rhidetoのblog

数学に現れる定義,定理,証明を理解するために,これまでいろいろと考えてきたことを主に書いていこうと思います。「数学を絵で理解しよう」

2013年05月

例19. 随伴関手

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 予定していたように,今回からテンソルとHomの随伴についてお話しします。長いので2,3回に分けることになると思います。例18. 集合の指数法則に,テンソルとHomの随伴を関係づけます(理解の成長を参照)。今回は取りあえず,随伴関手の定義まで。

ここでは,例13. 圏と関手の知識を仮定します。まず,圏の射が同型であることの定義から始めます。

定義. $C$ を圏, $f \colon X \to Y$ をその射とするとき, $f$ が同型であるとは,$gf = \mathrm{id}_X$ かつ $gf = \mathrm{id}_Y$ となる射 $g \colon Y \to X$ が $C$ に存在することである。

圏 $C$ の2つの対象 $X$ と $Y$ が同型であるとき,上の $f$ と $g$ を通して,これら2つは $C$ のなかで同じ役割を果たします。

例. 集合全体を対象とし,それらの間の写像全体を射とする圏を $\mathbf{Set}$ で表します。圏 $\mathbf{Set}$ のなかでは,上の性質をもつ射,つまり同型は,全単射に他なりません。

 前回は,$X, Y, Z$ を集合とするとき,指数法則の集合論版である次の全単射が存在することをお話ししました:
$X^{(Y\times Z)} \cong (X^Y)^Z$.

この同じ式を,写像の全体を表すもう1つの記号で書き直してみると,
$\mathrm{Map}(Y \times Z , X) \cong \mathrm{Map}(Z, \mathrm{Map}(Y, X))$
となります。
この式は,内積空間の間の線形写像 $f \colon V \to W$ の随伴写像 $f^{*}$ との関係
$(f(v), w) = (v, f^{*}(w))$,   $(v \in V, w \in W)$
に似ています。

例.  $V=W=\mathbb{R}^2$, $f(v) = Av$ ($A$ は$\mathbb{R}$ 上の2次行列)で,内積が標準内積 $(v, w):= v_1w_1+v_2w_2 = {}^tv w$ ($v={}^t(v_1,v_2), w={}^t(w_1, w_2) \in \mathbb{R}^2$) で与えられる場合 (${}^t$は転置行列を表す),$f^{*}$ は, $f^{*}(w):={}^tA w$ で与えられます。このとき
$(f(v), w) = (Av, w) = {}^t(Av)w = {}^tv {}^tA w = (v, f^{*}(w))$
となって上の式が成り立ちます。

ここで,記号 $\mathrm{Map}(?, ?)$ を内積 $(?, ?)$ と思いながら, $Y \times Z$ を $f(Z)$ と見, $\mathrm{Map}(Y, X)$ を $f^{*}(X)$ と見れば,ちょうど上の式と同じ形になることが分かります。それで,上の言い方をまねて,関手 $\mathrm{Map}(Y, ?)$ を関手 $Y \times ?$ の随伴,正確にいうと,右随伴とよびます。これが $\mathrm{Map}(?, ?)$ の右側にあるからです。また,関手 $Y \times ?$ を関手 $\mathrm{Map}(Y, ?)$ の左随伴とよびます。次に正確な定義を書いておきます。

定義. $L \colon C \to D$ と $R \colon D \to C$ を圏の間の関手とする。$L$ が $R$ の左随伴($R$ が $L$ の右随伴)であるとは,すべての $X \in C_0$, $Y \in D_0$ に対して自然な同型
$\omega_{X,Y} \colon D(L(X), Y) \to C(X, R(Y))$
が存在することである。

この定義を,絵に描いておきます。
随伴対

このことは,次の形の式でも表されます:
adjoint-visual-formula
この式は絵のように見えます。 $\omega$ があきらかなときは,よく省略します。
 なお,上の定義で同型 $\omega_{X,Y}$ が自然であるとは,この $X, Y$ の位置に,$C$, $D$ の射を代入すると,左辺の移し方が $\omega$ で右辺の移し方へ移されるということです。つまり,任意の $C$ の射 $f\colon X' \to X$ と $D$ の射 $g \colon Y \to Y'$ に対して,次の図式が可換になるということです:
naturality-of-omega
ここで, $D(L(f), g) \colon D(L(X), Y) \to D(L(X'), Y')$ は,
$D(L(f), g)(\alpha):= g\cdot \alpha \cdot L(f)$,   $(\alpha \in D(L(X), Y))$
で定義される写像です。同様に, $C(f, R(g)) \colon C(X, R(Y)) \to C(X', R(Y'))$ は,
$C(f, R(g))(\alpha):= R(g)\cdot  \alpha \cdot f$,   $(\alpha \in C(X, R(Y)))$
で定義される写像です。結局, $\omega_{X,Y}$ が自然であることを式で書くと,

