りかこの乳がん体験記

 30代でみつけた左乳房のしこり。「“良性”だからそのままにしておいていいよ」。視触診だけで簡単に下された診断。そして私は医師の言う通り放置した。 4年8ヶ月後、大きくなったしこりを切除。“良性”だと思っていたのに、病理検査の結果は悪性――乳がんだった・・・。

2011年05月

りかこの乳がん体験記 ⑫

告知から1週間――

この1週間でどれほどの涙を流しただろう
一生分...いや、それ以上かも......

この数日、乳がんに関しての情報を集めた
今の時代、簡単に何でも知ることができるのはありがたいことだけど、
余計な情報まで目にしてしまう
告知されたばかりの私にとってはどれも生々しく、衝撃的なものだった

そして、病気のことを知れば知るほど事の重大さを思い知らされ、
と、同時に、前の医師への憤りも募っていった

『4年8ヶ月前、詳しい検査もしないまま、なぜ“良性”と決めつけてしまったのか』

『その時はそう判断したとしても、
 なぜ“定期的に診ていきましょう”という一言がなかったのか』

『今回のことも、切開してしこりを取り出す前に針で細胞を採って調べてみるとか
 ほかに方法があったのではないか――』

“早期発見・早期治療”とこれほど謳われているのに、
私は早期治療には至らなかった
見落とされた感は強い
命を縮められたという思いは否めない
それとも4年8ヶ月、医師の言うまま放っておいた私が悪いのか......

そんなことばかり考えていた

悔やんでも悔やんでも悔やみきれなかった
だって、体の中で...乳房の中で、
4年8ヶ月もがんを飼っていたなんて...育てていたなんて...
しこりに気づくもっともっと前からがんがあったと思うと、
たまらない恐怖感だった

『きっと身体中、がん細胞に侵されているだろう
 今はこんなに元気なのに、あと何年生きられるのだろう...』

これまでの私の人生は、とても人には言えないものだった
中学の頃から抱いていた自殺願望などなど...
だから“命”に関しては、いつもテキトーだった
乳がんは、
そんな尊い命を蔑ろにして生きてきた私への戒めだったのかもしれない

『死にたくない』

初めてそう強く感じた

“生への本能”――
そんなものが私にもあったのだ......

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りかこの乳がん体験記 ⑪

両親に「乳がんだった」と言えないまま、夕飯が終わり...

台所で母と後片付けをしている時だった

『言うなら今しかない!!』

面と向かっては話せない
話すならガタガタしている“今”だ
今ならドサクサにまぎれて話せるいいチャンスだ!

でもやはり、簡単には言葉は出てこなかった

時間だけが無情に過ぎてゆく――

『早く話さなければ...』


その時ちょうど、母の方から話しかけてきた

「明日、私、検査だから」

明日母は私と同じく、CTやら骨シンチやらの検査を受けることになっていた
きっと母は不安でいっぱいだったのだろう
でも私はそんな母の気持ちより、自分のことで精一杯だった

が、絶好のチャンスだった
私は流れに乗じて、ようやく話を切り出した

「私も病院変わったんだ。なんか悪性だったみたい」

心の内を悟られまいと、涙は見せまいと、目一杯明るく、明るく...

「・・・え? ・・・あんた乳がんなの?」

「うん。乳がんだって。“今さら”・・・って感じだよね~」

それを聞いた母は、茶の間にいる父の所へ飛んで行った

「お父さん! りか、乳がんだって!!」

「乳がんなんて、(おっぱいを)切ってしまえばいいんだろ?」

「何言ってるの! 命にかかわる病気なんだよ!!
 私、りかと一緒に入院するから、お父さん、家のこと頼むね」

会話は台所まで聞こえてきた
私はその声を打ち消すように食器を洗い始めた

でももうすでに限界だった
張っていた糸がプツンと切れ、こらえていた涙が堰を切ったようにあふれ出した

『両親の前では、絶対泣かない!!』

そう決めていたのに、母が台所へ戻ってきた時には
私は立っていることすらできずに、嗚咽とともにその場に泣き崩れた

「本当に親不孝でごめん...」

声にならない声だった

そんな私を母は優しく抱きしめてくれた

「大丈夫、大丈夫。一緒に入院しよう」

そう言った母もまた、涙で頬を濡らしていた......

