rhidetoのblog

数学に現れる定義,定理,証明を理解するために,これまでいろいろと考えてきたことを主に書いていこうと思います。「数学を絵で理解しよう」

代数学

例30. テンソル

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 前回まで双対空間についてお話しました。今回は,予定していたように,別のテンソル積の構成法(これは物理で扱われているテンソルの集合になります)を与えます。
 以下 $K$ を体とし,ベクトル空間はすべて $K$ 上の有限次元ベクトル空間とします。

まず,双線形写像を多重線形写像に一般化します。

定義 1. $V_1, V_2, \ldots, V_n, W$ ($1 \le n \in \mathbb{Z}$) をベクトル空間とする。写像 $F \colon V_1 \times V_2 \times \cdots \times V_n \to W$ は,任意の $\mathbf{v}:=(v_1, v_2, \ldots, v_n) \in V_1\times V_2\times \cdots \times V_n$ に対して, $n$ 個の写像
$F_{\mathbf{v}}^{(1)}:= F(\text{-}, v_2, v_3, \ldots, v_n) \colon V_1 \to W$,
$\vdots$
$F_{\mathbf{v}}^{(i)}:= F(v_1, v_2, \ldots, v_{i-1},\text{-}, v_{i+1}, \ldots, v_n) \colon V_i \to W$,
$\vdots$
$F_{\mathbf{v}}^{(n)}:= F(v_1, v_2, v_3, \ldots, v_{n-1}, \text{-}) \colon V_n \to W$
がすべて線形であるとき,多重線形であるという。これらの全体を,
$\mathrm{Mult}(V_1, V_2, \ldots, V_n; W)$
で表す。特に,$W = K$ のとき,双線形写像 $F$ を多重線形形式とよぶ。

$n =1$ のときは,単なる線形写像で,$n = 2$ のときは,双線形写像です。

例. $V = K^n$ (各元を $n$ 次列ベクトルと見る) とする。行列式は各列について線形でしたので,行列式関数
$\det \colon \overbrace{V\times V \times \cdots \times V}^n \to K$,  $(v_1, v_2, \ldots, v_n) \mapsto \det(v_1, v_2, \ldots, v_n)$
は,多重線形形式です。

この用語を用いると,テンソルは次のように定義できます。(物理でのもとの定義は,その量が $V$ の基底変換でどのように変換するかという形で定義されています。基底変換と同じ"向き"に変換するなら共変,反対の"向き"なら反変。)

定義 2. $V := K^d$ ($1 \le d \in \mathbb{Z}$) とおき, $0 \le m, n \in \mathbb{Z}$ とする。 $m+n$ 個の直積からの多重線形形式
$\overbrace{V \times \cdots \times V}^m \times \overbrace{V^* \times \cdots \times V^*}^n \to K$
を,$V$ 上の $m$ 階共変, $n$ 階反変テンソルとよぶ。特に, $n=0$ ($m=0$) のとき,単に $m$ 階共変テンソル ($n$ 階反変テンソル) とよぶ。

注意. 定義から, 1階共変テンソルは,線形写像 $V \to K$ です。つまり, $V^*$ の元のことです。また,1階反変テンソルは,線形写像 $V^* \to K$ です。つまり,$V^{**} \cong V$ の元のことです。

テンソル積との関係は次で与えられます。

定理. $V, W$ をベクトル空間とすると,自然な同型
$V \otimes_K W \cong \mathrm{Mult}(V^*, W^*; K)$.
が存在する。

注意. 特に $V = W = K^d$ のときを考えると, $V \otimes V$ は, $V$ 上の2階反変テンソルの全体になっていることが分かります。

証明. 次の3つの自然な同型を合成することによって,求める自然な同型が得られます。
$\mathrm{Mult}(V^*, W^*; K) \cong \mathrm{Hom}_K(V^* \otimes_K W^*; K) \cong V^{**} \otimes_K W^{**} \cong V \otimes_K W$.
最初の同型は, 双線形写像 $\otimes_K\colon V^*\times W^* \to V^* \otimes_K W^*$ の普遍性の言い換えです。最後の同型は,前々回の定理から従います(注:$V$ に適用すると $V \cong V^{**}$) 。真ん中の同型は次の補題から従います。  □