$\omega_{X',Y'}(g \cdot\alpha \cdot L(f)) = R(g) \cdot \omega_{X,Y}(\alpha) \cdot f$,   ($\alpha \in D(L(X), Y)$)

となります。これを絵で描くと,
随伴の自然性
右の $D$ 内の四角が可換ならば,左の $C$ 内の四角も可換ということです。さきほどの絵のような式で書くと,
naturality-visual-formula
となります。横線より上にある射の合成が, $\omega$ で横線の下にある射の合成に移されるということを表しています。これを(式1)とおきます。

注意. 圏 $\mathbf{Set}$ の射の全体は集合の間の写像の全体ですので,各 $X, Y \in \mathbf{Set}_0$ に対して, $\mathbf{Set}(X, Y) = \mathrm{Map}(X, Y)$ となります。

 さてここで,2つの関手
$Y \times ? \colon \mathbf{Set} \to \mathbf{Set}$

$\mathrm{Map}(Y,?) = \mathbf{Set}(Y, ?)\colon \mathbf{Set} \to \mathbf{Set}$
を定義して,これらが上の定義の意味での随伴対になっているかどうかを確かめます。
 これらを次のように定義します。$\mathbf{Set}$ の各射 $f\colon Z \to Z'$ に対して,
$(Y \times ?)(Z):= Y \times Z$,
$(Y \times ?)(f):= Y \times f  \colon Y \times Z \to Y \times Z'$

$(Y \times f)(y,z):= (y,f(z))$,   $((y,z) \in Y \times Z)$
と定めます。($Y$ のところは恒等写像にするということです。)
さらに,
$(\mathbf{Set}(Y, ?))(Z):= \mathbf{Set}(Y, Z)$
$(\mathbf{Set}(Y, ?))(f):= \mathbf{Set}(Y, f)  \colon \mathbf{Set}(Y, Z) \to \mathbf{Set}(Y, Z')$

$(\mathbf{Set}(Y, f))(\alpha):= f \alpha$,   $(\alpha \in \mathbf{Set}(Y, Z))$
と定めます。

練習問題 1. $Y \times ? \colon \mathbf{Set} \to \mathbf{Set}$ と $\mathrm{Map}(Y,?) = \mathbf{Set}(Y, ?)\colon \mathbf{Set} \to \mathbf{Set}$ が関手になっていることを確かめてください。

このとき,写像
$\omega_{Z,X} \colon \mathbf{Set}(Y \times Z , X) \to \mathbf{Set}(Z, \mathbf{Set}(Y, X))$
を例18で定義した $\psi$ と定めます。つまり,
$\omega_{Z,X}(F):= (F_z)_{z \in Z}$,   $(F \in \mathbf{Set}(Y \times Z , X))$
とします。あるいは,元の対応を詳しく書くと,
$(\omega_{Z,X}(F)(z))(y):= F(y,z)$,   $(z \in Z, y \in Y, F \in \mathbf{Set}(Y \times Z , X))$.
すると, $C = D = \mathbf{Set}$, $L = Y \times ?$, $R = \mathbf{Set}(Y, ?)$ に対して,上の式1が成り立ちます。$\omega_{Z,X}$は全単射ですから,圏 $\mathbf{Set}$ での同型になります。以上で,関手 $Y \times ?$ が関手 $\mathrm{Map}(Y, ?)$ の左随伴であることが確かめられました。

練習問題 2. 上のように定義すると,式1が成り立つこと,つまり任意の写像 $f\colon Z' \to Z$ と $g \colon X \to X'$ に対して,次の式が成り立つことを確かめてください:
toi-vis-forml

 次回は,自然性(自然変換)についてもう少し詳しく説明します。お楽しみに。

例18への追加(別の絵. テレビの画像送信)

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

随伴関手の話に進む前に,例2. 写像の絵の描き方のうち,定義域に重点をおいて描く方法を用いて,例18の全単射
$X^{(Y\times Z)} \cong (X^Y)^Z$
の別の絵を与えます。

復習.(定義域に重点をおいて描く方法) $f \colon A \to B$ を写像とします。$A$ の各元 $a$ "の上に $f(a)$ を載せる"ことによって,$f$ を表します。この描き方の例には,行列,スカラー場,ベクトル場,箙の表現などがあります。

