rhidetoのblog

数学に現れる定義,定理,証明を理解するために,これまでいろいろと考えてきたことを主に書いていこうと思います。「数学を絵で理解しよう」

2019年12月

Q&Aコーナー Q3. 問 2.2.15の解答

第2章(特に2.3節)ではページ数が足りなくなったために,説明を問に替えて,最低限,全体の流れが分かるようにしておきました。その説明を追加するために,そのような問に解答を与えておきます。
今回は,まず問 2.2.15の解答です.

問 2.2.15. $A$ を多元環 $M \in (\mathrm{Mod}\ A)_0$ とする.このとき次が同値であることを示せ.
(1) $\mathrm{Mod}\ A$ において $M \cong M_1 \amalg M_2$ ならば,$M_1 = 0$ または $M_2 = 0$ となる.
(2) $M_1, M_2 \le M,\ M = M_1 \oplus M_2$ ならば,$M_1 = 0$ または $M_2 = 0$ となる.

解答例.
(1) $\Rightarrow$ (2).  (1)が成り立つとする.このとき,(2)を示す.
そのために,加群$M$とその部分加群$M_1, M_2$に対して,$M = M_1 \oplus M_2$となったと仮定する.このことは,準同型
$$\Sigma \colon M_1 \amalg M_2 \to M, \quad (m_1, m_2) \mapsto m_1 + m_2$$が同型になることと同値であることに注意する.したがって,$M \cong M_1 \amalg M_2$が成り立っている.すると(1)より,$M_1 = 0$ または $M_2 = 0$となり,(2)が成り立つ.

(2) $\Rightarrow$ (1).  (2)が成り立つとする.このとき,(1)を示す.
そのために,同型 $f\colon L_1 \amalg L_2 \to M$が存在すると仮定する.
各$i=1,2$に対して,$\sigma_i \colon L_i \to L_1 \amalg L_2$を標準入射とし,
$f_i:= f \circ \sigma_i$とおき,$M_i:= \mathrm{Im}\  f_i$とおけば,$f_i$から同型
$f'_i\colon L_i \to M_i$が導かれる.また,
f_1+f_2
も同型となり,可換図式
comm-diag
が得られる (($\because$) $f(x_1, x_2) = f_1(x_1) + f(x_2)\ (x_1 \in L_1, x_2 \in L_2)$).
よって,この $\Sigma$ も同型となり,上の注意から$M = M_1 \oplus M_2$ となる.したがって(2)より,$M_1 = 0$ または $M_2 = 0$.  ここで $f'_1, f'_2$ は同型であるから,$L_1 = 0$ または $L_2 = 0$.   □

Q&Aコーナー Q2. 普遍性と全単射

Q2. 注意 1.1.26で,積の普遍性が,写像(1.4)の全単射性と同値になるのはどうしてですか.

A2. まず,全単射の特徴付けの復習から始めます.(1), (2)は定義から明らかでしょう.

命題. $F \colon X \to Y$を写像とする.このとき,次が成り立つ.
(1) $F$ が全射であることは,各 $y \in Y$ の逆像 $F^{-1}(y)$ が1個以上の元を持つことと同値である.
(2) $F$ が単射であることは,各 $y \in Y$ の逆像 $F^{-1}(y)$ が1個以下の元を持つことと同値である.
したがって,
(3) $F$ が全単射であることは,各 $y \in Y$ の逆像 $F^{-1}(y)$ がちょうど1個の元を持つことと同値である.

さて,積 $(\pi_i \colon x \to x_i)_{i \in I}$ の普遍性とは,任意の $y \in \mathcal{C}_0$ と任意の $\mathcal{C}$ の射の族 $(\rho_i \colon y \to x_i)_{i\in I}$ に対して,図式
universality-prod
がすべての $i\in I$ に対して可換になる (つまり $(\pi_i \circ f)_{i\in I} = (\rho_i)_{i \in I}$ となる) ような $\mathcal{C}$ の射 $f \colon y \to x$ がただ1つ存在することでした.つまり写像$$F \colon \mathcal{C}(y, x) \to \prod_{i\in I}\mathcal{C}(y, x_i), \quad f \mapsto (\pi_i \circ f)_{i\in I}$$を考えると,各 $(\rho_i)_{i\in I} \in \prod_{i\in I}\mathcal{C}(y, x_i)$ の逆像がちょうど1個の元 $f$ をもつということです.