補題. $V, W$ をベクトル空間とすると,自然な同型
$(V \otimes_K W)^* \cong V^* \otimes_K W^*$
が存在する。

証明. 写像 $\alpha \colon V^* \times W^* \to (V \times W)^*$ を,各 $(f, g) \in V^* \times W^*$ に対して,
$\alpha(f, g)(v, w):= f(v)g(w)$ $(v, w) \in V \times W$
で定義すると,
普遍性1
(1) $\alpha(f, g) \colon V \times W \to K$ は双線形なので,テンソル積の普遍性により,線形写像
$\alpha(f, g)^{\hat{}} \in \mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, K) = (V \otimes_K W)^*$
$\alpha(f, g)^{\hat{}}(v \otimes w) = f(v)g(w)$ $(v, w) \in V \times W$
が定義されます。すると,
(2) 写像
$V^* \times W^* \to (V \otimes_K W)^*$ $(f, g) \mapsto \alpha(f, g)^{\hat{}}$
も双線形です。
普遍性2
したがって,やはり線形写像
$\hat{\alpha}_{V, W} \colon V^* \otimes_K W^* \to (V \otimes_K W)^*$
$\hat{\alpha}(f \otimes g)(v \otimes w) = f(v)g(w)$ ($(f, g) \in V^* \times W^*, (v, w) \in V \times W$)
が定義されます。
(3) これは, $V$ と $W$ について自然です。つまり,
$\hat{\alpha}:= (\hat{\alpha}_{V, W})_{(V, W) \in (\mathrm{Mod}\, K)_0 \times (\mathrm{Mod}\, K)_0}$は,関手
$\mathrm{Mod}\, K \times \mathrm{Mod}\, K \to \mathrm{Mod}\, K$, $(V, W) \mapsto V^* \otimes_K W^*$
から関手
$\mathrm{Mod}\, K \times \mathrm{Mod}\, K \to \mathrm{Mod}\, K$, $(V, W) \mapsto (V \otimes_K W)^*$
への自然変換になっています。
(4) ここで $V = K$ のときを調べると, $\hat{\alpha}_{K, W}$ は,自然な同型の合成として,同型になっていることが分かります。
一般に $V \cong K^d$ ($0 \le d \in \mathbb{Z}$) と書けていますので,
(5) このことからすべての $\hat{\alpha}_{V, W}$ が同型になっていることが分かります。  □

練習問題 1. 上の (1) から (5) までを確かめてください。

注意. 同型
$V \otimes_K W \cong \mathrm{Mult}(V^*, W^*; K)$
は,具体的に次で与えられます。
$v \otimes w \mapsto (f \otimes g \mapsto f(v)g(w))$ $(v \in V, w \in W, f \in V^*, g \in W^*)$

練習問題 2. 上のことを確かめてください。

例29. 双対空間(非退化な対合)

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 前回に続いて今回も双対空間のお話です。前回は,双対を取る操作を自己双対関手にまで拡張して,圏論的な意味についてお話ししました。今回は,双対空間を非退化な対合 (pairing) をもつベクトル空間として特徴付けます。次回はこのあと,別のテンソル積の構成法(これは物理で扱われているテンソルの集合になります)を与えようと思います。
 以下 $K$ を体とし,ベクトル空間はすべて $K$ 上の有限次元ベクトル空間とします。

まず,双線形写像(雑にいうと,2変数の写像でどちらの変数についても線形ということです)の復習から始めます。

定義 1. $U, V, W$ をベクトル空間とする。写像 $F \colon V \times W \to U$ は,次をみたすとき,双線形であるという:任意の $v, v', \in V, w, w' \in W, k \in K$ に対して,
$F(v+v', w) = F(v, w) + F(v', w)$, $F(kv, w) = kF(v, w)$,
$F(v, w+w') = F(v, w) + F(v, w')$, $F(v, kw) = kF(v, w)$.
特に,$U = K$ のとき,双線形写像 $F$ を双線形形式あるいは $V$ と $W$ の対合とよぶ。

ここで, $F(V, w):= \{F(v,w) \mid v \in V\}$, $F(v, W):= \{F(v,w) \mid w \in W\}$ とおきます。
双線形写像
定義 2. 上と同じ記号のもとで, $F \colon V \times W \to K$ を $V$ と $W$ の対合とする。 $F$ は,次をみたすとき,非退化 (non-degenerate) であるという。
(a) $v \in V$, $(v, W) = 0$ ならば $v = 0$,
(b) $w \in W$, $(V, w) = 0$ ならば $w =0$.

注意. (a), (b) ともに左の式の 0 は集合 $\{0\}$ の略記です。

例. ベクトル空間 $V$ とその双対空間 $V^*:= \mathrm{Hom}_K(V, K)$ から次のような対合ができます。

$(\text{-}, \text{-}) \colon V \times V^* \to K$, $(v, f):= f(v)$, $(v \in V, f \in V^*)$

練習問題 1. これが,双線形であることを確かめてください。

注意. この対合は非退化です。つまり,次の2つが成り立ちます。
(a) $v \in V$, $(v, V^*) = 0$ ならば $v =0$,
(b) $f \in V^*$, $(V, f) = 0$ ならば $f = 0$.

実際,(b) は写像の定義から明らか。
(a) $V$ の基底 $v_1, v_2,\ldots, v_n$ を1つとると,$v = a_1v_1 +a_2v_2 +\cdots + a_nv_n$ ($a_1, a_2, \ldots, a_n \in K$) と書けていて,その双対基底 $\check{v}_1, \check{v}_2,\ldots, \check{v}_n \in V^*$ に対して $(V^*, v) = 0$ を適用すると, $a_i = \check{v}_i(v) = (v, \check{v}_i) = 0$ ($i = 1, 2, \ldots, n$) となります。したがって, $v=0$ となります。  □

上の例から,次の定理の (1) $\implies$ (2) が証明されます。今回の目標は,これの逆を示すことです。

定理. ベクトル空間 $V,W$ に対して,次は同値である。
(1) $W \cong V^*$ である。
(2) 非退化な対合 $F \colon V \times W \to K$ が存在する。

(2) が成り立つとき, 写像
$F' \colon W \to V^*$, $F'(w):= F(\text{-}, w)$ ($w \in W$)
が (1) の同型を与える。ただし, $F(\text{-}, w) \in V^*$ は次で定義される:
$F(\text{-}, w)(v):= F(v, w)$  ($v \in V$).