以下の例では,$X = \{0,1,\dots, 9\}, Y = \{1, 2, 3\}, Z = \{a, b\}$ とします。

例 1. $Y \times Z = \{1, 2, 3\} \times \{a, b\} = \{(1,a), (2,a), (3,a), (1,b), (2,b), (3,b)\}$ を横に3,縦に2の長方形
$\begin{matrix} (1,a)& (2,a)& (3,a)\\ (1,b)& (2,b)& (3,b) \end{matrix}$
の形に表すとき, $F(1,a)=0, F(2,a)=2, F(3,a)=4, F(1,b)=5, F(2,b)=3, F(3,b)=1$ で定義される写像 $F \colon Y \times Z  \to X$ を,
 
$\begin{matrix} 0& 2& 4\\ 5& 3& 1 \end{matrix}$

で表します。定義域の絵と並べて描くと
$$\begin{matrix} (1,a)& (2,a)& (3,a)\\ (1,b)& (2,b)& (3,b) \end{matrix}\qquad\begin{matrix} 0& 2& 4\\ 5& 3& 1 \end{matrix}$$
例 2. $Y = \{1,2,3\}$ を横に並んだ3個の点の列
$\begin{matrix} 1& 2& 3\end{matrix}$
の形に表すとき,$f_a(1) = 0, f_a(2) = 2, f_a(3) = 4$ で定義される写像 $f_a \colon Y \to X$ を

$\begin{matrix} 0& 2& 4\end{matrix}$

で表します。
他にも,$f_b(1) = 5, f_b(2) = 3, f_b(3) = 1$ で定義される写像 $f_b \colon Y \to X$ を

$\begin{matrix} 5& 3& 1\end{matrix}$

で表します。$f_a, f_b$ ともに $Y$ から $X$ への写像なので,集合 $X^Y$ の元です: $f_a, f_b \in X^Y$.

例 3. $Z = \{a, b\}$ を縦に並んだ2個の点の列
$\begin{matrix} a\\b \end{matrix}$
の形に表すとき,$G(a) = f_a, G(b) = f_b$ で定義される写像 $G \colon Z \to X^Y$ を

$\begin{matrix} f_a\\f_b \end{matrix}$

で表します。ここで,$f_a, f_b$ は,例2のように横に並ぶ数で表されていますから,それを代入すると $G$ は,

$\begin{matrix} (0& 2& 4)\\(5& 3& 1) \end{matrix}$

と表されます。定義域の絵と並べて描くと,
$$\begin{matrix} a\\b \end{matrix}\qquad\begin{matrix} (0& 2& 4)\\(5& 3& 1) \end{matrix}$$
上の表し方を使うと,例18の全単射 $X^{(Y\times Z)} \cong (X^Y)^Z$ の対応はこの $F$ と $G$ については,次のように書けます:
$$\begin{matrix} 0& 2& 4\\ 5& 3& 1 \end{matrix}\ \longleftrightarrow  \begin{matrix} (0& 2& 4)\\(5& 3& 1) \end{matrix}$$
一般の形で書くと,
$$\begin{matrix} F(1,a)& F(2,a)& F(3,a)\\ F(1,b)& F(2,b)& F(3,b) \end{matrix}\ \longleftrightarrow  \begin{matrix} (F(1,a)& F(2,a)& F(3,a))\\(F(1,b)& F(2,b)& F(3,b)) \end{matrix}$$
これは,前回述べた直積の分解の仕方
$Y \times Z = \displaystyle\bigsqcup_{z \in Z} (Y\times \{z\})$
直積と素和
と全く同じです。これらの上に $X$ の元がばらまかれているようすを想像してください。
そこで, $X$ を,赤丸と白丸2元からなる集合として絵を描いてみます。 このとき,$X^{(Y\times Z)}$ の元 $F$ は $Y\times Z$ の面の上に赤丸と白丸を載せたものとして描かれます。白丸は地の色と同じなので描かないことにして赤丸だけを描きます。すると,例18の全単射
$X^{(Y\times Z)} \cong (X^Y)^Z$
の対応は次のように描けます:
集合の指数法則
右の図は,上で説明したように,写像 $Z \to X^Y$ を定義域 $Z$ に重点をおいて描いたものです。($Z$ の各元 $z$ に対して,それに対応する横線で表される写像 $f_z\colon Y \to X$ を対応させる写像 $Z \to X^Y$ を表します。これは,集合 $(X^Y)^Z$ の元です。)
テレビやファックスで画像を送るとき,横の走査線に分けて送られていますが,これと同じです。
(ちなみに高柳 健次郎が最初に実験で送った画像はカタカナのイでした:
1926年(大正15年)12月25日、浜松高工にてブラウン管による電送・受像を世界で初めて成功した。送像側に機械式のニプコー円板と受像側に電子式のブラウン管を用いて、片仮名の「イ」の文字を送受像した。走査線の数は40本だった。「イ」の字はいろは順の最初の文字として選んだ。Wikipediaより。)
例19ではテンソルとHomの随伴を扱う予定です。お楽しみに。

