あかべぇそふとつぅの出世作でもある「車輪の国、向日葵の少女」の続編と銘打っている本作ですが、ライターはるーすぼーいさんではなく無名の新人で、原画もヒカル以外は有葉さんではありません。
この時点で「車輪の国、向日葵の少女」の続編と言うのはどうかと思います。
「車輪の国、向日葵の少女」と言えば面白い作品として名前を上げる人も多い名作ですし、安易に名前を使ってほしくはなかったですね。
「あの感動を、もう一度―――」なんてキャッチフレーズを掲げているわけですが、敷居をメーカー自身で上げてしまっていますね。
序盤は「車輪の国、向日葵の少女」の理不尽がまかり通る世界と違って、学園内にふざけた学園長の大九郎と教師の栗林が居るだけで、問題解決は他にやりようはあるのに自分たちで勝手に面倒にしているだけです。
剣術部設立とそれに対する学園側からの妨害を退けて、認められるスポ根展開にどこが「車輪の国、向日葵の少女」の続編と言う感じです。
「車輪の国、向日葵の少女」の舞台は特別高等人候補生である主人公の賢一の設定ゆえに、義務を負った人と関わる機会が多いのは勿論あったと思いますが、はるかの父親など義務を負っていいような人間でも義務を負っておらず、表向きにそれを臭わせないので、同一の世界観なのか首をひねらされ…
主人公の宗介が特に何かしている訳ではないのに学園で煙たがられていたり、避ける人間がいたり、皆と食事を取ろうとしなかったり、あまりにもあからさまで普通に考えると予想は付くのですが、逆にそう考えると宗介が普通過ぎる暮らしをしていると思い、煮え切らないまま展開していきます。
結局の所、予想通り宗介が義務を負っており、義務を破った事で実は特別高等人だった友人キャラの水嶋が豹変し…という形になります。
しかし、伏線の張り方が稚拙で、「車輪の国、向日葵の少女」をやっていれば驚かされる事はないです。
水嶋は設定ゆえに宗介への甘さを持たせたのかもしれませんが、そんな物を超えた先に特別高等人試験の最終試験合格はあるのではないでしょうか?
むしろ宗介なんて最終試験の格好の題材でしょう。
監督すべき被補佐人を放置して、お前はどこに行っていたんだと言いたいです。
義務とはこの世界における罰なのだから、仮に水嶋が宗介を監督出来ない状況になるなら、普通に考えれば水嶋の試験監督がどうにかするでしょう。
「車輪の国、向日葵の少女」、そのファンディスクである「車輪の国、悠久の少年少女」において、エリート中のエリートの主人公から見ても絶対的強者だった、法月のとっつぁんやアリィのような特別高等人の恐ろしさもなく、チンピラが嫌がらせをして喚いているような小物っぽさを水嶋には感じました。
絶体絶命の窮地もないので、手に汗握る展開ではなかったですね。
試験監督をやる特別高等人は特に優秀な者らしいので、比べる相手が悪いのかもしれませんが、これはないですね。
好き勝手被更生人にやらせておいて、たかだか一般人を満足に監督出来ずに義務を破られ、自分の立場を危うくするって…
国家最難関の資格である特別高等人でエリートのはずなのに、水嶋はどれだけ無能な馬鹿なんでしょうか?
更に言うなら、「車輪の国、向日葵の少女」では義務は絶対でどれほど理不尽でも皆従っており、万一破れば共犯者もろとも殺されるか強制収容所送りだったはずなのに、なぜこうも易々と破ろうとするのかという心情も理解できません。
一般人から見て、特別高等人はそんな軽い者でしたか?
終盤はサブキャラの三田の方が宗介などより遥かに男前でかっこいいし見せ場があるので、主人公が完全に霞みます。
宗介がただの一般人である以上、こういう優秀な万能キャラがいなければ特別高等人の権力と戦う余地もないのでしょうが、安易すぎないでしょうか。
話の中に法月と並ぶような名家の存在とか賢一の現在を臭わせるような部分がありましたが、賢一については璃々子ルートのような生半可でない方法を取らない限り、特別高等人に歯向うような事をすれば潰される世界だと思うので、違和感を覚えました。
宗介のメールは「車輪の国、向日葵の少女」の重要な伏線であった賢一の独り言のオマージュなのかもしれませんが、こちらは大した意味もなく、わざわざやる必要はあったのかと思います。
ヒロインについては設定が極端で引くし、感情移入する前に嫌な部分が多々見えてそれがしばらく続くので、問題解決後もそれを流して好きになり辛いです。
抱えている問題もほとんどはちょっと行動を起こしただけであっさりと解決してしまう程度の物ですし、安っぽい印象です。
どのルートでも個別ルートの内容は少し長めのエピローグでやるので一本道なのですが、エピローグでやる内容ではない物を色々詰め込み過ぎてバランスが悪いです。
正直、続編としては全く期待していなかったですし、体験版の手ごたえから予想していたよりは悪くなかったですが、所詮は二番煎じ。
「車輪の国、向日葵の少女」の続編として出さなければここまで酷評はしませんが、注目も集めていなかったでしょう。
「車輪の国、向日葵の少女」に勝るのはアダルト要素だけの劣化版です。
少なくとも続編として求めるなら止めた方が良いと思います。