証明.
(1) $\implies$ (2). $g \colon W \to V^*$ を同型とします。このとき,写像 $G \colon V \times W \to K$ を
$G(v, w):= (v, g(w)):= [g(w)](v)$ ($v \in V, w \in W$)
で定義すると,これは非退化な双線形形式になっています。
(2) $\implies$ (1). $F'$ を上のように与えます。これが定義可能であり線形写像となっていることは練習問題とします。この $F'$ が全単射であることを示せば証明は終わります。
$F'$は単射:$w \in W$ をとり, $F'(w) = 0$ とすると,$0 = [F'(w)](V) = F(V, w)$。 $F$ が非退化なので,このことから $w =0$ となります。したがって,$F'$ は単射です。特に, $\dim_K W \le \dim_K V^* = \dim_K V$ が分かります。
$F'$は全射:上と同様にして $F'' \colon V \to W^*, v \mapsto F(v, \text{-})$ を考えると,これも単射な線形写像であることが分かります。したがって特に,$\dim_K V \le \dim_K W$ となります。上のことと合わせると, $\dim_K V = \dim_K W$ となります。このことと $F'$ の単射性から $F'$ が全射であることが従います。  □

練習問題 2. (i) 上の例を用いて,(1) $\implies$ (2) の証明で構成した $G$ が非退化な双線形形式であることを示してください。
(ii) 各 $w \in W$ に対して,$F'(w) \in V^*$ であることと, $F'$ が線形写像であることを示してください。

注意. 左右対称性について。
● 同型 $V \times W \to W \times V, (v, w) \mapsto (w, v)$ を用いると,定理の (2) は,次の (2') と同値であることがわかります:
(2') 非退化な双線形形式 $F \colon W \times V \to K$ が存在する。
ですから,(2) は次の (1') とも同値です。
(1') $V \cong W^*$ である。
● (1') は (1) からも,$V \cong V^{**} \cong W^*$ として導かれます。

練習問題 3. 上で定義された対応, $\phi \colon F \mapsto F'$ と $\psi \colon g \mapsto G$ は,同型 $W \to V^*$ 全体の集合 $\mathrm{Iso}_K(W, V^*)$ と, $V$ と $W$ の非退化な対合 $V \times W \to K$ 全体の集合 $\mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W)$ の間の互いに逆な全単射
$\psi \colon \mathrm{Iso}_K(W, V^*) \to \mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W)$
$\phi \colon \mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W) \to \mathrm{Iso}_K(W, V^*)$
を与えるかどうか調べてください。

注意. 上の定理により, $V^*$ を, $V$ と同次元のベクトル空間で, $V$ との非退化な対合が定義されたもの,と見ることができます。
 例えば, $V = K^n$ ($n$ は自然数) のとき, $K^n$ と $K^n$ の非退化な対合として,標準基底に関する標準内積
$K^n \times K^n \to K$, $(v, w):= v_1w_1+\cdots + v_nw_n$
($v=(v_1,\ldots, v_n), w = (w_1,\ldots, w_n) \in K^n$)
を取ることができますので,これから得られる同型 $K^n \cong (K^n)^*$, $v \mapsto (v,\text{-})$ によって, $(K^n)^*$ は $K^n$ とよく同一視されます。逆に,この同一視のせいで,それらの違いがよく分からなくなるということにもなります。

研究問題. 随伴から得られる同型
$\mathrm{Hom}_K(V \otimes_K W, K) \to \mathrm{Hom}_K(W, \mathrm{Hom}_K(V, K))$
と,練習問題 3で与えられている全単射
$\phi \colon \mathrm{Pair}_{\mathrm{nd}}(V, W) \to \mathrm{Iso}_K(W, V^*)$
との関係を調べてください。

例28. 双対空間(反変関手)

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 前回は,線形写像を図で表す方法と双対空間を導入しました。今回は,別のテンソル積の構成法(これは物理で扱われているテンソルの集合になります)を与えようと思っていましたが,双対空間についてもう少し続けます。つまり,その圏論的な意味と,非退化な対合との関係を紹介します。そのあとで,もう1つ別のテンソル積の構成法についてお話します。今回は,まず圏論的な意味について。
 以下 $K$ を体とし,ベクトル空間はすべて $K$ 上の有限次元ベクトル空間とします。有限次元ベクトル空間とその間の線形写像のなす圏を $\mathrm{mod}\, K$ で表します。

前回,次の定義を与えました。

定義 1. ベクトル空間 $V$ に対して, $V^*:= \mathrm{Hom}_K(V, K)$ を $V$ の双対空間とよぶ。

ここでは,この構成を(反変)関手に拡張して考えます。

反変関手

まず,圏 $\mathcal{C}$ に対して,その反転圏を定義します。これは簡単に言うと, $\mathcal{C}$ の射 $f \colon X \to Y$ の向きを全部逆にしてできる圏のことです。その際,合成の積の順序も逆になります。つまり,もう1つの射 $g \colon Y \to Z$ があるとき, $\mathcal{C}$ のなかでは,これらは次のように並んでいます。
合成できる射
ですから,合成は $g\circ f$ となります。この矢印の向きを全部逆にすると,
反転圏での合成できる射
となりますので,これらの合成は, $f \circ g$ となります。矢の向きを全部逆にしたとき合成の記号を元のものと区別できるように違う記号,例えば $*$ で表ことにすると,これは $f * g$ と書かれることになります。上の $f$ に対してその始点 $X$ を $\mathrm{dom}(f)$ (domainの最初の3文字), その終点 $Y$ を $\mathrm{cod}(f)$ (codomainの最初の3文字) と書くと,矢印の向きを逆にしたとき, $\mathrm{dom}(f)$ が $f$ の終点, $\mathrm{cod}(f)$ が $f$ の始点になります。以上のことを考えに入れると,次のように定義できます。