例18. 集合の指数法則

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 今回と次回に分けて,テンソルとHomの随伴についてお話しします。今回はその準備として集合の指数法則について解説します。次回はこれに,テンソルとHomの随伴を関係づけます(理解の成長を参照)。

記号.  集合 $A$ から $B$ への写像の全体を $B^A$ または $\mathrm{Map}(A, B)$ で表す。

前の方の記号は,$A, B$ ともに有限集合でそれぞれ元の個数が $a, b$ であるとき,$A$ から $B$ への写像の全体のなす集合の元の個数が $b^a$ となることから作られています。つまり,集合 $S$ の元の個数を $|S|$ で表すことにすると,
$|B^A| = |B|^{|A|}$
が成り立ちます。(無限集合の場合,元の個数を濃度とすれば,上の式は $A, B$ が無限集合でも成り立ちます。)

直積について

$Y$ と $Z$ を2つの集合とします。このとき,

$Y \times Z = \displaystyle\bigsqcup_{z \in Z} (Y\times \{z\})$

となっていることに注意します(右辺は互いに共通部分のない和集合を表します)。これを絵に描くと,
直積と素和
図1
そこで,この直積集合から集合 $X$ への写像 $F \colon Y \times Z \to X$ を考えます。これは集合 $X^{(Y\times Z)}$ の元です。上の分解をこれに適用して, $F$ 分解することを考えます。
直積からの写像
図2
この $F$ が与えられると, $Z$ の各元 $z$ に対して,1つの写像
$f_z:= F(?,z) \colon Y \to X$,  $f_z(y):= F(y,z)$ $(y \in Y)$
を対応させることができます。これを用いて,写像
$(F(?,z))_{z \in Z} \colon Z \to X^Y$, $z \mapsto f_z$
を定義することができます。これを絵に描くと,
写像集合への写像
図3
これは集合 $(X^Y)^Z$ の元です。このようにして,写像
$\phi \colon X^{(Y\times Z)} \to (X^Y)^Z$, $F \mapsto (F(?,z))_{z \in Z}$
が定義できました。以上をまとめて,$\phi$ の定義を書くと,
$[(\phi(F))(z)](y):= F(y,z)$, $(F \in X^{(Y\times Z)}, z \in Z, y \in Y).$
 逆に,集合 $(X^Y)^Z$ の元である,写像 $(f_z)_{z \in Z} \colon Z \to X^Y$ (つまり図3)が与えられると,$X^{(Y\times Z)}$ の元である写像を
$F \colon Y \times Z \to X$,  $F(y,z):= f_z(y)$ $((y,z) \in Y\times Z)$
で定義することができます(これは, $f_z$ を合わせて図2にもどしたものです)。これによって,写像
$\psi \colon (X^Y)^Z \to X^{(Y\times Z)}$, $(f_z)_{z \in Z} \mapsto (f_z(y))_{(y,z) \in Y\times Z}$
ができました。以上をまとめて,$\psi$ の定義を書くと,
$([\psi(G)](y,z):= [G(z)](y)$ $(G \in (X^Y)^Z, (y,z) \in Y \times Z).$
すぐにわかるように,$\phi$ と $\psi$ は互いに他の逆写像になっています。

(絵による直感的な説明:$\phi$ は,図2を図3のように分解することを意味し,$\psi$ は逆に図3を図2のように合成することを意味しています。互いに逆になっていて続けて行うともとにもどります。)

