rhidetoのblog

数学に現れる定義,定理,証明を理解するために,これまでいろいろと考えてきたことを主に書いていこうと思います。「数学を絵で理解しよう」

2013年07月

例24. テンソル積 後半

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 例19から前回の例22までの準備のもとで,テンソルとHomの随伴についてお話しています。前回は,ベクトル空間のテンソル積を定義し,その普遍性についてお話しました。今回は,その基本的な性質を調べ,環の上の加群のテンソル積についてお話しします。これらの準備のもとで,次回はいよいよテンソルとHomの随伴についてお話しする予定です。まず次の性質から始めます。

定理 1. $K$ を体とし, $V$ を $K$ 上のベクトル空間とする。このとき,次の同型がなりたつ:
$K \otimes_K V \cong V$,   $V \otimes_K K \cong V$.

証明. 線形写像 $K \otimes_K V \to V$ を次のように定義します。テンソル積の普遍性を用いるため,まず双線形写像 $f \colon K \times V \to V$ を,
$f(k, v):= kv$   ($k \in K, v \in V$)
で定義します。
(1) ベクトル空間の定義から,これは確かに双線形写像になっていることが分かります。
すると,テンソル積の普遍性から $f$ は,
$\hat{f}(k \otimes v) = f(k, v) = kv$
となる線形写像 $\hat{f} \colon K \otimes_K V \to V$ を導きます。
 これが同型写像であることを示します。そのために,その逆写像を作ります。写像 $g \colon V \to K \otimes V$ を次で定義します:
$g(v):= 1 \otimes v$   $(v \in V)$.
(2) テンソル積の計算規則 (a$_2$), (b$_2$) から,これが線形写像となっていることが分かります。$\hat{f}$ と $g$ が互いに逆写像になっていることを確かめます。
 任意の $k \in K, v \in V$ に対して,
$(g\circ \hat{f})(k \otimes v) = g(kv) = 1 \otimes (kv)$
$= k(1 \otimes v) = (k\cdot 1) \otimes v = k \otimes v$.
テンソル積の定義の性質 (T1) より, $K \otimes_K V$ のすべての元は, $k \otimes v$ の形の元の有限個の和として表されていますので,上の式から,
$(g\circ \hat{f})(x) = x$   ($x \in K \otimes_K V$).
したがって, $g\circ \hat{f} = \mathrm{id}_{K\otimes_K V}$ となります。
 逆に,任意の $v \in V$ に対して,
$(\hat{f} \circ g)(v) = \hat{f}(1 \otimes v) = 1\cdot v = v$.
したがって, $\hat{f} \circ g = \mathrm{id}_V$ となります。
以上より, $\hat{f}$ が同型であることが分かりました。
(3) 残りの同型も同様にして確かめられます。(あるいは次の定理を上の同型に適用しても得られます。)  □

練習問題 1. 上の (1), (2), (3) を確かめてください。

例. ここで前回述べた式
$\mathbb{R}m \otimes_{\mathbb{R}} \mathbb{R}m \cong \mathbb{R}m^2$
が成り立つことを説明しておきます。$\mathbb{R}m$ も $\mathbb{R}m^2$ も $\mathbb{R}$ ベクトル空間として1次元ですので, $\mathbb{R}m \cong \mathbb{R} \cong \mathbb{R}m^2$。ですから,上の式を示すには,
$\mathbb{R} \otimes_{\mathbb{R}} \mathbb{R} \cong \mathbb{R}$
を示せばいいのですが,これは定理で $K = V = \mathbb{R}$ としたものになっています。
 もっと詳しくいうと,上の証明での $\hat{f}$ の構成をみると,対応
$ a\, m \otimes b\, m \mapsto (ab)\, m^2$
が同型を与えていることが分かります。 □

もうひとつ基本的な定理を挙げておきます。

定理 2. $K$ を体とし, $V, W$ を $K$ 上のベクトル空間とする。このとき,次の同型が成り立つ:
$V \otimes_K W \cong W \otimes_K V$.