定義 2. $\mathcal{C} = (\mathcal{C}_0, \mathcal{C}_1, \mathrm{dom}, \mathrm{cod}, \circ)$ を圏とする。 このとき $\mathcal{C}$ の射 $f \colon X \to Y$ と $g \colon Y \to Z$ に対して,
$f * g:= g \circ f$
とおく。すると,
$\mathcal{C}^{\mathrm{op}}:= (\mathcal{C}_0, \mathcal{C}_1, \mathrm{cod}, \mathrm{dom}, *)$
も圏となる。これを $\mathcal{C}$ の反転圏とよぶ。上の右辺の合成は圏 $\mathcal{C}$ のなかで定義されるので,左辺の合成も $\mathcal{C}^{\mathrm{op}}$ の中でなかで定義されることに注意。

定義 3. $\mathcal{C}, \mathcal{D}$ を圏とする。$\mathcal{C}^{\mathrm{op}}$ から $\mathcal{D}$ への関手を $\mathcal{C}$ から $\mathcal{D}$ への反変関手とよぶ。より具体的にいうと, $\mathcal{C}$ から $\mathcal{D}$ への反変関手とは,
● 写像 $F_0 \colon \mathcal{C}_0 \to \mathcal{D}_0$ と
● 写像 $F_1 \colon \mathcal{C}_1 \to \mathcal{D}_1$ との対 $F = (F_0, F_1)$ で次の条件をみたすものである(以下,$F(X):= F_0(X)$, $F(f):= F_1(f)$ ($X \in \mathcal{C}_0$, $f \in \mathcal{C}_1$)と略記する):
● $f \colon X \to Y$ が $\mathcal{C}$ のなかの射であれば, $F(f) \colon F(Y) \to F(X)$ は, $\mathcal{D}$ のなかの射である。
● $F(\mathrm{id}_X) = \mathrm{id}_{F(X)}$  ($X \in \mathcal{C}_0$)
● $F(g \circ f) = F(f) \circ F(g)$  ($f \colon X \to Y$, $g \colon Y \to Z$ in $\mathcal{C}$)
(注意:$F(g \circ f)=F(f *g) = F(f) \circ F(g)$)

例. $R$, $S$ を環とし,$M$ を$R$-$S$-両側加群とします。このとき,反変関手
$\mathrm{Hom}_R(?, M) \colon R\text{-}\mathrm{Mod} \to \mathrm{Mod}\, S$
が次のように定義されます。
(対象の対応) 各 $X \in (R\text{-}\mathrm{Mod})_0$ に対して,
$\mathrm{Hom}_R(?, M)(X):= \mathrm{Hom}_R(X, M)$.
ここで,$\mathrm{Hom}_R(X, M)$ の右 $S$-加群の構造は,次で定義されます:
$(gs)(x):= g(x)s$ ($g \in\mathrm{Hom}_R(X, M), s \in S$).
(射の対応) 各 $f \colon X \to Y$ in $(R\text{-}\mathrm{Mod})_1$ に対して,
$\mathrm{Hom}_R(?, M)(f):= \mathrm{Hom}_R(f, M)\colon \mathrm{Hom}_R(Y, M) \to \mathrm{Hom}_R(X, M)$,
$\mathrm{Hom}_R(f, M)(g):= g \circ f$ $(g \in \mathrm{Hom}_R(Y, M))$.
この対応を図で描くと,
射の対応
このように,これまで $X$ から $Y$ であったものが,$\mathrm{Hom}_R(Y, M)$ から $\mathrm{Hom}_R(X, M)$ と向きが変わります。

練習問題 1. これが確かに反変関手の性質をもつことを確かめてください。

注意. 普通の関手のことを反変関手と対照して,共変関手ともよびます。反変関手を2つ合成すると,共変関手になります。

圏の自己双対(self-duality)

$K$ は $K$-$K$-両側加群なので,上の例を $R = S =K$, $M=K$ に適用することができます。このとき, $K$ は可換なので $K$ 上では,右加群と左加群は同じものと見なせます。ですから,
$K\text{-}\mathrm{Mod} = \mathrm{Mod}\, K$
となります。また,双対空間をとっても次元は変わりませんので,有限次元ベクトル空間の双対空間はまた有限次元ベクトル空間になります。以上より,反変関手
$D:= \mathrm{Hom}_K(?, K) \colon \mathrm{mod}\, K \to \mathrm{mod}\, K$
を考えることができます。すると,$D(V) = V^*$ となります。関手の合成 $D \circ D$ を $D^2$ とおきます。上の注意より, $D^2$ は共変関手になっています。関手 $D$ の射に対する作用をもう一度書くと,上の例での定義から次のようになっています。各線形写像 $f \colon V \to W$ に対して,
$D(f) \colon D(W) \to D(V)$
$D(f)(g):= g\circ f$   ($g \in D(W) = \mathrm{Hom}_K(W, K)$).