練習問題 1. $\phi$ は $\psi$ の逆写像であることを証明してください。

以上により$\phi$ と $\psi$ は全単射となり2つの集合は対等であることがわかりました:
$X^{(Y\times Z)} \cong (X^Y)^Z$
これはちょうど数の指数法則と同じ形です。実際,自然数については,$X, Y, Z$ を有限集合としたときこの両辺の濃度をとれば,自然数の指数法則になります。
 この同じ式をもう1つの記号で書き直してみますと,
$\mathrm{Map}(Y \times Z , X) \cong \mathrm{Map}(Z, \mathrm{Map}(Y, X))$
となります。これは $Y \times ?$ が $\mathrm{Map}(Y, ?)$ の左随伴関手であることを意味します。これを線形化すると,テンソルとHomの随伴が得られます。次回は随伴関手の定義から始めて,このことについてお話しします。お楽しみに。

例17. 既約空間

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

今回は,例15例16の続きです。今回の目標は,既約空間の開集合による特徴付けです。

さて,既約空間の定義を与えます。

定義. 空でない位相空間 $X$ が既約であるとは,それが2つの閉集合 $C_1$, $C_2$ の和集合として表される ($X = C_1 \cup C_2$) と,どちらかが $X$ に等しくなる,ということである。
式で表すと,
$C_1, C_2$ : 閉集合のとき $C_1 \cup C_2 = X \implies C_1 = X$ or $C_2= X$
絵で表すと,
irr(0)
対偶をとって言い換えると,ともに $X$ に等しくない2つの閉集合 $C_1$, $C_2$ の和集合として $X$ を表すことができないということです。
式で表すと,
$C_1, C_2$ : 閉集合のとき $C_1 \ne X$ and $C_2 \ne X \implies C_1 \cup C_2 \ne X$
絵で表すと,
irr(0')
次の命題はよく知られています。

命題. 空でない位相空間 $X$ に対して次は同値である。
(0) $X$ は既約空間である。
(2) 任意の空でない $X$ の開集合は,$X$ で稠密である。

これからこの証明を与えますが,直接これらを結びつけないで,真ん中にどちらにも近い命題を挟んで,どちらもそれに同値であることを示します。そのどちらにも近い命題自身がまた面白いものです。つまり次の命題を証明します。
以下で,2つの集合は,その共通部分が空集合でないとき,交わるということにします。

命題. 空でない位相空間 $X$ に対して次は同値である。
(0) $X$ は既約である。
(1) $X$ の空でないどの2つの開集合も交わる。
($O_1, O_2$: 開集合のとき,$O_1 \ne \emptyset, O_2 \ne \emptyset$ ならば $O_1 \cap O_2 \ne \emptyset$ 。)
(2) 任意の空でない $X$ の開集合は,$X$ で稠密である。

証明.
(0) $\iff$ (0') これを補集合の方で表すと,
$\iff$
irr(1)
これを $O_1$ を中心にしてみると,
$\iff$
irr(2)
この絵は, $O_1$ が $X$ で稠密であることを表しています。これで証明終わりです。
以上を正確に全部式で書くと,
(0) $\iff$ (0')
$\iff$  $C_1, C_2$ : 閉集合のとき, $C_1^c \ne \emptyset$ and $C_2^c \ne \emptyset \implies (C_1 \cup C_2)^c \ne \emptyset$
ド・モルガンの法則( $(C_1 \cup C2)^c = C_1^c \cap C_2^c$ )より
$\iff$ $C_1, C_2$ : 閉集合のとき, $C_1^c \ne \emptyset$ and $C_2^c \ne \emptyset \implies  C_1^c \cap C_2^c \ne \emptyset$
補集合をとる操作が開集合全体と閉集合全体の間の1対1対応を与えることから
$\iff$ $O_1, O_2$ : 開集合のとき, $O_1 \ne \emptyset$ and $O_2 \ne \emptyset \implies  O_1 \cap O_2 \ne \emptyset$
これを $O_1$ を中心にしてみると,
$\iff$ $O_1$: 空でない開集合のとき, $O_1$ はどの空でない開集合とも交わる
$\iff$ $O_1$: 空でない開集合のとき, $O_1$ は $X$ で稠密である。  □

以上のように,$X$ が既約であることは,上の性質(1)で特徴付けることができます。ちなみに,ここで位相空間を $R$-加群に,その開集合を全部 $R$-部分加群(から0を除いたもの)に置き換えると,一様加群 (uniform module) の定義になります。定義を書きますので,比較してみてください。
(注意:部分加群 $M$ に対して,$M \setminus \{0\} = \emptyset$ $\iff$ $M = \{0\} (=: 0)$
この 0 を除くことについては例8でベクトル空間の部分空間の絵を描くときにも使いました。)

定義. $R$を環とし,$X$ を $R$-加群とする。  $X$ が一様であるとは,任意の0でない部分加群 $M_1, M_2$ に対して $M_1 \cap M_2 \ne 0$ となることである。

