もちろん、小島はドームで棚橋に勝つつもりでいた。2011年東京ドーム大会。そのなかでのIWGP戦である。まず小島が攻めたのは棚橋の右ひざだ。徹底した足攻撃。執拗だった。棚橋の動きを止めるためという意図よりも、棚橋のウィークポイントであることを見抜いていたからに違いない。そのあとに始まったのが首への攻撃だ。もちろん、ラリアットへの布石でもある。さらに、ついにというべきか、とうとうというべきか、炸裂したのが、

 

いっちゃうぞ、ばかやろー。

 

新日本へ外敵として復帰をした小島は、自分がアウェーであることを痛感してか、ずっと、この「いっちゃうぞ、ばかやろー」を封印していた。ところが、あろうことか、東京ドームでついに解禁したのである。ドームに来ている客には受け入れられるハズ、と確信していたに違いない。

僕としては、封印してほしかったけどね。どこのリングでも、この「いっちゃうぞ」は、やらずにいてほしかった。なぜなら、卒業してほしかったからだ。小島がラリアットを自分の技とし、いっそうの凄みを増すには、このパフォーマンスはもう不要だと思った。

 

棚橋は、切り返しがうまい選手だ。ロープに走り、相手のラリアットをスイングブレードで切り返したり、ドラゴンスープレックスに見せかけてのダルマ式ジャーマンへ切り返したり。あ、これは切り返しとはいわないか……。でも相手の思惑から外れるわけだから、やっぱり切り返しの一種だな。てめぇの技は喰らわねえぞ、というレスラーの本能を利用した名人芸といえる。しかも、ドラゴンスープレックスもダルマ式スープレックスもできる選手だから、相手がロックを外そうが外さまいが、スープレックスに移行できる。

 

切り返し地獄である。バックを取られた小島がDDTで切り返す。アマレス技術の基本だ。しかし、棚橋の切り返しが執拗だった。小島のネックブリーカーをエルボースタンプで切り返す棚橋。小島が棚橋への首攻撃をさまざまな形でしかけたとき、小島は逆に切り返しをくらってしまう。

 

小島の動きが止まる。ハイフライフローの前に放ったファルコンアローは、小島の脳天を直撃していない。しかも、リングサイドで小島が撃ったラリアットには、棚橋自らが体をさばき、ショックを和らげている。誤算だったのは、勢いがありすぎて棚橋が後頭部をエプロンに痛打させてしまったことだ。だから小島は、場外カウントをやめさせた。しかし、棚橋は小島の腕へのドラゴンスクリューをしかけ、右腕を麻痺させる。

 

それでも小島は左右のラリアットを放つ。それはまるで往年のハンセンのようだ。ハンセンのラリアットが必殺技として認知された後は、対戦者は、大事な試合には必ずハンセンの左腕殺しを敢行した。そうでなければ、どこで炸裂するかわからない一撃必殺のラリアットを喰らってしまうからだ。一撃必殺の技だからこそ、その利き腕となる腕を痛めつけ、万が一の攻撃力を削ごうとする。威力の低下を期待しているわけだ。闘いの常道である。だが、ハンセンは、左腕を攻撃されつづけたときは、なんと右腕でのラリアットを一閃させ、フォールを奪ってしまう。一撃必殺の凄みがここにある。

 

激しく交差しながら、小島の左腕のラリアット。そして、次に棚橋に右腕でラリアットを決めたが、腕へのドラゴンスクリューをくらいすぎて、威力は明らかに弱い。ダメージが大きすぎてラリアットを浴びせたものの、すぐにはカバーできない小島。ダメージのピークだ。それは、切り返しをくらいすぎた、精神的な痛み、そして肉体的なダメージである。ここまで見せつけられれば、観客も納得する。こうまでするなら、棚橋が勝ってもおかしくはない。そう信じ込まされる。そして、小島は、棚橋の得意技を受けてしまう。

 

ラリアットをすかされてのドラゴン二連発、ハイフライの二連発。

棚橋は、小島から継承した。

 

そういえば、今日は新日本『東京ドーム大会の3D』の劇場放映初日。うーん、見に行きたいが、劇場までが遠い。こちらは関西圏だからなあ。車で行っても二時間かかるし。あー、でも見てみたい。