第2章(特に2.3節)ではページ数が足りなくなったために,説明を問に替えて,最低限,全体の流れが分かるようにしておきました。その説明を追加するために,そのような問に解答を与えておきます。
今回は,問 2.3.21の解答です.

問 2.3.21. $A$ を多元環とする.次が同値であることを示せ.
(1) $A$ は局所的である.
(2) 任意の $a \in A$ に対して,$a$ または $1-a$ は単元である.

ただし,ここでは暗黙のうちに,$A$ は零環ではないと仮定していることに注意する.また,$A$ は環でもよい.

定義 2.3.20 によると,$A$ の非単元と非単元の和がまた非単元となっているとき,$A$ を局所的とよぶのであった(ただし,単元とは逆元を持つ元のこと).これに追加して,右逆元[左逆元]を持つ元を{\右可逆元左可逆元]とよぶことにする.

解答例.

(1) ⇒ (2).  (1)が成り立つと仮定し,$a \in A$ とする.$a$ も $1-a$ も非単元なら(1)を $a + (1-a) = 1$ に適用すると,$1$ が非単元となって矛盾が生じる.したがって(2)が成り立つ.

(2) ⇒ (1).  (2)が成り立つと仮定し,$a, b \in A$ を非単元とする.$c:= a+b$ が単元なら,この両辺に $c\inv$ を右から掛けて,$1 = a' + b'$ が得られる.ただし,$a':= ac\inv, b':= bc\inv$ とおいた.(2)より,$a'$ または $b'$ は単元である.$a'$ が単元としても一般性を失わない.このとき,$1 = ac\inv {a'}\inv$ が成り立つから,$a$ は右可逆元である.(2)が成り立っているので,下の補題が適用でき,$a$ が単元であることが分かる.□
 
補題. 任意の $a \in A$ に対して,$a$ または $1-a$ が右可逆元ならば,$A$ の右可逆元はすべて単元である.

証明. $a \in A$ とし,$a$ が右逆元 $s$ を持ったとする.すなわち,$as = 1$ が成り立っているとする.
このとき,$sa = 1$ を示せばよい.仮定より,$sa$ または $1 - sa$ は右逆元を持つ.

Case 1. $sa$ が右逆元 $t \in A$ を持つとき.
(*)  $1 = sat$ が成り立っている.
左から $a$ を掛けて,$a = asat = at$. これを(*)の右辺に代入して,$1 = sa$.

Case 2. $1- sa$ が右逆元 $t \in A$ を持つとき.
$1 = (1 - sa)t$.  左から $a$ を掛けて,$a = a(1 - sa)t = at - asat = at - at = 0$.  $as = 1$ に代入すると,$0 = 1$ となり$A$が零環となり矛盾. □

上の証明と補題から実は,次が同値であることも分かる.

命題.  $A$ を(多元)環とすると,次は同値である.
(1) $A$ は局所的である.
(2) 任意の $a \in A$ に対して,$a$ または $1-a$ は単元である.
(3) 任意の $a \in A$ に対して,$a$ または $1-a$ は右可逆元である.
(4) 任意の $a \in A$ に対して,$a$ または $1-a$ は左可逆元である.

実際,(1)と(2)の同値は解答例で示されていて,(2) ⇒ (3) は自明であり,補題により(3) ⇒ (2)が分かる.同様の証明で(2)と(4)の同値も分かる.

上の補題と命題より直ちに次のことが分かる.

注意. (多元)環 $A$ が局所的であれば,$A$ の右可逆元も左可逆元もすべて単元である.

なお,さらにつぎも成り立つことを補足しておく(可換環での類似により,このことが局所環の名前の由来となっている).以下で,$A$ の真右イデアルとは,$A \ne I$ となる右イデアル $I$ のことである.真左イデアルについても同様.

定理. $A$ を(多元)環とし,$A$の非単元全体を $J$ とおくと,次は同値である.
(1) $A$ は局所的である.
(5) $J$ は両側イデアルである.
(6) $J$ は $A$ の最大の真右イデアルである.
(7) $J$ は $A$ の最大の真左イデアルである.
(8) $A$ は最大の真右イデアルを持つ.
(9) $A$ は最大の真左イデアルを持つ.

証明.(1) ⇒ (5). (1)より $J$ は和で閉じているから,後は,任意の $a \in A, b \in J$ に対して,$ab, ba \in J$ を確かめればよい.$ba \not\in J$ とすると,$ba$ は単元だからある $s \in A$ によって,$bas = 1$ となり,$b$ は右可逆元になる.注意より $b$ は単元となり$b \in J$ に反する.したがって,$ba \in J$. 同様にして $ab \in J$ も分かる.

(5) ⇒ (6). (5)が成り立つなら,$J$ は $A$ の右イデアルであることは明らか.$I$ を $A$ の任意の真右イデアルとする.このとき,$I \le J$ を示せばよい.$x \in I$ とする.もしも $x \not \in J$ なら,$x$ は単元なので$xA \ni 1$ より $I \ge xA = A$ となり,$I$ が真右イデアルであることに反する.したがって,$x \in J$ となり,$I \le J$ が従う.

(6) ⇒ (8). これは自明.

(8) ⇒ (1). $A$ が最大の真右イデアル $I$ を持ったとする.このとき,(3)を示せばよい.
$a \in A$ とする.$a$, $1-a$ のどちらも右可逆元でなければ,右イデアル $aA$ も $(1-a)A$ も $A$ と等しくない.すなわち真右イデアルであるから$aA, (1-a)A \le I$ となる.すると,$1 = a + (1-a) \in eA + (1-a)A \le I$より $I = A$ となり $I$ が真右イデアルであることに反する.

同様にして,(5) ⇒ (7) ⇒ (9) ⇒ (1) も示される.  □