2つの部分加群は,それらの共通部分が0でないとき,交わるということにすれば,次のように言えます:$X$ が一様であるとは,0でないどの2つの部分加群も交わることである。

 既約空間の定義を述べたので,ついでに位相空間の次元の定義に触れておきます。

部分空間

定義/命題.
$X = (X, \mathcal{O})$ を位相空間 $S$ をその部分空間とする。このとき,
$\mathcal{O}_S:= \{ S \cap O \mid O \in \mathcal{O} \}$
とおくと, これも開集合の公理をみたす。これを $S$ 上の相対位相とよび,位相空間 $(S, \mathcal{O}_S)$ を $X$ の部分空間とよぶ。特に断らなければ,位相空間の部分集合は,相対位相を入れて部分空間とみなす。

練習問題 1.  $\mathcal{O}_S$ が開集合の公理をみたすことを証明してください。

定義. 位相空間の部分集合は,それが部分空間と見て既約であるとき,既約であるという。

位相空間の次元

この既約性を用いて位相空間の次元が定義されます。(他にもいろいろな定義がありますが,ここでは代数幾何との関係でこの定義を採用します。)

定義. 空でない位相空間 $X$ の次元 $\dim X$ を,異なる空でない既約な閉集合からなる列
$X_0 \subset X_1 \subset \cdots \subset X_n$
が存在するような最大の $n$ の値として定義する。また, $\dim \emptyset:= -\infty$ と定める。

例16. 稠密性

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

今回は,例15. 開集合と閉集合の続きです。次の目標は,既約空間の開集合による特徴付けです。
まず,今回は稠密性の復習から。

定義. $X = (X, \mathcal{O})$ を空でない位相空間とし,$S \subseteq X$ とする。
$\overline{S} = X$ となるとき,$S$ は $X$ で稠密(ちゅうみつ)であるという。

注意. $\overline{S} \subseteq X$ は明らかなので,これが成り立つということは,$X \subseteq \overline{S}$ が成り立つということです。つまり$X$ の任意の点が $S$ の触点ということです。
これを絵に描いておきます。
稠密1
縁を含めると全体になるということで, $X$ のなかに $S$ が密に存在しているということです。簡単な言い換えを挙げておきます。

命題. 上の設定で, $S$ が $X$ で稠密であるためには,すべての空でない $O \in \mathcal{O}$ に対して, $S \cap O \ne \emptyset$ となることである。

どんな空でない開集合の中にも $S$ が顔を出す,ということです。

証明.
$\overline{S} = X$
$\iff$ $X \subseteq \overline{S}$
$\iff$ すべての $x \in X$ に対して $x \in \overline{S}$
$\iff$ すべての $x \in X$ に対して $O$ が $x$ の開近傍ならば, $O \cap S \ne \emptyset$
$\iff$ すべての $\emptyset \ne O \in \mathcal{O}$ に対して $O \cap S \ne \emptyset$.  □

上の最後の同値性について:
($\impliedby$) は自明。
($\implies$). $O \in \mathcal{O}$ が空でないなら,ある $x \in O$ がとれて,$O$ は $x$ の開近傍になります。すると仮定から,$O \cap S \ne \emptyset$ となります。この $x$ をとるところで,空でないという条件を使っています。

この命題から $S$ が $X$ で稠密ということは,次の絵で表せます。
稠密2
この絵だと,$S$ がどの開集合とも交わっているという感じが出せませんので,次のように$S$ の元を赤い点々で表すこともあります。描ききれませんが。
稠密3

例. $\mathbb{R}$ を普通の位相で位相空間と見ると,有理数の全体 $\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}$ で稠密である。

練習問題 1. 上の例を証明してください。
(ヒント:上の命題から「実数 $a < b$ をどのようにとっても,開区間 $(a, b)$ のなかに有理数が存在する。」を証明すれば十分です。他の空でない開集合はすべてこれらの和集合になっていますから。アルキメデスの原理($\varepsilon$ を正の実数とし $m$ を自然数とすると,$n\varepsilon > m$ となる自然数 $n$ が存在する)[塵も積もれば山となる] を使ってください。)

区切りがいいので,ここで切って次回,既約空間の開集合による特徴付けについてお話します。お楽しみに。
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rhideto(リデート)

ギャラリー
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23 (3)解答例続き2(圏論的取り扱い)
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23解答例続き1(冪等元全体)
  • Q&Aコーナー Q3. 問 2.2.15の解答
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