まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 前回に続いて今回も双対空間のお話です。前回は,双対を取る操作を自己双対関手にまで拡張して,圏論的な意味についてお話ししました。今回は,双対空間を非退化な対合 (pairing) をもつベクトル空間として特徴付けます。次回はこのあと,別のテンソル積の構成法(これは物理で扱われているテンソルの集合になります)を与えようと思います。
 以下 $K$ を体とし,ベクトル空間はすべて $K$ 上の有限次元ベクトル空間とします。

まず,双線形写像(雑にいうと,2変数の写像でどちらの変数についても線形ということです)の復習から始めます。

定義 1. $U, V, W$ をベクトル空間とする。写像 $F \colon V \times W \to U$ は,次をみたすとき,双線形であるという:任意の $v, v', \in V, w, w' \in W, k \in K$ に対して,
$F(v+v', w) = F(v, w) + F(v', w)$, $F(kv, w) = kF(v, w)$,
$F(v, w+w') = F(v, w) + F(v, w')$, $F(v, kw) = kF(v, w)$.
特に,$U = K$ のとき,双線形写像 $F$ を双線形形式あるいは $V$ と $W$ の対合とよぶ。

ここで, $F(V, w):= \{F(v,w) \mid v \in V\}$, $F(v, W):= \{F(v,w) \mid w \in W\}$ とおきます。
双線形写像
定義 2. 上と同じ記号のもとで, $F \colon V \times W \to K$ を $V$ と $W$ の対合とする。 $F$ は,次をみたすとき,非退化 (non-degenerate) であるという。
(a) $v \in V$, $(v, W) = 0$ ならば $v = 0$,
(b) $w \in W$, $(V, w) = 0$ ならば $w =0$.

注意. (a), (b) ともに左の式の 0 は集合 $\{0\}$ の略記です。

例. ベクトル空間 $V$ とその双対空間 $V^*:= \mathrm{Hom}_K(V, K)$ から次のような対合ができます。

$(\text{-}, \text{-}) \colon V \times V^* \to K$, $(v, f):= f(v)$, $(v \in V, f \in V^*)$

練習問題 1. これが,双線形であることを確かめてください。

注意. この対合は非退化です。つまり,次の2つが成り立ちます。
(a) $v \in V$, $(v, V^*) = 0$ ならば $v =0$,
(b) $f \in V^*$, $(V, f) = 0$ ならば $f = 0$.

実際,(b) は写像の定義から明らか。
(a) $V$ の基底 $v_1, v_2,\ldots, v_n$ を1つとると,$v = a_1v_1 +a_2v_2 +\cdots + a_nv_n$ ($a_1, a_2, \ldots, a_n \in K$) と書けていて,その双対基底 $\check{v}_1, \check{v}_2,\ldots, \check{v}_n \in V^*$ に対して $(V^*, v) = 0$ を適用すると, $a_i = \check{v}_i(v) = (v, \check{v}_i) = 0$ ($i = 1, 2, \ldots, n$) となります。したがって, $v=0$ となります。  □

上の例から,次の定理の (1) $\implies$ (2) が証明されます。今回の目標は,これの逆を示すことです。

定理. ベクトル空間 $V,W$ に対して,次は同値である。
(1) $W \cong V^*$ である。
(2) 非退化な対合 $F \colon V \times W \to K$ が存在する。

(2) が成り立つとき, 写像
$F' \colon W \to V^*$, $F'(w):= F(\text{-}, w)$ ($w \in W$)
が (1) の同型を与える。ただし, $F(\text{-}, w) \in V^*$ は次で定義される:
$F(\text{-}, w)(v):= F(v, w)$  ($v \in V$).

証明.
(1) $\implies$ (2). $g \colon W \to V^*$ を同型とします。このとき,写像 $G \colon V \times W \to K$ を
$G(v, w):= (v, g(w)):= [g(w)](v)$ ($v \in V, w \in W$)
で定義すると,これは非退化な双線形形式になっています。
(2) $\implies$ (1). $F'$ を上のように与えます。これが定義可能であり線形写像となっていることは練習問題とします。この $F'$ が全単射であることを示せば証明は終わります。
$F'$は単射:$w \in W$ をとり, $F'(w) = 0$ とすると,$0 = [F'(w)](V) = F(V, w)$。 $F$ が非退化なので,このことから $w =0$ となります。したがって,$F'$ は単射です。特に, $\dim_K W \le \dim_K V^* = \dim_K V$ が分かります。
$F'$は全射:上と同様にして $F'' \colon V \to W^*, v \mapsto F(v, \text{-})$ を考えると,これも単射な線形写像であることが分かります。したがって特に,$\dim_K V \le \dim_K W$ となります。上のことと合わせると, $\dim_K V = \dim_K W$ となります。このことと $F'$ の単射性から $F'$ が全射であることが従います。  □

練習問題 2. (i) 上の例を用いて,(1) $\implies$ (2) の証明で構成した $G$ が非退化な双線形形式であることを示してください。
(ii) 各 $w \in W$ に対して,$F'(w) \in V^*$ であることと, $F'$ が線形写像であることを示してください。

注意. 左右対称性について。
● 同型 $V \times W \to W \times V, (v, w) \mapsto (w, v)$ を用いると,定理の (2) は,次の (2') と同値であることがわかります:
(2') 非退化な双線形形式 $F \colon W \times V \to K$ が存在する。
ですから,(2) は次の (1') とも同値です。
(1') $V \cong W^*$ である。
● (1') は (1) からも,$V \cong V^{**} \cong W^*$ として導かれます。

練習問題 3. 上で定義された対応, $\phi \colon F \mapsto F'$ と $\psi \colon g \mapsto G$ は,同型 $W \to V^*$ 全体の集合 $\mathrm{Iso}_K(W, V^*)$ と, $V$ と $W$ の非退化な対合 $V \times W \to K$ 全体の集合 $\mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W)$ の間の互いに逆な全単射
$\psi \colon \mathrm{Iso}_K(W, V^*) \to \mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W)$
$\phi \colon \mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W) \to \mathrm{Iso}_K(W, V^*)$
を与えるかどうか調べてください。

注意. 上の定理により, $V^*$ を, $V$ と同次元のベクトル空間で, $V$ との非退化な対合が定義されたもの,と見ることができます。
 例えば, $V = K^n$ ($n$ は自然数) のとき, $K^n$ と $K^n$ の非退化な対合として,標準基底に関する標準内積
$K^n \times K^n \to K$, $(v, w):= v_1w_1+\cdots + v_nw_n$
($v=(v_1,\ldots, v_n), w = (w_1,\ldots, w_n) \in K^n$)
を取ることができますので,これから得られる同型 $K^n \cong (K^n)^*$, $v \mapsto (v,\text{-})$ によって, $(K^n)^*$ は $K^n$ とよく同一視されます。逆に,この同一視のせいで,それらの違いがよく分からなくなるということにもなります。

研究問題. 随伴から得られる同型
$\mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, K) \to \mathrm{Hom}_K(W, \mathrm{Hom}_K(V, K))$
と,練習問題 3で与えられている全単射
$\phi \colon \mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W) \to \mathrm{Iso}_K(W, V^*)$
との関係を調べてください。

 今回は以上です。楽しんでもらえたでしょうか。よければ,このブログをともだちにもすすめてください。
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