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りかこの乳がん体験記 ⑩

病院から家まで50分の道のりを、私は歩いて帰った
どうしてもバスで帰る気にはなれなかったからだ

人目も避けたかった
混乱している頭の中の整理も必要だった
何より、親と顔を合わせる時間を少しでも引き延ばしたかった...

その日はとても寒い日だったが、
身体に受ける初冬の冷たい風は、傷む心を紛らすのには打ってつけだった

すれ違う人や車もはばからず、私は泣きながら歩いた

『家に着いたら母に何て言おう......』

1ヶ月前、母にも甲状腺のがんがわかったばかり
これから検査を控えている母だって
自分のことでいっぱいいっぱいのはずなのに、
そんな時に娘が乳がんだなんて知ったら...
...なんて残酷なことだろう...

家に着いた時、すでに3時を回っていた
そして運が良いことに、ちょうど来客中――

『よかった。これで少し時間が稼げる...』

私は誰にも気づかれぬよう、2階の自分の部屋にこっそりと入って行った
まず私がしなければならないことは、涙を乾かすこと
こんな顔と声じゃ、とてもじゃないけど親には会えない

お客さんはそれから1時間ほどで帰ったが、
私は結局夕飯の時間まで茶の間に下りて行くことはできなかった


夕飯を食べながら、私の気持ちは焦っていた
早く話さなければ、明日、あさってと延び延びになってしまいそうだった
でもさすがに食事中にするような話題ではない――

『いつ切り出そう...。何て話そう...』

そんな時、父が突然、「家をリフォームする」と言い出した
それを聞いた母は激怒!
「何言ってるの? もう12月になるんだよ!
 こんな寒い時に家から閉め出されるの!?
 それに私、これから手術しなきゃならないのに、それどころじゃないでしょ!!」

ごもっともだった
でも一度言い出したら聞かない父

「いや、前から考えてたから、今年は絶対にやる!!」

そんな父に私もキレた
そして、乳がんのことを言うなら今しかないと思った

「何も今やらなくたっていいじゃん!
 私だって乳がんで、これから入院しなきゃいけないのに!!」

でもその言葉を私は口にすることができなかった...
せっかくのチャンスを、私は逃してしまったのだ

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りかこの乳がん体験記 ⑨

私はその足で紹介された総合病院へ向かった

紹介された先生の診察は、その曜日の午前が担当だった
もうとっくに診察時間は過ぎていたにもかかわらず、
「診てくれる」ということだったので、とにかく急いだ


診察室に入ってまず驚いたのは、その医師の若さ
前の先生が結構な歳だったので、
『その先生の紹介だからまた“オジチャン先生”だ』と勝手に想像していたのだ
それに今まで病院なんて、風邪で個人の医院へ行くぐらいなもん
しかも、そういうところはほとんどが“オジチャン先生”ときてる
中には“おじいちゃん”と言ってもいいくらいの人もいたりで...

この病院へ来て何より驚いたのは、職員の対応の良さだった
一昔前、二昔前の病院のイメージとはまるで違っていた


その医師と――主治医とこれまでの経緯などを話したあと、
主治医は私の乳房を触診し、こう言った

「しこり、まだ残ってるみたいだね」

『やっぱり残ってたんだ...』


手術の前に、転移などを調べるためのCTやら骨シンチやらの検査をするらしい

『4年8ヶ月も放っておいたんだ。きっと身体中に転移してるだろうなぁ・・・』

検査の予約をし、そのまま帰れると思っていたら、
紹介状の返事を持って、また前の病院へ戻らなければならなかった

『またあの病院に行かなきゃならないの?
 またあの先生の顔、見なきゃならないの?』


再び前の病院に戻ったが、
用が済むと、何か悪いことでもしたかのように私はそそくさとその病院を出た
早くその場から逃れたい一心だった

『二度とあの医師の顔は見たくなかったのに...』

医師も、一度も私の方を見ることはなかった
一度でも、こっちを見てくれていたら・・・・・・

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りかこの乳がん体験記 ⑧

「ほかの病院へ行ってもらって・・・」

医師は近くにある総合病院の名前を口にした
この病院で、この先生に手術されなくて済むと知って、
どれだけ安堵したことか・・・・・・

「あそこの病院なら形成外科もあるし、(胸を)きれいにしてもらえるよ。
 それともほかにどこか行きたい病院があるならそこでもいいし・・・」

病院なんてどこがいいかなんて全く知識もないし、
たった今、“乳がん”と言われたばかりでそんな判断力はあるはずもない
この時の私は、乳房の形よりも削られたであろう命の方が大問題だった

