rhidetoのblog

数学に現れる定義,定理,証明を理解するために,これまでいろいろと考えてきたことを主に書いていこうと思います。「数学を絵で理解しよう」

2013年06月

例21. 随伴のunit, counit前半

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 今回も,前々回の随伴関手の続きです。前回の終わりに予告していた,随伴の特徴付けのお話です。この話題は書いているうちにかなり時間を使いましたので,2回に分けます。今回は,随伴関手の対から,ある性質をみたす1組の自然変換が構成されることを観察します。次回はその逆に,そのような自然変換の対から随伴が導かれることを観察します。String diagramについては今回紹介します。その次以降,テンソル積の定義,テンソルとHomの随伴についてお話する予定です。ここでも,例13. 圏と関手の知識を仮定します。

まず,準備として,関手と自然変換の合成の定義から始めます。

定義. 次の圏と関手と自然変換からなる図式を考える。
合成の設定
このとき,合成 $\alpha E \colon EF \Rightarrow GE$ と $H \alpha \colon HF \Rightarrow HG$
合成結果

を次で定義する。
$\alpha E$: 各 $X \in \mathcal{B}_0$ に対して,$(\alpha E)_X:= \alpha_{E(X)}$,
$H \alpha$: 各 $Y \in \mathcal{C}_0$ に対して,$(H\alpha)_Y:= H(\alpha_Y)$.

練習問題 1. 上で定義された $\alpha E$ と $H \alpha$ が自然変換であることを証明してください。

以上の準備のもとで,自然変換の対が随伴関手の対から得られるところから見ていきます。

定理. 圏の間の関手 $L \colon \mathcal{C} \to \mathcal{D}$ が関手 $R \colon \mathcal{D} \to \mathcal{C}$ の左随伴であるとすると,次の性質をもつ自然変換 $\eta\colon \mathrm{id}_{\mathcal{C}} \Rightarrow RL$ と $\varepsilon \colon LR \Rightarrow \mathrm{id}_{\mathcal{D}}$ が存在する:
$\mathrm{id}_L = (\varepsilon L)(L\eta), \mathrm{id}_R = (R\varepsilon)(\eta R)$.

最後の式を図式で描くと,
zigzag-comm-diag
ただし,上で $\mathrm{id}_L$ は,各 $X \in \mathcal{C}_0$ に対して,
$(\mathrm{id}_L)_X:= \mathrm{id}_{L(X)} : L(X) \to L(X)$
で定義される自然変換 $L \Rightarrow L$ である。 $\mathrm{id}_R$ も同様である。

上の $\eta$, $\varepsilon$ を,それぞれこの随伴の unit, counit とよびます。

証明. この随伴の自然な同型を $\omega$ として次のようにおきます:
各 $X \in \mathcal{C}_0$ に対して $\eta_X:= \omega(\mathrm{id}_{L(X)})$,
各 $Y \in \mathcal{D}_0$ に対して $\varepsilon_Y:= \omega^{-1}(\mathrm{id}_{R(Y)})$.
図を使う式で書くと,
$\frac{LX\ \overset{\mathrm{id}_{LX}}{\longrightarrow}\ LX}{X\ \overset{\eta_X}{\longrightarrow}\ RLX}(\omega)\qquad\frac{RY\ \overset{\mathrm{id}_{RY}}{\longrightarrow}\ RY}{LRY\ \overset{\varepsilon_Y}{\longrightarrow}\ Y}(\omega^{-1})$
すると,$\eta:= (\eta_X)_{X \in \mathcal{C}_0}$ も $\varepsilon:= (\varepsilon_Y)_{Y \in \mathcal{D}}$ も自然変換になります。これらが求める性質をもつことは次の式から分かります:
$$\matrix{LX\ \overset{\mathrm{id}_{LX}}{\longrightarrow}\ LX\ \overset{\mathrm{id}_{LX}}{\longrightarrow}\ LX\\
\hline\\
X\ \overset{\eta_{X}}{\longrightarrow} \ RLX\ \overset{R(\mathrm{id}_{LX})}{\longrightarrow}\ RLX\\
\hline\\
LX \ \overset{L\eta_{X}}{\longrightarrow}\ LRLX \ \overset{\varepsilon_{LX}}{\longrightarrow}\ LX
}$$
第1式から第2式へは $\omega$ を使い,第2式から第3式へは $\omega^{-1}$ を使っていますので,第3式は第1式に等しくなります。残りの式も同様です。  □

