まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 2013年9月以来,久しぶりにブログを更新します。1記事を書くのに3時間以上掛かかります。その年4月から9月までは在外研究中で時間に余裕があり,何とかブログが継続できていました。しかし,帰国後は余裕がなくなり止まっていました。あと一つ米田の補題について記事を書いておきたいとは思っていたのですが。一旦書かなくなると,もうどのように記事を書いて投稿するのかも忘れてしまい,ずっと止まっていました。

 しかし最近,本(圏と表現論[2-圏論的被覆理論を中心として], SGCライブラリー 155, サイエンス社)を書き上げましたので,この機会にまたブログを再開し,この本の内容を題材に取り上げるなどして,たまに更新していこうと思います。この本が店頭に並ぶのは約1週間後(2019年12月25日辺り)になります。 (本日(2019-12-17)すでに店頭で販売されていました。早速,正誤表はツイートしておきました。)

 さて,まず今回は,理解の成長の例として,米田の補題を取り上げます。理解の成長というのは,(1) 新しい事柄を,すでに理解していることと関連づけて修得し,(2) それをさらに次の新しいことを理解するための土台とする,ということです。

 基本となる事実として次を取り上げます。

定理 1 (比例と比例定数の1:1対応). 次の全単射が存在する:
\[\alpha\colon \mathrm{Hom}_{\mathbb{R}}(\mathbb{R}, \mathbb{R}) \to \mathbb{R},\quad f \mapsto f(1).\]
逆写像は,$\beta\colon r \mapsto l_r \ (r \in \mathbb{R})$で与えられる。ただし,$l_r$ は $r$ による左移動 $l_r(x):= rx \ (x \in \mathbb{R})$である。

この定理の意味: 比例というのは,1の移り先(これを比例定数と呼びます)で決まってしまうということです。
 この内容は中学で学んだことと思います。証明する必要はないかもしれませんが,以下の基本となるので証明しておきます。

証明. 次の2つを確かめればよい:
\[\left\{\begin{aligned}\beta(\alpha(f)) &= f \ (f \in \mathrm{Hom}_{\mathbb{R}}(\mathbb{R}, \mathbb{R})),&(1)\\ \alpha(\beta(r)) &= r \  (r \in \mathbb{R}).&(2)\end{aligned}\right.\]
(1)の確認: 両辺ともに$\mathrm{Hom}_{\mathbb{R}}(\mathbb{R}, \mathbb{R})$の元なので,任意の$r \in \mathbb{R}$に対して,(左辺)$(r) = $(右辺)$(r)$を示せばよい。
(左辺)$(r) = (\beta(f(1)))(r) = (l_{f(1)})(r) = f(1)r = rf(1) = f(r1) = $(右辺)$(r)$. OK.
(2)の確認: (左辺) $= \alpha(l_r) = l_r(1) = r1 =$ (右辺).  OK. □

 次に,これを基本として理解すると分かりやすい内容として次の定理を取り上げます。

定理 2. $R$を環とし,$e \in R$を冪等元 (つまり $e^2  = e$が成り立つ) とする。また,$M$を右$R$-加群とする。このとき,次のアーベル群の間の同型が存在する:
\[\alpha \colon \mathbb{Hom}_R(eR, M) \to Me,\quad f \mapsto f(e).\]
逆は $\beta \colon m \mapsto l_m\ (m \in Me)$で与えられる。ただし,$l_m$ は $m$ による左移動 $l_m(r):= mr \ (r \in eR)$である。

この定理の意味: $eR$からの準同型は,$e$の移り先で決まってしまうということです。
 $R = \mathbb{R}$, $e = 1$, $M = \mathbb{R}$の場合を考えると,定理 2から定理 1が導かれます。つまり,定理 2は定理 1の一般化になっています。

証明の概略. $\alpha, \beta$がアーベル群の間の準同型であることは容易に確かめられる。これらが互いに逆になっていることは定理 1の場合と同様に確かめられる。 □

系. 定理 2と同じ設定のもとで,上の$\alpha$は環の同型
\[ \alpha \colon \mathrm{Hom}_R(eR, eR) \to eRe\]
を与える。

 いよいよ米田の補題を取り上げます。

定理 3 (米田の補題). $\mathcal{C}$を小圏,$x$を$\mathcal{C}$の対象とする。$\mathbf{Set}$を小集合全体の圏,$F \colon \mathcal{C} \to \mathbf{Set}$を反変関手,$\mathrm{Nat}:= \mathrm{Fun}(\mathcal{C}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set})$を関手圏とする。このとき次の全単射が存在する:
\[\alpha \colon \mathrm{Nat}(\mathcal{C}(\text{-}, x), F) \to F(x), \quad \gamma \mapsto \gamma_x(1_x).\]
逆は $\beta \colon r \mapsto l_r \ (r \in F(x))$で与えられる。ただし,$l_r$ は $l_r(f):= F(f)(r) \ (f \in \mathcal{C}(\text{-}, x))$で定義される。($F$が反変なので,右からの作用の形 $l_r(f):= r\cdot F(f)$ に書けるため,これも $r$ による左移動と呼ぶことができる。)

この定理の意味: 表現関手$\mathcal{C}(\text{-}, x)$からの自然変換は,$1_x$の移り先で決まってしまうということです。

($\mathcal{C}$を$\mathbb{Z}$-線形圏,$\mathbf{Set}$の代わりに小アーベル群全体の圏$\mathbf{Ab}$をとるとき同様の定理 3'が成り立ち,これは定理 2の一般化になります。)

以上3つの定理のアイデアはみんな同じということが分かります。($\mathbb{R}, eR, \mathcal{C}(\text{-},x)$はそれぞれ$1, e, 1_x$で生成される"自由加群"ということです。)
実際,定理 3の証明も以上の証明と同様に与えることができます。

練習問題. 定理 2, 3の証明を与えよ。(上の本の補題 2.3.4と2.5.8参照)