第2章(特に2.3節)ではページ数が足りなくなったために,説明を問に替えて,最低限,全体の流れが分かるようにしておきました。その説明を追加するために,そのような問に解答を与えておきます。
今回は,問 2.3.23の解答です.

問 2.3.23.  $A$を多元環とし,$0 \ne M \in (\mathrm{Mod} A)_0$とする.
(1) $M_1, M_2 \le M, M = M_1 \oplus M_2$であるとき,
$e_i \colon M \overset{\pi_i}{\to} M_i \hookrightarrow M\ (i = 1,2)$は$\mathrm{End}_A(M)$の冪等元であり,$1_M = e_1 +e_2$となることを示せ.ただし,$\pi_i$は第$i$射影 $m_1+m_2 \mapsto m_i\ (m_1 \in M_1, m_2 \in M_2)$とする.
(2) $e \in \mathrm{End}_A(M)$が冪等元ならば,右$A$-加群として$M = e(M) \oplus (1_M -e)(M)$となることを示せ.
(3) 次が同値であることを示せ.
  (a) $M$は直既約である.
  (b) 多元環$\mathrm{End}_A(M)$の冪等元は0と$1_M$しかない.
 
 この問でも,主張は一般の環 $A$ に対しても成り立つ.
 
 解答例.
(1) 任意の $m = m_1 + m_2 \in M \ (m_1 \in M_1, m_2 \in M_2)$ に対して,
$e_1(e_1(m)) = e_1(m_1) = e_1(m_1 + 0) = m_1 = e_1(m)$.
したがって,$e_1^2 = e_1$ となり,$e_1$ は $\mathrm{End}_A(M)$ の冪等元.$e_2$も同様である.
また,$m = m_1 + m_2 = e_1(m) + e_2(m) = (e_1 + e_2)(m)$ であるから,$1_M = e_1 + e_2$.

(2) $e \in \mathrm{End}_A(M)$ が冪等元とすると,$e^2 = e$.  まず,$M = e(M) + (1_M - e)(M)$ を示す.
右辺が左辺に含まれていることは明らか.逆を示すために $m \in M$ を任意にとる.このとき,
$m = e(m) + (m - e(m)) \in e(M) + (1_M - e)(M)$ であるから,
逆の包含関係も成り立つ.

次に,$e(M) \cap (1_M - e)(M) = 0$ を示す.
左辺の任意の元 $x$ をとると,$x \in e(M)$, $x \in (1_M - e)(M)$
より,ある $m \in M$ と $m' \in M$ によって,
$x = e(m), x = m' - e(m')$ と書けている.
$e^2 = e$ であるから,$e(x) = e^2(m) = e(m) = x$,
$e(x) = e(m') - e^2(m') = e(m') - e(m') = 0$.
この2式から $x = 0$.

最後に,$e(M), (1_M - e)(M)$ ともに右$A$-加群であることを確かめる.
それには任意の $f \in \mathrm{End}_A(M)$ に対して $f(M)$ が右$A$-であることを示せば十分である.しかしこれは$f$が準同型であることと,$M$ が右$A$-加群であることから直ちに従う.

(3) (a) ⇒ (b).  (a)を仮定し,$e \in \mathrm{End}_A(M)$ を冪等元とする.
(2)より,$M = e(M) \oplus (1_M - e)(M)$ となるが,$M$ が直既約であるから,
$e(M) = 0$ または $(1_M - e)(M) = 0$.
前者の場合,$e = 0$, 後者の場合,$1_M - e = 0$ より $e = 1_M$.

(b) ⇒ (a). (b) を仮定し,$M = M_1 \oplus M_2$, $M_1, M_2 \le M$ とする.
(1)のように$e_1, e_2$ を定義すると,(1)より,これらはともに $\mathrm{End}_A(M)$ の
冪等元であり $1_M = e_1 + e_2$.
(2)より,$e_1 = 0$ または $e_1 = 1_M$.
前者の場合,包含写像は単射であるから,$\pi_1 = 0$ となり,$\pi_1$ は
全射であるから,$M_1 = 0$ となる.
後者の場合,$e_2 = 0$ となるから,同様にして,$M_2 = 0$.  □


もう少し詳しくいうと次の命題が成り立つ.