まず,次の用語を用意しておきます。

定義 4. 2つの関手 $F, G \colon \mathcal{C} \to \mathcal{D}$ の間の自然同型とは,自然変換(例20参照)
$\sigma \colon F \Rightarrow G$
で, $\mathcal{C}$ の各対象 $X$ に対して, $\sigma_X \colon F(X) \to G(X)$ が,圏 $\mathcal{D}$ のなかで,同型になっていることである。

上のような自然同型が存在するとき,これらの関手 $F, G$ は,自然同型であるといいます。自然同型な2つの関手は,同じものであると見なせます。

この用語を使うと,次が成り立ちます。

定理. 任意のベクトル空間 $V$ に対して,自然な同型 $\varepsilon_V \colon V \to \colon D^2(V)$ が存在する。すなわち,2つの関手
$ \mathrm{id}_{\mathrm{mod}\, K}, D^2 \colon \mathrm{mod}\, K \to \mathrm{mod}\, K$
の間の自然同型
$\varepsilon \colon \mathrm{id}_{\mathrm{mod}\, K}  \Rightarrow D^2$
が存在する。

つまり, この2つを同じものと見なせば,
$D \colon \mathrm{mod}\, K \to \mathrm{mod}\, K$

$\mathrm{mod}\, K \leftarrow \mathrm{mod}\, K \colon D$
とは,互いに逆であると言うことです。左から右に行って,また右から左に戻ると何もしなかったのと同じになる。逆に,右から左に行って,また左から右に戻ると何もしなかったのと同じになる,ということですから。この意味で, $D$ は,圏 $\mathrm{mod}\, K$ の自己双対であるといいます。このことを図で表しておきます。
双対の図

注意. 完全に元に戻るわけではなく,上の自然同型の分だけずれます。 $f$ が左から右に行って,また左に戻ってきたときの様子(もとの $f$ との関係)を描くと次のようになります。
戻ってきた様子

証明.
● 各ベクトル空間 $V$ に対して,次のように $\varepsilon_V \colon V \to D^2(V) $ を与えます。任意の $v \in V$ に対して, $\varepsilon_V(v) \in D^2(V) = \mathrm{Hom}_K(D(V) ,K)$ を
$\varepsilon_V(v)(f):= f(v)$,  $(f \in D(V) = \mathrm{Hom}_K(V, K))$
で定義します。
(a) すると, $\varepsilon_V$ は,線形写像になっています。
(b) また, $\varepsilon:= (\varepsilon_V)_{V \in (\mathrm{mod}\, K)_0}$ は,自然変換
$\varepsilon \colon \mathrm{id}_{\mathrm{mod}\, K}  \Rightarrow D^2$
となります。
● 各ベクトル空間 $V$ に対して, $\varepsilon_V$ が同型となることを示します。それには,前回示したように,
$\dim_K D^2(V) = \dim_K D(V) = \dim_K V$
が成り立つので(ここで $V$ が有限次元であることを使っています),
(c) $\varepsilon_V$ が単射であることを示せば十分です。
● いま $v \in V$ とし, $\varepsilon_V(v)=0$ と仮定します。つまり,すべての $f \in D(V)$ に対して, $\varepsilon_V(v)(f)=0$ と仮定します。
● $v_1, v_2, \ldots, v_n$ を $V$ の基底とし, $\check{v}_1, \check{v}_2, \ldots, \check{v}_n$ をその双対基底とします。
● すると, $v = a_1v_1 + a_2 v_2 +\cdots + a_n v_n$ $(a_1, a_2, \ldots, a_n \in K)$ と書けます。
● ここで,とくに $f = \check{v}_1, \check{v}_2, \ldots, \check{v}_n$ に対して条件を適用すると,$0 =\varepsilon_V(v)(\check{v}_i)=\check{v}_i(v) = a_i$ $(i = 1, 2, \ldots, n)$ となります。
● したがって,$v = 0$ となり, $\varepsilon_V$ が単射であることが示されました。 □

注意. 任意のベクトル空間 $V$ に対して,$D(V)$ と $V$ とは同型でしたが,自然同型 $\sigma \colon \mathrm{id}_{\mathrm{mod}\, K}  \Rightarrow D$ は存在しません。(注意:そもそも,$D$ は反変関手, $\mathrm{id}_{\mathrm{mod}\, K}$ は共変関手です。)

練習問題 2. (1) 上の (a), (b) を確かめてください。また,(c)で言われているように,$\varepsilon_V$ が全射であることを証明してください。
(2) 上の注意が成り立つことを示してください。(ヒント:例えば, $f=0 \colon K \to 0$ に対して, $D(f)$ と $f$ を比べてみてください。)

例27. 線形写像の箙(えびら)表示

まず,数学を理解することについてを読んでください。以下もその例です。

 前回までで,テンソル積とHomの随伴についてのお話は1段落しましたので,例23で予告していたように,今回は,線形写像を図で表す方法と双対空間を導入します。次回は,その準備のもとで,もう1つ別のテンソル積の構成法を与えます(これは物理で扱われているテンソルの集合になります)。
 以下 $K$ を体とし,ベクトル空間はすべて $K$ 上の有限次元ベクトル空間とします。