「その病院でいいです」

この辺りでは医師の言った病院しかないと思った

「今、手紙(紹介状)書くから、外(待合室)で待ってて」

看護師長らしき人に促されて、私は診察室から出された


待合室には相変わらずインフルエンザの予防接種に来ているビジネスマンが
途切れることなく訪れていた
私はそんな中、
一般の患者さんたちに混じって待合室の真ん中辺りの椅子に腰掛けた

その間も、私はずっと泣き続けていた
気になる周りの視線――
でも、止めようと思えば思うほど、涙はあとからあとからあふれて来る

待合室の隅にある公衆電話に目が留まった

『そうだ。今のうちに家にいる母に“乳がん”だったと言っておこう。
 これからほかの病院にも行かなくてはならない。帰りが遅くなってしまう。
 それに、面と向かっては言い出せそうにない。絶対に泣き出してしまう。
 それならまだ電話の方がマシかも・・・・・・』

でもどう切り出したらよいか......

母との会話を想像してみたけど、それだけで号泣だった
冷静になって何度も何度もシミュレートしてみたけど、
やはり泣かずに告げることは不可能だった

そんなことを考えながら、どれくらい待っただろう...
さっきの看護師長らしき人が私の名前を呼びながらこっちへやって来た
そして、「これをあちらの先生に・・・」

そう言って紹介状を差し出した

私は患者さんとビジネスマンたちの衆人環視の的
しかもずっと泣き通しの私に紹介状なんて
誰が見ても良くないことがあったのは容易く判断できる状況...

こういうデリケートなことに関しては、医療従事者として、何より人として、
もっと配慮が欲しかった......


結局母へは電話できないまま、私はその病院を出た

この時、すでに正午を迎えていた――

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りかこプロフィール

★2009年5月より、院内開催『がんサロン』にて、体験記・エッセイ執筆
★2010年9月 市広報にて体験記掲載
★2011年8月31日 乳がん体験記『4分の3の乳房(ちぶさ)』書籍出版
★2012年1月21日 講演『乳がん闘病記 ~「ありがとう」と「感謝」の気持ちに至るまで~』
★2012年4月5日 FMオホーツク『乳がんについて』対談
★2012年4月 キーストーンアライアンス『百年シナリオ通信』記事掲載
★2013年6月より、サイト『ドクターズガイド』ブログ掲載
★2016年9月14日 フジテレビ『めざましテレビ ~がんの見落とし~』ブログ紹介・インタビュー放送
★その他、ピンクリボン活動など啓発活動

★取得している国家資格:調理師免許(食と健康を考える乳がん患者)

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名前
メール
本文
乳がん履歴
★2002年3月3日(日)
左乳房にしこりをみつける  

★2002年3月4日(月)
視触診の結果“良性”と診断

★2006年11月8日(水)
左乳房のしこり再受診  

★2006年11月15日(水)
左乳房のしこり切除

★2006年11月28日(火)
乳がん告知      

★2007年1月11日(木)
左乳がん手術

★2008年7月8日(火)
局所再発の疑いで、
細胞診・組織診(結果は良性)

★2009年2月17日(火)
対側(右)乳がんの疑い
(前年からしこりあり)経過観察

★2010年2月16日(火)
右乳房細胞診(結果は良性)
手術・治療の経緯
★がん細胞の種類(しこり3つ)
・明細胞がん(クリアセル)、非浸潤性乳管がん
 (化学療法・放射線の効かない稀ながん細胞)
・核グレード 2
・ER 90%
・PgR 10%
・HER2 (-)

★術 式
・腋窩リンパ節郭清
・乳房扇状部分切除
 (4分の1強切除)

★治 療
・放射線23回照射
・LH-RHアゴニスト製剤投与
 4週間毎、2年間(23回)
・抗エストロゲン剤
 (クエン酸タモキシフェン)
 5年服用
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