天獄の雨 (二見シャレード文庫)天獄の雨 (二見シャレード文庫)
沙野 風結子 ひたき

二見書房 2007-08
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・ストーリー
Dead or alive――生きるか、死ぬか。生きるべきか、死ぬべきか。その頭文字をとって「ドア」と呼ぶ、爆発的に東京都心部を汚染したドラッグ。麻薬取締官の矢碕忍は、「ドア」の囮調査で六本木のクラブへ侵入する。そこで暴力団・壬組の現組長・壬豪馬の従弟にあたり、企業舎弟として壬組を支える加駕榮旗と出会う。忍は製造・販売ルートをつかもうと加駕に近づくが、逆にデッドオアアライブを使われ激しく凌辱される。しかも、自分の職業を知られてしまい、ダブルスパイとして動くことになるが……。忍の過去、加駕が持つ絵の秘密、デッドオアアライブの製造者・リシ、すべてが繋がる時、驚くべき真実が明らかに。
天国と地獄の扉の先にあるものとは――。(裏表紙から)

・感想
タイトルだけ聞いたときには、「天獄の雨」の想像がつかなかったのですが、作中では、表紙で2人が横たわる風景を指していました。銀灰色の糸のように細い雨が、茶灰色のどろりとしたぬかるみに、どこまでも果てしなく、銀の線を引いて落ちていく光景。この情景が示すものは、何なのか。
裏表紙から想像したより、加駕と忍の関係が甘くなるのが早かった気がします。
25歳になった忍は、綺麗だけれど印象に残りにくい顔立ちで、格好や雰囲気を変えれば、大学生にも年上のサラリーマンにも見られるようになります。そんな忍は、警察と協力して、デッドオアアライブ(以下「ドア」)の囮捜査をすることに。
「ドア」は、かなり好みの分かれるドラッグで、一度やればいいと言う者がいる反面、嵌まり込んで狂おしいほど精神依存してしまう者もいます。強烈な高揚感、催淫効果をもたらし、致死率も高く、自殺者も多いドラッグです。

フリーターの格好でクラブに入り込み、「ドア」を買い求めることに成功した忍。プッシャー(売人)となって製造・販売ルートを探りたいものの、初回からプッシャー希望をアピールするのは難しく、連日通って懐に入り込もうと思っていたところ、突然加駕が登場したことから、忍は危ない賭けに出ます。プッシャーをアピールする忍に、「ドア」を性器に使われ、激しく高揚してしまいます。
協力する警部に「ドア」使用を悟られ、その警部経由から警察幹部の兄に知らされてしまい、憤る忍。
忍は、故人となった元警察幹部の父に愛されなかった過去がありました。

加駕は企業舎弟であってヤクザではないせいか、予想より紳士的でした。もっと暴力振るったり、薬使いまくったり、ヤりまくったりするかと思いました。…私の想像が過激すぎるのか。
最初に「ドア」を使って以降は使いませんし、そもそも最初の時には最後までヤってませんしね。
でも覚醒剤というのは、一度嵌れば止めたくても止められない、本当に危険な代物なので、小説上とはいえ一度の使用に留めたのは懸命なのでしょう。

加駕の真意は分からなくても、加駕が忍を愛しく思っていることは早い段階で分かるので、「ドア」の製造・販売ルートの壊滅と、忍の過去の清算と、忍が加駕と恋愛する気になることを楽しみに読み進めました。
「ドア」の製造に携わる聖人が、期待通りの悪役で楽しかったです。リシは登場が遅かったため、あまり思い入れは…。

忍が徹底的に父に愛されなかった過去というか、母と兄がよく分かりませんでしたが。
忍が幼い頃に亡くなったとはいえ、父が全く忍に関心を払わず、愛そうとしないのを母は気づかなかったのか。兄も、気づかなかったのか。…気づいたと思うのですが、父を問い詰めたり、どうにかしようと思わなかったのか…?
兄も「父からお前のことを頼まれている」と言っていましたが、もっと早く言えというか、父も生前のうちに、忍に対して言葉にするか、手紙にでも何か残しておけというか…。
ちょっと忍の家族が話の都合の良いように動かされているのが納得いかなかったです。

忍が加駕に抱かれながら、天獄の雨の降りゆく様を見つめる下りは好きでした。
しかし榊さん、好きなキャラだったんですが最後発言も出なくて寂しいです。忍が見舞いに行くシーンを見てみたかったかも。
暗い過去から決別できた忍は、加駕と幸せになれそうで安心できたラストでした。