(上の式の変形が分からないときは,例19の説明を読み直してください。)

練習問題 2. (1) $\eta:= (\eta_X)_{X \in \mathcal{C}_0}$ と $\varepsilon:= (\varepsilon_Y)_{Y \in \mathcal{D}}$ が自然変換であることを確かめてください。
(2) 上の証明をまねて,残りの式を証明してください。

これらの式を string diagram で表しておきます。

String diagramの描き方のルール
● 関手は下から上に向かう線で表す。
● 横に並んだ線は,その順に合成した関手を表す。
● 恒等関手は合成しても関手を変えないので,点線かあるいは何も描かないで表す。
● 自然変換は丸で表し,丸の下に繋がる線は,その自然変換の始点となる関手の合成を表し,その上に繋がる線は,終点となる関手の合成を表す。

例えば,自然変換 $\alpha \colon EF \Rightarrow GH$ は次の図で表します。
string1
同じように,unit, counit をstring diagramで表すと次のようになります。
string-unit-counit
ですので,unit, counitのもつ性質をstring diagramで表すと次のようになります。
string-zigzag
つまり,zigzag型になっているひもを引っ張ってまっすぐにしてもよい,ということを表しています。この形からこれらの式は,zigzag等式ともよばれます。

 String diagramをもっとよく知りたい人には,YouTubeのString diagrams 1から始まる解説がお勧めです。随伴のunit, counit についてはString diagram 3で解説されています。

 少し長くなったので,ここで一旦切って,次回,この逆のことを,つまり,zigzag等式をみたす自然変換の対 $\varepsilon$, $\eta$ から随伴が導かれることを説明します。お楽しみに。

例20. 自然変換

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 前回の随伴関手の続きです。話が前後しますが,ここで自然変換についてもう少し詳しく話しておきます。そのあと,随伴の特徴付けの話をして,テンソルとHomの随伴についてお話します。ここでも,例13. 圏と関手の知識を仮定します。

定義. $E, F \colon C \to D$ を圏の間の関手とする。 $E$ から $F$ への自然変換とは,  $C$ の対象全体  $C_0$ を添字集合とする $D$ の射の族 $(\alpha_X)_{X \in C_0}$ で次の条件を満たすものである。任意の $C$ の射 $f \colon X \to Y$ に対して,次は可換である:
nat-trans
これを, $\alpha \colon E \Rightarrow F$ で表す。

自然変換を絵で表しておきます。
自然変換の図
この定義を,前回の随伴の自然性と結びつけるために,2変数関手を導入します。そのために2つの圏の直積圏を定義します。

定義. $C$ と $D$ を2つの圏とするとき,それらの直積圏 $C \times D$ を次で定義する。
(対象) $(C \times D)_0 := C_0 \times D_0$. つまり,$C\times D$ の対象は,
 $(X, Y)$  $(X \in C_0, Y \in D_0)$
の全体。
(射) $(X, Y), (X', Y') \in (C\times D)_0$ とするとき,
$(C \times D)((X,Y), (X', Y')):= C(X,X') \times D(Y,Y')$。
(合成) $(f,g) \colon (X, Y) \to (X', Y')$ と $(f',g') \colon (X', Y') \to (X'', Y'')$ を射とするとき,
$(f',g')(f,g):= (f'f, g'g)$。
この合成のもとで,$(X, Y)$ の恒等射は, $\mathrm{id}_{(X,Y)} = (\mathrm{id}_X, \mathrm{id}_Y)$ となる。
直積圏