線形写像の箙表示

 ベクトル空間の間の線形写像 $f \colon V \to W$ は,$V$ と $W$ それぞれの(順序)基底 $B:= (v_1, \ldots, v_m)$, $C:= (w_1, \ldots, w_n)$ を固定すると, $B, C$ に関する行列 $A$ によって一意的に表され,対応 $f \mapsto A$ は,ベクトル空間の間の同型
$\mathrm{Hom}_K(V, W) \to \mathrm{Mat}_{n,m}(K)$
を与えていました。ただし, $\mathrm{Mat}_{n,m}(K)$ は,$K$ 上の $(n,m)$ 型行列全体のなすベクトル空間とします。この $A$ を図で表すことを考えます。 $f$ と $A$ の関係は次の式で与えられていたことを思い出してください。行列表示を用いると,
(1)   $(f(v_1), \ldots, f(v_m)) = (w_1, \ldots, w_n)A$
あるいは成分で書くと,
(2)   $A = (a_{ji})_{1 \le j \le n, 1 \le i \le m} \iff f(v_i) = \sum_{j=1} ^n a_{ji}w_j$ $(1 \le i \le m)$

例1. 例えば, $m = 2, n= 3$ で,
$f(v_1) = w_1 + 2 w_2 - w_3, f(v_2) =  - w_2 + w_3$
のとき。 $f$ の $B, C$ に関する行列 $A$ は
$(f(v_1), f(v_2)) = (w_1, w_2, w_3)\begin{bmatrix}1 & 0\\2& -1\\ -1& 1\end{bmatrix}$
なので,
$A = \begin{bmatrix}1 & 0\\2& -1\\ -1& 1\end{bmatrix}$
となります。この線形写像 $f$ を次の図で表します。
valued-quiver-exm1

 つまり,一般に,上の (1) の形で $f$ が与えられているとき, $f$ は,$v_1, \ldots, v_m$, $w_1, \ldots, w_n$ を頂点とし,各 $i, j$ に対して, 値つきの矢印
$v_i \overset{a_{ji}}{\longrightarrow} w_j$
をもつ有向グラフによって表します。有向グラフは最近では,矢の入れ物である箙(えびら)という言葉でよばれますので,これを $f$ の付値箙表示 (valued quiver presentation) あるいは単に箙表示とよぶことにします。以下,この表示を用いますが,さらに簡単のために次の規則を用います。
● $a_{ji} = 0$ のときは,矢印 $v_i \overset{a_{ji}}{\longrightarrow} w_j$ を描かない。
● $a_{ji} = 1$ のときは,矢印 $v_i \longrightarrow w_j$ だけを描き,値は書かない。
この規則を用いると,先ほどの例は次のようになります。
valued-quiver-exm2

例 2. $V, W$ を上の例1と同じとします。このとき,$\mathrm{Hom}_K(V, W)$ は次の6個の線形写像を基底に持ちます:
 
基底
実際,(2,3)型行列で, $(j,i)$ 成分だけが1でそれ以外の成分が0であるようなものを $E_{ji}$ で表すと,$E_{ji}$ の全体は,(2,3)型行列の全体のなすベクトル空間 $\mathrm{Mat_{2,3}}(K)$ の基底になっていて, $E_{ji}$ は, $e_{ji}$ の行列 ($i = 1, 2; j = 1, 2, 3$) となっていますから。

練習問題 1. 例1の線形写像 $f$ を $e_{ji}$ ($i = 1, 2; j = 1, 2, 3$) の1次結合として表してください。

 上のことを一般化すると,次が得られます。

定理 1. $V, W$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_m)$, $C:= (w_1, \ldots, w_n)$ をそれぞれ $V, W$ の(順序)基底とする。矢印として $v_i \longrightarrow w_j$ 1本しか持たない箙で表示される線形写像を $e_{ji}$ とする ($i = 1, \ldots, m; j = 1, \ldots, n$)。すると, $e_{ji}$ の全体は, $\mathrm{Hom}_K(V, W)$ の基底をなす。特にその次元は $mn$ となる。

練習問題 2. 上の定理を証明してください。

例 3. $K= \mathbb{C}$ とし,$ V$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_m)$ をその基底とします。$B$ に関する行列がサイズ3,固有値 $\lambda$ のジョルダン細胞 $J_3(\lambda)$
$J_3(\lambda):= \begin{bmatrix}\lambda & 0 & 0\\1 & \lambda & 0\\0 & 1 & \lambda\end{bmatrix}$
になる $V$ の線形変換は,次の左の箙表示を持ちます。特に $\lambda = 0$ のときは右の箙表示になります。
Jordan-cell
また,$B$ に関する行列がジョルダン標準形 $J_3(\lambda) \oplus J_4(\mu)$ になる線形変換の箙表示は次のようになります:
Jordan-std-form

練習問題 3. $K= \mathbb{C}$ とし,$ V$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_11)$ をその基底とします。 $V$ の線形変換 $f$ の $B$ に関する行列がジョルダン標準形 $J_2(1) \oplus J_2(0) \oplus J_3(2) \oplus J_4(-1)$ になるとき, $f$ の箙表示を求めてください。

研究問題. 線形写像の合成は,箙表示を用いるとどうなるか考えてみてください。

定義. ベクトル空間 $V$ に対して, $V^*:= \mathrm{Hom}_K(V, K)$ を $V$ の双対空間とよぶ。

  $K$ は $1$ を基底にもつので, $n = 1$ のときに上の定理を適用して,次が得られます。

定理 2. $V$ をベクトル空間, $B:= (v_1, \ldots, v_m)$ をその基底とする。このとき $e_{11}, \ldots, e_{m1}$ は,双対空間 $V^*$ の基底となる。この基底を $B$ の双対基底とよぶ。以下,各 $e_{j1}$ を $\check{v}_j$ とおく。

