まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 前回までで,テンソル積とHomの随伴についてのお話は1段落しましたので,例23で予告していたように,今回は,線形写像を図で表す方法と双対空間を導入します。次回は,その準備のもとで,もう1つ別のテンソル積の構成法を与えます(これは物理で扱われているテンソルの集合になります)。
 以下 $K$ を体とし,ベクトル空間はすべて $K$ 上の有限次元ベクトル空間とします。

線形写像の箙表示

 ベクトル空間の間の線形写像 $f \colon V \to W$ は,$V$ と $W$ それぞれの(順序)基底 $B:= (v_1, \ldots, v_m)$, $C:= (w_1, \ldots, w_n)$ を固定すると, $B, C$ に関する行列 $A$ によって一意的に表され,対応 $f \mapsto A$ は,ベクトル空間の間の同型
$\mathrm{Hom}_K(V, W) \to \mathrm{Mat}_{n,m}(K)$
を与えていました。ただし, $\mathrm{Mat}_{n,m}(K)$ は,$K$ 上の $(n,m)$ 型行列全体のなすベクトル空間とします。この $A$ を図で表すことを考えます。 $f$ と $A$ の関係は次の式で与えられていたことを思い出してください。行列表示を用いると,
(1)   $(f(v_1), \ldots, f(v_m)) = (w_1, \ldots, w_n)A$
あるいは成分で書くと,
(2)   $A = (a_{ji})_{1 \le j \le n, 1 \le i \le m} \iff f(v_i) = \sum_{j=1} ^n a_{ji}w_j$ $(1 \le i \le m)$

例1. 例えば, $m = 2, n= 3$ で,
$f(v_1) = w_1 + 2 w_2 - w_3, f(v_2) =  - w_2 + w_3$
のとき。 $f$ の $B, C$ に関する行列 $A$ は
$(f(v_1), f(v_2)) = (w_1, w_2, w_3)\begin{bmatrix}1 & 0\\2& -1\\ -1& 1\end{bmatrix}$
なので,
$A = \begin{bmatrix}1 & 0\\2& -1\\ -1& 1\end{bmatrix}$
となります。この線形写像 $f$ を次の図で表します。
valued-quiver-exm1

 つまり,一般に,上の (1) の形で $f$ が与えられているとき, $f$ は,$v_1, \ldots, v_m$, $w_1, \ldots, w_n$ を頂点とし,各 $i, j$ に対して, 値つきの矢印
$v_i \overset{a_{ji}}{\longrightarrow} w_j$
をもつ有向グラフによって表します。有向グラフは最近では,矢の入れ物である箙(えびら)という言葉でよばれますので,これを $f$ の付値箙表示 (valued quiver presentation) あるいは単に箙表示とよぶことにします。以下,この表示を用いますが,さらに簡単のために次の規則を用います。
● $a_{ji} = 0$ のときは,矢印 $v_i \overset{a_{ji}}{\longrightarrow} w_j$ を描かない。
● $a_{ji} = 1$ のときは,矢印 $v_i \longrightarrow w_j$ だけを描き,値は書かない。
この規則を用いると,先ほどの例は次のようになります。
valued-quiver-exm2

例 2. $V, W$ を上の例1と同じとします。このとき,$\mathrm{Hom}_K(V, W)$ は次の6個の線形写像を基底に持ちます:
 
基底
実際,(2,3)型行列で, $(j,i)$ 成分だけが1でそれ以外の成分が0であるようなものを $E_{ji}$ で表すと,$E_{ji}$ の全体は,(2,3)型行列の全体のなすベクトル空間 $\mathrm{Mat_{2,3}}(K)$ の基底になっていて, $E_{ji}$ は, $e_{ji}$ の行列 ($i = 1, 2; j = 1, 2, 3$) となっていますから。

練習問題 1. 例1の線形写像 $f$ を $e_{ji}$ ($i = 1, 2; j = 1, 2, 3$) の1次結合として表してください。

 上のことを一般化すると,次が得られます。

定理 1. $V, W$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_m)$, $C:= (w_1, \ldots, w_n)$ をそれぞれ $V, W$ の(順序)基底とする。矢印として $v_i \longrightarrow w_j$ 1本しか持たない箙で表示される線形写像を $e_{ji}$ とする ($i = 1, \ldots, m; j = 1, \ldots, n$)。すると, $e_{ji}$ の全体は, $\mathrm{Hom}_K(V, W)$ の基底をなす。特にその次元は $mn$ となる。

練習問題 2. 上の定理を証明してください。

例 3. $K= \mathbb{C}$ とし,$ V$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_m)$ をその基底とします。$B$ に関する行列がサイズ3,固有値 $\lambda$ のジョルダン細胞 $J_3(\lambda)$
$J_3(\lambda):= \begin{bmatrix}\lambda & 0 & 0\\1 & \lambda & 0\\0 & 1 & \lambda\end{bmatrix}$
になる $V$ の線形変換は,次の左の箙表示を持ちます。特に $\lambda = 0$ のときは右の箙表示になります。
Jordan-cell
また,$B$ に関する行列がジョルダン標準形 $J_3(\lambda) \oplus J_4(\mu)$ になる線形変換の箙表示は次のようになります:
Jordan-std-form

練習問題 3. $K= \mathbb{C}$ とし,$ V$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_11)$ をその基底とします。 $V$ の線形変換 $f$ の $B$ に関する行列がジョルダン標準形 $J_2(1) \oplus J_2(0) \oplus J_3(2) \oplus J_4(-1)$ になるとき, $f$ の箙表示を求めてください。

研究問題. 線形写像の合成は,箙表示を用いるとどうなるか考えてみてください。

定義. ベクトル空間 $V$ に対して, $V^*:= \mathrm{Hom}_K(V, K)$ を $V$ の双対空間とよぶ。

  $K$ は $1$ を基底にもつので, $n = 1$ のときに上の定理を適用して,次が得られます。

定理 2. $V$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_m)$ をその基底とする。このとき $e_{11}, \ldots, e_{m1}$ は,双対空間 $V^*$ の基底となる。この基底を $B$ の双対基底とよぶ。以下,各 $e_{j1}$ を $\check{v}_j$ とおく。

例 3. $V$ が $(v_1, v_2, v_3)$ を基底に持つとき,その双対基底となる $V^*$ の基底は次で与えられます:
双対基底

 今回は以上です。楽しんでもらえたでしょうか。よければ,このブログをともだちにもすすめてください。
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