上で話していた2変数関手というのは,直積圏からの関手のことです。

定義. $C$ を圏とするとき,その反転圏 $C^{\mathrm{op}}$ を次で定義する。
(対象) $(C^{\mathrm{op}})_0 := C_0 $。
(射) $X,Y \in (C^{\mathrm{op}})_0$ とするとき, $(C^{\mathrm{op}})(X, Y):= C(Y,X)$。
(合成) $g \colon Z \to Y$ と $f \colon Y \to X$ を $C^{\mathrm{op}}$ の射とするとき, $f\circ g:= gf$。

つまり,$C$ の反転圏 $C^{\mathrm{op}}$ とは,$C$ の射の向きを全部逆にして得られる圏のことです。そのとき,合成の順序も逆になります。
反転圏


例. $C$ を圏とするとき,2変数関手
$C(-,?) \colon C^{\mathrm{op}} \times C \to \mathbf{Set}$
を次で定義する。
(対象) $(X, Y) \in C^{\mathrm{op}} \times C$ とするとき,
$C(-,?)(X,Y):= C(X, Y)$.
(射) $(f,g) \colon (X, Y) \to (X', Y')$ を $C^{\mathrm{op}} \times C$ の射とするとき,つまり $f \colon X' \to X$, $g \colon Y \to Y$ を $C$ の射とするとき,
$C(-, ?)(f, g):= C(f, g) \colon C(X, Y) \to C(X', Y')$
とする。ただし,任意の $h \in C(X, Y)$ に対して,
$C(f, g)(h):= ghf$.
両側加群としての圏
注意.  2変数関手 $C(-,?)$ の第1変数には $C^{\mathrm{op}}$ の対象,射が入り,第2変数には$C$ の対象,射が入ります。このことを,第1変数については反変(射の向きが変わる),第2変数については共変と言い表します。

 以上で随伴の自然性を説明する準備が整いました。まず,随伴の定義を復習します。
定義. $L \colon C \to D$ と $R \colon D \to C$ を圏の間の関手とする。$L$ が $R$ の左随伴($R$ が $L$ の右随伴)であるとは,すべての $X \in C_0$, $Y \in D_0$ に対して自然な同型
$\omega_{X,Y} \colon D(L(X), Y) \to C(X, R(Y))$
が存在することである。

上の用語を使ってこのことを正確に書くと,2つの関手
$D(L(-), ?), C(-, R(?)) \colon C^{\mathrm{op}} \times D \to \mathbf{Set}$
の間の自然変換
$\omega:= (\omega_{X,Y})_{(X, Y) \in (C^{\mathrm{op}} \times D)_0} \colon D(L(-), ?) \to C(-, R(?))$
で,各 $\omega_{X,Y}$ が同型になっているようなものが存在する,ということです。実際,この自然変換の条件を可換図式で描くと, $f \colon X' \to X$, $g \colon Y \to Y$ をそれぞれ $C$, $D$ の射とするとき,
naturality-of-omega
となります。これは,前回の定義で与えたものと同じ図式になります。

 次回は,随伴が存在することは,unit, counit という自然変換が存在することと同値であることを説明します。その際,学部の範囲から出るかもしれませんが,string diagramも紹介しておきます。これを使うと,自然変換の計算が,動く絵として見えるようになります。お楽しみに。
プロフィール

rhideto(リデート)

ギャラリー
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23 (3)解答例続き2(圏論的取り扱い)
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23解答例続き1(冪等元全体)
  • Q&Aコーナー Q3. 問 2.2.15の解答
1日1click↓お願いします
数学 ブログランキングへ
読者登録
LINE読者登録QRコード
導入で動機を重視し内容を箇条書きした線形代数の本
楽天市場
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

  • ライブドアブログ