例 3. $V$ が $(v_1, v_2, v_3)$ を基底に持つとき,その双対基底となる $V^*$ の基底は次で与えられます:
双対基底

例26. テンソル積とHomの随伴(一般の環の場合)

まず,数学を理解することについてを読んでください。今回もすでに知っていることに,新しく学ぶ内容を関係づけて理解する(理解の成長の)例です。

 例19から前回の例22までの準備のもとで,例23, 24 でベクトル空間のテンソル積についてお話し,例25 で体上のベクトル空間の場合について,テンソル積とHomの随伴についてお話しました。
今回は,体上のベクトル空間での内容を一般の環の場合に拡張します。ですので,例 23, 24, 25の内容はすでに読まれているものと仮定します。証明は少し変えればほとんどそのままで通用しますので,詳しい証明は練習問題とします。
 以下,環とその上の加群を考えます。これらの概念に慣れていないときは,環を,整数全体の環 $\mathbb{Z}$ と思って,その上の左加群も,右加群も演算を加法で書かれたアーベル群(これをここでは加法群とよびます)と思って読んでください。(例10での注意と同じです。)

$R$ を環とし, $V$ を右 $R$ 加群, $W$ を左 $R$ 加群とします。この設定を簡単に
 $(V_R, {}_R W)$
で表します。 $V$ と $W$ からある加法群 $V \otimes_R W$ を作り,そのなかで次のような条件と計算規則が成り立つようにすることを考えます。
(T1) その加法群の元は,すべて $v \otimes w$, $(v \in V, w \in W)$という形の元の有限個の和で与えられる。
(T2) $v, v' \in V,w, w' \in W, a \in R$ のとき,
 (a$_1$) $(v + v') \otimes w = v \otimes w + v' \otimes w$,
 (a$_2$) $v \otimes (w + w') = v \otimes w + v \otimes w'$, かつ
 (b) $(va) \otimes w = v \otimes (aw)$.

ベクトル空間の場合と同様に,次のようにして $V \otimes_R W$ を作ります。

定義. 上の設定のもとで, $V$ と $W$ のテンソル積 $V \otimes_R W$ とは,次のように定義される加法群である。まず,直積集合 $V \times W$ を基底とする加法群 $\displaystyle\bigoplus_{(v, w) \in V \times W}\mathbb{Z}(v,w)$ を $F(V \times W)$ とおく。これを用いて
$V \otimes_R W:= F(V \times W)/I$
と定義する。ただし, $I$ は次の集合で生成される $F(V \times W)$ の部分群である:
$\{(v + v', w) - (v, w) - (v', w),$
$(v, w + w') - (v, w) - (v, w'),$
$(va, w) - (v, aw) \mid $
$v, v' \in V, w, w' \in W, a \in R\}$.
また,各 $(v, w) \in V \times W$に対して,
$v \otimes w:= (v, w) + I \in V \otimes_R W$
とおく。また写像,$\otimes_R \colon V \times W \to V \otimes_R W$ を,
$\otimes_R(v, w):= v \otimes w$ ($v \in V, w \in W$)
で定義する。

すると,ベクトル空間の場合と全く同様にして次が示されます。

命題. 上で定義したテンソル積 $V \otimes_R W$ は性質(T1), (T2)をもつ。したがって特に,写像 $\otimes_R$ は $R$-バランス写像になっている。

バランス写像は少しだけ双線形写像と異なりますので,その正確な定義を与えておきます。

定義. $R$ を環とし設定 $(V_R, {}_R W)$ を考え, $U$ を加法群とする。写像
$f \colon V \times W \to U$
が次の条件をみたすとき, $f$ は $R$-バランス写像であるという:$v, v' \in V,w, w' \in W, a \in R$ のとき,
($a_1$) $f(v+v', w) = f(v, w) + f(v', w)$,
($a_2$) $f(v, w+w') = f(v,w) + f(v, w')$, かつ
(b) $f(va, w) = f(v, aw)$.

注意. 双線形写像では,上の (b) のところは $f(av, w) =af(v,w)= f(v, aw)$ となっていました。
● そこでは, $V$ も $W$ も"左" $R$-加群でしたので, $av, aw$ と $a$ は左から作用し,移り先の $U$ も"左" $R$-加群でしたので, $af(v,w)$ が考えられました。
● しかし,上の設定では,$va, aw$ となり,$U$ には $R$ の作用は定義されていませんので $af(v,w)$ の項は出てきません。
● その代わり,「 $f$ の括弧内で第1成分に右から掛かっていた $a$ が,第2成分に左から掛かるように移動でき,またその逆の移動もできる」という条件になります。

練習問題 1. 上の命題を証明してください。

こうして作ったものは,やはり次のような普遍性をもちます。

定理 1. 任意の$R$-バランス写像 $f \colon V \times W \to U$ に対して,加法群の準同型 $\hat{f} \colon V \otimes_R W \to U$ で, $f = \hat{f} \circ \otimes_R$ をみたすものがただ1つ存在する。
tensor-R
解説. つまり, $V \times W$ からの $R$-バランス写像は,必ず $\otimes_R$ が現れるように分解でき,その分解の仕方は一意的ということです。これがテンソル積の圏論的な特徴付けです。テンソル積の圏論的性質は,原理的にこの定理 からすべて導かれます。