桜木 ヒカル(CV:かわしまりの)
剣術の天才少女だったらしいけど、何かがあって今は止めており…という所からスタートです。
他のヒロイン達と違い、抱えている問題の理由やそこから来る現在の行動に納得行く物がありました。
皆に心を動かされて剣術を再び始めるのはいいのですが、皆に相談をせずに故郷に帰って父親の道場を継ごうとしたり、それを反故にして残る事に決めたりするエピローグは正直どうかと思います。
「車輪の国、向日葵の少女」のメインヒロインの夏咲が、何度踏まれても明るく咲き誇る、向日葵のような少女で感動を与えたのに対し、ヒカルからはラベンダーを思わせるような面はなかったです。
と言うかなぜラベンダーなのでしょうか?
取ってつけたようにラベンダーの花言葉はなど出ていますがまるで印象に残らず、映像的に綺麗な舞台装置以上の物がありませんでした。

鈴木 はるか(CV:紫華すみれ)
幼馴染ですが、どうにも好きになれないです。
母親が死んでからフラフラしている父親を前に、自分をごまかしながら自分1人で頑張り、周りにも表面的なお節介だけ焼く姿が駄目です。
はるか自身母親を亡くしてどうしていいか分からないというのはあるのでしょうが、迷惑かけておいて自分では何とかしようとしないのはどうでしょうか。
宗介が店の手伝いに入っただけで動かされ、問題解決ってのも安っぽい展開ですね。
エピローグでは義務がなくなった宗介がはるかに言われて辞めていた野球を再開してプロを目指すと言う展開になるのですが、それまで野球を昔やっていたという事は臭わせていましたし、辞めた理由も分かるのですが、唐突すぎます。
そもそも、剣術部がヒカル以外初心者なのに1ヶ月で全国制覇するような学校に勝つのもあり得ないですし、たとえ才能があっても子供の頃やっていただけで何年もブランクがある人間がプロにというのは…
根性論だけではどうにもならないような事を、ゲームだからとやってしまっていて、そのせいで話が安っぽくって…
挫折した人間が立ち直るという方向性は悪くはないのですが、その後が良くなかったですね。

神山 レイカ(CV:海原エレナ)
ワガママがすぎるのですが、間が抜けているので憎みきれないキャラではありますが、好きにはなれないし関わりたくもないキャラです。
お嬢様ゆえに家の都合、大人の都合で振り回されて逃げ出す訳ですが、宗介とリコによって立ち向かう事に。
エピローグでは付きあった後で大会社の令嬢だから云々という、ある種お決まりのパターンが展開するのですが、エピローグでやるような話ではないですね。
レイカの父親も相当身勝手な人間だと言う事が明らかですが、レイカが大勢の前で自分の気持ちを述べただけで解決したような流れはどうなのでしょうか?

沢村 アキナ(CV:佐本二厘)
眼鏡をかけると性格が豹変して関西弁に。
普段の雰囲気良さげなのですが、生徒会長になる事が夢とか訳の分からない事を言って、学園との軋轢を気にして、困っていても気にかけてはくれるものの助けてくれないし、選挙活動と言って露骨な票集めの工作をしたり、自分は何も助けてくれない癖に、図々しく自分に票を入れてくださいと言いに来る身勝手さにイライラさせられました。
しかもこの腐りきった学園の生徒会長になりたい理由が、自分より優秀で何一つ勝てない姉が、学園のOGで生徒会選挙に落ちているからというふざけた事で…
真面目な優等生と言うよりは、薄汚れた政治家とかにしか見えません。
レイカの奔放さに影響されて変わるのですが、付きあい始めた後はまた悪い面が出て…
二重人格や姉へのコンプレックスの解消も本来もっと前にやるべきなのに、エピローグまで持ち越しで、その手段が世界観にかけ離れすぎたSF展開なのはいかがなものでしょうか…

佐田 リコ(CV:献崎陽子)
初登場の時点で動物と話せるとか馬鹿な事を言っている痛い電波系という感じで、好感度は低かったのですが、いつの間にか事実として当たり前に受け入れられています…
すぐ嘘を吐いて、人を馬鹿にしているとしか思えない言動は、仕事が忙しくて両親が構ってくれない心の寂しさから周りの気を引こうとしている事が明らかになるのですが、その一環ではなかったのでしょうか?
この世界観で意味のない設定をわざわざ持ってくる理由が理解できません。
リコの境遇は同情できますが、だからってリコがやっている事の理由として納得は出来ませんし、好きにはなれません。
問題解決後は嘘を吐いたりはなくなるのですが、やはり言動が電波系で…
必要以上に個性をつけすぎて痛いキャラが多いこの作品中でも1、2を争う変人ぶりに辟易しました。
リコの両親についてはエピローグで描かれるだろうとは思っていましたが、唐突すぎる展開と結末には唖然です。

メッセサンオー特典
ドラマCD+システムボイス+販促ムービーが収録。
ドラマCDは9分程のもので、内容は薄いです。
宗介の誕生日を前にヒロイン達がはるかの提案でケーキを作る事に。
料理が壊滅的な腕前なのに料理が好きだから私が教えるよとか言い出して…
気になったのはヒカルは自炊していて料理が出来るはずなのに、包丁すら満足に使えない姿に違和感。
最後にはケーキにキュウリを突き立てキュウリケーキとか言い出し…
これ脚本誰が書いているのでしょうか…

ソフマップ特典「ラフ設定資料集」
ラフ設定資料集にドラマCD+システムボイス+販促ムービーが収録。
システムボイス+販促ムービーはメッセサンオー特典と同様の物です。
ラフ設定資料集に関しては表紙こそ描き下ろしですが、中身は薄いです。
初回限定版の冊子の方が中身はしっかりしているので、ラフ設定資料集としての価値は皆無です。
ドラマCDについては8分程で内容は薄いです。
新山学園では剣術部メンバーが5人しかいないので、欠員が出たりすると公式戦に出られないし、新入部員を集めるために剣術部のセールスポイントを考えようという事になり色々と話し合います。

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