第2章(特に2.3節)ではページ数が足りなくなったために,説明を問に替えて,最低限,全体の流れが分かるようにしておきました。その説明を追加するために,そのような問に解答を与えておきます。
今回は,問 2.3.15の解答です.

問 2.3.15. 有限次元多元環は,直交原始冪等元の完全系を持つことを示せ.

解答例.
まず次の主張を示す:

主張 1. 任意の有限次元右$A$加群$M\ (\ne 0)$に対して
$(P(M)) \quad M$ は直既約加群の直和に分解する.

この主張が成り立たないと仮定すると,$(P(M))$が成り立たない有限次元加群$M$が存在する.そのような加群のうち最も次元の小さいものを$M$とする.$M$が直既約なら$(P(M))$が自明に成り立つので,$M$は直既約ではない.したがって,

$(1) \quad M = M_1 \oplus M_2, \quad M_1 \ne 0, M_2 \ne 0$

を満たす$M$の部分加群 $M_1, M_2$ が存在する.このとき,$(P(M_1)), (P(M_2))$ がともに成立すると,それらの分解を (1) に代入することにより $(P(M))$ が成立するので,$(P(M_1)), (P(M_2))$ のいずれかは成り立たない.$(P(M_1))$ が成り立たないとしても一般性を失わない.すると$\dim M$の最小性により$\dim M \le \dim M_1$であるが,(1) より,

$\dim M_1 = \dim M - \dim M_2 < \dim M$

となり矛盾が生じる.主張 1の証明終わり.

 上の主張1を右$A$加群としての$A$に適用すると,
$$
A = P_1 \oplus P_2 \oplus \cdots \oplus P_n
$$
となる直既約部分加群 $P_1, P_2, \dots, P_n$ がとれる.$1 \in A$であるから,

$(2) \quad 1 = e_1 + e_2 + \dots + e_n$

となるような $(e_1, e_2, \dots, e_n) \in P_1 \times P_2 \times \cdots \times P_n$ がただ1つとれる.
このとき次を示せば証明が終わる:

主張 2. 各$e_i$は原始冪等元であり,どの2つも直交している.

$i \in \{1,2,\dots, n\}$とする.(2) の両辺に右から$e_i$を掛けると,

$e_i = e_1e_i + e_2e_i + \cdots + e_ne_i.$

各$P_j \ (j= 1,2,\dots, n)$ は右加群であるから,$e_je_i \in P_j \ (j = 1,2,\dots, n)$ であり,$e_i \in P_i$ であることと (2) が直和であることから,

$e_i = e_ie_i, \quad e_je_i = 0 \ (j \ne i)$

が成り立つ.すなわち,各$e_i$は冪等元であり,$i \ne j$ならば$e_i$と$e_j$は直交している.さらに,任意の $x \in P_i$ を (2) の両辺に右から掛けると,

$x = e_1x + e_2x + \cdots + e_nx.$

同じ理由により,$e_jx \in P_j  (j =1,2,\dots,n)$ であるから,(2) の直和性より,
$$x = e_i x.$$
したがって,$P_i \le e_iA$であり,$P_i$が右加群であることから $e_iA \le P_i$.よって,$P_i = e_iA$ が得られる.特に $P_i \ne 0$ より $e_i \ne 0$.  ここで,$P_i$ は直既約であったから,補題 2.3.3より $e_i$ は原始冪等元となる. □