第2章(特に2.3節)ではページ数が足りなくなったために,説明を問に替えて,最低限,全体の流れが分かるようにしておきました。その説明を追加するために,そのような問に解答を与えておきます。
今回はその最終のもので,問 2.3.24の解答です.

問 2.3.24.  $A$を多元環,$M$を有限次元右$A$-加群とするとき,以下を示せ.
(1) $f \in \mathrm{End}_A(M)$ならば,ある$n \ge 1$によって $M = \mathrm{Ker}\ f^n \oplus \Im\ f^n$となる (Fitting's Lemma).
(2) $M$ が直既約ならば,$f \in \mathrm{End}_A(M)$ は同型か冪零(すなわち$f^n =0$となる$n \ge 1$が存在する)となる.
(3) $M$が直既約ならば,$\mathrm{End}_A(M)$は局所多元環である.

解答例.

(1) まず,任意の $\mathbb{N} \ni n \ge 1$ に対して,$\Im\ f^n = f^n(M)$, $\mathrm{Ker}\ f^n = f^{-n}(0)$ となることに注意しておく.$M \ge f(M)$ より任意の $\mathbb{N} \ni i \ge 1$ に対して,$f^{i}(M) \ge f^{i+1}(M)$ が成り立つ.すなわち,減少列
    $M \ge f(M) \ge f^2(M) \ge \cdots$
が存在する.$M$ は有限次元なので,ある $\mathbb{N} \ni m \ge 1$ において
    $f^m(M) = f^{m+1}(M) = f^{m+2}(M) = \cdots$
が成り立つ.特に,$f^m(M) = f^{2m}(M)$ が成り立っている.

 他方,$0 \le f\inv (0)$ より任意の $\mathbb{N} \ni i \ge 1$ に対して,$f^{-i}(0) \le f^{-(i+1)}(0)$ が成り立つ.すなわち,増大列
(*)    $0 \le f^{-1}(0) \le f^{-2}(0) \le \cdots$
が存在する.$M$ は有限次元なので,ある $\mathbb{N} \ni n \ge 1$ において
    $f^{-n}(0) = f^{-(n+1)}(0) = f^{-(n+2)}(0) = \cdots$
が成り立つ.特に,$f^{-n}(0) = f^{-2n}(0)$ が成り立っている.$\max\{n, m\}$ を改めて $n$ とおくと,
$f^n(M) = f^{2n}(M)$ と $f^{-n}(0) = f^{-2n}(0)$ の両方が成り立っている.

 この $n$ について $M = \mathrm{Ker}\ f^n \oplus \Im\ f^n$ が成り立つことを示す.
まず,$M = \mathrm{Ker}\ f^n + \Im\ f^n$ を確かめる.右辺の2項ともに $M$ の部分加群であるから,(左辺) $\ge$ (右辺).逆を示すために,$x \in M$ を任意にとる.$f^n(x) \in f^n(M) = f^{2n}(M)$ であるから,
$f^n(x) = f^{2n}(y) = f^n(f^n(y))$ となる $y \in M$ が存在する.このとき,$f^n(x - f^n(y)) = 0$ であるから,$x - f^n(y) \in \mathrm{Ker}\ f^n$ となり,$x \in \mathrm{Ker}\ f^n + f^n(y) \le \mathrm{Ker}\ f^n + \Im\ f^n$.以上より,(左辺) $\le$ (右辺) も示された.最後に,この和が直和であること,すなわち
$\mathrm{Ker}\ f^n \cap \Im\ f^n = 0$ を確かめる.任意の左辺の元 $x$ に対して,$x \in \Im\ f^n$ より $x = f^n(y)$ となる$y \in M$ が存在する.$x \in \mathrm{Ker}\ f^n$ より $f^n(x) = 0$.したがって,$f^{2n}(y) = 0$.  ところが,$y \in \mathrm{Ker}\ f^{2n} = \mathrm{Ker}\ f^{n}$であるから $0 = f^n(y) = x$.
以上より,$M = \mathrm{Ker}\ f^n \oplus \Im\ f^n$.

(2) $M$ を直既約とすると,上の $n \ge 1$ に対して,$M = \mathrm{Ker}\ f^n \oplus \Im\ f^n$ が成り立つから,$\mathrm{Ker}\ f^n = 0$ または $\Im\ f^n = 0$ となる.
前者の場合,増大列 (*) より $\mathrm{Ker}\ f = 0$ となり $f$ は単射.このとき,$\dim \mathrm{Ker}\ f + \dim \Im\ f = \dim M$ より $\dim \Im\ f = \dim M$ であるから $\Im\ f = M$ となって $f$ は全射でもある.したがって,$f$ は同型である.後者の場合,$f^n = 0$ すなわち $f$ は冪零である.

(3) 一般に,任意の $f \in \mathrm{End}_A(M)$ に対して,
$f$ が単元ということと,$f$ が同型であることとは同値であることに注意しておく.さて,$M$ を直既約とし,$f, g \in \mathrm{End}_A(M)$ を非単元とする.このとき,$f+g$ も非単元であることを示せばよい.背理法で示すために,$f+g$ が単元であると仮定し $h:= (f+g)\inv$ とおく.すると,$fh+gh = 1_M$.
もし $gh$ が単元なら,$g = (gh)(f+g)$ は単元の積として単元となり,矛盾が生じる.したがって,$gh$ は単元ではないので,(2)より冪零となり,$(gh)^n = 0$ となる $n \ge 1$ が存在する.
これより
$(1_M - gh)(1 + gh + (gh)^2 + \cdots + (gh)^{n-1}) = 1_M= (1 + gh + (gh)^2 + \cdots + (gh)^{n-1})(1_M - gh)$
が得られるから,
$fh = 1_M - gh$ は $\mathrm{End}_A(M)$ の単元となる.これより,$f = (fh)(f+g)$ も単元の積として単元となり矛盾が生じる.したがって,$f+g$ は非単元でなければならない.□

注意 1.  上の(2)で用いた論法から次のことが言える.
$A$ を多元環,$M$ を有限次元右$A$-加群とするとき,任意の $f \in \mathrm{End}_A(M)$ に対して,
次が同値になる.($M$ は直既約でなくてもよい.)
(1) $f$ は単型である.
(2) $f$ は全射である.
(3) $f$ は同型である.

実際,$M$ が有限次元であることから$\dim M = \dim \Im\ f + \dim \mathrm{Ker}\ f$ が成り立つ.
これより,$\mathrm{Ker}\ f = 0 \iff M = \Im\ f$ が成り立つ.すなわち,$f$ が単型であることと,$f$ が全型であることとが同値になっている.上の3つの同値は,このことから直ちに従う.

 このことを用いても,上の(3)において$gh$ が単元なら $g$ も単元になることが分かる.すなわち,$gh$ が単元なら,全単射なので,$g$ が全型になる.上の同値から,$g$ は同型,つまり単元となる.

注意 2.  上の(3)において,$\mathrm{End}_A(M)$ が可換なら,2項定理を用いて冪零元と冪零元の和がまた冪零であることが示されるので,上の少々長い証明は不要になるが,$\mathrm{End}_A(M)$ は一般には非可換なので,この論法は使えない.