矢 $X \xrightarrow{f} Y$ と $X' \xrightarrow{f'} Y'$ に対して,もし $Y = X'$ ならば,それらの合成 $X \xrightarrow{f'f} Y'$ が定義されている。

さらに,これらは次の性質をもっています。

(単位性) どの矢 $X \xrightarrow{f} Y$ に対しても, $\mathrm{id}_Y f = f = f\mathrm{id}_X$。
(結合性) 繋がっている3つの矢 $X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{h} Z \xrightarrow{h} W$ に対して,
$(hg)f = h(gf)$
この例のように,有向グラフに,恒等矢と合成が定義され,それらが単位性と結合性をもつとき,それをとよびます。もちろん $\mathrm{Mod}\, R$ は1つの圏になっています。圏では,点のことを対象,矢のことをともよびます。圏を絵で表しておきます。


圏

注意.
対象がただ1つからなる圏は,単位元をもつ半群(モノイド)と見なせます。そのような圏の射の全体は,モノイドになりますので。対象がただ1つの場合は,どの2つの射も合成できます。逆にいうと,圏は(対象を増やして),演算が自由にできないようにした"モノイド"とみられます。

$\mathbb{Z}$-圏.

圏 $\mathrm{Mod}\, R$にはさらに次のものが定義されています。

(アーベル群構造) 2つの対象 $X, Y$ をとるごとに,射 $X \xrightarrow{f} Y$, $X \xrightarrow{g} Y$ の間に和 $X \xrightarrow{f+g} Y$ が定義されていて, この和に関して, $X$ から $Y$ への射の全体 $\mathrm{Hom}_R(X, Y)$ はアーベル群になっている。

これは次の性質をもちます。

(双線形性) $X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{g, g'} Z \xrightarrow{h} W$ の形の射に対して,

$(g+g')f = gf + g'f$,   $h(g+g') = hg + hg'$

この例のようにアーベル群構造が定義されていて,それが双線形性をもつような圏を $\mathbb{Z}$ -圏
(あるいは前加法圏)とよびます。もちろん圏 $\mathrm{Mod}\, R$ は$\mathbb{Z}$-圏になっています。特に $R = \mathbb{Z}$ のとき, $\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ という圏が考えられます。これは,アーベル群全体とそれらの間の準同型全体のなす圏と同じものと考えられます。

注意. 上と同様に,対象がただ1つからなる$\mathbb{Z}$-圏は,(単位元をもつ)環とみなせます。

関手.

圏 $\mathrm{Mod}\, R$ の対象(つまり $R$-加群) $X$ を1つとります。このとき,
(対象の対応)どの対象 $Y$ にもアーベル群 $F(Y):= \mathrm{Hom}_R(X, Y)$ という $\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ の対象を対応させることができます。この対応は,$\mathrm{Mod}\, R$ の対象の全体から$\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ の対象の全体への写像になっています。
(射の対応)どの射 $f\colon Y \to Z$ にも,$\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ の射 $F(f) \colon F(Y) \to F(Z)$ を次のように定義することができます:

$F(f):= \mathrm{Hom}_R(X, f) \colon g \mapsto fg$, $(g \in \mathrm{Hom}_R(X, Y))$

この対応は,圏 $\mathrm{Mod}\, R$ の各対象 $Y, Z$ に対して,写像

$\mathrm{Hom}_R(Y, Z) \to \mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}}(F(Y), F(Z))$

を定義します。
Hom-cov

これらはさらに次の性質をもちます。

(恒等射の保存性) 各対象 $Y \in \mathrm{Mod}\, R$ に対して, $F(\mathrm{id}_Y) = \mathrm{id}_{F(Y)}$。
functor条件1

(合成の保存性) 射の各組 $Y \xrightarrow{g} Z \xrightarrow{h} W$ に対して, $F(hg) = F(h) F(g)$。
functor条件2

この $F$ ように,2つの圏 $\mathrm{Mod}\, R$ と $\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ の間の,対象の対応と射の対応の組は,恒等射の保存性と合成の保存性をもつとき,関手とよばれます。もちろん上の $F:= \mathrm{Hom}_R(X, ?)$ は $\mathrm{Mod}\, R$ から $\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ への関手です。関手を絵で表しておきます。
関手

注意. 対象がただ1つからなる圏の間の関手は,モノイドの間の準同型とみなせます。

$\mathbb{Z}$-関手.


この関手 $F$ はさらに次の性質ももっています。

(和の保存性) 圏 $\mathrm{Mod}\, R$ の各対象 $Y, Z$ に対して,$F$ の定義する写像

$\mathrm{Hom}_R(Y, Z) \to \mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}}(F(Y), F(Z))$

は,準同型である。
関手は,この性質をもつとき,$\mathbb{Z}$-関手とよばれます。 $\mathrm{Hom}_R(X, ?)$ は, $\mathbb{Z}$-関手です。

注意. 対象がただ1つからなる$\mathbb{Z}$-圏の間の$\mathbb{Z}$-関手は,環の間の準同型とみなせます。

完全列の条件の半分.