証明. 証明の方針は上と同じです。まず,双線形写像 $f \colon V \times W \to W \otimes_K V$ を次で定義します。
$f(v, w):= w \otimes v$   ($v \in V, w \in W$).
(4) テンソル積の計算規則から,これは双線形写像になっています。
すると,テンソル積の普遍性から, $f$ は線形写像
$\hat{f} \colon V \otimes_K W \to W \otimes_K V$
$\hat{f}(v \otimes w) = w \otimes v$,  ($v \in V, w \in W)$
を導きます。全く同様にして,双線形写像
$g \colon W \times V \to V \otimes_K W$, $g(w, v):= v \otimes w$   ($v \in V, w \in W$)
は,線形写像
$\hat{g} \colon W \otimes_K V \to V \otimes_K W$,
$\hat{g}(w \otimes v) = v \otimes w$,  ($v \in V, w \in W$)
を導きます。
(5) このとき,$\hat{f}$ と $\hat{g}$ は互いに逆写像になっていることは明らかです。
以上より, $\hat{f}$ は同型写像になり,求める同型が得られます。  □

練習問題 2. 上の (4), (5) を確かめてください。

上の同型はすべて自然な同型になっています。あとでもっと詳しく説明します。次に,ベクトル空間を1つ固定して,テンソル積による関手を定義します。

テンソル積関手

$K$ を体とし,$K$ ベクトル空間とそれらの間の線形写像全体のなす$\mathbb{Z}$-圏 (例13参照) を Mod $K$ で表します。

定義. $U$ を $K$ ベクトル空間とするとき,関手
$U \otimes_K ? \colon \mathrm{Mod}\, K \to \mathrm{Mod}\, K$
を次で定義する:
$V \in (\mathrm{Mod}\, K)_0$ に対して, $(U \otimes_K ?)(V):= U \otimes_K V$,
$f \colon V \to W$ in $\mathrm{Mod}\, K$ に対して,  $(U \otimes_K ?)(f):= U \otimes_K f$ は線形写像
$U \otimes_K f\colon U \otimes_K V \to U \otimes_K W$
$(U \otimes_K f)(u \otimes v):= u \otimes f(v)$,   ($u \in U, v \in V$)
である。

注意. $U \otimes_K V$ の任意の元 $x$ は, $u \otimes v$,  ($u \in U, v \in V$) という形の元の有限個の和 $x = \sum_{i=1}^n u_i\otimes v_i$ として表されていますから, $x$ は
$(U \otimes_K f)(x) = \sum_{i=1}^n u_i\otimes f(v_i)$
に移されます。しかし,$x$ をこのような和の形に表す方法は一意的とは限りませんので,これで矛盾なく写像が定義されているかどうかは確かめなければなりません。これを確かめるのが次の問 (1) です。

練習問題 3. (1) 上のように $U \otimes_K f$ が定義できることを,テンソル積の普遍性を用いて示してください。
(2) $U \otimes_K ?$ が関手であることを示してください。
(3) $U \otimes_K ?$  はさらに $\mathbb{Z}$-関手 (例13参照) になっていることを示してください。(ヒント:
$(U \otimes_K (f + f'))(u \otimes v) = u \otimes (f+f')(v)$
$= u \otimes (f(v)+f'(v)) =\cdots$ )

最後にもう1つの性質をあげておきます。

定理 3. $F \colon \mathrm{Mod}\, K \to \mathrm{Mod}\, K$ を $\mathbb{Z}$-関手とすると,任意の $V_1, V_2 \in (\mathrm{Mod}\, K)_0$ に対して,次の同型が成り立つ:
$F(V_1 \oplus V_2) \cong F(V_1) \oplus F(V_2)$.

このことから直ちに,次が得られます。

系.
$K$ を体とし, $U, V_1, V_2$ を $K$ 上のベクトル空間とする。このとき,次の同型が成り立つ:
$U \otimes_K (V_1 \oplus V_2)  \cong (U \otimes_K V_1) \oplus (U \otimes_K V_2)$.

