全国に30余校在った旧制高校は,1950年に消滅し、
現在となっては,その存在すら記憶する人も少なくなっている。
ところが、今春、平成25年度の信州大学の入学式(4月4日)で、
旧制松本高校の寮歌だった「春寂寥」が演奏されて、話題になった。

確かに、旧制松本高校は信州大学の前身校の一つではあったし、
 「春寂寥」は全旧制高校の寮歌の中で最高の傑作との評価が、
  旧制高校寮歌祭で認められたものである。  が、、
信州大学としてもこの様なことは1950年5月の発足以来初めて
  のことであるのみならず、日本中全国の大学でも、
  戦後この様な例は皆無であろう。
その破天荒な試みを取り入れた理由について、
  山沢学長は、入学式学長告示の中で、述べている。

一口で言って、その理由は、
「前身校の旧制松本高校の全人教育の伝統を誇りに」
  教育を行っていく心算だ、との表明
にあった。
懐古主義ではなく、今の教育システムを考えると、
  大切なのは「全人教育」であり、根本的に人間教育を
  どうしていくか、信州大学独自のスタイルを模索していく
  必要がある、と学長告示の中で、述べているのは、
  素晴しい。
もうひとつ素晴らしく思うのは、信州大学では専門分野に
  分かれる前の一年間を、俗に言う「基礎教育」ではなく、
  もっと学びの原点にある普遍的な視点、複眼的な
  学問を経験させるべく、考えていること。
最近半世紀の社会で忘れ去られたことだが、
  旧制高校の教育の真髄が、その寮生活体験にある
  ことは良く知られていたことだったし、寮歌の意味も
  其処にあるものだった。  寮歌で大切なことは、
  歌詞以上に、その歌われ方であった。 これに付いては
  ▲旧制高校・晩秋ブログ挽歌:[C-155] 、 に書かれている。

今回の信州大学の試みは、
  この一歩大人の世界に飛び込まないと感じ取れない、
  成熟した感性に呼びかけるのが、「春寂寥」だ
  と考えて、大学の文化と伝統を感じさせるために
  入学式に、全員で歌ったのだという。

   現在の大学と違って、旧制高校では各地からの学生が
     集まったものだが、特に旧制松本高等学校には
     北海道から九州まで、全国の出身者が集うことに特色があった。 
   同様に、現在の信州大学も、信州以外の他府県出身者が
     70%以上を占める、現在の大学としては珍しい存在
     だという。 奇妙な伝承である。