東京千代田区神田神保町の神保町交差点の近くに、『覆麺』というラーメン店がある。『覆面』ではない。「面」が「麺」になっている。

店頭は、小さな入口以外はオレンジ系の色壁に覆われ、壁の中央部には、小さな台が据え付けられている。そこにはランプが置かれていて、そのランプにはプロレスラーの覆面がかぶせられているのだ。な、なんと。このオブジェだけでは、何の店か、いや、店であることすらわからない。何という挑戦的な。して、このランプの意味は。覆面に覆われたランプが点灯していれば、営業中の合図なのである。

 

店内に入ると、聞きなれた音声が流れている。何の違和感もなく、耳に入ってくる。意味を解して聞いているわけではない。自動発券機で、覆麺780円のチケットを買う。と、突然、耳をつんざくほどの大音量で『猪木ボンバイエ』が流れ始めた。はあっ? こっ、こ、こ、こ、こ、こ、これは。あの、猪木の曲が終わると、猪木の引退セレモニーの際の名セリフ、「この道を行けば、どうなるものか……、行けばわかるさ、ばかやろーっ」ってやつが流れた。そうか、これは、猪木のCDかぁ。そう、店内は、猪木のCDがエンドレスで流れているのだ。

 

店内では、覆面姿の二人の男が時折「アンガーラ」と意味不明なことばを発しながら、ラーメンを作っている。どうやら、お客が食べ終わって、席を立つ際に発せられるらしい。ふーむ。ありがとうの意味か。壁には、「日本語わかりません」と書かれた張り紙が。しかし、一人は、日本語を話しているから、日本人とわかる。もう一人は、怪しい日本語を話しているが、どう見ても日本人。

 

一人はミスターホワイト、もう一人がミスターブラックというらしい。ミスターホワイトは、あのインテリジェンス・センセーショナル・ザ・デストロイヤー型のマスクをかぶっている。そうだ、あのフィギュア・フォー・レッグロックのデストロイヤーだ。

 

うーむ、長い前フリだったな。

 

デストロイヤーほど、日本人に記憶されたレスラーはいないだろう。

僕が一番印象に残っているのは、「力道山対デストロイヤー」の試合だ。しかし、この記録映像は残っていないらしい。当時、僕はまだ小学生で、プロレスにも興味がなかった。しかし父が毎週、テレビでプロレスを見ていたので、チャンネル権のない僕はいやいやプロレスを見ていた。

なんとなく、興味がわいてきたころに見たのが、力道山対デストロイヤーの試合だった。その試合は、まさに激闘だった。