定理 3の証明. 直和 $V \cong V_1 \oplus V_2$ を圏論的に特徴付けると次のようになります。
($*$) 4つの線形写像 $p_i \colon V_i \to V$, $q_i \colon V \to V_i$ ($i = 1, 2$) を,次の条件をみたすようにとることができる:
$q_i p_j = 0$ ($i \ne j$), $q_i p_i = \mathrm{id}_{V_i}$ ($i =1, 2$),
$p_1 q_1 + p_2 q_2 = \mathrm{id}_V$ .
直和圏論的

すると,$F$ は$\mathbb{Z}$-関手なので,4つの線形写像 $F(p_i) \colon F(V_i) \to F(V)$, $F(q_i) \colon F(V) \to F(V_i)$ ($i = 1, 2$) は次をみたします:
$F(q_i)F(p_j) = 0$ ($i \ne j$), $F(q_i)F(p_i) = \mathrm{id}_{F(V_i)}$ ($i =1, 2$),
$F(p_1)F(q_1) + F(p_2)F(q_2) = \mathrm{id}_{F(V)}$ .
このことから,
$F(V) \cong F(V_1) \oplus F(V_2)$
が得られます。他方,もとの式から
$F(V) \cong F(V_1 \oplus V_2)$
ですので,この2つから求める式が得られます。

演習問題. $V \cong V_1 \oplus V_2$ ということと,上の性質 ($*$) とが同値であることを示してください。

例. $\mathbb{R}^m \otimes_{\mathbb{R}} \mathbb{R}^n \cong \mathbb{R}^{mn}$

練習問題 4. 上の例を証明してください。

一般の環の場合(変更[2013-08-04])
ここから先の内容は,例26に移動して,一般の場合を1つにまとめました。

次回は,テンソル積とHomの随伴についてお話します。お楽しみに。

例23. テンソル積 (tensor products) 前半

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 例19から前回の例22までの準備のもとで,テンソルとHomの随伴についてお話しします。これは集合の指数法則(例18, 例18への追加)で紹介した随伴を線形化したものと見ることができます(理解の成長を参照)。それでは,まずテンソル積の定義から。

$K$ を体とし, $V, W$ を $K$ 上のベクトル空間とします。$V$ と $W$ からあるベクトル空間 $V \otimes_K W$ を作り,そのなかで,次のような条件と計算規則(掛け算の類似)が成り立つようにすることを考えます(ベクトルの掛け算ができるような空間を作りたいということです)。
(T1) その空間の元は,すべて $v \otimes w$, $(v \in V, w \in W)$という形の元の有限個の和で与えられる。
(T2) $v, v' \in V,w, w' \in W, a \in K$ のとき,
 (a$_1$) $(v + v') \otimes w = v \otimes w + v' \otimes w$,
 (a$_2$) $v \otimes (w + w') = v \otimes w + v \otimes w'$,
 (b$_1$) $(av) \otimes w = a (v \otimes w)$,
 (b$_2$) $v \otimes (aw) = a(v \otimes w)$.

例えば,$K = \mathbb{R}$ とし $V, W$ をともに $m$ (メートル) を基底とする距離のなすベクトル空間 $\mathbb{R}m$ とするとき,縦 $a\, m$, 横 $b\, m$ の長方形の面積を $a\, m \otimes b\, m$ で表すと, $m \otimes m =:m^2$ (平方メートル)を基底とする面積のなすベクトル空間 $\mathbb{R} m^2$ は上の条件を満たします。例えば, $(3m + 2m)\otimes 4m = 20 m^2 = 3m \otimes 4m + 2m \otimes 4m$ 。(あとで分かるように, $\mathbb{R}m \otimes_{\mathbb{R}} \mathbb{R}m \cong \mathbb{R}m^2$ が成り立ちます。)

このようなものを人工的に作る方法として,元の間に何も関係を持たない群を作り,それを,持たせたい関係から作られる正規部分群で割るという方法を用いることができます。例えば,位数3の巡回群は,1つの元で生成される自由群 $\langle a \rangle:= \{a^n \mid n \in \mathbb{Z}\}$ を,持たせたい関係 $a^3 = 1$ に対応する正規部分群 $I:= \langle a^3 \rangle:= \{ (a^3)^m \mid m \in \mathbb{Z}\}$ で割った剰余群 $\langle a \rangle/\langle a^3 \rangle =: \langle a \mid a^3\rangle$ として作ることができます。このとき $\overline{a}:= aI$ とおくと,$\overline{a}^3 = \overline{a^3} = I = \overline{1}$ となって,関係 $\overline{a}^3 = \overline{1}$ がみたされます。