練習問題 2. 上の定理を証明してください。(ヒント:ベクトル空間の場合の証明をまねる。)

この普遍性から,上の $V \otimes_R W$ と同じ性質をもつものは,すべて本質的に $V \otimes_R W$ と同型であることが標準的な証明で示されます。つまり次が成り立ちます。

系.  $R$-バランス写像 $t \colon V \times W \to T$ が上の普遍性を持つならば (すなわち,任意の $R$-バランス写像 $f \colon V \times W \to U$ に対して,準同型 $\hat{f} \colon V \otimes W \to U$ で, $f = \hat{f} \circ t$ をみたすものがただ1つ存在するならば), 次の図式を可換にするような同型 $h \colon V \otimes_R W \to T$ が (ただ1つ) 存在する。
tensor-R-univ
練習問題 3.  上の系を証明してください。(ヒント:ベクトル空間の場合の証明をまねる。)

環 $R$ 自身は,その乗法によって,右 $R$-加群とも左 $R$-加群とも見られます。あるいは,両側 $R$-$R$-加群と見られます。

定義. $R$, $S$ を2つの環とするとき,両側 $R$-$S$-加群とは,左 $R$-加群でもあり,右 $S$-加群でもあるようなアーベル群 $M$ で,関係式
$r(ms) = (rm)s$,   ($r \in R, m \in M, s \in S$)
をみたすものである。このことを ${}_R M_S$ で表す。

注意. $R, S, T$ を環とする設定 $({}_SV_R, {}_R W_T)$ のもとで,テンソル積 $V \otimes_R W$ は
両側 $S$-$T$-加群になります。作用の与え方は,次の通りです:
$s(v \otimes w):= (sv \otimes w)$,  $(v \otimes w) t:= v \otimes (wt)$,
$(v \in V, w \in W, s \in S, t \in T)$

練習問題 4. この作用の定義が矛盾なく定義できることを証明してください。(ヒント:テンソル積の普遍性を用いる。)

定理 2. $R$ を環とする設定 $(V_R, {}_R W)$ のもとで,次の同型がなりたつ:
$V \otimes_R R \cong V$,   $R \otimes_R W \cong W$.

練習問題 5. この定理を証明してください。(ヒント:前回のベクトル空間のときの証明参照。)

テンソル積関手

環 $R$ に対して,左(右) $R$-加群全体のなす
$\mathbb{Z}$-圏 (例13参照) を $R$-Mod (Mod $R$ )で表します。

定義. $R, S$ を環とする。 $R$-$S$-両側加群 $V$ に対して $\mathbb{Z}$-関手
$V \otimes_S ? \colon S\text{-}\mathrm{Mod} \to R\text{-}\mathrm{Mod}$
を次で定義する:
$W \in (S\text{-}\mathrm{Mod})_0$ に対して, $(V \otimes_S ?)(W):= V \otimes_S W$,
$f \colon W \to W'$ in $S\text{-}\mathrm{Mod}$ に対して,  $(V \otimes_S ?)(f):= V \otimes_S f$ は準同型
$V\otimes_S f\colon V \otimes_S W \to V \otimes_S W'$
$(V \otimes_S f)(v \otimes w):= v \otimes f(w)$,   ($v \in V, w \in W$)
とする。

練習問題 6. (1) 上で $V \otimes_S f$ が矛盾なく定義できることを証明してください。(ヒント:テンソル積の普遍性を用いる。)
(2)  $V \otimes_S ?$ が $\mathbb{Z}$-関手であることを確かめてください。

$V \otimes_S ?$ が $\mathbb{Z}$-関手なので,次が得られます。

定理 3.
$R, S$ を環とし, $V$ を $R$-$S$-両側加群とすると,任意の左 $S$-加群 $W_1, W_2$ に対して,次の左 $R$-加群の同型が成り立つ:
$V \otimes_S (W_1 \oplus W_2)  \cong (V \otimes_S W_1) \oplus (V \otimes_S W_2)$.

練習問題 7. $R$ を環とするとき,任意の自然数 $m, n$ に対して, $R$-$R$-加群の同型
$R^m \otimes_R R^n \cong R^{mn}$
が成り立つことを証明してください。(ヒント:定理 2と定理 3を使う。)

テンソル積とHomの随伴

最後に,一般の環の場合のテンソル積とHomの随伴についてお話します。証明は,やはりベクトル空間の場合と全く同じようにできますので,練習問題とします。

定理 4. $R, S$ を環とする設定 $({}_R U, {}_R V_S, {}_S W)$ のもとで,次の加法群の間の自然な同型が存在する:
$\mathrm{Hom}_R(V \otimes_S W, U) \cong \mathrm{Hom}_S(W, \mathrm{Hom}_R(V, U))$
すなわち,関手
$V \otimes_S ? \colon S\text{-}\mathrm{Mod} \to R\text{-}\mathrm{Mod}$
は関手
$\mathrm{Hom}_R(V, ?) \colon R\text{-}\mathrm{Mod} \to S\text{-}\mathrm{Mod}$
の左随伴である。

練習問題 8. 上の随伴を証明し,その unit と counit を求めてください。

 次回は,線形写像を図 (valuded quiver) で表し,双対空間についてお話します。そののち,テンソル積のもう1つの与え方を紹介する予定です。
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