命題. $A$ を環とし,$0 \ne M \in (\mathrm{Mod} A)_0$ とする.このとき,$M$ の2つの部分加群への直和分解の全体
$$\mathcal{M}:= \{(M_1, M_2) \mid M = M_1 \oplus M_2;\  M_1, M_2 \le M\}$$
と $\mathrm{End}_A(M)$ の単位元 $1_M$ の2つの直交冪等元への分解の全体
$$\mathcal{E}:= \{(e_1, e_2) \mid 1_M = e_1 + e_2;\  e_1, e_2 \text{ は $\mathrm{End}_A(M)$の直交冪等元}\}$$との間に全単射 $\phi\colon (M_1, M_2) \mapsto (e_1, e_2)$ が存在する.ただし,$e_1, e_2$ は上の(1)で定義されたものである.

注意. $M = M_1 + M_2$ が成り立てば,$M = M_2 + M_1$ も成り立つから,
$(M_1, M_2) \in \mathcal{M}$ なら,$(M_2, M_1) \in \mathcal{M}$ となる.
同様に,
$(e_1, e_2) \in \mathcal{E}$ なら,$(e_2, e_1) \in \mathcal{E}$ となる.

証明.任意の $(M_1, M_2) \in \mathcal{M}$ に対して,$\phi(M_1, M_2) \in \mathcal{E}$ を示す.
$\phi(M_1, M_2) = (e_1, e_2)$ とおく.すでに(1)が示されているので,あとは $e_1$ と $e_2$ が直交することを示せばよい.各 $m = m_1 + m_2 \in M\ (m_1 \in M_1, m_2 \in M_2)$ に対して,
$e_2(e_1(m)) = e_2(m_1) = e_2(m_1 + 0) = 0$ より $e_2 e_1 = 0$.  同様にして,$e_1 e_2 = 0$.  すなわち,$e_1$ と $e_2$ は直交する.

逆写像 $\psi \colon \mathcal{E} \to \mathcal{M}$ を次で定義する.
各 $(e_1, e_2) \in \mathcal{E}$ に対して,
$\psi(e_1, e_2):= (\Im\ e_1, \Im\ e_2)$.
まず,$(\Im\ e_1, \Im\ e_2) \in \mathcal{M}$ を確かめておく.
$1_M = e_1 + e_2$ より,$e_2 = 1_M - e_1$ であるから,
上の(2)より$M = e_1(M) \oplus (1_M - e_1)(M) = \Im\ e_1 \oplus \Im\ e_2$.
すなわち,$(\Im\ e_1, \Im\ e_2) \in \mathcal{M}$.

$\psi$ が $\phi$ の逆写像であることを確かめる.
(i) $\psi \circ \phi = 1_\mathcal{M}$ が成り立つ.
実際,任意の $(M_1, M_2) \in \mathcal{M}$ に対して,$\phi(M_1, M_2) = (e_1, e_2)$ と
おくと,$\psi(\phi(M_1, M_2)) = \psi(e_1, e_2) = (\Im\ e_1, \Im\ e_2)$.
(1)において,$\pi_1, \pi_2$ ともに全射であるから,$\Im\ e_1 = M_1, \Im\ e_2 = M_2$.
したがって,$\psi(\phi(M_1, M_2)) = (M_1, M_2)$.

(ii) $\phi \circ \psi = 1_\mathcal{E}$ が成り立つ.
実際,任意の $(e_1, e_2) \in \mathcal{E}$ に対して,
$\phi(\psi(e_1, e_2)) = \phi(\Im\ e_1, \Im\ e_2)$.
この右辺を $(f_1, f_2) \in \mathcal{E}$ とおく.
このとき,$f_1 = e_1, f_2 = e_2$ を示せば証明が終わる.
任意の $m \in M$ に対して,$1_M = e_1 + e_2$ より,
$m = e_1(m) + e_2(m)$.  ここで,$e_1(m) \in \Im\ e_1, e_2(m) \in \Im\ e_2$
であり,直和分解 $M = \Im\ e_1 \oplus \Im\ e_2$ の標準射影を用いて
$f_1, f_2$ が定義されていたので,$f_1(m) = e_1(m)$, $f_2(m) = e_2(m)$.
すなわち,$f_1 = e_1, f_2 = e_2$ が成り立つ. □


上の命題から(3)の同値が従うことを説明する.
まず, 次の2つの同値に注意する:

i) $M$ が直既約である (a) ⇔ $\mathcal{M} = \{(M, 0), (0, M)\}$
ii) $\mathrm{End}_A(M)$ の冪等元が $0$ と $1_M$ しかない (b) ⇔ $\mathcal{E} = \{(1_M, 0), (0, 1_M)\}$

ここで,上の命題の全単射により,

iii) $\mathcal{M} = \{(M, 0), (0, M)\} \iff \mathcal{E} = \{(1_M, 0), (0, 1_M)\}$

i), ii), iii) によって,(a) ⇔ (b) となることが分かる.