ベクトル空間は加法群で,単位元がゼロ 0 であり,すべての部分空間が正規部分群であることを考えると,上の条件を満たすようなベクトル空間は次のようにして作ることができます。

定義. (ベクトル空間の場合)$K$ を体とし, $V, W$ を $K$ 上のベクトル空間とする。 このとき, $V$ と $W$ のテンソル積 $V \otimes_K W$ とは,次のように定義されるベクトル空間である。まず,直積集合 $V \times W$ を基底とするベクトル空間 $\displaystyle\bigoplus_{(v, w) \in V \times W}K(v,w)$ を $F(V \times W)$ とおく。これを用いて
$V \otimes_K W:= F(V \times W)/I$
と定義する。ただし, $I$ は次の集合で生成される $F(V \times W)$ の部分空間である:
$\{(v + v', w) - (v, w) - (v', w),$
$(v, w + w') - (v, w) - (v, w'),$
$(av, w) - a(v, w),$
$(v, aw) - a(v, w) \mid $
$v, v' \in V, w, w' \in W, a \in K\}$.
また,各 $(v, w) \in V \times W$に対して,
$v \otimes w:= (v, w) + I \in V \otimes_K W$
とおく。また写像,$\otimes_K \colon V \times W \to V \otimes W$ を,
$\otimes_K(v, w):= v \otimes w$ ($v \in V, w \in W$)
で定義する。

命題. 上で定義したテンソル積 $V \otimes_K W$ は性質(T1), (T2)をもつ。したがって特に,写像 $\otimes_K$ は $K$ 双線形写像になっている。

証明. (T2) の証明。
(a$_1$) (左辺) $-$ (右辺) $= (v + v', w) - (v, w) - (v', w) + I = I$ (これは $V \otimes_K W$ の零元)。ゆえに,(左辺) $=$ (右辺)。
残りの3つの式も全く同様にして示すことができます。
(T1) の証明。
$V \otimes_K W$ の定義より,そのどんな元も $F(V \times W)$ のある元の類として,
$\sum_{i=1}^n t_i (v_i, w_i) + I$, ($t_i \in K, v_i \in V, w_i \in W$)
の形に表されますが,これは,(b$_1$) より,
$\sum_{i=1}^n (t_i v_i) \otimes w_i$
に等しくなります。 □

練習問題 1. (T2)の残り3つの式を証明してください。

こうして作ったものは,次のような普遍性(あまねく存在するという性質)をもちます。

定理. 任意の$K$ 双線形写像 $f \colon V \times W \to U$ に対して,$K$ 線形写像 $\hat{f} \colon V \otimes_K W \to U$ で, $f = \hat{f} \circ \otimes_K$ をみたすものがただ1つ存在する。
universality

解説. つまり, $V \times W$ からの $K$ 双線形写像は,必ず $\otimes_K$ が現れるように分解でき,その分解の仕方は一意的ということです。これがテンソル積の圏論的な特徴付けです。テンソル積の圏論的性質は,原理的にこの定理からすべて導かれます。