 したがって,上の命題を適用すると,積 $(\pi_i \colon x \to x_i)_{i \in I}$ の普遍性は,任意の $y \in \mathcal{C}_0$ に対して,この$F$ が全単射であることと同値になります.

Q&Aコーナー Q1. 前順序集合

Q1. p.5, 例 1.1.17: 前順序集合とは何ですか.

A1. 集合$S$上の関係 $\le$ が次の2つの条件を満たすとき,これを $S$ 上の前順序とよび,組 $(S, \le)$ を前順序集合とよびます.

(反射律) $a \le a \ (a \in S)$.
(推移律) $a \le b, b \le c \implies a \le c \ (a, b, c \in S)$.

本の説明のように,これを圏と見なせるのは,(反射律)が恒等射の存在に対応し,(推移律)が合成の存在に対応することによります.

ちなみに,関係 $\le$ がさらに次を満たすとき,$\le$ は $S$ 上の順序あるいは半順序,$(S, \le)$ は順序集合あるいは半順序集合とよばれるのでした:

(反対称律) $a \le b, b \le a \implies a = b \ (a, b \in S)$.

例 1.1.17の方法で $S$ を圏と見たものを $\mathcal{C}$とおきます.このとき $\mathcal{C}_0 = S$ であり,この条件は,$\mathcal{C}$ の言葉に翻訳すると次のようになります(理由については下を参照):

(*)  $a \cong b \implies a = b \ (a, b \in \mathcal{C}_0)$.

したがって,この圏では,異なる対象は非同型になっています。このような圏は骨格的(または基本的)とよばれます(定義 1.4.7参照).つまり,反対称律は骨格的であることに対応し,半順序集合は骨格的な圏と見られます.

なお,読みが同じ全順序集合と間違えないようにしてください。こちらは,任意の $a, b \in S$ に対して,$a \le b$ または $b \le a$ が成り立つような半順序集合のことです.

練習問題. $a, b \in \mathcal{C}_0$とする.このとき $\mathcal{C}$ において次の2つが同値であることを示せ:
(1) $a \le b, b \le a$;
(2) $a \cong b$.
((2)については定義 1.4.1参照.)このことから,(反対称律)と(*)とが同値になることが分かります.


例31. 米田の補題

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 2013年9月以来,久しぶりにブログを更新します。1記事を書くのに3時間以上掛かかります。その年4月から9月までは在外研究中で時間に余裕があり,何とかブログが継続できていました。しかし,帰国後は余裕がなくなり止まっていました。あと一つ米田の補題について記事を書いておきたいとは思っていたのですが。一旦書かなくなると,もうどのように記事を書いて投稿するのかも忘れてしまい,ずっと止まっていました。

 しかし最近,本(圏と表現論[2-圏論的被覆理論を中心として], SGCライブラリー 155, サイエンス社)を書き上げましたので,この機会にまたブログを再開し,この本の内容を題材に取り上げるなどして,たまに更新していこうと思います。この本が店頭に並ぶのは約1週間後(2019年12月25日辺り)になります。 (本日(2019-12-17)すでに店頭で販売されていました。早速,正誤表はツイートしておきました。)

 さて,まず今回は,理解の成長の例として,米田の補題を取り上げます。理解の成長というのは,(1) 新しい事柄を,すでに理解していることと関連づけて修得し,(2) それをさらに次の新しいことを理解するための土台とする,ということです。

 基本となる事実として次を取り上げます。

定理 1 (比例と比例定数の1:1対応). 次の全単射が存在する:
\[\alpha\colon \mathrm{Hom}_{\mathbb{R}}(\mathbb{R}, \mathbb{R}) \to \mathbb{R},\quad f \mapsto f(1).\]
逆写像は,$\beta\colon r \mapsto l_r \ (r \in \mathbb{R})$で与えられる。ただし,$l_r$ は $r$ による左移動 $l_r(x):= rx \ (x \in \mathbb{R})$である。

この定理の意味: 比例というのは,1の移り先(これを比例定数と呼びます)で決まってしまうということです。
 この内容は中学で学んだことと思います。証明する必要はないかもしれませんが,以下の基本となるので証明しておきます。