以上の準備のもとで,完全列を考えます。$R$-加群とその間の準同型の列

$X_1 \xrightarrow{f_1} X_2 \xrightarrow{f_2} \cdots \xrightarrow{f_{n-1}} X_n$

($n \ge 3$) が完全であるとは,すべての $i=1, 2, \ldots, n-1$ に対して,

$\mathrm{Im}\, f_i = \mathrm{Ker}\, f_{i+1}$

が成り立つことでした。この条件は2つに分けることができます。

$\mathrm{Im}\, f_i \subseteq \mathrm{Ker}\, f_{i+1} \tag{a}$
$\mathrm{Im}\, f_i \supseteq \mathrm{Ker}\, f_{i+1} \tag{b}$

これらのうち (a) は,次と同値です:

$f_{i+1} f_{i} = 0$

ここで,上で考えた $\mathbb{Z}$-関手 $F:= \mathrm{Hom}_R(X, ?)$ を上の列に作用させてみます。すると,圏 $\mathrm{Mod}\, \mathbb{Z}$ における列

$F(X_1) \xrightarrow{F(f_1)} F(X_2) \xrightarrow{F(f_2)} \cdots \xrightarrow{F(f_{n-1})} F(X_n)$

が得られます。ここで, $F$ が合成の保存性と和の保存性をもっていることから

$F(f_{i+1})F(f_{i}) = 0$

が得られます。
($(\because)$ 等式 $F(f_{i+1} f_{i}) = F(0)$ において,左辺は合成の保存性から,$F(f_{i+1})F( f_{i})$ に等しく,右辺は和の保存性から 0 に等しい。)これより,

$\mathrm{Im}\, F(f_i) \subseteq \mathrm{Ker}\, F(f_{i+1}) \tag{a'}$

が成り立ちます。しかしこの逆は成り立つとは限りません。以下にその例を与えます。

例. $R = \mathbb{Z}$ とし, $X_1:= \mathbb{Z}$, $X_2:= \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$, $X_3:= 0$ として完全列

$X_1 \xrightarrow{f_1} X_2 \xrightarrow{f_2} X_3$

を考えます。ただし,$f_1$ は標準全準同型, $f_2 = 0$ とします。このとき, $X:= X_2$ ととって, $F:=\mathrm{Hom}_R(X, ?)$ を考えると,これは

$\mathrm{Im}\, F(f_1) \supseteq \mathrm{Ker}\, F(f_{2})$

をみたしません。
 実際, $f_2 = 0$ より $F(f_2) = 0$ なので,この右辺は $F(X_2) = \mathrm{Hom}_R(X_2, X_2)$ となっていることに注意しておきます。これが成り立っていると, $\mathrm{id}_{X_2} \in \mathrm{Hom}_R(X_2, X_2)$ より,$\mathrm{id}_{X_2} \in \mathrm{Im}\, F(f_1)$ つまり,

$\mathrm{id}_{X_2} = [F(f_1)](g) = f_1 g$

となる $g \in F(X_1) = \mathrm{Hom}_R(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}, \mathbb{Z})$ が存在することになります。
反例
しかしここで, $g = 0$ です。なぜなら,$2g(\overline{1}) = g(2\overline{1}) = 0$ で, $g(\overline{1}) $ は整数なので $g(\overline{1}) = 0$ 。これより,$\mathrm{id}_{X_2} = 0$ という矛盾が出ます。

完全関手.

 関手 $F$ が完全列を完全列に移すとき,つまり上においてつねに (a') での等号が成り立つとき,$F$ を完全関手とよびます。 $F$ が完全関手であることからどの程度離れているかは,
式 $\mathrm{Im}\, F(f_i) \subseteq \mathrm{Ker}\, F(f_{i+1})$ の右辺を左辺で割った剰余群

$\mathrm{Ker}\, F(f_{i+1})/\mathrm{Im}\, F(f_i)$

の大きさでわかります。 $F$ が完全関手であること,これらがすべて0であることとが同値になっていますので,それらが大きければ大きいほど,完全性から離れているといえます。(この考えから,$F$ の"導来関手"というものが定義されます。)

 以上の準備のもとに,次回は複体のホモロジー群について話します。
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rhideto(リデート)

ギャラリー
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23 (3)解答例続き2(圏論的取り扱い)
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23解答例続き1(冪等元全体)
  • Q&Aコーナー Q3. 問 2.2.15の解答
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