証明. (1) $V \times W$ は $F(V \times W)$ の基底であり,基底からの写像は一意的に線形写像に拡張されるので [実は,ここにも随伴関手や普遍性の話が入っています], $f$ は$K$ 線形写像 $\bar{f} \colon F(V \times W) \to U$ に一意的に拡張されます。可換図式で描くと:
proof-universality
[ここで $g$ は,$g(v, w):= 1(v,w) = (v,w)$, ($v \in V, w \in W$) で定義される写像。]
対応を具体的に書くと,
$\bar{f}(\sum_{i=1}^n t_i(v_i, w_i)):= \sum_{i=1}^n t_if(v_i, w_i)$,  ($t_i \in K, v_i \in V, w_i \in W$)
となります。特に,$n=1, t_1 = 1$ のときをみると,$v \in V, w \in W$ のとき,
$\bar{f}(v, w) = f(v, w)$
となっています。
(2) ここで $f$ は $K$ 双線形なので, $I$ の生成元はすべて $\bar{f}$ で 0 に移されます。例えば,
$\bar{f}((v + v', w) - (v, w) - (v', w))$
 $= f(v + v', w) - f(v, w) - f(v', w) = 0$.
したがって,
$\bar{f}(I) =0$
すると, $\bar{f}$ から $K$ 線形写像 $\hat{f} \colon F(V \times W)/I (=V \otimes_K W) \to U$ が導かれます。対応を具体的に書くと,
$\hat{f}(x+I):= \bar{f}(x)$,  ($x \in F(V\times W)$)
となります。特に, $x = (v, w) \in V \times W$ のとき,
$\hat{f}(v \otimes w) = \bar{f}(v, w) = f(v, w)$.
[実際,$x, x' \in F(V\times W)$ をとって $x+I = x' +I$ とすると, $\bar{f}(x) - \bar{f}(x') = \bar{f}(x-x') \in \bar{f}(I) = 0$ なので $\bar{f}(x) = \bar{f}(x')$。つまりこの写像 $\hat{f}$ は類 $x+I$ の代表元 $x, x'$ の取り方によらず決まります。 $\hat{f}$ が線形であることは, $\bar{f}$ の線形性から直ちに出ます。実は,この議論は,準同型定理の証明で用いているもので,これを用いると,余核の普遍性が得られます。]
可換図式と短完全列で全体の状況を描くと:
proof2-universality

($\otimes_K$ の定義から, $\otimes_K = \pi \circ g$ となっていることに注意。ただし, $\pi \colon F(V\times W) \to V \otimes_K W$ は標準全型。)
(3) このとき, $f = \hat{f} \circ \otimes_K$ が成り立っています[上の可換図式からも明らか]。実際,任意の $(v, w) \in V\times W$ に対して,
 $(\hat{f} \circ \otimes_K)(v, w) = \hat{f} (v \otimes w) = f(v, w)$.
(4) $\hat{f}$ の一意性は,性質 (T1) から直ちに従います。つまり,他にも同様に式 $f = f' \circ \otimes_K$ をみたすような $f'$ があったとすると,$f' \circ \otimes_K = \hat{f} \circ \otimes_K$ から
$f'(v\otimes w) = \hat{f}(v \otimes w)$,  ($v \in V, w \in W$)
となり, (T1) から $V \otimes_K W$ の任意の元 $x$ は $x = \sum_{i=1}^n (v_i, w_i)$ の形なので,
$f'(x) = f'(\sum_{i=1}^n (v_i, w_i)) = \sum_{i=1}^n f'(v_i, w_i) = \sum_{i=1}^n \hat{f}(v_i, w_i) = \hat{f}(x)$.
このことから $f' = \hat{f}$ が分かります。  □

この普遍性から,上の $V \otimes_K W$ と同じ性質をもつものは,すべて本質的に $V \otimes_K W$ と同型であることが標準的な証明で示されます。つまり次が成り立ちます。

系.  $K$ 双線形写像 $t \colon V \times_K W \to T$ が上の普遍性を持つならば
(すなわち,任意の $K$ 双線形写像 $f \colon V \times W \to U$ に対して,$K$ 線形写像 $\hat{f} \colon T \to U$ で, $f = \hat{f} \circ t$ をみたすものがただ1つ存在するならば),
universality2

次の図式を可換にするような同型 $h \colon V \otimes_K W \to T$ が (ただ1つ) 存在する。
uniqueness

証明. まず $\otimes_K$ の普遍性からこのような $h$ を, $h:= \hat{t}$ として構成できます。
$t = h \circ \otimes_K$.
次に $t$ の普遍性から,上の図で $h$ の向きを逆にした線形写像 $h'$ が, $h':= \widehat{\otimes_K}$ として構成できます。
$\otimes_K = h' \circ t$.
この2式から $t$ を消去すると,
$\otimes_K =  h' \circ h \circ \otimes_K$.
uniqueness2
他にも, $h' \circ h$ を恒等写像に取り替えた,次の式も成り立っています。
$\otimes_K = \mathrm{id}_{V\otimes_K W} \circ \otimes_K$.
この2つの式を比べると, $\otimes_K$ の普遍性(で述べられている一意性)から $h' \circ h = \mathrm{id}_{V\otimes_K W}$ となります。
上の2式から $\otimes_K$ を消去した式から始めて,全く同様にして,  $h \circ h' = \mathrm{id}_{T}$ も示されます。したがって, $h$ は同型になります。なお, $h$ の一意性は $\otimes_K$ の普遍性から明らかです。  □

