まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 例19から例22までの準備のもとで,前回までの2回で,ベクトル空間のテンソル積とその普遍性についてお話し,テンソル積の基本的な性質を調べました。これらの準備のもとで,今回はいよいよテンソル積とHomの随伴についてお話します。以下, $K$ を体とし,ベクトル空間は $K$ 上のベクトル空間とします。(旧versionでは,前回の最後のところで一般の環について書き始めましたが,これらは次回にまとめます。)

定理. ベクトル空間 $U, V, W$ に対して,次の自然な同型が存在する。
$\mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, U) \cong \mathrm{Hom}_K(W, \mathrm{Hom}_K(V, U))$
すなわち,関手
$V \otimes_K ?\colon \mathrm{Mod}\, K \to \mathrm{Mod}\, K$
は関手
$\mathrm{Hom}_K(V, ?)\colon \mathrm{Mod}\, K \to \mathrm{Mod}\, K$
の左随伴である。

これら2つの関手の対応を書いておきます: 線形写像 $f \colon X \to Y$ in $\mathrm{Mod}\, K$ は次の線形写像に移されます。
$V \otimes_K ?$ で:

$V \otimes_K f \colon  V \otimes_K X \to V \otimes_K Y$.
ただし, $(V \otimes_K f)(v \otimes x):= v \otimes f(v)$,   $(v \in V, x \in X)$.

$\mathrm{Hom}_K(V, ?)$ で:

$\mathrm{Hom}_K(V, f)\colon \mathrm{Hom}_K(V, X)  \to \mathrm{Hom}_K(V, Y)$.
ただし, $\mathrm{Hom}_K(V, f)(g):= fg$,   $(g \in \mathrm{Hom}_K(V, X))$.

証明. 直接,同型
$\omega_{W,U} \colon \mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, U) \to \mathrm{Hom}_K(W, \mathrm{Hom}_K(V, U))$
を作ります。簡単に書くために $\phi:= \omega_{W,U}$ とおきます。集合の指数法則のところで話した方法をまねて $\phi$ を次のように定義します。

$[\phi(F)(w)](v):= F(v \otimes w)$,   ($F \in \mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, U), w \in W, v \in V$).

これが同型であることを示すために,その逆写像の候補として $\psi$ を次で定義します。

$\psi\colon \mathrm{Hom}_K(W, \mathrm{Hom}_K(V, U)) \to \mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, U)$,
$\psi(G)(v \otimes w):= [G(w)](v)$,   ($G \in \mathrm{Hom}_K(W, \mathrm{Hom}_K(V, U)), w \in W, v \in V$).
これらの定義は,集合の場合(例18)とそっくりであることに注意してください( $(v, w)$ が $v \otimes w$ に変わっただけです)。
これらが,(a) 線形写像になっていることと,(b) 互いに逆写像になっていることは簡単に確かめられます。また,(c) これらの自然性も集合のときと同様に確かめられます。  □

練習問題 1. (a), (b), (c) を確かめてください。((c)のヒント:例19の練習問題 2)

練習問題 2. この随伴の unit
$\eta \colon \mathrm{id}_{\mathrm{Mod}\,K} \Longrightarrow \mathrm{Hom}_K(V, ?) \circ (V \otimes_K ?)$
と counit
$\varepsilon \colon (V \otimes_K ?)\circ \mathrm{Hom}_K(V, ?) \Longrightarrow \mathrm{id}_{\mathrm{Mod}\,K}$
を作ってください。先にこちらを作って,上の定理を証明することもできます。
(ヒント:
$\mathrm{Hom}_K(V, ?) \circ (V \otimes_K ?) = \mathrm{Hom}_K(V, V \otimes_K ?)$
$(V \otimes_K ?)\circ \mathrm{Hom}_K(V, ?) = V \otimes_K \mathrm{Hom}_K(V, ?)$
なので,各 $X \in (\mathrm{Mod}\, K)_0$ に対して,
$\eta_X \colon X \to \mathrm{Hom}_K(V, V \otimes_K X)$
$\varepsilon_X \colon V \otimes_K \mathrm{Hom}_K(V, X) \to X$
を作ることが問題になります。例22の例が参考になります。例21の定理の証明と同じ一般的な方法で 上の $\phi = \omega_{W,U}$ から作ることもできます。)

注意. (理解の成長)集合の場合と比較してみてください:
集合の場合:集合 $X, Y, Z$ に対して次の自然な同型が存在する。
$\mathrm{Map}(Y \times Z, X) \cong \mathrm{Map}(Z, \mathrm{Map}(Y, X))$
ベクトル空間の場合:ベクトル空間 $U, V, W$ に対して次の自然な同型が存在する。
$\mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, U) \cong \mathrm{Hom}_K(W, \mathrm{Hom}_K(V, U))$

 今回はあまり絵を描きませんでした。今回の話題は絵の例というよりも,すでに知っていることに関係づける例として挙げました。次回は,体上のベクトル空間で話してきたこれまでのことを,一般の環の上の加群に拡張しておきます。

 今回は以上です。楽しんでもらえたでしょうか。よければ,このブログをともだちにもすすめてください。
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