証明. 次の2つを確かめればよい:
\[\left\{\begin{aligned}\beta(\alpha(f)) &= f \ (f \in \mathrm{Hom}_{\mathbb{R}}(\mathbb{R}, \mathbb{R})),&(1)\\ \alpha(\beta(r)) &= r \  (r \in \mathbb{R}).&(2)\end{aligned}\right.\]
(1)の確認: 両辺ともに$\mathrm{Hom}_{\mathbb{R}}(\mathbb{R}, \mathbb{R})$の元なので,任意の$r \in \mathbb{R}$に対して,(左辺)$(r) = $(右辺)$(r)$を示せばよい。
(左辺)$(r) = (\beta(f(1)))(r) = (l_{f(1)})(r) = f(1)r = rf(1) = f(r1) = $(右辺)$(r)$. OK.
(2)の確認: (左辺) $= \alpha(l_r) = l_r(1) = r1 =$ (右辺).  OK. □

 次に,これを基本として理解すると分かりやすい内容として次の定理を取り上げます。

定理 2. $R$を環とし,$e \in R$を冪等元 (つまり $e^2  = e$が成り立つ) とする。また,$M$を右$R$-加群とする。このとき,次のアーベル群の間の同型が存在する:
\[\alpha \colon \mathbb{Hom}_R(eR, M) \to Me,\quad f \mapsto f(e).\]
逆は $\beta \colon m \mapsto l_m\ (m \in Me)$で与えられる。ただし,$l_m$ は $m$ による左移動 $l_m(r):= mr \ (r \in eR)$である。

この定理の意味: $eR$からの準同型は,$e$の移り先で決まってしまうということです。
 $R = \mathbb{R}$, $e = 1$, $M = \mathbb{R}$の場合を考えると,定理 2から定理 1が導かれます。つまり,定理 2は定理 1の一般化になっています。

証明の概略. $\alpha, \beta$がアーベル群の間の準同型であることは容易に確かめられる。これらが互いに逆になっていることは定理 1の場合と同様に確かめられる。 □

系. 定理 2と同じ設定のもとで,上の$\alpha$は環の同型
\[ \alpha \colon \mathrm{Hom}_R(eR, eR) \to eRe\]
を与える。

 いよいよ米田の補題を取り上げます。

定理 3 (米田の補題). $\mathcal{C}$を小圏,$x$を$\mathcal{C}$の対象とする。$\mathbf{Set}$を小集合全体の圏,$F \colon \mathcal{C} \to \mathbf{Set}$を反変関手,$\mathrm{Nat}:= \mathrm{Fun}(\mathcal{C}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set})$を関手圏とする。このとき次の全単射が存在する:
\[\alpha \colon \mathrm{Nat}(\mathcal{C}(\text{-}, x), F) \to F(x), \quad \gamma \mapsto \gamma_x(1_x).\]
逆は $\beta \colon r \mapsto l_r \ (r \in F(x))$で与えられる。ただし,$l_r$ は $l_r(f):= F(f)(r) \ (f \in \mathcal{C}(\text{-}, x))$で定義される。($F$が反変なので,右からの作用の形 $l_r(f):= r\cdot F(f)$ に書けるため,これも $r$ による左移動と呼ぶことができる。)

この定理の意味: 表現関手$\mathcal{C}(\text{-}, x)$からの自然変換は,$1_x$の移り先で決まってしまうということです。

($\mathcal{C}$を$\mathbb{Z}$-線形圏,$\mathbf{Set}$の代わりに小アーベル群全体の圏$\mathbf{Ab}$をとるとき同様の定理 3'が成り立ち,これは定理 2の一般化になります。)

以上3つの定理のアイデアはみんな同じということが分かります。($\mathbb{R}, eR, \mathcal{C}(\text{-},x)$はそれぞれ$1, e, 1_x$で生成される"自由加群"ということです。)
実際,定理 3の証明も以上の証明と同様に与えることができます。

練習問題. 定理 2, 3の証明を与えよ。(上の本の補題 2.3.4と2.5.8参照)
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ギャラリー
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23 (3)解答例続き2(圏論的取り扱い)
  • Q&Aコーナー Q6 問 2.3.23解答例続き1(冪等元全体)
  • Q&Aコーナー Q3. 問 2.2.15の解答
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