練習問題 2.  上で $h \circ h' = \mathrm{id}_{T}$ を証明してください。

次回は,テンソル積の基本性質をその普遍性から導き,ベクトル空間での議論を,環とその上の加群に拡張します。これらの準備のもとで,テンソル積とHomの随伴についてお話しします。お楽しみに。
(随伴のお話が1段落したら,線形写像を図で表す方法と双対空間を導入し,その準備のもとで,もう1つ別のテンソル積の構成法を与えて[物理で扱われているテンソルの集合になります],それが今回与えたものと同型であることを,やはり普遍性を用いて示す予定です。)

例22. 随伴のunit, counit後半

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 今回は,随伴関手をunit, counitで特徴付けるお話の続きです。前回は,随伴関手の対から,zigzag等式をみたす1組の自然変換unit, counitが構成されることを観察しました。今回は逆に,そのような自然変換の対から随伴が導かれることを観察します。ここでも,例13. 圏と関手の知識を仮定します。

定理. 圏の間の関手 $L \colon \mathcal{C} \to \mathcal{D}$ と関手 $R \colon \mathcal{D} \to \mathcal{C}$ に対して,性質
$\mathrm{id}_L = (\varepsilon L)(L\eta), \mathrm{id}_R = (R\varepsilon)(\eta R)$
をもつ自然変換 $\eta\colon \mathrm{id}_{\mathcal{C}} \Rightarrow RL$ と $\varepsilon \colon LR \Rightarrow \mathrm{id}_{\mathcal{D}}$ が存在すれば,$L$ は $R$ の左随伴関手である。

性質の式を図式で描くと,
zigzag-comm-diag

となり,string diagramで表すと次のようになることを前回説明しました。
string-zigzag
(zigzag型になっているひもを引っ張ってまっすぐにしてもよい,ということを表しています。)この形からこれらの式は,zigzag等式(あるいは蛇の等式)ともよばれたのでした。

証明. $X \in \mathcal{C}$, $Y \in \mathcal{D}$ について自然な同型(集合の圏での同型なので全単射)
$\omega_{X,Y} \colon \mathcal{D}(LX, Y) \to \mathcal{C}(X, RY)$
を構成すれば証明が完成します。
各 $f\colon LX \to Y$ に対して,合成
$X\ \overset{\eta_{X}}{\longrightarrow} \ RLX\ \overset{Rf}{\longrightarrow}\ RY$
を $\omega_{X,Y}(f)$ とおきます:
$\omega_{X,Y}(f):= R(f)\circ \eta_X \in \mathcal{C}(X, RY)$。
これが,全単射であることを証明するために,逆写像を作ります。その候補として,写像
$\omega'_{X,Y} \colon \mathcal{C}(X, RY) \to \mathcal{D}(LX, Y)$
を,各 $g \colon X \to RY$ に対して,合成
$LX\ \overset{Lg}{\longrightarrow} \ LRY\ \overset{\varepsilon_{Y}}{\longrightarrow}\ Y$
を考え, $\omega'_{X,Y}(g):= \varepsilon_{Y} \circ Lg \in \mathcal{D}(LX, Y)$ で定義します。
(i) $\omega'_{X,Y} \circ \omega_{X,Y} = \mathrm{id}_{\mathcal{D}(LX, Y)}$ が成り立ちます。
実際, $f \in \mathcal{D}(LX, Y)$ とするとき,次の可換図式を考えればこのことがわかります。
adjunction-from-unit-counit
左の三角の可換性は定理の仮定から,右の四角の可換性は,$\varepsilon$ の自然性から出てきます。式で書くと,
$\omega'_{X,Y} \circ \omega_{X,Y}(f) = \omega'_{X,Y}\circ L(Rf\circ \eta_X) = \varepsilon_Y \circ LRf \circ L(\eta_X) = f\circ \varepsilon_{LX} \circ L(\eta_X) = f$.
(ii) 同様にして,$\omega_{X,Y} \circ \omega'_{X,Y} = \mathrm{id}_{\mathcal{C}(X, RY)}$ が成り立ちます。以上,(i), (ii) により,各 $\omega_{X,Y}$ が全単射であることが確かめられました。
 次に,こうして得られた, $\omega:= (\omega_{X,Y})_{X \in \mathcal{C}_0, Y \in \mathcal{D}_0}$ が $X, Y$ について自然であることを確かめれば,証明は終わります。それには,各 $f \colon X' \to X$ in $\mathcal{C}$ と $g \colon Y \to Y'$, $\alpha \colon LX \to Y$ in $\mathcal{D}$について次の式が成り立つことを示せばよいということを,例19. 随伴関手のところで説明しました。
$$\displaystyle\frac{LX'\ \overset{Lf}{\longrightarrow}\ LX\ \overset{\alpha}{\longrightarrow}\ Y\ \overset{g}{\longrightarrow}\ Y'}{X'\ \overset{f}{\longrightarrow} \ X\ \overset{\omega(\alpha)}{\longrightarrow}\ RY\ \overset{Rg}{\longrightarrow} \ RY'}(\omega)$$
1行目を $R$ で移すと,
$$RLX'\ \overset{RLf}{\longrightarrow}\ RLX\ \overset{R\alpha}{\longrightarrow}\ RY\ \overset{Rg}{\longrightarrow}\ RY'$$
これに $\eta_{X'}$ を合成して,次の可換図式を考えます。
naturality
左の四角は, $\eta$ の自然性から,右の三角は, $\omega$ の定義から可換であることが分かります。
すると, $\omega(g \circ \alpha \circ Lf) =  Rg \circ R\alpha \circ RLf \circ \eta_{X'} = Rg \circ \omega(\alpha) \circ f$.
以上で, $\omega$ の自然性も示され,証明が完成しました。 □

練習問題 1. 上の(ii)を証明してください。

練習問題 2. 前回の構成 $F \colon \omega \mapsto (\eta, \varepsilon)$ と今回の構成 $G \colon (\eta, \varepsilon) \mapsto \omega$ は,互いに逆になっています。このことを確かめてください。以下に,ヒントとなる図式を描いておきますので参考にしてください。
$GF(\omega) = \omega$:
$$\displaystyle\frac{LX\ \overset{\mathrm{id}_{LX}}{\longrightarrow}\ LX\ \overset{f}{\longrightarrow}\ Y}{X\ \overset{\eta_X}{\longrightarrow} \ RLX\ \overset{Rf}{\longrightarrow}\ RY}(\omega)$$
$FG(\eta, \varepsilon) = (\eta, \varepsilon)$:
$\omega':= G(\eta, \varepsilon)$ で $\mathrm{id}_{LX} LX \to LX$ を移すと,$X\ \overset{\eta_X}{\longrightarrow} \ RLX\ \overset{R(\mathrm{id}_{LX})}{\longrightarrow}\ RLX$.

例. $\mathcal{C} = \mathcal{D} = \mathbf{Set}$, $Y \in \mathbf{Set}_0$ として,$L = Y \times ?$, $R = \mathrm{Map}(Y, ?)$ のとき,$L$ は $R$ の左随伴でしたが,この随伴の unit, counit を求めると,次のようになります。各 $Z \in \mathbf{Set}_0$ に対して,
$\eta_Z \colon Z \to RLZ = \mathrm{Map}(Y, Y \times Z)$, $(\eta_Z(z))(y):= (y, z)$,
$\varepsilon_X \colon Y \times \mathrm{Map}(Y, X) = LRX \to X$, $\varepsilon_X(y, f):= f(y)$.

練習問題 3. 上のことを確かめてください。例18. 集合の指数法則参照。
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  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23解答例続き1(冪等元全体)
  • Q&Aコーナー Q3. 問 2.2.15の解答
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